「悪い、待たせたな」
午後一時、風都駅前。翔太郎とフィリップは、すでに待っていたクイーンとエリザベスに手を振る。「遅ーい」と彼女たちは口を尖らせた。いつもと変わらぬ制服姿だ。
「時間ピッタリじゃないか」
フィリップは時計を見ながら翔太郎に言う。
「男はレディを待たせるもんじゃないぜ」
「そういう君も僕と一緒に彼女たちを待たせているんだけどね」
「うるせえ、分かってるよ」
翔太郎は人を探すように周囲を見回す。
「相手の男はまだ来てないのか」
「まだ……あ!」
クイーンは翔太郎たちの後ろを指さした。「今こっちに向かってきてる二人組がそうだよ」
翔太郎とフィリップは振り返ると、二人の少年たちを見やる。茶髪に金髪と、どちらも髪を染めている。どちらも顔に幼さが残るのは高校生だからだろう。
「おい、この二人はなんだよ」
茶髪は翔太郎とフィリップを指さして不快そうな顔をする。
「今日はダブルデートじゃなかったのか?」
「ごめんね、今まで隠してたんだけど」
エリザベスはフィリップの腕に抱きつく。
「この人、私の彼氏なの」
「そういうこと」
続いてクイーンも翔太郎の腕に抱きついた。
「私たち彼氏持ちだからさ、いい加減諦めてくれないかな」
エリザベスが言う。
「そういうことだ。大人しく彼女から手を引いてくれたまえ」
フィリップは得意げに言い放った。あまりにも楽しげに彼氏役を演じているので翔太郎は少し驚く。が、すぐさま後に続いた。
「彼女たちは大人の恋愛ってのを望んでいるのさ」
大げさにポーズを決めて言う。翔太郎自身は決まったな……と内心ガッツポーズを決めていたが、二人の少年はわなわなと震えていた。
「こんなだせえ野郎と付き合ってるなんて聞いてねえよ!」
「変なカッコつけたおっさんのどこがいいんだよ!」
「お、おっさんだぁ?」
カチン、と来たのか翔太郎は前にのりだす。
「こんなやつらより俺らの方がいいに決まってんだろ」
「俺らの方がイカしてるし、俺らの方が力もあるからな」
そう言って二人の少年はポケットから何かを取り出した。
「おい、なんでそんなもの……!」
翔太郎とフィリップは驚く。彼らが手にしているのはガイアメモリだった。
『T-レックス!』『アノマロカリス!』
二人は同時にガイアメモリを挿入。ドーパントへと変身した。
「おらぁ!」
アノマロカリスドーパントが自らの牙を弾丸のように飛ばす。
「危ねえ!」
翔太郎は急いでクイーンとエリザベスを抱えてそれを避ける。そして彼女らを遠くへ逃がそうとする。
「させねえよ!」
再びアノマロカリスドーパントが牙の弾丸を飛ばす。背を向けて走る三人に命中するかと思われたそれは、突如飛び出してきた白い何かに弾かれた。
「よくやった」
フィリップは手を差し出す。白い何か――ファングメモリはその上に飛び乗った。
「翔太郎!」
フィリップが後方の翔太郎に向けて叫ぶ。
「ああ、分かってる」
翔太郎はすぐさまWドライバーを腰に装着する。するとフィリップの腰にも同じものが現れた。
「ここまでくれば大丈夫だ。二人とも、俺の身体を頼むぜ」
そう言って翔太郎はジョーカーメモリを取り出す。『ジョーカー!』ガイアウィスパーが鳴る。そしてメモリをドライバーに挿入。フィリップの元に転送される。
フィリップは転送されてきたジョーカーメモリをしっかりと差しこむと、ファングメモリを変身のため変形させる。そしてドライバーに挿入。横に倒す。
『ファング! ジョーカー!』
フィリップの身体が変質し、野獣の力を秘めた白と黒の戦士に。翔太郎は意識を転送されて身体が倒れるが、クイーンとエリザベスに受け止めてもらい物陰に身体を隠してもらう。
仮面ライダーWファングジョーカーフォーム。通常のWよりも荒々しい外見をしたフィリップが主体の形態。
「おまえ、仮面ライダーだったのか!」
アノマノカリスドーパントが驚愕し、後ずさりする。
「おい、何びびってんだ。二人がかりならこっちの方が有利だ。行くぞ」
T-レックスドーパントは臆することなくWに襲いかかる。が、Wはそれ以上のスピードで飛びかかるとT-レックスを転倒させた。
すかさずアノマロカリスは牙で援護射撃を行う。だがWはそれを避けると倒れたT-レックスの巨大な頭部の陰に隠れた。牙のいくつかがT-レックスに命中する。
「馬鹿野郎。ちゃんと狙いやがれ」
「てめえも寝転がってないで早く起きろ!」
T-レックスは重たい頭に苦戦しながらなんとか起き上がる。だが、その時すでにWはファングメモリのタクティカルホーンを一度弾いていた。
『アームファング!』
Wの右上腕部から白い刃が飛び出す。それを武器に起き上がったばかりのT-レックスを素早い連続攻撃で追い詰めていく。あまりのスピードと勢いにT-レックスは反応しきれない。
だが、そんなT-レックスの巨大な頭を利用してアノマロカリスはWに急接近。そして大きく飛び上がると、上空から牙の弾丸を発射した。
だが、W一瞬の判断でT-レックスへの攻撃をやめて、タクティカルホーンを二回弾く。『ショルダーファング!』肩からも白い刃が飛び出す。すかさず取り外し、それで牙の弾丸を弾く。間髪いれずに投擲。空中で回避行動が取れないアノマロカリスに直撃する。 Wの攻撃で倒れたこんだT-レックスと落とされたアノマロカリスが地面でぶつかる。
「前のドーパントと同じだ。適合率が低く、力は弱い」
「今がチャンスだぜ」
「ああ、これで決めるよ」
タクティカルホーンを三度弾く。『ファング! マキシマムドライブ!』Wの右足から刃が飛び出す。そして青白い高密度のエネルギーがそこに集中していく。
跳躍。エネルギーが最大限まで溜まる。
「ファングストライザー!」
高速回転の回し蹴り。だが纏ったエネルギーと右足に顕現したマキシマムセイバーによって回し蹴り程度では済まない超攻撃力の必殺技と化す。
二体のドーパントに直撃。恐竜の頭部を模したオーラとFの文字が浮かび、そして爆発。変身が解除され、二人の少年はぐったりと地面に倒れ込んだ。遅れて排出されたメモリが地面に落ち、音を立てて砕け散った。
Wの変身が解除される。ファングメモリはまたどこかへいなくなってしまった。
意識が身体に戻った翔太郎がフィリップの元に駆け寄ってくる。その後ろからクイーンとエリザベスがついてきた。
「もう大丈夫だ。メモリは壊したからね」
壊れたメモリを拾い上げ、フィリップはクイーンとエリザベスに言う。
「しかし、なんでこんなガキがガイアメモリなんかを……」
翔太郎は思い出す。昨日戦ったマグマドーパントも、変身していたのは彼らと同じくらいの年齢の少年だったことを。
「それなんだけど」
クイーンが何か知っているかのような反応をする。
「この二人はとある不良グループの一員なんだけどね。最近こいつらはヤバイ物に手を出してるって噂が流れてて」
「そのヤバイ物ってのがガイアメモリだったわけか」
「うん。私らはクスリか何かだと思ってたけど」
「クスリなんかよりよっぽど質が悪いね。翔太郎、調べる必要があるんじゃないかい?」
「ああ、分かってる。このまま放っておくわけにはいかねえ。このガキのグループからガイアメモリを回収しないとな」
翌日、さっそく翔太郎は近辺の学生を中心に聞き込みを始めていた。不良集団の溜まり場を見つけるために。
クイーンとエリザベスも場所を知らないため難航するかと思われたが、手がかりは思ったよりも早く見つかった。なんとか一日で有力な証言が集まったのだ。
「リーダー格は臼井隼人っていう工業高校の三年生で……」
「確か、溜まり場から見る夜景が綺麗でよくそれを見ながら酒を飲んでるって……」
「廃工場だって聞いたけど、ここらへん廃工場ってけっこうあるから正確な場所までは……」
聞き込みで得た証言から翔太郎は検索のキーワードを探しだす。
携帯電話――正確には携帯電話型メモリガジェットのスタッグフォンだが――を取り出すと、フィリップに連絡を入れた。
「キーワードは三つ。『臼井隼人』『夜景』『廃工場』だ」
『了解したよ。少し待っていたまえ』
フィリップの言葉が途絶える。検索のため、星の本棚に入っているのだ。彼は地球の記憶とリンクし、検索から情報を手に入れる。
『分かったよ翔太郎。不良集団の溜まり場が』
「流石だぜ、相棒」
翔太郎は勝ち誇った笑みを浮かべた。