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箱(09/14

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「ただいまー」
 冷気と共に帰宅した龍姫は温度差に肩を震わせ、乱暴に靴を脱ぎ散らかしてからもこもこと無駄にボリュームのあるカエルの口に急いで冷えた足を突っ込む。
 勿論、スリッパだ。
「おかえり」
「んー」
 家の奥から聞こえてきた声に適当に答え、首に巻いたマフラーをのろのろと外しながらふらふらと居間に向かう。
「極楽極楽」
 今のこたつにスリッパを脱いで潜り込み、脱皮するようにして紺のニーソックスをずるずるとひき下ろし、セーラー服の帯を緩めてボタンも空ける。ラフ。いや、少しエロい格好だ。
「龍姫」
「ん?」
 魂をコタツに吸い取られたんじゃないだろうかというくらいの緩みきったコタツムリの顔を見て、どうしてこうなったんだろうかと若干の頭痛を覚えながらも短い溜息を付いたのは、龍姫の母。
 母も龍姫と同じくブロンドめいた金髪で、その容姿はハーフを思わせる。
「まーた、こんなに脱ぎ散らかして」
「あーとーでーひーろーうーよー?」
 明日から頑張る。その言葉くらい信用できない龍姫の返事に、母はまた溜息をつく。
「まったく、誰に似たんだか」
 そう言うが、母も買い物に行っていたらしい荷物は台所のテーブルの上で自由行動をして待機中だ。
「あぁ、そういえば荷物届いてたから部屋に運んでおいたわ」 
「荷物?」
 はて、なんだったかととろけゆく意識の中で龍姫は考えた。
「お仕事なんでしょ? 夏希さんからだったわよ」
「んー? あー」
 そんな事もあった気がする。冷えた机に頬をのせ、得たものはその程度だった。
「ほら、お仕事ならさっさと確認してきなさい」
「へいへい」
 コタツを追い出されるようにして冷たい廊下に立たされた龍姫は、今までのたるみっぷりなんてなんのその。氷のように冷えた廊下から逃げるため、カエルの口に素早くけりを入れ、一瞬のうちに自室へと駆け足で向かった。
「あー極楽極楽」
 その頃、母は龍姫の代わりにコタツムリになっていた。
 
 
 
「なんで開けっ放しなのよ!」
 今日はいい天気だろうと開けっ放しにしていた窓から容赦なく冷気が侵入していた。
 勿論、開けたのは龍姫本人だ。
「不法侵入よ!」
 吹いた風に怒りながらも、急いで窓を閉める。不法も何も風に法は適応されるのだろうか。
「ったく、なんで冬ってこうも寒いのかしら」
 それは、太陽高度の差によって気温が変わることが大きな原因で、地球が地軸を傾けて公転しているために、同じ地点でも季節により太陽高度が変わり、太陽高度が低くなるかららしいですよ。
「早く夏にならないのかしらね」
 きっと夏になったら、その真逆のことをいうのだろう。
 たしかに、龍姫の足元にはリアル調のカエルが大量にプリントされた絨毯が広がり、どっちかというと夏っぽいが、本人は全くそんな事を考えていたわけではなかった。
 ただ、可愛いと思ったのだ。
「どうしたものか」
 悩む龍姫の部屋にはベットにパソコン。
 そして本棚に机、服にクローゼット。聞けば聞くほど面白みの無い普通の家具。
 内装はぬいぐるみがおいてあったり、全体的に部屋が明るい色でまとめているなど、実に女の子らしい部屋だった。
 ただ、この部屋が龍姫の部屋であるというのは、龍姫を少しでも知っているものなら見抜けるだろう。
 なにせ、龍姫は重度のカエル好き。要所要所に見られる小物であったり、カーテンの柄がカエルで統一され、重奏でもしたらとんでもない事になりそうだ。
 そんなカエル好きの龍姫は相変わらず入口付近でセーラー服を着たまま、絶壁の二文字が似合う胸の前で腕を組んでいた。
 唸りながらもない頭をひねって悩む。
 と、いうのも問題は目の前にある厄介事のせいだった。
「夏希さん。これは多すぎるでしょ……」
 積まれていたのは、箱箱箱。おまけに箱だった。

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