第7話「執筆、始まります」
「だって、みひろさんが選んだものだから」
第7話「執筆、始まります」
「作品をいくつか考えた」
みひろは飲みかけていたコーヒーを落としそうになった。
「作品、ですか?」
「変なこと言った? 作家が作品考えたら悪い?」
「いえ、そんなわけでは」
ようやく。
「ということは、今日はネタ集めではなく」
「そう、どれがいいか、イメージやプロット読んでもらおうかなーと思って」
ようやく業界人らしい仕事がきた!
初めてだから本当に業界人らしいかどうかはわからなかったが、みひろのテンションはとりあえず上がっていた。
「ぜひ、ぜひぜひ、いっしょに考えましょう!」
「お、いいテンション。では、さっそく」
あおいは一枚の紙をテーブルに置いた。
『案1 題「マンネリガール(仮)」
内容:倦怠期を迎えた女性が、かつての刺激を思い出そうと切磋琢磨するようなお話。
女性は今どきの肉食系ではなく、単純に付き合い当初のような日々を送りたいだけ。
男性は今どきの草食系ではなく、女性との距離が近くなりすぎて、まるで家族のような気持ちになっているだけ。
女性と男性は大学生~社会人ぐらいを予定。
女性の名前は『加悦(かや)』。悦びを加える、という直球なネーミングだけど、ほぼこれで決定。一人っ子。
男性の名前は未定。物腰の柔らかそうな人。妹がいる。お兄さんっぽいイメージだから』
「前の衣装のときの、倦怠期という言葉で思いついた」
「ほほー……マンガでありそうなお話ですね」
「今どき既存の作品とかぶらないというのは難しいからね。それに、どこかで見たかも? ぐらいのほうが、読者の食いつきは良かったりするから。やらしい話しだけど」
「なるほど。王道というのは好まれますからね」
「で、これがプロット」
『案1の流れ
第1話:彼氏さんの家。マンネリと感じた加悦が次回に向けて気合を入れるような内容。
内容は正常位。
第2話:環境を変える、ということで舞台はラブホテル。加悦には声を出して喘いでもらう。
内容はバックでガスガスと。
第3話:衣装を変える、ということでメイド服。脱がさない。
内容は騎乗位。加悦が主体で。
第4話:加悦が夜寝ていると、侵入者に強姦されるという話。
実はその相手は彼氏さんで、なんちゃってレイプゴッコ、みたいな。
第5話:加悦が同窓会に行く話。元カレがそこにいる。ちょっと気持ちが動きそうになる。
彼氏さんからの、何らかの行動で我に変える、みたいな。
第6話:初めて1つになったことを思い出して自慰。
第7話:第6話のことを引きずったまま。彼氏さんに気持ちを再確認。めでたしめでたし』
「ずいぶん簡素なプロットですね……」
「どうせ前後したりしてその通りできないんだから。こんなぐらいでいいんだよ。
それに、私は登場人物の行動を観て文章にしているだけだから。極端に言えばプロットはいらない」
「そ、そうですか」
みひろの価値観とは違ったけれど、作家がそう言うのならそうだろう、と割り切った。
「第5話ですが、ここは加悦が自分で元カレを断ち切るようにしませんか?」
「やっぱりそっちのほうがいい? 弱さを魅せるか強さを魅せるか……唯一迷ったところ。
最初は、その元カレと一夜を過ごして」
「それはダメ、ぜったいダメです!」
みひろはネトラレ展開によるファンの失望っぷりを知っている。それだけはさせない。ぜったいにさせない。
「ふーむ、なら自分で断ち切るようにしてもろうかな」
どうにか鬱エンドは回避できた。
「で、これが案2」
『案2 題「そのとき彼女」
内容:ちょっと近未来のお話。
女性型アンドロイド(何か固有の名前をつけたい。セクサロイド、なんて直球なものじゃなくて、何か神秘的な)が、
生活に溶け込んでいるような世界観。
そのアンドロイドに性的なプログラムをインストールすることで男性が性欲処理をする、なんていう世界観。
ある男性がそのアンドロイドを購入し、いろいろインストールして楽しむような俗っぽいお話。
でも主人公はあくまでそのアンドロイドで、三人称なんだけどアンドロイド視点で進めていきたい。
その男性への想い、毎回変わる自分の性癖。そんなところの葛藤を書きたい。
アンドロイドが感じる矛盾と、そのアンドロイドの苦悩に読者がヤキモキするようにできたらなー』
「SFチックですね」
「人格が豹変する人を見ていて思いついた」
「へぇ、そんな人いるんですか」
そんなお約束のやりとりが交わされる。
「案1と比べると読者層は若くなりそうですね」
「まあそうだろうね。で、これがプロット」
『案2の流れ
第1話:アンドロイド購入。買ったばかりは処女なので、“処女”をインストール。
ん? アンドロイドって処女膜あるのかな。再生可能だったりするのかな。
第2話:購入した衣装とその衣装に合った内容をインスール。
衣装のイメージは、本当は立派な職業の制服だけど、何かとえっちな妄想に使用されるものを選びたい。
第3話:男性が友人からアンドロイドを借りる。“レズ”インストール。
2体あるんだから、まったく別のタイプにする。
第4話:アンドロイドのパーツを取り変える。胸を小さくしてやる。
このとき、アンドロイドが今までにない矛盾を感じてしまう。
第5話:男性が八つ当たり気味にアンドロイドを襲う。未インストール。
つまり、ありのままのアンドロイドを抱くことになる。
第6話:この辺りで、何かアンドロイドの存在を揺るがすようなイベントを用意したい。
第7話:未定』
「ラストは未定ですか?」
「どうにも登場人物が動いてくれなくって……でも、最後は別れで閉じる話にしたいかな。でもバッドエンドじゃなくて、ハッピーエンドに仕上げたい」
とはいえ、どうしても鬱エンド寄りになるだろう。しかし、このようなSF物の鬱エンドはしばしば評価が高い。みひろはそう考えた。
「どちらも全7話のようですが、短期連載ってことでいいですよね?」
「そうだね。私は1話完成させるのに時間がかかるから、これでもけっこう長い期間だと思う」
なるべく間を空けずに完成させてほしいところだったが、それは作家のさじ加減が大きいところ。下手に急かして詰まられるよりはマシなので、何も言わなかった。
「で、これが最後の案」
『案3 題「未定」
内容:学生の恋愛もの。
巨乳の女子生徒が放課後、クラスメイトに告白されるところから始まる。
これについてはもっと取材すれば、リアリティのある話が書けると思う』
「却下」
「えっ?」
「これ、私が話したことですよね? 却下」
「そっか……そりゃ、そうだよね」
がっくりと肩を落とすあおい。妄想はいずれ矛盾が出てくるため、了承するわけにはいかなかった。
「今のところ、この3案。どう思う?」
「そうですねぇ、この2つですと……」
もう案3は眼中になかった。
まず、案1。本筋は王道、男女の絡みなので幅広い年齢層をカバーできる。
しかし、どうしても既読感がある。既存の少女マンガや18禁マンガにありそうな内容。
次に案2。個人的にはすごくおもしろそうに感じた。こんな設定で男性視点というのはよくあるけれど、女性(アンドロイド)視点というのはめずらしい気がした。
しかし、どうしてもファンタジー要素があるので、読者層は限られてくる。
「集めたネタをまんべんなく使いたいんですね?」
「ピンポーン。そういうこと」
内容は毎回女性がいろんなことをする、またはされるという話。つまり、あとは世界観だけ。
難しい。
どちらも、読んでみたい。
でも、今はどちらかを選ぶ側。
これが担当の仕事だとすれば、残酷すぎる。
「あおいさんは、どちらが書きたいんですか?」
「それが決まってたら、わざわざ訊いたりなんかしないよ。まあ、こっちがいいなー、はあるけれど」
「なら、それを」
ビッ。
あおいの人差し指が、みひろに向く。
「たしかに私が選んでもいいけれど。
みひろさん、これはキミの仕事だよ。
キミが判断したものを、私が書く。
それが、お互いプロの仕事、だよ」
真剣な表情。
みひろは、プロ意識の差を感じた。
「もし、もしですよ? 私が、あおいさんが思っているほうとは違うほうを選んだ場合は」
「そんなの、言うまでもないよ」
「書くよ、全力で」
「だって、みひろさんが選んだものだから」
「きっと、そちらがいいんだと思う」
あおいの1つ1つの言葉が染みこんでいく。
これは、作中に使うセリフなのだろうか。ごく自然に出てきたとしたら、こんなにじぃんとするようなこと言うなんて、卑怯。
「なら」
「こちらを」
選んだ案を、あおいに渡した。
「ん、案1のほうだね」
「読者層が限定されるような話は、次に機会があればそのときにしましょう。
まずは、夏目あおいはこんな作品も書ける、ということを広く知ってもらうことが大切だと思います」
「なるほど。さすが、よく考えているね」
あおいがプロットに文章かメモかどちらとも取れないような文字列を加えていく。
「これからは掲載前に打ち合わせと直前に掲載した内容の反省会。
あとは足りないネタの補充や詰め作業。そんな感じでいくからね」
「はいっ」
「とりあえずは第1話。それができたら連絡するよ」
「はい!」
あおいが、もう知らない人に見えた。初めて見る、作家の顔になっていた。
夏目あおいの初官能小説『マンネリガール(仮)』の執筆が、始まる。
◆おまけ1「あおいさん、ケータイ小説を読む」
「今日はやけにケータイいじってますね」
「ああ、うん。ちょっとケータイ小説をね」
スイーツ(笑)。
思わず笑いそうなったところを、喉の奥まで飲み込んだ。
「あおいさん、そういうのを読んだりするんですね」
「……ん? キミも世間の皆さんと同じで、バカにしちゃう人?」
「いえいえ、そんなことないですよぉ」
スイーツ(笑)。
あおいの意外な一面に、みひろはニヤニヤしてしまう。さすがのあおいも、そんなみひろに気がついた。
「キミねぇ……
本で文字を読む。
インターネット上で文字を読む。
それらが受け入れられている現代で、ケータイ小説がなぜ淘汰される?」
おっと、何か難しい話しになりそうだった。
「せっかく1つのメディアとして確立されているんだから、そこもちゃんと認めないと。
昔、原稿用紙に直筆で書いていた作家がパソコンに変えたとき、文体がガラっと変わったらしい。
これは、紙媒体から電子媒体へと変わったことで、文字とメディアとのバランスや雰囲気、そういった感覚が変わったんだと思う。 ということはだよ?
淘汰されているらしいケータイ小説。たしかに文章は幼稚だし、ストーリーもとんでもない展開だし、作品としては下の下が多いと思う。でも、あの文章や構成はケータイだから良いバランスが取れている。だから文庫化されたりドラマ化されると目も当てられないことになる」
おおっと、何やら作家の本気を見せられている気がする。
「うーん、その文字とメディアの関係が、いまいちわかりにくいですね……」
「これは私の、ちょっとしたギフテッドみたいなものだしなぁ……
あ、なら、こうしてみよう。
何でもいいから1つお題を決める。それを、紙媒体、電子媒体、ケータイ。それぞれで文章を書いてごらん。
内容は似たり寄ったりになるけど、まったく違う文章になるから」
「はぁ……」
ん? 何か違和感。
「電子媒体で書き上げた作品を文庫化する場合はどうなりますか?」
「それは、印刷後のレイアウトで、電子媒体に書くようにしてる。電子媒体はレイアウトを自由にできるから、一番優秀なツールだと思う」
やっぱり、よくわからなかった。
◆おまけ2「あおいさん、マンガを読む」
「あおいさん、そのマンガ集めていたんですか?」
「ううん、昨日古本屋で買ってきた」
テーブルの上には、みひろも集めていたマンガが縦積みされていた。
みひろは小説家はマンガを読まないという先入観を持っていたが、目の前の作家はそうではなさそうだった。
「そのマンガ、おもしろいですよね」
「これ打ち切られたんだっけ? 残念だなぁ。可愛いなぁ、この犬」
楽しんでいるわりに、キャラクターの名前は覚えていないらしい。
正直、小説家にマンガの話しを振るのは心苦しかった。
たしかに、小説はマンガに比べると、いや比べることができないぐらい差がある(と、みひろは思う)。ジャンルの差と言えばそこまでだが、それでもなかなか話しが振りづらい。
「しかし、やっぱり小説よりマンガのほうがいいよね」
「ええっ?」
しかし、当の小説家から小説<マンガ発言を聞いてしまった。
「ん、違う?」
「え、あ、うっ」
「私、小説とマンガ、同じぐらい読んでいるんだけどさ。どう贔屓目に見てもマンガのほうがいいよ」
たしかにそう思うけれど、小説家からその言葉は聞きたくなかった。
「やっぱりさ。視覚からの情報ってインパクト強いもん。瞬間的な衝撃なら、小説じゃ太刀打ちできないよ。
それに、どうしても文章じゃ表現できないようなものも、絵なら表現できるからね」
「そ、そですか」
「時代は小説よりマンガだよ。残念なことに」
あまり残念な様子には見えなかった。
「なら、あおいさんは、どうして小説を……?」
「ん、そりゃあ、絵では表現できないことを、文章なら表現できるから。だよ」
やはりよくわからなかった。
「キミは、マンガのほうが好きそうだよね」
ぎくり。
今さら、実はマンガ家の担当を希望していました、とは言えない。
「わ、私は、絵を描くのが好きなもんで……」
「そうなの? 初耳だなぁ」
みひろはメモに描いて見せた。メガネで無愛想な男性と、なぜかメイド服を着ている少年の絵。しかしあおいの目には、その少年が少女に見えた。
「おお、これはすごい。上手っ」
「まあ小手サークルでしたけどね」
ちょっとした意地があった。
「それにしてもこの眼鏡の男の人、アゴが鋭すぎない?」
ちょっとした、意地があった。
◆おまけ3「あおいさん、文章を語る」
「あおいさんの昔の作品を読ませていただきました」
「文章作法が、とか言うんでしょ?」
図星。ということは、自覚はしているようだ。
「たしかに私の書く文章は、いわゆる文章作法とやらを無視することが多い」
「そうですねぇ」
「文章作法うんぬんと言う人に訊きたい。そんなに大事なのそれ? と」
今までの価値観を崩すようなことを言ってきた。
「そりゃあ三点リーダとか、守ったほうが読みやすくなるのは守ったほうがいいと思う。
でも、大半なものは守らなくても、文章を読むことに大きな支障を来たすことはない。
現に、私は読みやすいと言われることが多い。文章作法をあまり守らないのに」
「そ、そうですか」
「それに、キミのような出版社関係社や小説家志望以外で文章作法って言う人ってさ、嬉しがって言っているだけの人が多いんだよね。
文章作法を守るために小説を書く、目的が逆転しちゃってる人も多いし」
いよいよめんどうなことになってきていた。
「私は、文章に温度や流れ、行間に風の向きや強さ。普通じゃ感じれないことを感じることができる、ちょっとしたギフテッドがあるから、なおさらだよ。
私が良いと思う文章は、あまり世間にはウけない文章になる」
「それは……大変ですね」
「でも、それがいいんだと思うよ。
有名な作家のような構成力や文章力は、私は持っていない。ちゃんとした文章やお話は、そんな有名な作家に任せておけばいい。
私は、私のような理解に苦しむ感覚を持っている人たちのために、作品を書きたいと思う」
じぃん。聖者とは、こんな人を言うのかもしれない。
「でも、たいていの作家は売れるための書き方というのを知っている。非常に残念なことだけど、お金がなければ生きていけない」
やっぱり人間だった。
◆おまけ4「みひろさん、必死だな」
※メタ発言。楽屋ネタあり。大丈夫な人のみ下へスクロール。
「どうもどうも、みひろです」
「今回で第7話ですね」
「ここまで続いたのも、ひとえに読者の皆さまのおかげです。ありがとうございます」
「コメントでは何かと私の名前を挙げてもらえて、嬉しい限りです」
「作品のほうですが、区切りが良いらしいのでここで第1部完です」
「次回からは第2部が始まりますが、特別何か変わるわけではありません」
「これからも私、そしてあおいさん2人でがんばっていきます。応援、よろしくお願いします」
「さて」
「それはそれとして」
「今回のお話ですが、ちょっとマジメすぎると思いませんか?」
「文章についてとか、プロットとかなんとか」
「『書きます、官能小説。』なんてタイトルなんだから、もうちょっと男性が喜ぶようなお話があるべき、と思いませんか?」
「ということで」
「おまけという場を使い、私みひろが読者サービスを行なおうと思います」
「ご察しのとおり、孤軍奮闘です」
「それにしても、私は損な役回りですよね」
「あおいさんは作家らしいところを用意してもらえたのに、私は妄想や妄想、妄想ばっかりですよ?」
「…………」
「それはさておき、読者サービスですね」
「私はつねづね思います」
「お風呂でばったりシチュエーション」
「ぶつかって倒れて胸を揉むようなアクシデント」
「水がぶっかかって服が透けるようなイベント」
「どれもこれも、生ぬるい読者サービスです」
「私にはそんなギリギリの少年誌お色気はありません。あるのはギンギンの成年誌お色気だけです」
「1つ、持論があります」
「人類は、得てして半脱ぎに弱い」
「水着や下着じゃありません。ちゃんとした服装の、半脱ぎです」
「結局、最高の描写とは、見る側の妄想を駆り立てるような描写です」
「全裸に反応しにくいのは、妄想の余地がないからです」
「こと半脱ぎに関しては」
「そこからどうするのか」
「そのままなのか」
「さらに脱ぐのか」
「脱いだとしたら、どんな下着なのか、どんな色なのか」
「相手のスタイルは? 肌は? 胸のサイズは?」
「相手は恥らってますか? ちゃんと恥らってますか? ここ重要ですよ?」
「ほら、こんなに妄想する余地があります」
「なので、半脱ぎなのです」
「あまり生かされていなかった巨乳設定に、ようやく日の目を見るときがっ」
ぬぎぬぎ。
「あれあれあれれっ? ここでそんな効果音だけ? じりじりと脱ぐ描写とかなしですかっ?」
「……ああ、孤軍奮闘だったんですね」
「すみません、ちょっと無理でしたね」
きるきる。
「服を着るときにそんな効果音。世界初かもしれませんね……」
「…………」
「気を取り直して、セリフでできるようなことを考えます」
「うーん。あ、そうだ」
「主人を心配するメイド」
「今日は、おやすみになってください。ダンナ様」
「…………」
「……頭に『コント』ってつけたら芸人のネタっぽくなりますね」
「やっぱり地の文がないと、どうにもできませんっ」
がんっ!
「ちょ、何もしていないのにそんな効果音! まるで腹いせに壁を蹴ったみたいじゃないですか!」
「何もしてませんよっ? 私は何もしてません!」
「…………」
「やっぱりセリフだけじゃ、無理ですね」
「万策、尽きました」
「読者サービスをする、と活き込んでこの体たらく。不甲斐ないです」
みひろは肩を落とした。
どこからかやってきた数人の男たちが、みひろを取り囲む。
ああ、これは罰なんだ。読者サービスをできなかった、自分への。
せめて覚悟を決めよう。みひろは自らの手で服を脱いでいった。
「ちょっとぉぉぉっ!? 何も起きてないのに、何そのウソ地の文!?」
「孤軍奮闘どころか四面楚歌!? アレですか、私はいらない子ですか!?」
「はぁ、はぁ、はぁ」
みひろは息を荒げる。
「ええ、その地の文は間違ってはいませんね。悪意しか感じませんが」
「…………」
「…………」
「もう終わります」
「以上、おまけのみひろでした。
どうせアレでしょう、最後に悪意ある地の文で終わるんでしょう?」
オチはない。