「ああ、あの葉っぱが落ちたとき私は死ぬのね……」
白くて明るい部屋に一人の女性がベッドから窓を眺めてため息をついていた。
いつもは元気にピンと立っているツインテールの髪が今は力なくうなだれていた。
「食中毒で入院した癖に何いってるんですかあんたは」
学校の先輩のお見舞いに来たら、何故か古臭い寸劇を見せられていた。
「ああっ! なんて残酷な運命なの! 私が一世一代の大決心をした矢先にこんな悲劇が待ち受けていたなんて!」
「ちょ、ちょっとここは病院ですから大声は」
先輩は大げさに顔を手で覆って、頭を振る。そして、拳を思いっきり振り上げて叫んだ。
「でも、私は負けない! そう、恋する乙女はいつの時代でも無敵――!!」
「病院では静かにしてください」
「うう……頭が痛いです。死んだらどーしてくれる。訴えるぞー」
先輩の頭にタンコブが出来てそこから煙がモクモクと立ち上っていた。
俺がもう一度拳を振り上げる仕草をするとうひゃっと頭を両手でかばった。
「先輩、反省していますか?」
「うっす、反省してまーす。チッうっせーなぁ!」
「いや、最後はせめて小声で言ってくださいよ!?」
なんかこっちが入院したくなってきた。
「まったく……死ぬとか悪魔とか嘘ばっかり言わないでくださいよ」
「えー嘘じゃないところもあるよ。大決心とか恋する乙女とか」
つい、リンゴを剥く手が止まってしまった。
「え……先輩。誰かに告白するんですか? え?だ、誰なんですか?」
「ほほう。もの凄く興味ありそうですなぁ?」
先輩が猫の口にして悪戯っぽく笑う。
「べ、別に興味なんてありませんのですよ」
「おーい、何語だそれ。まあいいや。で、誰が好きなのか当ててみて?」
「え、あ……せ、せめてヒントを!」
「えーしょうがないなあ。じゃあ、ヒントね。私の目の前の人」
全てが停止した。
「そ、それ答えじゃーん……」
満足に突っ込めなかった。
「あははははっ! 鏡見てみぃ。もの凄く面白い顔になってる!」
「せ、先輩が変な冗談を言うからです……」
この一言を紡ぐのが精一杯だった。未だに心臓がバクバク言っている。
でも先輩はいつの間にか至って真剣な表情になっていて。冗談とはとても思えずに。
紅潮した顔に潤んだ瞳が俺の心を焼き付ける。
「……冗談じゃないよ。私、君のことが好き。大好きだよ」
心臓が再び高鳴った。限界を超えそうだった。死ぬ。死ぬかもしれん。
密かに思い続けていた先輩の方からそんなことを言われるとは夢にも思っていなかった。
「ねぇ……私の気持ち、受け止められる……かな?」
「あ、は……はい。その、俺も同じ気持で……その。好きでした。先輩」
「本当!? あ、じゃあね、やってみたいことがあったの!」
ぱぁっと先輩が顔を輝かせ、そしていそいそとベッドの中へ潜り。隣のスペースをポンポンと叩いて、
「ヘイ、カムイン! ファックミー! 君と私だけのラブコメリーゴーランド!」
「帰ります」席を立ち、ドアの方へと向かう。
「ああ待って! 自然の流れのはずだったのに! ああん、行かないでよぉ!」
振り向くと先輩が泣きそうな顔になっていた。その可愛らしさに思わず苦笑が漏れる。
「冗談ですよ。飲み物買ってきます。何がいいですか?」
「えっ、あ……にゃはは。君と同じのでいいよっ」
またしても顔を輝かせて嬉しそうにしていた。
納豆入り炭酸ジュースを二つ買ってきた。俺の彼女はむせて涙目になっていた。美味いのに。