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三話

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 そのとき、清春は死の覚悟をした。
「だから大丈夫だって、キヨ。数分で終わるからさ。そら、面白いぞってわああああああああ!」
 清春、孝太、美雪、ともえは約束どおり一緒に遊園地へとやって来た。平日のせいか込んでいる気配もなく、人気のアトラクションにも30分程待てば乗れる勢いだ。ここ、デスティニーーランドは日本で最大級の遊園地で、海外からも人気があり日本へ来た理由がここに来るためというのも少なくはない。
「……!!」
 清春は叫ぶこともできないのか補助バーに体を思い切り寄せ、俯いたままずっと耐えていた。隣にいる孝太は手を空高く上げて叫びながらも楽しそうにしている。後列にいる美雪は思い切り叫び、その隣のともえも美雪ほどではないが声を張り上げて実に楽しそうにしている。しばらくするとジェットコースターは終わり、みんな満足そうな顔をして他のアトラクションへと向かう。一人を除いて。
「ねぇ、キヨー。頑張って歩いてよー」
 さっきのジェットコースターに酔ったのか清春はおぼつかない足取りでみんなの遥か後ろを歩いていた。美雪はそんな清春を心配しながらも早く早くと急かす。孝太はパンフレットを確認しながら現在地を確認し、ともえは清春のことを心配そうに見つめている。
「んまあ、焦っても仕方ないし。一回軽い休憩でも挟もうぜ」
 一旦周囲を確認した孝太がそう提案をしてきた。すると仕方なさそうに美雪は近くのベンチに腰掛ける。清春は休憩が決まると軽く微笑んでよたよたとベンチへと向かって歩いていく。孝太は近くの自動販売機で飲み物を買い、ともえは美雪の隣に座り次にどこに行こうかパンフレットとにらめっこをする。空には雲ひとつなく、快晴。乗り物も修理や点検もなく、すべて乗ることができる。そんな数あるアトラクションの中から、美雪は指を指して「これにしよ!」と声高く張り上げた。
「えっと、どれ?」
 ともえの目に留まったのは「心霊病棟」と書かれたアトラクションだった。心霊病棟、ここデスティニーランドの唯一のお化け屋敷であり日本屈指の「怖い」お化け屋敷なのだ。テレビでも何回も取り上げられ、ここにきているメンバー全員がその心霊病棟を知っている。しかし、今までその名を口に出さなかったのは行く決心がなかなかつかなかった為である。
「ここ、ここ!やっぱりデスティニーランドに来たからには心霊病棟に行かなきゃ。うん」
 ようやくベンチにやって来て腰をかけたのに、そんな清春の手を軽く掴みあげて美雪は連れて行こうとする。
「ほら、もう行こうよ!待ち時間でいくらでも休めるよ」
 しかし清春はそれを渋るように動かず、そこに突っ立ったまま俯く。孝太はそれを自動販売機の隣でジュースを飲みながら眺め、ともえは美雪の後ろで清春の表情を伺っていた。
「……わい。……怖いからあんまり行きたくない、かも。僕は外で待ってるよ」
 そう小さく言うと美雪は手を額に当て、なんとも言えない表情を見せる。
「うーん。わかった、キヨは外で休んでて。私たちは行ってるから」
 美雪はともえを引きつれ、清春の先を歩いていく。孝太はやれやれ、と軽くため息を吐いてそれについて行った。取り残された清春はそれをゆっくり追って、さっきよりもさらに重い足取りで歩く。少し不満顔な美雪の表情を見たともえは、どこか悲しそうな表情を見せて尋ねる。
「ねぇ、清春君のこと……いいの?ちょっと可哀想じゃないかな」
 しばらく美雪は遠い目をし、小さく唸ってから口を開く。
「うーん。小さいころからさ、頑固なんだよね。一度言ったらなかなか曲げないし。だから今回も無駄かなぁって。それに、さ。みんなが楽しんでるこんな場所で言い合っても仕方ないでしょ?」
 それをひっそりと聞いていた孝太は、後ろを振り返りあまり元気のない清春を見る。しばらく見つめるとまた前を向き何か思いつめた表情を見せた。一方ともえは立ち止まり、どんどん美雪と孝太から遠ざかっていく。
「ねぇ清春君。私もお化け屋敷得意じゃないんだ」
 清春がともえに追いつくと、ともえは清春の隣で一緒に歩き出してそう話し出す。
「でも、今日はいいきっかけかなって思ってさ。お化け屋敷を克服するさ。だから、清春君も一緒に克服しようよ。一緒ならきっと大丈夫だって!」
 清春の目の前に立ってそう言うと、ともえは清春の手をぎゅっと握った。それに清春は顔を赤くし、目を背けながらも小さな口を開く。
「そ、そうかもね。でも……ううん、頑張ってみるよ」
 ともえの言葉が清春の心を動かしたのか、清春は心霊病棟に挑戦しようと深く決心した。あとで美雪にごめんって言おう、そんなことも心のどこかで呟きながら前方にいる美雪と孝太の元へと走っていく。そんな走る姿を見たともえは、にっこり笑ってから小走りで追いかけていった。
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