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第八話

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第八話

なぜこんなことになったのだろう。

僕は今、非常に混乱している。

僕は今、彼女の家の押入れの中にいる。

押入れの外には、彼女と、男の人。

順を追って整理してみよう。
つい二時間ほど前、僕らは例のファミレスの前で偶然再会した。そこで数分話し込んだら、立ち話は何だから、歩いてすぐのところだから、彼女が家に来ないか、と誘ってくれた。そして、なんとなく生活感の薄い彼女の部屋で、紅茶を飲みながら話をしていたのだ。一時間ほどたった頃、突然乱暴に扉を叩く音と「俺だ、開けてくれ」という声が聞こえ、彼女は僕に押入れに隠れてるよう言った。そういえば彼女は話の中で、最近彼氏と別れた、なんて言っていたな。原因は彼氏に別の女ができたから、とか言ってたっけ。ってことは、この人、その元彼かな。
そんなことを考えていると、押入れの外から言葉が漏れてくる。

「‥‥‥‥めん、‥‥るかった、もう一度やり直そう。」
「わかった‥‥‥‥、いいよ。」
そう彼女が答えた直後、どさっ、と床に倒れこむ音がした。
少しして、「んっ、んっ、」という声が聞こえ、それと同時に、衣擦れの音が大きくなった。

こんなこと、しちゃいけない。
頭では分かっていても、僕は欲望を抑えることができなかった。
たった数センチの裏切り。
僕はふすまを少しだけ開き、息を殺して彼女の行為を覗き見た。


押入れの外には、胸をはだけさせ、とろんとした淫靡な目で男を見つめる彼女がいた。
男はゆっくりと乳房を揉み、彼女はそれに呼応するように吐息を漏らす。時折男は彼女の小さな桜色の乳首をつねりあげるように弄び、そのたびに彼女は体を小さく震わせ、短い喘ぎ声をあげる。次第に男の愛撫は彼女の透き通った白い肌の上をおどりながら下のほうへと移っていく。男は彼女の下着に手を掛け、彼女の足から引き抜いた。男は露になった彼女の秘所に顔をうずめ、舐めまわしているようだった。部屋に響き渡る水音と、一層大きくなった彼女の喘ぎ声。ふすま越しにそれを聞いていた僕は、ほとんど無意識に、自らのものに手を伸ばしていた。やがて水音がやみ、男は彼女の秘所に陰茎をあてがい、ゆっくりと腰を沈めていった。男は腰を動かし始め、部屋には肌のぶつかり合う乾いた音と、彼女の秘所からあふれた愛液の立てる水音と、すでに叫ぶような声になっている彼女の喘ぎ声が響いた。そんな光景に、僕はもう目が離せないでいた。快楽に溺れる彼女の目を食い入るように見つめて、僕は自らを慰めていた。そんな中、彼女が一瞬、こちらに目を向けた。そして、僕の方を向いて、微笑んだのだ。それは僕の勘違いかもしれないような、ほんの一瞬のこと。それでも、僕はその瞬間、自らの欲望の塊をふすまに向かってぶちまけていた。

やがて、男は彼女の中で果て、彼女と男の行為は終了した。
行為が終わると、男はそそくさと服を着て、さっさと出て行ってしまった。

それからしばらくして、彼女は乱れた服装を整えると、こちらへ向かってきた。
ふすまを開け、申し訳なさそうに言う。
「‥‥、なんか、ごめんね、こんなとこ見せちゃって。」
「‥‥‥、いや、いいよ‥‥。それより、あの人‥‥」
僕の言葉を遮って彼女は言う。
「いいの、分かってるから。私は、それでもいいの。私なんて、何の価値もない女なのに、こうしていれば彼は私のこと必要としてくれるから。だから‥‥‥、いいの。」
彼女は優しく微笑みながら言った。
何も言えなくて、悲しくて、虚しくて、惨めで、色々な感情がごちゃ混ぜになって、それでもやっぱり何も言えなくて、僕は涙を流した。
彼女は、ふすまを汚した僕の精液に気づき、優しく僕を抱き寄せた。

この日、僕は初めて女性を知った。

彼女の絹のように滑らかな肌を、包み込まれるような乳房の感触を、
桜色に染まった乳首を、小ぶりで高貴な陶器のような臍を、
叢れ立つ陰毛の翳りを、引き締まった尻の感触を
漂う淫靡な香りを、漏れ出す吐息を。


彼女の中で果てた僕に、彼女は優しく笑いかけた。
瞬間、僕は自らの涙の意味を理解する。


その日、家に帰り、僕は一気に歌詞を書き上げた。

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