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第8話「連載開始前」

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「あの、あまり動かされると……ブラで、その……」
「あ、ごめんっ。痛かった?」
 
 
 
 
 第8話「連載開始前」
 
 
 
 
 みひろはスーツの上着を脱いだ。そこから現れたのは清潔な白のシャツ。豊かに膨れる胸部に、あおいの鼓動は高まった。
 
「あおいさん……本当に、するんですか?」
「も、もちろん……させて、いただきます……」
 
 不安を隠せないみひろ。自信なさげなあおい。どこまで空気が悪くなってくる。
 これではいけない。あおいは勇気を奮い立たせた。
 
「するね、みひろさん」
「……はい」
 
 大きく深呼吸をして、あおいは手を伸ばす。その手はゆっくり、ゆっくりとみひろの胸に伸びる。
 そして、触れた。
 あおいの目は開き、みひろは目は堅く閉じた。
 
「大きい……」
 
 自分が持ち合わせていないそこに、ふつふつを感動を覚え始めていた。撫でて、手で覆って、指を動かして。円を描き感触を確かめる。
 
「あの、あまり動かされると……ブラで、その……」
「あ、ごめんっ。痛かった?」
 
 同じ女性なのに扱い方がまるでわからず、歯がゆかった。でも、だからこそ、ここで知っておかなければならない。
 
「えと、その……外して、いい?」
「え、あ」
 
 何が、とは言わなかった。言わなくても、気づいてもらえることを期待していた。
 
「……はい、どうぞ」
 
 うつむき、みひろは答える。その頬は赤く染まっていた。
 あおいの手はゆっくりと、みひろの背中に到達する。おずおずと探ると、シャツには不釣合いな硬い感触がそこにあった。
 あおいは家で過ごすだけの日は着用せず、外出するときにようやくスポーツブラをする程度なので、ホックの外し方は知識で持っているだけだった。
 
「ん、んん?」
 
 外し方がいまいちわからない。が、これさえ訊くのは恥ずかしい。何度か触れ、指をかける。
 
 パチリ。
 
 外れた。
 生まれて初めて、他人のブラを外した。
 
「あっ……外れ、ましたね」
「そのときって、どんな感じ?」
「そうですね……当たり前ですが、アンダーバストの締め付けがなくなった感じです。それぐらいです」
「なるほど」
 
 みひろの答えをメモに書いた。
 
「うん、協力感謝。ネタがそろった」
 
 
 
「私は胸がない。だから他の人に協力してもらうしかない」
 
 衣服を整えたみひろが一息ついていると、あおいがそう言った。
 開き直っているようにしか聞こえなかった。
 
「あの、それで、お役に立てましたか?」
「うん、すごく参考になった。もう第1話は完成したようなもんだよ」
 
 あおいはみひろに数枚の紙を渡した。
 
「これが……第1話ですか?」
「もう少し推敲して、さっきのネタを入れるけど、だいたい完成だよ。ぜひ、意見を聞かせてほしい」
 
 みひろはじっと読み始めた。あおいはそれを静かに見守る。
 しばらくして、みひろの目はあおいに戻った。
 
「どう、だった?」
「そうですね……文章作法だとか、構成とかは何も言いません。あおいさんの個性をとやかく言うのはヤボですから。
 まず、どんな作品にも言えることですが、第1話は肝心です。これで失敗すれば、その後の読者数を伸ばすのは大変です」
「……第1話、ダメだった?」
「いえ、そういうわけじゃありません。大事だとは言われますが、私はそう思いません。
 もし第1話をものすごくがんばっても、第2話から最終話まで続けられなければ意味がありません。
 あおいさん、この第1話のクオリティを、維持できますか?」
「それは大丈夫。いつもどおりの感じで仕上げてるから」
「なら問題ありません」
 
 内容ではなく、連載のことに触れるみひろに、あおいは驚きを隠せなかった。
 たまに人格が豹変する変な人、という印象が強いため、編集者としての顔が物珍しかった。
 
「次に作品の長さと、完成までの時間ですが……1話につき、だいたいこれぐらいの長さですか?」
「そうだね。多少は変わるかもしれないけど、ほぼそれぐらいかな」
「この長さですが、1度に全部掲載するには少々長いと思われます。ですので、前後2回に分けて掲載しようと思いますが、よろしいですか?」
「うん、それは大丈夫。でも、完全に1話を完成させないと渡さないよ?」
「もちろんです。半分ずつ渡せ、なんてことは言いません。1話完成にどれぐらいかかりますか?」
「最低でも1週間はほしい。それ以下だと質が悪くなる」
「となると、もう1話書き溜めていただいて、第1話を掲載しているときに第2話が推敲しているような状態、第3話は書き始め、というスケジュールではいかがでしょうか?」
「それなら大丈夫かも」
 
 正直言えば少々きつく感じていた。が、これ以上甘えるわけにもいかなかった。
 向こうはプロの目でスケジュールを作っている。となると、それに応えるのもプロの仕事だからだ。
 
「掲載に関しては私がすべて行ないますので、あおいさんは執筆に専念してください」
「オッケー」
「あ、作者の一言コメントも考えてくださいね?」
「はーい」
「とりあえず第1話で様子を見て、そこから読者の傾向を考えましょう。官能シーンは多少の修正が必要かもしれませんし」
「……足りない?」
「うーん……ちょっと過激すぎる気がしますが、そこも含めて反応を待ちましょうか」
 
 
 
★おまけ1「議論その1」
 
「ぜったい必要」
「不要です。いりません」
 
 あおいはみひろを睨んだ。みひろはそれに負けじと睨み返す。
 
「恋人同士の礼儀、マナー。そしてお互いの責任を考えてのことだよ?」
「たしかにそうです。が、官能小説です。読者を愉しませる、ということは必要です」
 
 互いに引かなかった。
 
 結局、最後にはみひろが折れた。
 
 
 
 議題:たとえ官能小説でも、性交渉に於いて避妊具は必要かどうか。
 
 
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★おまけ2「議論その2」
 
「まだそれは無理。いずれはそうさせるから」
「まあ、倦怠期を考えるとしかたないと思います」
 
 ですが。と、みひろは続ける。
 
「ぜひ、同時ということも考えてください。少なからず、それを求める読者もいますから」
「うーん……同時って無理だと思うけどなぁ」
「とりあえず、考慮ぐらいはしてください」
「むぅ、わかった」
 
 
 
 議題:女性を絶頂の状態にさせるかいなか。また、男女同時に絶頂を迎えさせるかどうか。
 
 
 
★おまけ3「もう少し続いていたら……と、妄想する」
 
「あおい、さんっ」
 
 ブラを外され、緩やかになった胸元をあおいの手が動く。先ほどまでとは違い、手の動きがダイレクトに伝わってくる。
 
「ああ、すごい、すごく、柔らかい」
「あ、やっ、もう、やめ、て……っ」
 
 あおいは好奇心の意味で興奮し始め、手の動きを早めていく。特に開発されているわけではなかったが、そんなあおいの様子と胸から伝わってくるくすぐったさに、少しずつ体温が上昇していった。
 
「いいよ、すごくいい。みひろさん、キミは、実にステキだ」
「お願いしますっ、もう、これ以上はっ……!」
 
 身をよじってあおいから逃れた。そんなみひろにあおいはやや驚いた。
 なぜ逃げられたのか、わからなかった。
 
「ねぇ、どうして逃げるの? 気持ち良くなかったの?」
「あおいさん……?」
「ねぇ、もう少し、いいでしょ? もう少しだけ」
 
 
 
「痛いこと、しないから、さ」
 
 
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★おまけ4「さらに続いたらこんな展開も……さすがにないか」
 
「や、いやぁっ」
 
 あおいに突き飛ばされたみひろは、床に転がった。そんなみひろに馬乗りになり、両手を抑えつけた。
 
「胸、苦しそうだね。楽にしてあげるね」
 
 あおいはシャツを引っ張り、引きちぎった。ぶちぶちと音を立て、ボタンがこぼれていく。
 白くてシンプルな、外れて意味を成していないブラ。そして、普段は何重にも守られている肌があらわになった。
 
「いや、いやっ……やめてください、やめ、て」
「もう我慢できるわけないし」
 
 ぐに。
 強めに握ったことで、みひろの乳房は窮屈そうに形を変えた。
 
「いたっ、いたいっ」
「ああ、ごめんね。でも、その顔も、ステキ」
 
 力を緩める気配はなかった。それどころか、抑えることをやめて両手で揉みしだき始めた。
 両手は自由になったものの、みひろは動けなかった。普通ではないあおいの様子に、心を折られていた。
 
 静かになったみひろを確認し、あおいはただ力を入れる状態から、ゆっくりと、優しく動かすようにシフトした。
 動きや相手に与える気持ちに緩急をつける。
 
「あおいさん、もう、これ以上は……」
「ん? 気持ちいいの?」
「そんな、そんなことは……」
「ふーん、なら確かめさせてもらうね」
 
 あおいの右手が、胸から下半身へと移っていった。
 
 
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