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※陵辱描写があります(男性不在)


※本編に関係ないので、苦手な方、興味の無い方はブラウザバック推奨です。


……それでもええよって方は、お手数ですが下スクロールからどうぞ。













































side.A

 傾斜した陽の光は真紅。

 放課後の地理資料室。

 南向きの窓に、燃え立つ夕日。

 緋く。紅く。

 灼くように染める。

 窓際に、一人の少女。

 この紅い世界に、酷く調和的な緋い長髪を、手で弄びながら。

 口元は嗤っていた。

 酷薄に。そして妖艶に。

 おぞましい程端正な顔を綻ばせて。

 外の喧噪も、久遠より遠くに聞こえる。静寂。

 渇いた音。扉が開いた。カラカラと。調和を崩す。

 緋髪の少女は――リューコは表情を消した。

 その顔に浮かんだ愉悦を、押し隠すように。

   *   *

 地理資料室は、その両サイドに地図や書籍で埋められた本棚があり、入り口から見たその内部は、ある種の廊下のように細長くみえる。内部は夕日によって赤く染め上げられ、影の黒と夕焼けが、視界を二分していた。この部屋の最奥、窓に寄りかかって、リューコは今しがた入室したジュンを見返していた。

 旧校舎に二階にあるこの場所は、生徒はおろか、教師ですらめったに訪れることはない。放課後であればなおさらだ。だからリューコに呼び出された時点で、ジュンは相当彼女のことを警戒していた。それに午後からユキの姿も見えないのも気になった。ジュンは携帯電話を持たされていないから、ユキと連絡を取ることは出来ない。

『ユキのことで、少しお話があるの。放課後、時間あるかな?』

 HRが終わってもユキの姿が見えず、きょろきょろとしていたジュンに、リューコはそう囁いた。その場で話を取り合ってくれなかったリューコに従うまま、ジュンはここを訪れることになったのだ。

 ジュンはリューコに毅然と対峙する。

「用ってなに?」

 ジュンの声音は刺々しい。まるで怯えを押し殺すように。

「そろそろ熟したかなって思って」

 リューコはちょっとだけ微笑んだ。そこに微かな、嘲りの燐光。

「どういうこと?」

 ジュンは極めて不審そうに、そして不快感も隠さずに語勢を強めた。

「君たちのカンケイ」

 薄く微笑され、ジュンは微かにたじろいだ。鋭い語気が、リューコが彼女たちの関係を知っていることを十分に物語っていた。

 リューコはジュンに近づき、通り過ぎて扉を閉めた。かちゃりと施錠の音。

「あんまり聞かれたい話じゃないでしょう?」
「…………」

 ジュンは黙って、リューコを睨んだ。相手の思惑が分からないので、ひとまずは話を聞くしかない。

「私がユキのことを特別に想っていたのは知ってるかしら?」
「……知らない」

 本当は少しだけ知っていたけど、リューコのことをあまり知らないジュンは、ひとまずそう答えることにした。

「そう。まぁいいや。とにかくユキを私の物にしようと決めていたんだけどね、どうも邪魔が入ったみたいだから」
「……私のこと?」
「他に誰かいる? なんでか知らないけど、あんなに同級生に懐かなかったユキが、ジュンちゃんにだけは心を開いてる。それもそんなに付き合いが長いわけでもないのに。どうしてかな?」
「私だって知らない」
「でしょうね。でもそんなことはどうでもいいの。大事なのは、ジュンちゃんがユキの心を占有してる割合が大きすぎることだから。もう私がつけいる余地がないじゃない?」
「……何がしたいの?」
「どうしてもユキのことが欲しいの。私は傲慢だから、自分の望んだものは全部手に入れないと気が済まないし、今まではずっと手に入れてきた。もちろんこれからもそうするつもり」
「人の心も?」
「当然。ユキは絶対に私の物にするもの。だけど、ジュンちゃんが邪魔なのよね」
「そんなことを言うためにわざわざこんな場所まで呼び出したの? バカみたい。帰らせてもらうね。ユキのことも探さないといけないし」
「ユキがどこにいるか知りたい?」
「……まさかユキに何かしたの?」

 今までの話からするに、ジュンはリューコがユキに直接手は出すことはないだろうと考えていた。だが、リューコの挑発的な物言いに、その予想が外れていることを直感する。ジュンの声がぐっと剣呑さを増していた。

「まだ何も」
「まだ?」
「そう怖い顔しないで。ユキは私が借りてるマンションに居るの。お昼に無理矢理連れ出してね。証拠見せようか」

 リューコは携帯電話を取り出して、何者かをコールすると、二三会話を交わし、ジュンに携帯のディスプレイを見せた。携帯のテレビ電話ではその画質は荒かったが、ジュンにはそこに映されているものを瞬時に理解した。

「なっ……!」

 思わずジュンは言葉を失う。そこに映し出されていたのは、制服姿のまま椅子に拘束されたユキだった。背もたれの後ろに手を回し、麻縄で胸の辺りを緊縛されていた。目隠しもされている。寝ているのか意識がないのか、項垂れている。

「そこ、私のマンションの部屋でさ。今日はそこに二人の女の子がもう呼んであるの。二人とも私のペットなんだけどね」

 得意げな笑みのまま、リューコは携帯の画面を凝視するジュンに語る。

「私の一言で、ユキのことを襲わせられるんだ」
「……人間のクズね」

 吐き捨てるように、ジュンが呟く。

「そんな口聞いても良いのかな? ジュンちゃんにとってもユキは大切だよね?」
「……脅してるの?」
「そうだよ」
「最っ低」
「二回目の警告、口に気をつけなよ」
「……何がしたいの?」
「要求を一つ聞いてくれれば、ジュンちゃんもユキも解放するよ」
「何?」
「明日の朝まで、私のペットになってよ」
「私が?」
「そう」
「ユキに何もしないって保証できるの?」
「信じてもらうしかないかな」
「信じられるはずがないでしょ!」
「じゃあ私は一晩中ユキのことを調教させてもらうだけだよ。クスリと玩具で、従順になるまで徹底的に」
「っ……!」
「まだるっこしい交渉事をしたんだもの。約束は守るよ」
「……もし守らなかったら、あなたのこと、殺すから」

 ぞっとするほど冷たい声で、ジュンは小さく言い放った。その殺意に塗れた視線に怯みもせず、リューコは微笑んだ。

「良かった。交渉成立だね」

   *   *

 リューコに言われた通りに、ジュンはユミコに友達の家に急遽泊まることになったと伝えた。ユミコはいくつか事情を聞いた後、違和感を感じながらもそれを承諾した。友人としてユミコに事情を説明したリューコは、上手くいったことがわかるとクスリと嗤った。


 ジュンはユキの居るというマンションに向かった。学校から徒歩でほんの十数分ほどのマンションはそれほど高級ではないにしろ、高校生が一人暮らしするには十分過ぎる大きさだった。

 リューコはオートロックを電子認証キーで開け、ジュンもそれに続いた。リューコの下宿は2LDKで、一室は勉強部屋となっており、そこにユキが監禁されていた。他は誰もおらず、リューコの言う「ペット」の子達の姿は見えなかった。

「ユキ!」

 ジュンが呼んでも、反応はない。

「まだ寝てもらってるよ。お薬を少々大目に飲んでもらったから」
「クスリ?」
「そう睨まれてばっかじゃ困るわね。平気よ。害のあるものじゃないから」
「確認していい?」
「どうぞ」

 ジュンは拘束されたユキに近づいて、口元にそっと耳を当てた。規則正しい呼吸を確認して、今度は額に手を当てる。問題はなかった。確かに寝ているだけのようだ。

「もういい? あとでちゃんとお話させてあげるから。ほら、ジュンちゃんはこっち」

 ユキの居る部屋を後にして、ジュンはリューコの寝室に向かった。十畳ほどある部屋の隅に、人が二人は余裕で寝られそうな大きなベッドが鎮座している。化粧台の上にはやや雑然と化粧品が置かれていた。大きなクローゼットの中を見ることは出来ないが、おそらくそれほど整理されていないことは想像に難くない。床はフローリングで、綺麗に磨かれている。こまめに掃除はするのか、ほこりも見あたらなかった。

「さて、と。まずはこれかな」

 リューコが手に持っていたのは、柄付きの細身の棒だった。先端に近づくほど、やや太くなっている。

 リューコが柄の部分を持ってそれを振ると、ヒュンと鋭い風切り音がした。

「何かわかる?」
「……さぁ」

 敵意に満ちたジュンの声を聞いて、リューコは満足気に頷いた。

「鞭だよ。競馬とかで、馬がおしりを叩かれているでしょう? あれと同じ」
「…………」

 ジュンの顔が、にわかに引きつった。

「何に使うか分かったみたいね。じゃあ、そこに四つん這いになってくれる?」

 リューコが酷薄な笑みを浮かべる。

「そうそう、あとこれも」

 リューコに投げ捨てられたプラスチックのケースに入れられた錠剤は、渇いた音を立ててフローリングの床に転がった。

「何これ?」
「ん? 媚薬(びやく)だよ。服用後三十分で、五、六時間は効果あるの。痛みに我慢出来なくなったら、代わりにそれ飲むことで赦してあげる。最もその後は、クスリで火照った身体を好き放題しちゃうけど」

 ジュンは不安を隠しきれずに、その錠剤の入ったケースを凝視した。

「じゃあ、はじめようか」

 リューコの声が、愉悦に弾む。
 ジュンの身体は小刻みに震えていた。

「怖い? 逃げても良いよ」

 クスリと笑んで、リューコはジュンを見下ろした。もちろんジュンを逃がすつもりなどない。ユキを人質にとってあるから、逃げないと打算した上での発言だ。ジュンもそれを分かっていながら、それでもやはり逆らうことも逃げ出すことも出来なかった。

 まだ意識を取り戻していないらしいユキを、リューコから逃れながら運ぶのは不可能だし、その上リューコには二人の『ペット』もいるらしい。どうにも出来そうになかった。

「叩かれるのが怖いなら、最初からそっちのクスリを飲んでも良いんだよ?」
「……いらない」

 ジュンは意を決するように、ぎゅっと目を閉じた。フローリングの床に膝を付き、手を押しつける。人にあらざる、四足の姿勢。その屈辱を押し殺すように、キッとリューコを睨み付けて言い放つ。

「ほら、好きにすれば良い……!」

 今にも噛みつきそうな、険しい表情。爛々と光る瞳には、憎悪と怒りが滲んでいる。

 そんな彼女の姿を薄く笑ったまま見返して、リューコは媚薬のケースを拾い、彼女の手許に置いた。

「まぁ必要ないなら、使わなければいいから」
「いらないって言ってるでしょ」
「今はね。十分後もそう言えたら褒めてあげる。あとこれ」

 リューコは制服のポケットからハンカチを取り出すと、元々綺麗に折りたたまれたそれを、更にもう一度折ってからジュンに渡した。

「噛みなよ」
「……なんで?」
「食いしばったときに、何か噛んでた方がいいから」

 リューコは声のトーンを少しだけ低くした。ジュンの脳裏に、映画の拷問シーンで囚人が咥えさせられる猿轡が過ぎった。それだけ痛みが尋常ではないのか。それともこれも脅しの一部なのか。

 結局判断する暇もない内に、それを口元に押しつけられ、「噛みな」と冷たく命令された。容赦ない、酷く温度のない声音だった。つい言われるまま咥えてしまう。

 それを見て、リューコは釣り上がりそうになる口角を、ぐっと抑えた。「従った」と思った。どんなことであれ、ジュンは言われるままにした。確信する。この子は堕とせると。戸惑ったまま咥えた。納得したようには思えない。その理由は怖かったからだ。これからのことが。思考が鈍化しているんだ。恐怖に竦んで。見つけた心の弱さを、リューコは見逃さない。

 リューコは四つん這いのジュンに跨る。腰こそジュンに押しつけていないが、ちょうど馬に乗るように、両足の間にジュンを置いている。彼女の制服の襟を掴み、ちょうど首もとを捕まえられて動けない猫のように、リューコはジュンを拘束した。リューコは腿でジュンの腰を挟み込んで固定した。ジュンは両手両足を床に付けているので、何かあっても咄嗟に身を守ることすら出来ない。一方リューコも、両足と片手を使ってジュンの自由を奪っているので、自由なのは片手だけだ。

 けれど、彼女にはそれで十分だ。その手には、先ほどジュンに見せつけた馬鞭が握られていた。

「さてと、それじゃあ一回目」

 微かに弾んだ声。ジュンの不安が急に高まる。ジュンはかろうじて振り向くことくらいは出来るが、それでもリューコの背面までは見ることが出来ない。故に彼女の背後で振り抜かれる馬鞭は、ジュンにとっては完全な死角の存在だった。

 ヒュンと風切り音。ついで、臀部に想像を遙かに超える激痛。バチィンと弾ける、肉と鞭のぶつかる音。食いしばった歯が割れるかと思った。痛烈な衝撃に、ジュンは悲鳴すら上げることができずに、目を見開く。

 痛みを与えられる。その認識が、彼女はあまりに甘すぎた。社会で与えられる痛みよりも、遙かに効率的に「人を壊す」痛みがあることを、彼女は知らなかった。無理もない。彼女の住む世界では、そんなものと邂逅することはまずあり得ないはずだから。

 その痛撃は、ただの一撃で、彼女の理性と思考を攪拌させた。人を本能に縛り付け、動物に堕としてしまう、そういう類の、忌むべき激痛だ。

「人に『与えられるべきではない』痛み、」

 ヒュンと――

「…………!!」

 反射的に声なき声を上げてしまう。歯をぎゅっと噛んで。噛み千切るほど。

 バチィン!! 音が爆ぜる。恐怖で身体が跳ねる。が、拘束され、逃れることはできない。しかし二度目の鞭打は、ジュンに向けられたものではなかった。床と鞭の衝突の音。そう認識するのに、ジュンは時間がかかってしまう。思考が追いつかず、安堵する暇はない。

「この鞭って、それを与えるために考案されてるの。わかる? 家畜を躾けるための物なんだよ?」

 ジュンの頬に、冷たい感触の鞭が押しつけられる。ジュンの顔から血の気が引いていく。スカートを託しあげられ、下着と瑞々しいお尻を露出させられる。そこに一筋、這うようなみみず腫れの跡。

「教えてあげる。服従すべきものを全て。恐怖と苦痛、喜悦と快楽で、」

 陶酔的な声だった。熱に浮かされたような、艶を伴って。

「心を蹂躙するの」

 掠れような囁きと共に。振りかざす。その鞭を。

「二回目」

 バチィン!! 先とは微妙にずれた位置。けれど、痛みはさらに増幅した。

「――かっ……はぁ」

 噛みしめ、力が抜けてしまった口から、ハンカチが落ちる。唾液が糸を引いている。意図せず呻いてしまった。一寸の容赦もない責め苦は、やがて容易く人の精神を破壊してしまう。ジュンは身を以て、来たるべきその現実を直感した。

「早く拾って、口に噛みな」

 リューコが高圧的に命令する。

「う……」

 ジュンの反応は鈍い。

 瞬間、パチンと、お尻を叩かれる。今までよりもずっと弱いけど、はっきりと痛い分かるような。現実的な――それゆえにジュンを現実に引き戻す――範囲の痛みだった。

「早く、って言ったの」

 ジュンの視界に、クスリが映る。飲めば、この激痛からは逃れることができるが、飲めば身体を弄ばれる。苦渋の選択を前に、彼女は躊躇してしまう。

「待って、クスリ……考えさせて」

 リューコは手を振り上げる。風切り音が空を裂こうと待っていた。

「三回目」

 ――バチィン!!!

「あぐっ……!! かはっ……えほ」

 あまりの痛みに、全ての思考が吹き飛ぶ。

「良いかな? 私は最初に痛みから逃れる方法は言ったよね? 君に『考えるから待ってくれ』なんて交渉の余地なんてないし、私は耳を傾けるつもりもない。逃れたいなら、全部行動で示してごらん」

 氷のような、触れただけで指先が痛むような、そんな言葉だった。

「四回目」

 その言葉を聞いたジュンにはもう、選択肢などなくなっていた。震える手でプラスチックケースを掴み、痛みから逃れたいがためだけに、錠剤を飲みこんだ。

 ジュンは気が付かない。リューコが四回目と言ってから、まるで誘うように、その振り上げた腕を静止させていたことを。全てが思い通りにいって、満足げに笑ったことも。

 馬鞭を投げ捨て、ジュンの前に仁王立ちする。顎に手を添え、囁く。

「口開けて」

 ジュンは言われるままに開口する。

「ん、ちゃんと飲んでるね。良い子良い子。……さてと。立てる?」

 くしゃりと頭を撫でて、リューコはジュンを立ち上がらせた。

「シャワー、浴びておいで」

 リューコに場所を説明され、言われるままに身体を洗った。

 シャワーの温水がみみず腫れの跡を伝い、じくじくと身体に痛みを刻み込んできたところで、ようやく思考を再開することが出来た。経験したことのない痛みに、頭が現実の理解を拒み、朦朧としていたのだった。つい先ほどまで、自分の意志などほとんどなく、リューコの言葉にただ従っていただけだった。そのことを認識し、ジュンはふっと自分のことが恐ろしくなった。自分のものであるはずの意識が、ふいと身体から抜け落ちてしまったように思えた。

 どうしていいか分からなくなり、ジュンは自分の身体を何度も不必要に洗った。もうぶたれることはないだろうが、まだ先の不安が消えたわけではない。先ほど飲んだ媚薬が、お腹の中からじわりと染み込むような、不快な感触がした。

 これから汚されると分かっていても、抵抗する気が起きなかった。ユキと連絡を取れない以上、逃げ出すことはできない。

 そこでようやく彼女は思い出した。自分がユキの代わりだということを。ジュンが従う限り、リューコはユキに手を出さないのだから。

 そう思うと、まだ少し踏みとどまって居られる気がした。

 頭から全身に湯を流し、ジュンはしばらく浴室に呆然と立ち尽くした。頭を空っぽにして。脳裏に浮かびかける未来の想像を、真白で塗りつぶして。

「……よし」

 囁く。自分自身に暗示を掛けるように。

 少しだけ気力が回復した。浴室を抜け出し、ざっと身体を拭いて制服を着た。

 まっすぐにリューコの部屋に戻ろうとしたところで、彼女と鉢合わせた。

「私もシャワー浴びてくるから」
「ん……」
「ユキのところに居ていいよ。まだ寝てるけど、ちょっとは気も紛れるでしょう?」

 ジュンは言われた通り、ユキの居る部屋に入った。

 ユキは相変わらず椅子に縛り付けられたまま、すーすーと寝息を立てていた。服も最初見たとき以上に乱れている様子もない。ジュンはひとまず安心した。

 ユキの太股の上に、くたりとジュンは上半身をもたれかけた。どこか甘い彼女の芳香に包まれ、幸せそうに目を細める。そこは暖かく、ジュンはこのまま身体が溶けてしまえばいいのにと願った。冬場の子猫のように、しばらくジュンはユキに身体をくっつけていた。

 そんな時間もすぐに終わりを迎える。がらがらと浴室の扉が開く音が聞こえた。リューコが浴室から出たのだ。

 目隠しされたユキを見上げる。

 閉じた唇は、いつもよりも少しだけ乾燥しているように思えた。

 しばし躊躇い、ジュンはその唇に、柔らかく、けれどしっかりと口付けた。

「行ってくるね」

 眠ったままユキに、ジュンは力なく呟いた。唇に残った温もりを、確かめるように指を当てた。身体の奥が少しだけ火照っている。それが、キスの続きを求めてのものか、それともクスリのものか、ジュンにはもう分からなかった。

 リューコが来る前に、ジュンは部屋を出て、ベッドのある部屋の前で彼女を待った。すぐにリューコがやってくる。

「ユキのところじゃなかったんだ」
「もういいから。それに少しでも早く済ませたいし」
「そう」

 リューコは妖艶に微笑んだ。

「そうなると良いね」
「約束は、一晩でしょ?」
「そうだよ。ジュンちゃんがそれ以上を望まなければね」

 ジュンは抱き寄せられた。ぎゅっと拘束されるように、全身を抱き締められる。互いの熱が混じり合う。

「一晩中、たくさん可愛がってあげるよ」

 耳元で囁かれ、ゾクリと震えた。嫌悪感に。それと、理解も認識できない甘やかな誘惑に。

 身体の芯が熱に痺れていた。火照りが収まらない。

 最奥が、融けだしそうなほど熱かった。
23, 22

  

 校内におけるジュンのイメージは冷静というよりも冷淡であって、リューコもおよそその例外ではなかった。他に感じる点を上げるとするならば、その芯の強さや、ユキに忠誠を誓っているように見える所くらいだろう。

 本来ならば自分には決して懐かないであろうジュンをその腕に抱き、リューコは支配欲がぐっと高まるのを感じた。これから彼女を自分の好きなように出来ると思うだけで、膨れ上がる情感が今にも爆発しそうだった。

 部屋に入ってジュンを乱暴にベッドに押し倒し、リューコはその上に覆い被さった。リューコの下で、ジュンは無抵抗に身体を小さくさせた。それと分かるように顔を背けている。リューコを受けいれたくないという意志表示だけが、彼女が今唯一出来る反抗だった。

(まぁその方が、犯し甲斐があるんだけどね)

 リューコはちょっと乾燥した唇を舌でぺろりと舐めた。

 顔を逸らすジュンの白い首筋に噛みつくように、唇を当てる。ジュンはびくりと身体を振るわせ、無意識に息を止めた。

 軽く舌を這わせる。鎖骨に口付けて、それから段々上に、首筋から、耳のすぐ下あたりまで。生暖かい吐息が皮膚を這い、彼女は堪えるように手をぎゅっと握った。

 リューコが不意に、ぱくりとジュンの耳を唇で挟んだ。ビクンとジュンは大げさに反応してしまう。

「耳が弱いんだ?」
「…………」

 ジュンは無視を決め込んでいたが、顔が少し赤くなっていた。リューコは愉快そうに目を細める。

 耳のへりの部分から裏側まで、キスをし、暖かく息を吐いて、舌を這わせ、つついて、徹底的に責めた。ただでさえ耳が自分の性感帯ということをユキに教えられている。媚薬の効果もあって、ジュンは「ぁ……」と微かに声を漏らした。若干ではあるが息も乱れ始めていた。

 そんな彼女の様子を見て、リューコはスカートをたくし上げ、下着越しにそっと秘所に触れた。

 ジュンはリューコを睨むが、今更怯むはずもない。

 触れただけで分かった。媚薬に侵されたジュンのそこは、リューコの乱暴な愛撫で、十分にぬかるんでいた。リューコは充血した花芯に指を押しつけ、コリコリと指の腹で転がした。

「――っふ……ぁ……」

 普段よりもずっと鋭敏になっている陰核を刺激され、ジュンは泣きそうな顔をする。

(……うそ……やだ……なんで、こんな……)

 戸惑う。何もかも忘れて貪りたくなるような甘い刺激に。それを受け例れてしまう自身の身体に。リューコの指に最も敏感な箇所をグリグリとこね回され、ジュンは抗いがたい感覚を身に刻まれていった。徐々に水位が上がっていき、やがては決壊してしまう。あの感覚を。

 それでも必死に嬌声を上げないように我慢して、ジュンはリューコをキッと見返した。

「良いね、その顔」

 リューコがジュンを挑発するみたいに呟いて、指を深く秘所に沈めた。下着に愛液が染みこんで、肉芽を扱かれる。指を上体側に引かれる時は、ゆっくりと陰核の根本を擦り上げられ、その逆ではぐりぐり押しつぶすように刺激される。

「……っ……ぅ……!」

 幾度も、幾度も。リューコはわざと単調に責め続けた。ジュンの表情が段々と快楽に呑まれていくのをじっくりと観察しながら。

(もう……! 弱い、トコロ、ばっかり……)

 心の中で悪態をついて、断続的に襲われる快楽の波からなんとか意識を保つ。気を抜けば絶頂してしまいそうだった。

 指の動きが陰核を揉み込むように変わった。クチュクチュと水音があがる。

「……っん! くっ……!」

 淫水の絡むんだ下着は、効率的にジュンを苛んだ。クスリの影響もあってピンと勃起した花芯を集中的に責められ続け、ジュンの身体は次第に雌として本能を呼びおこされつつあった。

「はっ……っ……」

 撃鉄がおとされるような感覚は、そんな艶めかしい吐息を漏らした時にジュンの意識を駆け抜けた。

 カチリとスイッチが入れ替わるみたいに、感覚の質が変わった。

 与えられる快楽を心だけが拒み続けた結果、身体だけが先に堕とされてしまったような。

(やだ……そんな……) 

 チュクチュクと卑猥な音を上げて、リューコの指が秘所で蠢く。

 この悦楽に従ってしまいたいと、身体が脳髄に直接訴える。

「――っ……!!」

 嬌声を噛み殺す。

 急に余裕の無くなっていくジュンの表情を冷静に観察しながら、リューコはひたすらにジュンの花芯を責め続けた。

 クリトリスは女性だけが有する快楽を得るためだけの器官だ。そこを丹念に、容赦なく、単調に、無慈悲に、絶え間なく嬲られ続けた。

「あ……あ……!」

 ジュンの意志など微塵も関係のない、強制的な性的絶頂が、すぐそこまで迫っていた。

 クチュクチュ。チュクチュクチュク……。指の蠢動は止まらない。

(やだ、やだ。……イっちゃう……イく……!)

 諦めてしまいそうになったその瞬間。

 リューコの手は離れる。

「大分表情がほぐれてきたね」

 リューコが意地悪そうに微笑んだ。

「切なそうな顔しちゃって。可愛いなぁ」

 ジュンは見透かされたように思った。いや、事実として、半分以上見透かされていた。咄嗟に言い返せない。その沈黙が、雄弁にジュンの敗北を物語っていた。

 一言でも言い返そうと思っても、中途半端に口を開くだけで終わってしまった。

「もうスイッチもすっかり入っちゃってるみたいだし、反抗する気力がなくなるまで徹底的にいたぶってあげるね」

 リューコは薄く笑みを浮かべて。

「君みたいな子は心が折れかかってからが一番愉しいの。弱った心を女の子の悦びで鞭打って、じっくり嬲り倒すのがとっても興奮するから。でもすぐに心が折れちゃったらつまんないから、その時は身体に鞭を入れて、目を醒まさせてあげる」

 ジュンの脳裏にさきほどの痛みが再生される。人間を家畜にまで堕としてしまう、あの忌まわしい痛撃が。

 身体は快楽を貪るように、薬漬け。けれど心を折ることも赦されない。ただひたすら嬲りモノにされるだけ。

 全部リューコの思い通りだった。

 あの痛みを覚え込ませたのも、媚薬を飲ませたのも、全てはこの状況を作り上げるため。

 ひたすら光のない路で、足掻くことも諦めることも赦されない。

「“陵辱”ってこういうことだと思わない?」

 ぞっとするほど艶めく声で、リューコは囁いた。次いで、ジュンの秘所を指でまさぐる。ジュンの顔が性感に歪む。彼女の身体を好きなように弄びながら、リューコは一際優しく告げた。

「今なら止めてあげても良いんだよ?」
「っ……ん……」
「そうしたら、ユキにもあの鞭を入れちゃうけど」

 ジュンの表情が一変する。激情がその場の空気さえ気圧してしまうほど。

 リューコが考える以上に、ジュンにとってユキは大事な存在だった。どんなときでも、たとえジュンを支配している時でも、ユキは優しかった。笑う時はころころと穏やかで、それがジュンにはたまらなく暖かかった。そんなユキに、あんな痛い思いをして欲しくなかった。まして今自分を好き勝手にしているリューコに、ユキが痛みに耐えかねて屈辱的なことをされているなど、考えたくもなかった。絶対にそれだけは止めたかった。

 怒気がぐっと張り詰める。

「あは、まだそんな顔出来るんだ?」

 リューコは心底嬉しそうに目を輝かせて、ジュンの花芯を一際強く刺激した。

「あぐぅっ……」

 思わずジュンは苦しそうに呻いた。絶対に感じていたくない場面で、どうしようもないほど圧倒的な生殖の悦びを刻まれ、心と体の軋轢が音を立てたようだった。絶頂の寸前まで嬲られた身体はそう簡単にその愉悦を忘れてくれない。

「続ける?」
「……当たり前……でもユキに酷いこと、したら……絶対……赦さない」
「ふふ、怖い怖い」

 ジュンの制服の上着を脱がしながら、リューコはあやすように言った。

「後ろ向いて」

 シャツを脱がし、下着を剥ぎ取って、彼女の上半身を露出させる。ジュンはされるがまま、リューコに従っていた。本当なら、ここでリューコをどうにかしてしまえば良い。けれど、ジュンの身体を巡っているクスリが、彼女の冷静な判断力を鈍らせていた。

(頭がぼーっとしてきた……。それに、やっぱり身体、熱い……)

 その無防備な背中に、リューコの唇が触れる。

「っ……!」

 背中のくぼみに沿うように、小さく音を立てて口付けられる。

 舌が這う。瞬間、ぞくっと駆け抜ける不可解な衝動。

「あ……ぁあ……!」

 気持ち良かった。たったそれだけのことが。

「そろそろ本格的にクスリも回ってきたかな」
(そんな……こんな、こと……)

 不安を隠せないジュンにリューコは身体を抱き締める。その感触を覚え込ませるように。後ろから抱かれて戸惑う彼女のうなじにキスして、耳を甘噛みして。ほんのさっきまでイく寸前だった身体を、悪戯に炙るだけの愛撫。それがジュンの意識を少しずつ、そして確実に削ぎ落としていく。

「腰を上げてよ」

 鈍った頭はジュンの身体を彼女の言いなりにさせる。スカートも下着も取り払われ、一糸纏わぬ姿になった。ショーツを脱がす時に、愛液が糸を引いて、部屋に雌の匂いが満ちていく。

 リューコはベッドの下に取り付けられた引き出しから手錠を取り出し、ジュンの手を背後で拘束した。これでもう、物理的にもジュンは抵抗出来ない。壁とベッドヘッドが生む隅に移動させられ、逃げ場を塞ぐように、リューコは彼女の前に腰を下ろした。

 そっと手を伸ばして、ジュンの豊満な胸を持ち上げるように手に乗せる。たぷんと揺れた乳房を、やんわり揉んだ。リューコの手の中で自在に形を変えながら、その宿主に甘い刺激を送り込んでいく。

(あ、やば……なんか、すごい、気持ちいい……ふわふわする)

 ぴんと勃った頂点には触れないように、リューコは乳房に唇を付ける。そっと吸ってみたり、時には舌を当てたりしながら、ジュンの柔らかいバストを口で愉しむ。もどかしい刺激が確実にジュンの精神を浸食していた。

「ん……」

 声が漏れた。液体でいっぱいになったコップから、一筋だけ零れたような、そんな吐息と一緒に。リューコはにやりと口角と釣り上げて、口にジュンの乳首を含んだ。

「ふっ……ぁ……」

 電流のように刺激が駆け抜けて、ジュンの声に甘い響きが混じる。リューコの熱く濡れた口内で、舌にコリコリと転がされると、ジュンの身体は今までそこで感じたことのないような快感に震えた。咄嗟にリューコを突き放そうとした腕が、背後の手錠に無慈悲止められる。

(や……あ、あああ……)

 唇を噛んで、瞳をぎゅっと閉じて、なんとか声を抑える。そんなジュンの様子を、可笑しそうにリューコは見上げていた。一旦、口を離し、ジュンをじっと見つめる。

 瞳を開いたジュンと、視線が交錯する。ジュンの視界に、熱く濡れた自分の胸の頂点と、糸を引くリューコの唇。また咥えられれば、気持ちいいことは身体が知っている。リューコは端正な顔で、ジュンを上目遣いに見つめていた。

「気持ちいい?」
「…………」

 沈黙は、けれど雄弁だ。逸らした視線さえも。リューコが悪戯っ子のような無邪気な笑みを浮かべる。ジュンの胸の先を指で掴んで、コリコリと苛んだ。

「こんなのでも、普段よりずっとイイでしょ?」

 ジュンはその甘い刺激を堪え、無視を決め込んだ。

 なにも反応しないジュンに、リューコはつまらなさそうに下半身に手を伸ばす。ジュンが秘所に触れられたと気付いた時にはもう手遅れ。リューコの中指が彼女のぬかるんだ膣内に潜り込んでいた。

「づ……」

 今まで触れられもしなかった粘膜を急に刺激され、呻き声がジュンから漏れた。最初こそ痛みの方が混じったものの、ゆっくりとそこをピストン運動で擦られると、すぐにそれは抗いがたい官能に変わった。

「うぁ……あ、あ、あ……」

 一番始めの寸止め以来、散々焦らされていたジュンの身体は、与えられた直接的な快楽をなんの抵抗もなしに貪った。指を出し入れごとに、雌としての本能的な悦びを与えられ、他にどうしようもなくか細く啼いた。

「なんにも反応がないのはつまんないなぁ」

 指を一定の間隔でジュンのナカで上下させながら、リューコは拗ねたように言った。

「はぅ……っん! や……イ……」
「ちゃんと受け答えくらいしてくれないと、壊しちゃうよ?」

 まともにしゃべることも出来ないジュンを、さらにリューコは苛み続ける。ゆっくりと長いストロークから、指を曲げて、ある箇所を集中的に擦る動きに変えた。ちょうどクリトリスの裏側あたり、俗にGスポットと呼ばれる場所を丹念に指の腹で抉る。

(や……ダメ……そこダメ……!!)

 ゾクゾクと快感だけが駆け抜けていく。嬌声を抑える余裕など彼女にあるはずもなかった。

(イキたくない、やだ……イキたくないのに……)

 跳ねるように身体が痙攣してしまう。その瞬間が近いのは、誰よりジュンが知っている。もうダメと思った時には、

「――あ、」

 指が止まる。

 リューコがクスリと笑む。

 とてもゆっくりと、ピストン運動が再開される。長いストロークで。燃え上がった情欲の炎をさらに炙るような。

 けれどそれすら、どうかすれば果ててしまいそうなほど気持ち良かった。

(イキたくない、はずなのに……)

 ねっとりと愛液絡んだ指が引き抜かれ、そしてまたナカに入り込んでいく。その度に、ジュンの理性が溶けていく。

 乳首を咥えられる。舌で転がされる。吸われて、甘噛みされて。もう片方の頂点も、指摘まれて、コリコリこねくり回された。

 膣内を往復していた指が、抜け出して肉芽に愛液を塗布する。クニュクニュとそこを弄くり回される。

「あ、や……あああっ!」
「良い声。もっと聞かせて」

 指が再度膣に沈んでいく。またあの焦らすだけの緩慢な愛撫が繰り返される。

(気持ちいいよぉ……)

 媚薬で火照った身体をリューコに好き放題貪られ、ジュンは意識が次第に溶解していくの感じていた。

 理性を蝕まれ、生殖の悦びを強制され、自分がメスであることをカラダで教えられる。『食べられる』という快楽に支配されていく。とぷりと秘所から愛液が漏れて、ジュンはそのまま絶頂してしてしまいそうだった。

「イきたい?」

 頷きそうになる。でももう拒否は出来なかった。

「これからも私のペットになるなら、今からキモチよくしてあげるよ? ジュンちゃんが満足するまで、優しく、ね」

 甘い声音。躊躇うジュンに追い打ちを掛けるように、Gスポットをグリグリと刺激する。

「や――ぁ……だめ、イッ……く……」

 当然リューコの手は止まる。再三に渡る寸止めに、ジュンの瞳から次第に理性の光が失われていく。

「もう一回聞いてあげるね。これからも私のペットになる?」

 ジュンが絶望的な眼差しでリューコを見る。イキたくてイキたくてたまらないのに、その代償はあまりに大きい。故に彼女は口を簡単には開けなかった。

 しばし時間をおいて、彼女は力なくふるふると首を振った。

「私はユキのだから……それは、無理」

 聞いた瞬間に、リューコの表情はあからさまに険しくなった。

「……もう一時間よく考える時間をあげる」

 リューコは指をジュンのナカから引き抜き、ベッドの引き出しを漁って、小さなピンクのローターとコンドームの袋を取り出した。指の第二関節ほどの小さなローターを、コンドームの中に入れ、それをジュンの顔の前に差し出す。

「舐めて」

 仕方なしに、言われた通りジュンはそれを口内に入れて舌で転がした。避妊具を目にしたことのないジュンは、それにほんのりと甘い味が付いていて、表面がべたついているのを初めて知った。

 ジュンの唾液が十分に付いたところでリューコはコード引っ張ってローターを取り出し、ジュンの秘所に潜り込ませた。指よりもほんの少しだけ太いそのローターをジュンの局部はやや抵抗しながら受け入れた。リューコがローターのスイッチを入れる。膣内の異物感に、複雑な顔をしていたジュンの表情が一変する。

「っん……ゃ……ぁ……」

 未だ絶頂の気配が残る身体では、その小さなローターの薄弱な刺激も、無視などできない。けれど、その程度では決して絶頂することも出来ない。機械はひたすら単調に、ジュンにその刺激を送り続けるだけだ。手を拘束されているジュンは、もちろんそれを取り出すことも、また手を使って自ら慰めることも出来ない。

 最早抵抗しようという気力も、ジュンには全く湧かなかった。本能的に限界近くまで追い込まれ、さらにクスリによって思考が鈍っている。

 それをいいことに、リューコは革製の拘束具を持ち出し、ジュンの太股と足首を繋いで、完全に彼女の自由を奪った。ボールギャグを無理矢理噛ませ、目隠しをする。ギャグと目隠しは予想外だったが、彼女には抵抗のしようがなかった。

 両足を折りたたまれ、ジュンは正座のような格好を強制される。そんな格好のまま目隠しをされ、ギャグを噛まされている姿は、さながら罪人のようだった。それに加え、メスとしてすっかり発情させられた彼女の様子は、いささか退廃的な色気に満ちていた。

「さぁて愉しみね。一時間後にジュンちゃんがどうなってるか」

 リューコはそう言い放ち、部屋の書棚から本を一冊取り出すと、椅子に腰掛けた。

「あ、そうそう。壁に身を預けるくらいならいいけど、姿勢崩したら思いっきり鞭打つから、そのつもりで」

 ジュンにはその言葉に反応する余裕などない。

 媚薬で身体は強制的に敏感になっている。

 その上、さらに愛撫を加えられ、何度も寸止めされている。

 そんな身体を今は機械が単調に無慈悲に、そして決して満足させないように苛み続けている。

 身体は拘束され、抵抗はおろか動くことすらままならない。

 ギャグを噛まされているから、しゃべって気を紛らわすことも出来ない。

 リューコに屈服することすら伝えられない。

 零れ出る涎は止めることも出来ない。

 ひたすら時間が過ぎるのを待とうにも、視界は奪われ、時計すら見ることはできない。

(こんな……こんなの……)

 聴覚と触覚だけが頼りなのに、その内の一方は圧倒的な快楽で感覚を蹂躙している。

「ふ……ふぁ……あ……」

 情けない声だけが漏れる。呼吸はずっと浅く乱れたままだ。

(イキたい……もう、無理だよ……)

 もう、ジュンは心が折れてしまっていた。

 耐えることなど出来るはずもなかった。

 それでも彼女が最後にリューコの言葉に頷けなかったのは、どうしてもユキのことが忘れられなかったからだ。脳裏に焼き付いたユキの笑顔が、何よりも強くジュンの行動を拘束していた。

(でも……でも……)

 自分のナカでぶるぶると震える悪魔じみた誘惑が、ジュンの心身を嬲り続ける。

 とろりと秘所から愛液がこぼれ落ちてベッドに垂れた。

 顎から滴る唾液が、腹を伝って下半身を妖しく濡らす。

 ジュンには無限にも思える時間が続いた。

 暗闇の視界はただひたすらにジュンを追い込み、精神を疲弊させていく。

(やだぁ……もう、やだよ……)


 どれだけ時間が経っただろう。不意に目隠しを取られた。

「つらそうね?」

 リューコが不敵に笑っていた。ギャグ取り払われ、ジュンに少しだけ自由が戻る。ジュンはようやくこの地獄のような時間終わったのだと思った。けれど、もうジュンに抵抗の気力など残っていない。

 なにも言わず、言えず、ただ黙ってリューコを力なく仰ぎ見た。

「あと四十分だね」

 ――酷薄。他に如何に表現しよう。その時のリューコの顔に浮かんだ、凄絶な狂気の笑顔を。

 まだ半分も終わっていない。

 視界を奪われ、まともな思考も出来ないジュンが、正確な時間感覚など持てるはずもない。希望的に観測するであろうことも全て計算に入れて、リューコはこの時間にわざと目隠しを外したのだ。やっと終わったと思ったら、まだまだというその現実に直面させるため。わざわざ時計を見せ付けて。

 彼女の思惑通りに、ジュンは絶望の表情を滲ませた。それさえ、リューコの計算の内だ。

「イキたい?」

 頷くしかなかった。もう全ての気力が奪われていた。

 何がどうなっても良い。ジュンはただ早く楽になりたかった。

 完全に心が折れた瞬間だった。

「そう」

 リューコはここぞとばかりに一際優しく微笑んだ。

「口開けて」

 最早なにも考えられなくなってしまったジュンは、言われるまま口を開ける。

 ギャグを噛まされる。

(え……?)

 目隠しをされる。

(嘘……だって、私……もう言ったのに……無理だって……伝えたのに……)

 リューコがジュンの頬を愛おしそうに撫でた。

「あと四十分、耐えたらご褒美に満足させてあげる」

 それからほぼちょうど四十分弱、ジュンは絶望の中で、小さな機械に心身をとろとろに溶かされながら過ごした。

 ジュンがかろうじて意識と呼べるようなものを取り戻したのは、マンションの呼び鈴が鳴った時だ。玄関の扉の開く音がした直後に、

「お邪魔しま~す」

 と場にそぐわない明るい伸びやかな声。それには聞き覚えがった。アソーである。リューコが部屋の扉を開けて、彼女を招き入れる。

「うわ……本当にジュンちゃんをヤッちゃったんだ」
「ちょっとやり過ぎちゃったかも」

 アソーの苦笑混じりの声に対して、リューコはどこか得意気だ。

「ま、成果を見てみてよ」

 リューコはジュンの目隠しとボールギャグを外し、彼女の姿をアソーに晒した。

 瞳にいつものような凛とした光はない。憔悴したその表情は儚く、けれど上気していて、酷く艶があった。黒髪は白磁の肌に汗で張り付き、これもまた色気がある。豊満な胸の桜色の頂点は固くしこっている。今なお苛まれ続ける秘所からは淫水がとろとろと糸を引いてこぼれ落ち、陰核はピンと勃ってその存在を主張していた。

 改めてジュンをまじまじと見たアソーの目に、好奇の色が滲んだ。

(クラスの友達に見られてる……昨日まで、あんなに普通に話してたのに……)

 あられもない姿を見られても、ジュンには視線を合わせないことくらいしかできることはない。逃げ場などないし、そもそも逃げることなど出来ないのだから。

「それで、どうして欲しいんだっけ?」

 勝ち誇ったようなリューコの声にも、ジュンは反抗の意志を示すことは出来なかった。それほどに、あの暗闇の責め苦は彼女の心を蝕んでいた。

「……最後まで、して……欲しい……」

 情けなくて恥ずかしくて、ジュンは大きな瞳に涙を溜ながら、震える声で哀願した。

 その声と彼女の姿だけで、リューコはじゅんと自分の下半身が濡れるのを感じた。今し方来たばかりのアソーでさえ、感情の昂ぶり抑えられなかった。

「ペットになる?」

 ジュンの表情が氷付く。気が狂いそうなほど身体が求めていても、それだけはどうにも頷くことが出来なかった。むしろユキのことを思い出したジュンの目に、ほんの微かにだが光が戻った。

 その些細な変化を目ざとく見つけて、リューコは少々方向性を変えることに決めた。

「まぁ、いいや。アソー。この子のこと、好きにしていいよ」
「……!」
「えへへ。じゃあたまには私も攻める側に回ってみようかな」

 いつも通りの無邪気な笑顔でアソーが答える。

 リューコはジュンをベッドに上がってジュンを移動させると、その背後に回り込んだ。足首と腿を拘束されているジュンをちょっとずつ開脚させて、その正面にアソーを呼んだ。

 脚の間にアソーの身体をねじ込まれ、ジュンの局部は隠すことすら許されない。コンドーム引っ張ってローターを取り出されると、どろりと白濁した愛液が零れた。

「どろどろになっちゃってるね」

 ジュンは顔を真っ赤にして、アソーの言葉を聞き流した。

 背後からリューコの腕が伸びてきて、ジュンの花芯に指を当てた。ほんの微かにそこを前後に擦られるだけで、耐え難い快楽が身体を駆け抜ける。

「あぅ……」

 アソーはその細くて小さな指を二本、ジュンの口内に押し込んだ。ジュンの嬌声が押し殺されたものになって部屋に響く。

 思うように声が出せず、また他人に支配されている倒錯的な感覚が、ジュンの情感を無闇に煽った。

 リューコの指が次第に強く陰核を刺激してくる。指の腹で転がし、擦り上げ、押しつぶし、また転がす。

(……やっぱり、無理……これ、我慢できない……)

 身体を震わせ、ジュンの表情が次第に蕩け始める。

 唾液でべとべとになったアソーは、その二指をそのままジュンの秘所に挿入した。どろどろに濡れた膣が、きゅっと指を締め付ける。

「くぅ……っん!」

 ジュンの意識に絶頂の予感が戻ってくる。抗うことの許されない、圧倒的な快楽の兆しが、全てを白く塗りつぶそうとする。

 アソーの指が膣内をくにくにと押し上げる。ジュンの反応を見ながら、一番感じるところを探していた。さして時間も掛からず、その場所は見つけ出される。

「あ……や……ああっ!」

 女性の最も感じる部位の一つと言われるGスポットを、アソーはすぐに探し当てた。そこを優しく突き上げるように、指で集中的に責め立てる。

「――!!」

 ジュンの声なき悲鳴が上がる。唇を噛み、いやいやをするように首を振った。

「アソー、胸もやってあげなよ」
「うん」

 ぱくりと乳首を咥えられる。もう片方はリューコにきゅっと摘まれ、鋭利な刺激を与えられていた。さらに花芯と膣という、ジュンが最も感じる部位を二人がかりでバラバラに刺激されている。

(イく……もう……イっちゃう)

 ここまで散々焦らされてきたジュンには、その甘やかな快楽を拒むことなど出来なかった。

 指が往復する度、絡んだ愛液がジュポジュポと淫らな水音を上げる。コリコリ、コリコリと肉芽を刺激される度に身体は震えて、完全に自分の制御できるものではなくなっていた。

「ん――」

 今まで抑圧されてきた悦楽が、ここで一気に決壊した。

「ああああぁああっっ!!!」

 ガクガクと激しい痙攣が襲う。かつて一度も出たことないような大きな悲鳴を上げて、ジュンは果てた。


 それでも、二人の陵辱は終わらない。

「や、あっ、あ、あああ……」

 アソーが秘所を指でリズム良く抉る度、ジュンは口を開けてだらしなく嬌声を上げる。

 リューコがそれとは違うタイミングで、好きなように陰核を弄ぶ。

 胸の先は二人によって玩具のように扱われ、ジュンを強制的に発情させる。

(また……イっちゃう……壊れちゃうよぉ……!)

 悲痛な声は、与えられる性感に押し流されて言葉にならない。

 グチュグチュグチュグチュ、粘性の高いその水音と、乱れた息づかいだけが、部屋に虚しく木霊している。

「ああ――ま、た……イッ、やああああああ!!!」

 ほとんど間を置かない二度目の絶頂が、ジュンの意識を根こそぎ刈り取りそうだった。

 ジュンの痙攣が終わるのを待って、さらに加虐は続行される。

「も、もう、イッたから! ……くぅ……ああ……!」
「だから?」
「……もう、許して……お願い……」

 半分以上泣きながら、ジュンは懇願した。校内であれほど冷淡だったジュンが見せるその表情は、むしろ二人の嗜虐心を激しく煽り立てた。

「許して欲しいなら私のペットになりなってば」

 リューコは嘲るように言って、花芯を振動させるように刺激した。ジュンの身体が、それに応えてビクッと仰け反る。アソーもそれに合わせて、小刻みにGスポットを擦り上げ、彼女を追い詰める。

「うあ、はぁっ……あああ!」

 二人がかりで犯され、失った体力ではさして我慢することも出来ず、ジュンはオーガズムの兆しに身体を震わせた。

(嫌なのに、こんな玩具みたいに……!)

 そう思っても、どうすることも出来ずに、ジュンは昇りつめてしまう。

「あ、あっ、あああ――!!」

 真っ白になったジュンの意識は、その瞬間プツンと切れるように漆黒へと反転した。

 機械的に身体を大きく痙攣させて、ジュンは頭をかくんと力なく折った。

 アソーがジュンの胸から口を離し、リューコと顔を見合わせる。

「気絶しちゃった?」
「……良かった。呼吸はしてるから、そうみたい」

 リューコは手際良く拘束具を外して、ジュンをベッドに横にした。

「ジュンちゃんならもっと耐えるかと思ったのに、意外だな」

 ジュンの頭を撫でながら、アソーが少し物足りなさそうに呟く。

「いやー、クスリ飲ませて二時間近く焦らせたからねぇ。二人がかりだったし」
「えっ!? そんなにしてるなんて私聞いてないよ!」
「まぁ言ってないから」
「リューコさすがにそれはやり過ぎだと思うなぁ……。可哀想にジュンちゃん、知ってたらもっと手加減したのに」
「ノリノリだったくせに」
「……うん、そうだね」
「続きしよっか」
「さすがにこれ以上ジュンちゃんを虐めるのは、」
「いや私と」
「するするー」

 アソーはぴょんとリューコに抱きつき、唇を重ねた。

   *   *

 ――。

 ――――。

 カタタタタタタタ、カタタタタタ、ッターン。

 キーボードのエンターキーが小気味の良い音を立てて打ち込まれた。

 モニターの前には、脳内の妄想を書き上げ、満足顔のナオコの姿があった。真っ暗な自室にモニターの光だけで照らされたその表情は、かなり危ない人間のそれである。

「むふー。我ながら中々の力作です!」
「……うっわー……」

 何時の間にか背後に立っていたイチに気付かず、ナオコは驚いて振り返った。

「きゃあああああああああ! イッちゃんいつからそこにっ!?」
「五分くらい前から」
「あああああ……」

 最早何の言い訳も出来ずに、ナオコは頭を抱えた。

「いやー、いくら橋本でもここまで酷いことはしないと思うよ」
「あー、あー、なにも聞こえません聞けません。いいじゃないですかぁ! どうせ私の勝手な妄想ですよ!!」
「聞こえてるし。橋本はかなり女の子には優しいからなぁ。こういうことをするのはどちらかと言うとユキか私」
「あ、自覚あるんですね」
「やかましい!」

 パシンとイチはナオコの頭をはたく。

「っていうか、これってむしろナオの願望なんじゃないの?」
「……え……あ、いや、違いますよ!!」
「もうちょっと欲求を顔に出さない努力をすべきね……」
「あ、あうあぅ」
「じゃあ、次はこんな感じで」

 そう言ってイチは悪戯っぽく笑うのだった。

ex1.妄想陵辱 了
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