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第六話 繋がる鎖

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第六話 繋がる鎖

 帰り。二人は今日見た映画の感想を話しながら歩いた。
「最近の邦画の中じゃかなり当たりの方じゃね?」
「あたしには意味が分からなかった」
「『海辺のどこか』の女の子がやたら可愛かったんだが、あれ誰だ?」
「Hなシーンもあったしね」
「いや、それは関係ない」
「そう? 胸が女から見ても綺麗だった」
「あんまデカくはなかったな」
「ああいうのが好きでしょ?」
「いや、違うって。最近下ネタ多いぞ」
「内容が分からなかったからこういう話しかできないの」
「もっと他にないのか、他に」
「主題歌がよかった」
「まあそうだな」
「あと、主演が凄くカッコよかった」
「そこまでか? 確かにいい男だったけど、そこまででは……」
「ルックスじゃなくて、ハッキリしてるところがよかった」
「そうか? 俺にはあの男は迷いに迷っているように見えた」
「『私はあなたを犯したい』とか。男はハッキリしてて欲しいね」
「また下ネタか」
「ちがくて」
「ちがわねー」
「ハッキリしてて欲しいの」
「…………」
「男は、ハッキリしてて欲しいの」
「…なるほど」

 雄一とれいんは、途中でスーパーに寄った。そこで今日の食材を買い込んだ。
れいんは食材とは違う何かを買い物篭の端に忍ばせた。雄一がそれに気付くこと
はなかった。
 家に着いて、れいんは畳に寝転んだ。雄一はそのままキッチンに行って料理を
始めた。まな板の上に用意されたのは、玉葱、人参、椎茸、薄い豚肉。新鮮な卵。
 雄一は手慣れた様子でそれらを切り刻み、鍋にぶち込んで煮た。薄口醤油や麺
つゆで味付けを済ませてから卵で閉じた。丼にご飯をよそった。雄一のご飯の量
を十とすれば、れいんは八という割合だ。その上に鍋の中身を乗せると、立派な
卵丼の出来上がりだ。
 二人は無言でそれを食べた。そして食べ終わった後暫く何もせずにいた。食べ
終わってから二十分後、雄一は徐に風呂場に行き、蛇口を捻った。狭い部屋の中
に水の溜まる音が響いた。また寝転がっているれいんの上に雄一は乗り掛かった。
『ハッキリしてて欲しいの』
 雄一はれいんに唇を合わせた。水は轟々と流れ続けていた。

 雄一の心は二つの思いが鬩ぎ合っていた。
「れいんに傷をつけた俺があいつを好きになっていいのか。いやいいわけがない」
「れいんが好きで我慢できない。もう抑えることは出来ない」
 大抵は、欲望に忠実なほうが勝利する。雄一もご多分に洩れずそうだった。
『ハッキリしてて欲しいの』
 この言葉を聞いて、雄一はどこか吹っ切れたようだった。
 水は浴槽から今にも漏れ出しそうなくらいだった。
 雄一はれいんの首筋を指でなぞり、耳を鼻を寄せながら言った。
「上着」
「え」
「脱がせていい」
「ん」
 浴槽は溢れだした。

 今は部屋に灯りも灯っている。数日前見えなかった体がよく見える。頭もスッキ
リしていた。
「きれいだな」
 雄一はパンツだけ穿いた姿でそう呟いた。れいんは一糸纏わない姿だった。
「あの時は暗かったから、全然見えなかったけど」
「あんまりジロジロ見ないで」
「わかったよ」
 雄一は、れいんの小振りな胸に両手を伸ばした。そして、胸を円を描くようにした。
「胸ってこうやって揉むのな。最近知った」
「AVで?」
「何の話ですか」
「知ってるのよ」
「…知ってたのか」
「あ」
「気持ちいい?」
「いや、ちょっとくすぐったいだけ」
「そんなもん?」
 雄一は、人差し指と中指の間に乳首を挟んで動きを速めた。
「やっぱくすぐったいだけ?」
「くすぐったいのが」
「なに?」
「強くなってきた」
「じゃあ下も――」
「ねえ、水止めなくていいの?」
「今はほっとけ」
 雄一は右手を乳房から下腹部に移した。左手は円の動きを継続させたままだ。
「こっちからも水を溢れさせなきゃ」
「自分もHな言葉好きじゃん」
「時と場所を考えろと」
 雄一は、中指を膣口に差し込んだ。そして親指の腹で陰核の皮を擦った。
「人の体ってあったいかいよな」
 中指を抜き差ししながら雄一は言った。
「そうね」
「肌がこれだけあったかいんだから、中はそりゃあもっとあったかいもんだよな」
 雄一は、入れた中指をくいと上に曲げた。れいんの体は正直に反応した。
「あ」
「女の子って凄いわ。非日常だと思っていたものがここにあるんだ」
「雄一」
 れいんが喘ぐように言った。
「さっきのもっかいやって」
「こう?」
 雄一は中指の動きを繰り返した。れいんはさらに激しく反応した。
「その、上の方が気持ちいい」
「ふーん」
 それから何度も何度も中指の動きを繰り返した。れいんは一度達して、ぐったり
とした。雄一は中指を完全に引き抜いて、まじまじとそれを見た。
「ふやけちまった」
 そう言って、中指を舐めた。れいんの下腹部からは、光がきらきら見えていた。
雄一はそこに目を近づけた。皮は剥けて、小さい陰核は剥き出しになっていた。膣
からは泡立った白い粘液が漏れ出ていた。
「俺さ、迷ってたんだ」
「え」
「本当言えば、まだ迷ってるんだ」
「何に」
「れいん、もう一度言ってくれよ。迷うなって」
「迷うな」
「よしもう迷わない」
 雄一はいつの間にかパンツを脱いでいた。
「犯すぞお前を!」
「ちょ、待って」
 猛烈な勢いで突入しようとした雄一を、れいんは寸でのところで止めた。
「これ、付けて」
「?」
 れいんは、股間に割り込ませていた硬く握った右手を開いた。
 そこには、小さな正方形の袋があった。
「コンドーム?」
「そう」
「…見くびるなよ」
「どういうこと?」
「今日は絶対中には出さないから」
「…分かってねー」
 れいんは呆れた顔で息を吐いた。
「え? 駄目なん」
「中に出そうが外に出そうが、妊娠の危険性は存在するんだよ」
「マジか」
「そう。今も雄一のおっきいのの先端から漏れてるやつがあるでしょ。それ
はカウパーなんとかって言って、それにも微量の精子が含まれてるんだって。
AVとかエロ漫画で『外に出せば妊娠しない』と間違った認識を刷り込まれ
ていることも近年の若年層における人工中絶件数増加に繋がっているのかも
しれないわね」
「おま、詳しいな」
「あれから図書館で調べたの。あたし暇だから」
「さすがだな」
「まあ、もう手遅れかもしれないけど」
 れいんが何気なく言った一言で、雄一の表情が暗くなった。
「そうだな、もう妊娠してるかもしれないな」
「いや、多分大丈夫だから」
「マジで?」
「いや慰め」
 とにかく付けて、とれいんは言って腕を突き出した。
「付け方が分からん」
「裏に付け方とか書いてあるんじゃないの」
「お前付けてよ」
「まあ、いいけど。おしめ付けるのと似てるかも」
 れいんは袋を破き、本体を取り出した。
「確か、中に空気残しちゃ駄目なのよね。破けちゃうから」
「破けたら中だしと変わらなくなるのか」
「そうじゃない?」
 れいんはコンドームを捻りながら言った。
「しかし、でかっ」
「いや、そうでもないぞ」
「他の人はもっと大きいの?」
「多分」
「はまるのかな」
 れいんは左手で根元を固定した。そして右手親指と人差し指の間に挟んだコン
ドームをうまく亀頭に誘導する。コンドームは思いのほか簡単に入った。
「おお、なんか変な圧迫感」
「これで準備OK」
「では」
「どうぞ」
 雄一は仰向けになっているれいんの太股に手を掛け、広げた。
「れいん」
「なに?」
「愛してる」
 二人は繋がった。
「…なんか」
「どうしたの?」
「この前ほどあったかくない」
「当たり前じゃない」
「まあいいや」
 雄一はゆっくりと動き出した。
「そういや、明日は日曜か」
 れいんの息は段々荒さを増していった。
「明日、なんだっけ、ヴィップ? 競馬見るか」
「…雄一」
「ちょうど競馬場近くにあるし、行くか」
「…こういうときってさ、多分、あまりそういう話はしないと思う」
「ごめん、集中すると恥ずかしくなると思って」
「恥ずかしがることないのに。あたしが馬鹿みたいに見えるよ」
「集中しちゃったら、本当にそれしかしないもん」
「それでいいよ」
「把握した」
 雄一はそう言った瞬間表情を引き締め、動きを急激に速めた。
「あっ」
 下半身を激しく突き出しながら、雄一はれいんの唇を丸ごと飲み込むようにキス
をした。雄一の口の中にれいんの喘ぎが響いた。
 すぐに二人は体中を濡らした。
 言葉はなくなり、吐息が満ちた。
 雄一は猿のように突き続けた。
 れいんは止まることなく震え続けた。
 そんなことを二時間近く続けた。
 二人が動きを止めた時、水は脱衣所に入り込む寸前だった。

 水を掻き出して、お湯を入れて、なんとか暖かい風呂を作り出した。二人は浴槽
の中にいた。狭い浴槽に二人で入るため、れいんは雄一の上に座った。
「こうしてると、思い出すな」
「なに?」
「昼間も言ったけど、お父さんのこと。二人目のね」
「ああ」
「お父さんに拾われた最初の日、こうして浴槽に浸かってたっけ。あたしはお父さ
んの膝の上に乗って――ちょうどこんな感じ。ちょっと、体は大きくなったけど」
「小さいだろ」
「当時と比べれば!」
「そうねはいはい」
「…男は出しちゃうと途端に冷たくなるっていうのをどっかで読んだけど、本当な
のか」
「いや、そんなことは……」
 そう言いながら、雄一はれいんの肩まで伸びた髪の先端に触れた。
「…ね、ちょっとシミュレーションしてみない?」
「シュミレーション? 信長?」
「ちがくて。妊娠してた時の」
「…嫌だなあ」
「嫌なの?」
「考えるのも恐ろしい」
「…だからって逃げちゃ駄目よ」
「そうですね」
「まず、今出来たとしたら来年の十月くらいには生まれるわけよね」
「そうですね」
「そうすると、雄一は高校二年で一児の父になると」
「そうですね」
「その間には仕送りとバイトで凌ぐしかないわね」
「そうですね」
「そして雄一には大学行かずに働いてもらって」
「そうですね」
「もう! 真面目に聞いてるの?」
「そうですね」
 れいんはそれを聞いて膨れっ面になった後、何も言わなくなった。
 雄一は、またれいんの髪を撫でた。
 れいんもまた悩んでいたが、それはまた別の話だ。
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