第四話
その日の練習を終えた帰り、小林と僕は家が同じ方角なので、一緒に帰ることになった。
「でも、ほんと意外だった。水口君があんな曲をつくってくるなんて。」
「つまり、俺が作る曲にしては“ポップ”すぎる、ってことが言いたいのかな?」
「ん、、まぁ、そんなとこね。」
「だと思った。えっ、、と、俺はさ、ポップソングの可能性を信じてるんだよ。何の話かっていうと、俺は、ロックの精神はストーンズよろしく、“I can't get NO satisfaction”ってことだと思ってるんだ。つまり、絶対に満足しない、常に疑問を抱き、追求し、反抗し続ける精神のこと。そしてポップの精神ってのは、簡単に言っちゃえば、“幸せになろう”ってことだと思うんだ。」
相槌を打つ小林。
「すばらしいロックは俺に世の中の不合理を教えてくれた、そして、疑うことを教えてくれた。でも、それだけじゃあ幸せにはなれないと俺は思うんだ。」
さらに僕は続けた。
「能天気なクソポップじゃなくて、美しい何かをそっと教えてくれるような本当にすばらしいポップソングなら、人を幸せにする力があるかもしれない。だから、そんなポップソングの可能性を俺は信じてるんだ。」
沈黙。
「ふぅん、、、なるほどね。水口君にとっては“Pop Is Dead”じゃあないわけだ。」
「少なくとも、フレーミングリップスや、トラビス、ヨラテンゴやシガーロスにおいてはね。」
「‥‥、ちょっと、ポップの範囲を広くとらえすぎじゃないかな?」
「そうかもしれない。でも、彼らの一部の曲の精神はたぶん俺の言うポップの精神に当てはまってると思うよ。」
「ふーん。でも、やっぱり、ロックの精神も持ってる人がそういう曲をやるのがいいってこと?」
「それもあるかもしれないね。」
‥‥‥‥、
「それにしても、私たちの曲、うまくつながったわね。」
「そうだな、キーを合わせるだけで、あそこまでうまくつながるとは思わなかった。」
「ねぇ、、、、水口君はやっぱり、この世界は間違ってるって思う?」
「‥‥、そうだな。そう思うよ。」
「やっぱり。だからだよ。」
「なにが?」
「私たちの曲がうまくつながるのが。結局二人とも同じこと歌おうとしてるんだよ。」
「‥‥、そうかもしれないな。」
‥‥、
「それじゃ、私こっちだから。」
「おう、それじゃあまた明日。お疲れ。」
「お疲れ様。あ!そうだ!水口君。」
「なに?」
引き止められる格好で振り向く。
「歌詞、考えといてね。」