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お題①/魔法少女が悪い大人をいっぱい殺しちゃいます☆/ブチャラtea

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「ままー! ただいまー! ちーちゃん今日もいっぱい悪い大人殺してきたよー!」
 居間で洗濯物をたたんでいると、仕事を終えた娘が、自慢の魔法ステッキをぶんぶん振り回しながら私の胸に飛び込んできた。私は娘の頭を「いい子、いい子」撫でて褒めてやり、ご褒美のケーキをテーブルに並べた。娘は目をキラキラと輝かせると、フォークを握るのももどかしく、手づかみでケーキに齧りついた。そんな娘の微笑ましい様子を見ていると、私も自然と顔が綻んでいた。

 結婚して間もない頃、夫に「魔法少女崇拝教」なる気味の悪い教団に入信しているとカミングアウトされたとき、私は本気で離婚を考えた。だけど、その教団に入信しているということを除けば夫はとても良い亭主であったし、それに教団には名を連ねてる程度の関わりしかないと言われたので、私も趣味のお遊び程度のものなんだろうと思い、考えを改めることにしたのだった。
 娘が産まれて数年後。夫が「魔法少女崇拝教」の集会に娘を連れて帰ってきたとき、私は再び離婚を本気で考えた。娘には本物の魔法少女の力がある真顔で言ってきたのだ。遂にとち狂ったかと私は思ったが、娘が魔法スッテキ一振りでゴキブリごとマイホームを爆破したのを見せられれば信じざるをえなかった。
 それから私たちの生活は大きく変化した。本物の魔法少女を擁立した「魔法少女崇拝教」は劇的にその規模を拡大し、いまや全世界に名を轟かせる教団へと発展した。そして夫は、本物の魔法少女の親として教団のトップに登りつめたのだった。おかげで私たちの元には信者が納める奉納金が大量に流れ込んできて、私たちの生活は時代錯誤の貴族のような豪華絢爛なものとなった。私はその時、夫と結婚をして本当に良かったと思った。本当に、その時までは。

 夕飯の支度をしていると夫から連絡が入った。仕事とのことだった。
 「魔法少女崇拝教」は、その規模が大きくなるにつれ自然と敵も多くなった。いまや世界規模となった教団がマスコミや人権団体、さらには国にまで目をつけられるようになったのは当然の成り行きだろう。
 そんな連中の事を娘に「悪い大人」の一言で始末させるのだ。娘は私たちの言葉に何一つ疑問を抱かず、その無垢な一振りで殺人兵器へと変貌を遂げる。そんな姿を見ると心がとても痛んだ。娘もきっといつかは気づくのだろう。娘が従順なのをいいことに、人殺しをさせている私たちの方がよっぽど「悪い大人」だということに。
 それに娘が成長したらさらにひどい事をさせてしまうことになる。それを私は予感ではなく、確実な事実として知っていた。それを知りながらその時が来るまで、私は素知らぬ顔で娘に酷いことをさせ続けるのか? そんなこと私がさせない。
 もう全てを終わらせしまおう。娘が嫌いなピーマンをプリンに変えているのを見ながら、私は静かに決心した。

 夕飯を取ったあと、眠っていた娘を連れて都心の一角に聳える教団のビルへと向かった。今頃ビルの中には娘に始末される予定の「悪い大人」たちが呑気な顔して待っているのだろう。
 教団のビルから少し離れた場所に車を止めた。ここから目線を上に向けると、ちょうど聳え立つ教団のビルを障害物なく見渡せる。
 娘を起こすと、目を擦りながらビルを見上げて「ぱぱのじむしょ?」と小首を傾げた。
「ごめんね。ちーちゃんに急なお仕事が入っちゃったの。でも、今日のお仕事は簡単だから、早く終わらせて帰ろっか」
 頭を撫でながら優しく言い聞かせるように言うと、娘は寝ぼけ眼でぼんやりしたまま頷いた。
「じゃあ、パパの事務所をちーちゃんの魔法でぶっ壊してちょうだい。今日のお仕事はそれだけ」
「ぱぱのじむしょだよ?」
「ううん。今日はパパの事務所の中に悪い大人たちがいっぱいいるの。パパたちは今違う所にいるから大丈夫なのよ」
 もちろん嘘だった。ビルの中には教団の幹部や信者たちがたくさんいるだろう。もちろん夫もだ。彼らは今頃、仕事をしに行くはずだった私を待っているのだ。
「わかった!」
 娘は素直に頷くと、魔法ステッキをビルに向かって振り下ろした――。

「魔法少女崇拝教」が私に課した仕事は、第二、第三の魔法少女を産むことだった。私は娘が魔法少女となって夫が教団のトップに立ってから、仕事と称して顔も名前も知らない男に抱かれ続けた。結果として私は、教団の男の子供を二人産んだが、その子たちはどうやら魔法少女の力を持っていなかったそうだ。しかし、私が一度魔法少女を産み出したという理由から仕事は未だ続けされていた。
 きっとそのうち、私はもう魔法少女を産めないと教団の連中も遅まきながら気づくだろう。そうなったら次は娘の番だ。いずれそうなることは火を見るより明らかだ。だから、そうなる前に全てを終わらせる。

 ――ビルが轟音を上げて崩壊していく。私の胸には空虚に似た爽快感が訪れていた。全てが終わったわけではない。だが、これは私の中の一つの決別となったのは確かだ。最後に、崩れ落ちるビルに向かって私は胸の内を叫び上げた。
「魔法少女とかきめえんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
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