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第5話「がぁるず・らぁぶ・しゅみれーしょん」

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 なでりなでり。
 
「……んん」
「あっ……」
 
 
 
 
 第5話「がぁるず・らぁぶ・しゅみれーしょん」
 
 
 
 
 思えば、呼び出しのメールで怪しむべきだった。
 
『次来るときは、動きやすいお出かけ服で来てね』
 
 職場はTPOをわきまえた服装なら、私服でも問題はなかった。
 それでもみひろは、入社したときからずっとスーツを着ていた。2年目からはカジュアルなものに変えていたが、それでもずっとスーツ。みひろ以外は全員私服だったので、ずいぶん奇異な目で見られたものだ。
 服屋に入る勇気がない。ただそれだけの理由だった。たまたまスーツの似合う体型だったのが幸いだった。
 
 なのでお出かけ服と言われてもそんなものは持っていない。スーツを新調しようかとも考えたが、ちょっともったいない。なので手持ちでやりくりすることにした。
 
 普段のシャツにキャリアスーツのパンツ。
 昔イベントに使用した黒のベスト。あの当時は老執事にハマっていたものだ。
 髪は後ろにまとめず、1本に束ねて垂らす。
 
 一見メンズファッシャンぽくしつつも、全身の線の細さ、特に胸のボリュームをベストで強調するように仕上げる。
 どう見ても男装(ヅカっぽい)だったが、自分の精一杯だった。
 
 ここまでは、まだ良かった。
 あおいが問題だった。
 
「やあやあみひろさん、こんにちは」
 
 どこか変だった。
 
 まずその姿。いつものシャツにジーンズではなかった。
 真っ白なバックリボンパフスリーブTシャツ。赤と緑のチェック柄のプリーツスカート。
 いつもは自由にさせている髪をピンで留め、最近いっしょに購入した赤いフレームのメガネ。
 
 ずいぶん幼く見えたけれど、たしかにお出かけ服かもしれない。駅前で彼氏さんを待っていてもおかしくない。
 
 何よりその笑顔。初対面でもこれほど愛嬌は良くなかった。
 
「ささ、上がって上がって」
「は、はぁ」
「今日はステキだね。まるでプールシューターみたい。ステキ」
 
 この愛嬌の良さに疑問を持つべきだった。
 いつものようにイスに座ると、にこにこしながらあおいがやって来る。
 
「今日はチーズケーキを焼いてみたよ。コーヒーがいい? それとも紅茶?」
「……紅茶で」
 
 紅茶とチーズケーキがやって来た。そこに問題ない。
 ただ、いつもは正面に座るあおいが、なぜがみひろの横に座っている。
 しかも距離が近い。何かの間違いで腕と腕がぶつかってしまうほどに。
 
「ひさしぶりに作ったからちょっと心配。口に合えばいいけれど……」
「はぁ……」
「そうだ、食べさせてあげるね」
「あの、あおいさん。いったい、何が始まるんですか?」
 
 いよいよ危うい距離になったので訊いてしまった。
 
「これは今日のネタ集め」
 
 みひろの顔を覗き込む。
 SMの話しをしたときのような、ちょっと悪い顔。それがみひろに向いていた。
 
「女の子同士の恋愛、しませんか?」
 
 
 
「男女の恋愛。これは遺伝子、本能的なものでごく自然の感情。
 なら、女性同士ならどうなのか。
 そこには種の存続というものはなくって、純粋に相手のことを想う気持ちのみ。
 これは、究極の純愛だと思わない?」
 
「というわけで、今日はその女性同士の恋愛を体験しよう」
 
「あと、取材を兼ねていろいろ遊びに行きたいなー」
 
 みひろの記憶には、これぐらいの情報しか残っていなかった。
 紅茶はおいしかったし、チーズケーキもすごくおいしかった。ただ、「はい、あーん」と食べさせてもらった記憶は消したかった。
 
「さて、今日のメモだけど、ちょっとルールがあります」
「ルールですか……?」
「そう。今日は『相手にドキってしたときにメモをする』を守ってもらいます。
 ずーとメモするのは途中でダラけやすいので、その瞬間の強い想いをメモするぐらいでいいのです」
「それはあおいさんもですか?」
「しないよ?」
 
 何その独裁ルール。
 
「私はアタックするほうだしね。書くのはキミだけ」
 
 何その虐殺ルール。
 
「あと、取材のほうだけど」
 
 あおいからデジカメを渡された。あおいはビデオカメラを持っている。
 
「人から風景から建物。そこら辺をバシバシ撮ってね」
「ゴミ箱とかでもいいんですか?」
「ぜんぜんありっ」
「作品の方針も決まっていないのに取材とは、やや早いのではないのでしょうか?」
「取材には2種類あってね。
 まず、考えているストーリーの都合上、必要な情報を集めにいく取材。
 それと、取材先に行って、何か話作りのヒントになりそうなものが見つからないかなーと、期待する取材。
 今日は後者」
 
 何だかクリエイターのような言葉だった。
 ……小説家はクリエイターか。忘れかけたころにちゃんと作家をしているから驚かされる。
 
「わかりました。がんばります」
「ん、よし。じゃあ」
 
 きゅっ。
 
 あおいは、みひろの手を握った。
 
「行こっか。楽しみだねっ」
 
 見上げて、ぱぁっと笑う。
 
「………………」
「さ、メモしようか」
 
 みひろは思う。とにかく、言い訳をする。
 ちょっと不意を突かれただけ! でもドキっとしたことには否定しない!
 
「元演技部の舐めてもらっては困るな」
「……はい」
 
『普段、服装に気を遣わない人がおしゃれして、しかもニコって笑ったら……そりゃあドキってしますって。
 こういうギャップはどんな場面でも有効ということを改めて実感しました。
 あと、女の子らしい柔らかな手がうらやましいです』
 
 
 
 そうして。
 繁華街、公園、コンビニ。路地裏、ゴミ箱、青空。人ごみ、駅前、待ち合わせ。
 視点を変えるたび、シャッターを切った。
 
「背景描写に力を入れるつもりはないけど、ちゃんとイメージは持っていたいからねー。
 大切なのはその場所の空気感。それも撮影するようにねー」
「あのー、それはそうと」
「ん?」
「これは何とかなりませんかね?」
 
 繋いだ手を軽く揺らし、訴える。
 結局、女の子同士の恋愛を体験中だった。
 
「手を繋ぐって、最も早くできる触れ合いで、一番難しい触れ合いでもあるんだよ?」
「……難しい?」
「大昔からキスやら性行為やらはお金出せばできるんだよ?
 でも、手を繋ぐのはわざわざお金を出さないし、でも誰とでもできるわけじゃない。
 気持ちが一定以上近くないとできない行為だと思う」
 
 妙な説得力はあった。理解はできなかったけれど。
 しかし、スクールガール(ぽく見える)と手を繋ぐ男装っぽい(ヅカっぽい)自分。第三者からすれば、そのへんの可愛い子を引っかけているように見えないだろうか。
 
 周囲をぐるりと見渡す
 
 子供に指をさされている。
 そのへんの男どもにニヤニヤ笑われている。
 自分と近いものを感じる女性が、何やら騒いでいる。
 
 ああ、間違いない、間違いない。
 
「そ、そーだあおいさん。どこかに入りましょう。カラオケとか、ゲームセンターとか」
「あ、いーねいーね。映画も見たいっ」
 
 本格的に、あおいが想像する『女の子同士の恋愛』になりつつあることを、みひろは気づいていない。
 
 
 
「でね、私は思うわけ。登場人物を単なる登場人物じゃなくって、自分の中で生きているの。
 私は物語を創るんじゃなくって、その世界観と登場人物の行動をメモしているだけってこと」
「へぇ、そうですか」
 
 一通り遊び終え、休憩がてらにカフェでおしゃべり。
 奥のほうのソファー席。目立たないところとはいえ、もはや密着していた。
 みひろはそれに慣れつつあった。
 
「ねぇみひろさん。変かなぁ、やっぱりこの感覚、変かなぁ?」
「うーん、私は持っていない感覚ですねぇ」
「そっかぁ……」
 
 しゅんとうなだれる。
 仕草がいちいち可愛らしかった。どんどんメモのページが増えていく。
 
 それでもみひろは思う。
 たとえ演技でも、こんな妹がいたら楽しいだろうなぁ、と。
 
 なでりなでり。
 
「……んん」
「あっ……」
 
 つい自分の肩ぐらいのところの頭があったので、撫でてしまった。
 あおいは小さく声を出したあと、じぃっとみひろの顔を見た。
 
 ……なに? なんなのこの可愛い女の子。もし男に生まれていたらキスしちゃいますよ、この距離。
 ネタ集めにしては、少々……どうにかなってしまうかもしれない。
 
「……みひろさん」
「は、はいっ」
 
 
「メモ、忘れないでね」
 
 
 罠だった。やっぱり罠だった!
 
『あの距離で見つめられたら、そりゃあドキドキします。あおいさん、可愛い顔立ちなんだからなおさら……そういう自覚があってやってます?
 ほんのり頬を赤らめちゃって。汚いな、さすが汚い』
 
 ちらりとあおいを見る。
 顔を赤くしたまま、うつむいている。
 
『何そのキスしたあとみたいな様子。それはOKってことですか、そうですか?』
 
「……書けました」
「ん、ご苦労様。今日のメモはどれもテンション高いね。いいよいいよ、熱のある文章はメモに最適だよ」
「はあ、そりゃあどうも……」
「ネタは充実したけど、使い道ないだろうね、このネタ」
 
 
 
 今日のあおいさんは邪悪すぎる。世に存在していいんだろうか。
 
 
 
◆おまけ1「こんなやりとりがあった」
 
「あおいさん、女性同士の恋愛もステキですが、男性同士の恋愛も」
「却下」
 
「え?」
 
「いくら何でも、その分野は需要が少なすぎる」
「そ、そんなことは……」
「皆にウける文章を書く気はないけどね、それとは別。ある程度ニーズは意識しなくちゃいけない」
「でも、でも」
「却下」
 
「そんな」
 
 
「そんな、バカなことがぁぁぁぁ」
 
 
「え、そんなに落ち込むの? え?」
 
 
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◆おまけ2「カラオケにて」
 
「もっと
 高めて果て無く心の奥まで
 アナタだけが使えるテェクニックで
 とかちちゅくちて」
 ・
 ・
 ・
「うん、上手だったけどさ……途中、すごく舌足らずになってなかった?」
「そういう歌ですから」
「あと、振りつけとか……」
「ここは狭いですからね。左手だけにしておきました。それに、まだ1曲目ですからね」
 
 次はあおいの番。
 
 あおいの歌う曲が想像できなかった。
 自分の知っている曲は出てこないだろうなぁ、みひろはそう思った。
 
 
 
 すっと、あおいが立った。
 
 マイクを両手で持つ。
 
 イントロが流れる。
 
 
 
「君は、いつも僕の、薬箱さ
 どんな風に僕を
 癒してくれる
 笑うそばから
 
 ほら
 
 その笑顔

 泣いたらやっぱりね、涙するんだね
 
 ありきたりな恋
 
 どうかしてるかな?
 
 
 キミを守るため
 そのために生まれてきたんだ
 あきれるほどに
 
 そうさ
 
 そばにいてあげる
 
 眠った横顔
 震えるこの胸
 
 らいおんはーと」
 
 
『私は、この歌をあおいさんに歌ってもらえて、どうしてなのか、すごく嬉しかったです』
 
 ちょっと結婚したいぐらい、みひろは感動していた。
 すごく気持ちが溢れているのに、うまく文章にできなかった。
 
「あ、キミの次の曲、イントロ始まったよ?」
「え、あ、いけないっ」
 
 だ、だ、だ、だだだん。
 
「なぞなぞ、みたいに、地球儀を」
 ・
 ・
 ・
「真っ赤な、ちかぁいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「あと5分だってさ」
「まだ、まだ組曲がっ」
 
 1時間で、みひろは力尽きた。
 
 
 
◆おまけ3「あおい、帰宅後」
 
 履き慣れないミュールを玄関に脱ぎ捨てる。
 歩きながら手荷物を廊下に置いていく。
 
 早く。
 この気持ちを、忘れないうちに。
 
『今日のキミは、とても凛々しかった。
 プールシューターと言ったけれど、本当はハスラーに見えた。どこか妖しくて、心地の良い不気味さが感じられた。
 キミはスタイルもいいし、身長も高いよね。だからそんな服装が似合うんだと思う。
 でも、もっと可愛らしい格好も見てみたかったかな。
 ちょっと長めのスカートで、フリフリのシャツ。露出度や体の線を押さえて、清楚にまとめてみて。うん、きっと似合うと思う。
 そのときは、三つ編み、結んであげたいな。先には大きめのリボンとかつけちゃったりして。
 そうだ、黒の日傘とかも持ってほしいな。似あうよ、きっと』
 
『ひさしぶりのケーキ作り。
 誰かのために料理するのは、悪くない。例え恋愛体験だとしても。
 最初はちょっとした義務感や、ネタのためとか思っていたけど……途中から、ずっとキミのことを想って作っていた。
 これは恋愛じゃない、感謝の気持ち。
 ちょっと心配、とか言ったけど、けっこう自信作になっていた。料理は心、なのかな?』
 
『キミの手、すごくほっそりしてるんだね。
 薄くて、キレイで、指は長くて。私の子供のような手とは全然違う。
 握ったとき、まるで陶器のように繊細で、大切なものに感じた……陶器はそれほど大切じゃないかも。うーん。うまい比喩が出てこない。
 すかさず考えていたセリフでドキっとさせることに成功。してやったり』
 
『取材のとき、こっそりキミのこと、撮影していたよ。
 周囲の男性はもちろん、女性もキミのことを見ていた。
 女性さえ、釘付けになるんだね。ちょっと嫉妬』
 
『映画、あんまり集中できなかった。
 別に隣のキミを意識していたわけじゃ、ないよ?
 ただ、すぐ隣の手。
 真っ暗の中で繋いでみたら、どんな気分になったんだろう』
 
『あのカフェのこと。
 本当にドキドキした。
 もう、キスされちゃうと思った。
 ……しても、良かったのに』
 
 勢いに任せ、今日の出来事を書き殴った。
 夜に書くメモは、真夜中のラブレターのように熱のある文章になる。けれど、それでいい。それがいい。
 
 しかしこの内容。やや病的なものを感じた。
 
「たしか……」
 
 みひろからもらったレポートをめくり、めくり、めくる。
 ああ、これだ。
 
「なるほど。これがヤンデレ、なのか」
 
 
22, 21

  

 
◆おまけ4「隣の世界の最終話?」
 
 なでりなでり。
 
「……んん」
「あっ……」
 
 つい自分の肩ぐらいのところの頭があったので、撫でてしまった。
 あおいは小さく声を出したあと、じぃっとみひろの顔を見た。
 
 ……なに? なんなのこの可愛い女の子。もし男に生まれていたらキスしちゃいますよ、この距離。
 ネタ集めにしては、少々……どうにかなってしまうかもしれない。
 
「……みひろさん」
「は、はいっ」
 
 
 
「その……えっと……」
 
 
 
「えっとね、あのね」
 
 
 
 みひろは耳を疑った。
 あおいの口から出た言葉。
 
 まさか、本当に?
 
 
 
 
「して、ほしい」
 
 
 
 
 顔を真っ赤にして、声と全身を震わせて。目はうるうると、今にも決壊してしまいそう。
 それだけ真剣、ということが、痛いほど伝わってくる。
 
 だから、みひろはそれに応えた。
 
 あおいのメガネを外し、テーブルに置いた。いつものあおいがそこにいた。
 左手でそっと頬を撫でる。ファンデーションの手触りが伝わり、思わず手を引いてしまった。触れていたのは一瞬なのに、あおいの体温や頬の柔らかさが手に残っているようだった。
 
 みひろが頬をなでたとき、あおいは目を閉じ、そのときを待った。
 体が震えていることに気がついた。
 怖い。
 もし、ここで距離が近づきすぎて、関係が壊れたら。
 それなら、つかず離れずの距離を保っていれば安全なのでは?
 ……違う、違うっ。そんなことはないっ。
 あおいは不安を振り払う。黒い視界の中、漠然とした不安と向かい合う。
 
 そんなあおいをなだめるように、みひろは頭を撫でた。先ほどの反射的なそれとは違い、愛惜しむように、愛でるように、気持ちを注ぎこむように、ただあおいのことだけを想い、撫でた。
 
 
 
 震えが治まってきた。すると、考える余裕が出てきた。
 
 まぶたの向こうには、キミがいる。肌をちりちりと焦がすように息づかいを感じる。
 
 近い。
 
 キミが、近い。
 
 少し、あと少し。
 
 もう、すぐそこに。
 
 ……もう、怖くない。
 
 近い。
 
 熱い。
 
 もう、すぐ。
 
 
 
「んっ」
 
 唇の感触が、唇から伝わってくる。あおいが漏らした声が拒絶ではないことを、みひろは理解できていた。
 あおいの両手がみひろの両腕を掴んでいた。離れたくない。もっと、近くで感じていたい。あおいの気持ちが、行動に現れていた。
 
「は、ぁ」
「……ん」
 
 時間にすれば十秒にも満たない時間。それなのに、2人は今までの付き合い以上の濃密な時間を過ごしたようだった。
 周囲の音が戻ってきた。2人の時間は、お互いから音を奪っていた。
 
「あ、その、あおいさん」
「……ファーストキス」
 
 
 
「私が女性に捧げた、初めてのキス」
 
 
 
「みひろさん。私は、アナタの何番目?」
 
 
 
 異性はもちろん、同性ともしたことはなかった。
 夏目あおい。この人が。
 
 
 
「私の、1番目です」
 
 
 
 何が、なのか。それは言わなかった。言わなくても、伝わると思った。
 
 
 
「そっか。1番なんだ。
 ……うれしい」
 
 みひろに寄りかかる。そのまま、両手はみひろの背中に廻った。
 自然と、みひろもあおいを抱きしめた。
 
「みひろさん」
「どうしましたか?」
 
 みひろの腕の中で、あおいは上目づかいで呼びかける。
 
 
 
「セカンドキス、捧げていいですか?」
 
 
 
「いいえ。セカンドキスは奪います」
 
 
 
「んんっ」
 
 みひろは寄りかかっているあおいの体をさらに抱き締め、驚いて顔が上がったところを強引にキスをした。
 唇の触れ合いはその瞬間だけだった。
 さらに、深く、みひろは貪欲にあおいを求めた。
 
「んっ、んーっ」
 
 もっとあおいを感じたい。その想いが起こした行動だった。
 みひろは、あおいの中に舌を入れた。
 
「あうっ」
 
 そしてあおいは、みひろを受け入れた。
 お互いの舌が絡まり、唾液がお互いに溶け込んでいく。
 
 求めれば、求めるほど、止まらなくなる。
 
「ふ、はぁっ」
「……あぅ」
 
 それでも息が苦しくて、2人は惜しむように離れた。
 お互いの唇を、2人の唾液が艶っぽく彩っている。
 
「ねぇ、もっと……っ」
 
 あおいは、さらにみひろを求める。
 しかし、みひろはあおいに首を振る。
 
 その顔には笑みが浮かんでいた。
 
「ここではなくて、あおいさんの家で、続きをしましょうか」
 
 
 
 その後、カフェの店員にそれとなく注意された。
 もちろん、そんなことを気にする2人ではなかった。
 
「女性同士の官能小説ってのも、ありだと思う?」
「なしとは言いませんが……あおいさん、私はネタの1つですか? 悲しいです」
「ちが、違うっ」
「ふふ、冗談ですよ」
 
 
 
 彼女の手は柔らかくて、暖かくて。ずっと繋いでいられそう。
 
 
 
「作品にはさせませんよ。あおいさんは私が独り占めするんです」
 
 
 
 彼女の手はほっそりしていても、きっと、ずっと繋いでいてくれる。
 
 
 
「何それっ、私はいろんな人に自慢したいのっ」
 
 
 
 ああ、もうっ。さっそく意見が食い違ってるっ。
 
 でも。
 
 
 
「今、すごく幸せです」
「もう、先に言わないでよっ」
 
 
 
 これからも、この先も。
 
 ずっと繋いで、繋がっていますように。
 
 
 
 
 
 きゅっ。
 
 
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