「マジカル☆シスターさんじょ~っ!」
意味の分からない言葉と共に我が愚昧が現れた。
「一体、何をやっているんだ?」
深く関わりたくは無いのだが、一応構ってやらないといけないだろう。
あまり認めたくはないけど俺の妹だからな。
「マジカル☆シスターは悪い人をやっつけるのです」
「へぇー」
そいつはいい心がけだな。でもな、こんな所にお前が倒せるような悪人はいねぇよ。
「そんなわけで、わたしはお兄ちゃんをやっつけるのです」
「はぁ!? 何で俺なんだよ!?」
自分で言うのは恥ずかしいが、俺は善良過ぎる程のいい人なんだぞ。それなのに何で?
「ご託はいいから、さっさと殺されるのです」
「殺すのかよ!?」
いくらなんでも殺人はやり過ぎなんじゃないか? ヒーローが悪人を倒すってのはあるが、
どのヒーローも殺しまではやっていないはずだ。それなのにコイツは殺人をやるのか?
いや、そもそも色々と前提が間違っている。どうしてこうなった?
「マジカル☆ステッキ―!」
悩んでいる間にも愚昧は俺を殺すための武器を取りだした。てか、マジカル☆ステッキー
等と言ってはいるが、あれはどう見ても普通の杖じゃないか。しかも、じいちゃん愛用の杖
だし……今頃じいちゃん杖が無くて困ってるんじゃないか?
「お兄ちゃん覚悟するの~」
可愛らしく間延びした声を出しながら俺に迫ってくる妹。
俺が無関係の立場なら微笑ましく見ていられるんだが、残念な事に当事者に選ばれてしま
った以上笑ってはいられない。まぁ、笑顔で杖を振りまわしている姿を見て笑える奴なんて
そうそういないと思うけどな。
「撲殺☆撲殺☆撲殺」
実に恐ろしい言葉を放ちながら杖を振りまわす妹。マジで助けて欲しい。
誰かに助けを求めたいが、そんな都合のいい相手など居るわけもなく自分の力でこの窮地
を抜け出さないといけないわけだ。さて、どうしたものか。
「うふふ。あはは~♪」
はぁ……あまり長く考えている時間はないみたいだな。
「死ね~~っ♪」
もし、今すぐこの愚昧の暴走を止める事が出来る神様が居るのなら、すぐにでもその宗教
に加入して崇めた称えるんだけどね。
ま、そんな都合のいい宗教や神様なんていないか。
結局俺は何も出来ずにコイツに殺されるだけなんだろう。
武器を持っていたとはいえ、年下の妹に何も出来ずに殺される兄。
かなり情けない話しだが、仕方のない事なのかね。
マジカル☆ステッキという名のじいちゃんの杖で殴られる痛みと薄れゆく意識の中、実に
嬉しそうに笑う妹の顔が俺が最後に見た光景だった。
ああ神様どうかこの哀れな愚昧を止めて下さい。
そんな事を願っても意味が無いのは分かっているけど、願わずにはいられないな。