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お題③/突貫工事ラブコメ/たかな

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 3年B組出席番号9番、小久保和宏という男子生徒はクラスの中でとりわけ目立っている等の話は聞かないものの、彼は大人しい性格ながら運動もでき勉強も学年ではトップクラスの成績を修めていて、ほどよく優秀な生徒と言えた。
 という認識もここ一ヶ月前の話で、優良健康児だった小久保という生徒の姿はなりを潜めてしまい、今はちょっとした問題児になってしまっている。
 それというのも、彼はここ一カ月の間に45件もの事件を巻き起こしているからだ。しかも、とある教師の関わる所で。
 ちなみにその教師とは私の事なのだが、さすがに鞄の中に入れておいたリップスティックを盗まれたり、彼の全裸が写ったプリクラを1シートも職員室の私の机の上に置かれるレベルにまで達していたのには、私も気分を害すだけの話ではなく、頭どころか下っ腹を抱えざるをえなかった。
 最近、私の胃袋をきりきりと痛めつけているのは全て彼の奇行によるものだ。
 今日も今日とて、小久保は珍妙な事件を巻き起こして指導室に呼び出され、生活指導教員である私は竹刀を手に出張る羽目になった。
「……で、今日は全裸で校庭を走り回ったんだって? しかも女子テニス部がいるコートの方に突っ込んだ」
「はい、そうです先生。反省してま~す」
 小久保が礼儀正しく答えたかと思うと、やけに嬉しそうにへらへらと笑って台詞の後半を軽妙にした。
 その言葉に「チッ、うっせーな……」と付け加えないだけマシだが、そのやけに軽々しい態度がわざとらしく、私の体内にいる親方が杭打ち工事の工程を更に進めてくれ、私の胃は更にきりきりと痛むこととなった。
「これで呼び出すのは21回目。ほぼ毎日事件を起こして……一体どういうつもりだい、小久保君?」
「先生はわかってるんじゃないですか?」
 言葉の意味に深さがあると主張せんばかりに含んで言う小久保に、私はしらを切って「何を」と眉をひそめて言う。
「何故僕がこの一ヶ月で色んな事件を起こしているのか、ですよ」
 小久保が眉間を寄せて真剣な表情で言った。
 私はパイプ椅子に座った彼の、爪先から両脚の間を通過するように視線を這わせて彼の顔に上げ、
「そんなことより、私は小久保君が何で全裸なのかを聞きたいよ」
 なるべく股間に張り付けられた葉っぱが視界に入らないようにして言った。
 小久保は他の先生に捕まった時そのままの格好で、縄でパイプ椅子に手と足をくくり付けられ指導室の外に出ないようにされていたらしいが、まあ、これは恥じらいを込めて言うとして、どうしてもその手のプレイにしか見えなかった。
 そんな小久保の股間を見ないようにする私の水面下での努力とは裏腹に、小久保は勢いよく立ち上がって私の視界内にその粗末な葉っぱを戻してくれた。
「先生のことが好きだからです!」
「待ちなさい。君が事件を起してる理由を聞いてる訳じゃないんだけど。そのタイミングで言うと裸でいる理由が私のことが好きだからになってしまうよ」
「そんなことは私の愛の前では些細な事です」
「いや、私は葉っぱ一枚の変態に愛の告白とかはされたくない」
「では全裸で」と手足を縛られた状態で器用に腰を左右に振って、葉っぱを落とそうとする小久保。
「そういう問題じゃない!」と顔をしかめて私は一つ嘆息し、私は飲みかけの缶コーヒーを口に含んだ。
 私は何となしにだが、私のどこが優秀な生徒だったはずの小久保がそんなにも狂わせたのか――正直、聞きたくはない――を聞いた。
 小久保が、葉っぱが取れてしまって股間の巾着袋を風になったように自由にぶらぶらさせ嬉々として言った様は気色悪いの一言に尽きたが、それよりも直下工事で大穴を開けそうになるまで私の胃を痛めつけてくれたのはその内容だった。
「小柄で、なで肩で、童顔な所がたまらなくそそりますが、何より好きなのはその胸の薄っぺらさでしょう。対艦巨砲主義などもっての外です! 小さい方が良いに決まってます!」だの、「私は先生の内面も好きです。優しく、厳しく。まるで聖母のような柔らかな物腰で、しかし叱る時にはしっかりと叱る。そういう所に先生の母性を感じるのです!」だの言っている間は、気色悪いとは思っていても聞くに堪える範囲ではあった。
 しかし、「なんていうか……その……恥ずかしい話なんですが……フフ……勃」と言い始めた所で続きの言葉を断固として言わせぬように小久保を竹刀でどつき回していた。
 そんなこんなで夕日が地平線の向こう側へさようならし、空に浮かんでいた月が黄色のネオンを点灯させる頃には、存分に言いたい放題やりたい放題した小久保は絶頂を迎え、私も何とも言えぬ疲労感に息を切らしていた。
「つまり、先生が好きなんです……」
 小久保が息も絶え絶えに言う。しかもその結論はほんの一時間前に聞いている。
「好きという気持ちだけなら嬉しいんだ。しかしな、小久保君のことは受け入れられない」と私は表情をしかめて言う。
「何故でしょうか」と小久保。
「正直存在がキモ――と、その前に。忘れちゃならん事実があるだろう。それを君にちゃんとわかってもらいたい、だから言うよ」
「ええ、何なりと」と答える小久保に私は即答した。
「私は男だ!!」

 その後、私の言葉に小久保が何と答えたかは想像にお任せするが、少なくとも言えるのは親方の突貫工事によって私は胃潰瘍になってしまい休職しているという事実だけである。
 
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