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彼が望むP/囚われた者 ④

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「赤い仮面ライダーをどうするか、だ」
 長髪の男――リストレインのメモリの適合者――は仲間に向けて話しかける。
「あの男が持つメモリが欲しい」
 仲間の一人と思われる紫色の怪人――おそらくドーパント――が言う。
「アクセルメモリだったか。俺たちの持つメモリとは違うタイプのようだが、かなり強力なメモリのはずだ」
「確かに強かった。俺と互角に戦えるほどに」
 ハンマーメモリの適合者である男が紫色のドーパントに言う。
「互角? 馬鹿言うな桐谷。お前はあのまま戦っていたら負けていた」
 リストレインの男は冷静に言い放つ。
「あ? 日岡てめえ、もういっぺん言ってみろ。頭かち割るぞ」
 桐谷はメモリを取り出すと、日岡を睨みつける。
「お前とはどうも合わないと思っていた。今ここで殺してやろうか」
 日岡も苛々を隠さずにメモリを取り出した。
『ハンマー!』『リストレイン!』一触即発。場の空気が張り詰める。
「や、やめましょうよ」
 他の三人よりも一回り年齢が上の男が止めに入るが、気弱な性格なのか語調が弱い。もちろん桐谷と日岡は彼の言葉に耳を傾けない。
「斎藤の言うとおりだ」
 紫色のドーパントがきっぱりと言った。
「俺たちには目的があるだろう。今は仲間割れするときじゃない。全てが終わってから好きなだけ殺し合えばいい」
 その言葉で日岡はメモリをしまった。「すまなかった」とドーパントに謝る。桐谷も納得いかなそうな表情をしながらもメモリをしまった。
「次は赤い仮面ライダーのメモリを狙う。二人がかりで行けば倒せるだろう。お前ら三人の中で二人組を組んでメモリを奪いに行け。俺は奥の部屋でいつも通り身体を休める。まだ今日を入れて“五日”も残っているからな」
「おい、俺一人で十分だ。俺があいつを殺しに行く」
「二人で行け。確実にメモリを奪いたい。目的を達成するまでのリーダーは俺だ」
「でもよ――」
「目的が達成できたら、もう一度仮面ライダーと一対一で戦わせてやる。俺の能力で」
 ドーパントは自らの胴体にある大きな半球体を叩いた。
「分かったよ、リーダー」
「理解があって助かるよ」
 そう言ってドーパントは別の部屋に姿を消した。
「じゃあ、俺たちは作戦を練ろう」
「そうですね」
 日岡と斎藤が言う。
「ちっ。分かったよ。だがその前にトイレに行ってくる」
 桐谷はそう言って席を外した。
 それから十数分経っても桐谷は戻ってこない。
「お腹壊してるんでしょうか」
 斎藤が心配そうに言う。そこで初めて、日岡は桐谷が戻ってこない理由に気付き、「糞野郎め」と悪態をついた。


 照井が捜査を始めてから一日経った。有力な情報は何一つ手に入らず、一向に進展はない。
 人によっては、捜査を始めてからまだ一日しか経っていないという考え方もできるが、照井にはできなかった。一人の行方不明者の存在が、彼を焦らせる。
 まだ調べていない場所はあっただろうか。そう考えていると後ろから聞き覚えのある声が。
「おい、決着をつけにきたぜ」
 振り返ると、ハンマードーパントの適合者である桐谷が立っていた。
「ちょうど俺もお前たちを探していたところだ」
 二人は同時にメモリを取り出す。
「みんなこの場から離れろォ!」
 照井は周囲の人間に向けて叫ぶ。
『ハンマー!』
 桐谷がハンマードーパントへと変身する。一般人はそれを見て照井の言葉の意味に気づき、一斉に逃げ出した。
 ここは一般道だが、気づけば人の気配はなくなっていた。車が何台その場に放置されている。
「これで人を巻き込む心配はないな」
『アクセル!』ガイアウィスパーが鳴る。
 ベルトにメモリを挿入、ハンドルを回す。『アクセル!』
 仮面ライダーアクセルへと変身。バイクからエンジンブレードを取り出して構えをとった。
 ハンマーが接近、重量のある一撃を連続で繰り出す。アクセルは正面から受け止めず、受け流すようにしてその攻撃をしのぐ。以前の戦闘で学んだことだ。
「悪いがお前は俺の敵ではない」
 受け流し続けて隙を見つけると、アクセルはハンマーの胴体にブレードでの一撃を叩きこんだ。
「やるじゃねえか」
 元々タフなのか、ハンマーは今の攻撃にひるむことなくすぐさま連続攻撃をしかける。アクセルはもう少しダメージが残ると思っていたため、反応が少し遅れる。
 お返しの一撃がアクセルの胴体に入り、数メートル吹き飛ばされる。威力は高いが照井はなんとか堪えると、距離がとれたことにより今の状況をチャンスだと考えた。
『エンジン!』
 エンジンメモリを挿入。
『スチーム!』
 剣先から高温の蒸気を噴射。昨日と同じ戦法でハンマーを追い詰めようとする。だがハンマーはうろたえなかった。焦らずにその場で立ち止まったのだ。
 だが、今の状況では周りが見えない。どこから攻撃が来るか分からないだろう。そう踏んだ照井は蒸気がこもっている一体を周回しながら攻撃のタイミングをうかがう。
 だが、蒸気の中から腕のハンマーが飛び出し、アクセルの身体を横殴りにし、吹き飛ばした。遠心力により高まった威力により大きなダメージを受けてしまう。
 馬鹿な、とアクセルは思う。奴の腕のハンマーのリーチはあれほど長くないはずだ。だから俺はある程度の距離をとって周回していた、と。
 蒸気が晴れる。ハンマーは勝ち誇ったように笑っていた。
「びっくりしたか? 俺の腕はなあ、ある程度伸びるのさ。昨日は見せなかっただけだ。そう簡単に手の内全部見せるわけにはいかねえからなぁ。ひゃひゃひゃ」
 アクセルはなんとか起き上がると、エンジンブレードの切っ先を向けた。
「無駄だ!」
 ハンマーは伸ばした右腕を振りあげる。このまま振り下ろして攻撃するつもりだ。だがアクセルは冷静だった。
「手の内を全部見せていないのはお前だけじゃない」
『ジェット!』
 剣先からエネルギー弾が高速で射出されて、ハンマーに直撃した。衝撃により体勢を崩し、攻撃を中断する。
「リーチはこちらの方があるみたいだな」
『ジェット!』
 再びエネルギー弾を射出。遠距離からハンマーに追撃をかける。だが、ハンマーは地面を砕くと、その破片にまぎれて攻撃をやり過ごす。
「こっちはまだ奥の手が残ってるんだよ!」
 地面に両腕のハンマーを叩きつける。だがそれは吸い込まれるように地面の中に入っていく。
「これでお終いだ。ぶっ殺してやる」
 地面から十数メートルはある巨大なハンマーが生えてくる。これで叩きつけられたらひとたまりもないだろう。
「避けるわけにはいかねえだろ? 周りに被害が出ちまうからなあ。ヒヒヒ」
 考えたものだ、と照井は焦る。ここで受け止めなければ道路や車、建物などに被害が及ぶ。
「死ねえっ!」
 その掛け声とともに巨大ハンマーがアクセルに振り下ろされた。
 激しい衝撃が地面を揺らす。アクセルの姿は見えない。巨大ハンマーの下敷きになったのだろう。
「ざまあみやがれ! やっぱり俺の方が強いじゃねえか!」
 ハンマーは高らかに笑い声を上げる。やはり自分は最強だ、と己の力に酔いしれる。だが――
「耳障りな笑い声だ……」
 潰れたはずのアクセルの声が巨大ハンマーの下から聞こえる。
『エンジン! マキシマムドライブ!』続けて必殺技の発動を告げるガイアウィスパーが鳴った。
「はあっ!」
 巨大ハンマーにヒビが入る。それは全体に広がっていき、とうとう砕け散る。中からAの形をした斬撃が天を衝いた。
「お前の奥の手はこの程度だったようだな」
 アクセルはゆっくりとハンマーに近づいていく。そして、ベルトの左ハンドルに付いたレバーを握った。
『アクセル! マキシマムドライブ!』
 アクセルの身体が高密度の炎に包まれていく。エネルギーを最大まで溜めて跳躍。空中で身体を横に回転、後ろ回し蹴りの要領で止めの一撃をハンマーの身体に撃ちこむ。
 直撃、そして爆発。変身が解除されハンマードーパント――桐谷は地面に転がった。
「絶望がお前のゴールだ」
 ハンマーのガイアメモリが地面に落ち、粉々に砕け散る。


 メモリを引き抜き、照井は変身を解除する。
「あとは目覚めたこいつを尋問すればやつらのアジトが分かる」
 手錠を取り出し、桐谷の腕にかけようとする。だがその瞬間、照井の身体は何本ものロープで縛り付けられた。
「!?」
 なんとか後ろを振り向く。
「桐谷はやられてしまったが、まあ結果オーライと言ったところだな」
 リストレインドーパントが、全身からロープを伸ばしてそこに立っていた。
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