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四話

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 心霊病棟。そのアトラクションの中に四人は小さく固まって歩いていた。中は背中がぞっとするほど寒く、とても静かでまるで本当の幽霊でも出るのではないかと思うほどであった。しかしみんなおっかなびっくりしている中、たった一人だけ浮かない表情を見せている者がいた。
「どうしたの、美雪?具合でも悪い?」
 美雪の顔を覗いたともえは突然尋ねてきた。その質問に美雪はすぐに「大丈夫だよ」と返事をするが、どう見ても様子がおかしい。なにか深い考え事をしているかのようだった。清春もそんな美雪のことを心配しているのか、さっきまで叫びまくっていたというのに、今はお化けなんて目に入らないようだった。

 心霊病棟に入る少し前。ともえは清春のところへと行き、ちょうど孝太と美雪が二人きりになったときであった。
「なぁ、あれわざと置いていったろ?キヨのこと」
 孝太は不意にそんなことを聞き、美雪はそれに少し焦るように返事をする。
「べ、べつにわざとじゃないよ。ただ、時間がもったいないなぁって思っただけ」
 孝太はふーん、と鼻で軽く返すとそれからの間少し沈黙が続いていた。その空気のせいか、美雪はどんな話をしようか必死に考えていたのだが全く話題が頭に浮かばなかった。しかしその沈黙をいとも容易く孝太は破った。
「倉野ってキヨのこと好きなのか?少なくとも多少は気があるだろ。中野はそれ知っててあんな態度取ったんだろ?」
 そう言うと早歩きだった美雪が一度足を止め、孝太の横に並ぶとまたゆっくりと歩き出した。遠くで回っているメリーゴーランドの楽しい音楽が、なんとかその場の空気を和らげていた。
「まぁ正直言っちゃうとそうかな……。だって、私がともえにキヨの話するときすごく楽しそうなんだもん。だから、ちょっとでもいいから二人になれる時間を作ろうと思ってさ」
 だんだんと大きな心霊病棟の建物が見えてきた。その建物は実際の病院と同じ構造をしていて、まさしく心霊病棟の言葉がぴったり合うのだ。孝太は後ろを振り返り、清春とともえがこっちに向かってきているのがわかると小さな声で呟く。
「俺はそういうのよくないと思う。キヨのためにも、倉野のためにも。そして、中野のためにもね」
 そう言い終わった直後に清春とともえが合流、孝太は清春の顔を見ると安心したような表情を見せて心霊病棟の最後尾に並び始めた。それについて行く清春とともえ。美雪は立ったまま俯き、しばらくするとみんなの後ろをついて行った。

 清春の目の前には外の明るい日差しが見えていた。数々のお化けを目の当たりにし、本来ならば立てないほど心を折られていた清春だが、美雪の異変のせいか難なく出口まで歩いていった。それに引き換えともえと孝太は軽く引きつった表情を見せ、ともえは肩まで震わせていた。美雪はというと、やはりどこか浮かない顔をしていた。
「あーあ、中は寒いし怖いし。さすが心霊病棟。すげぇな。ということでちょっとトイレに行ってくるかな」
 孝太は大きく欠伸をしてトイレの位置を地図で確認する。「私も」とともえも孝太の後をついて行き、その場には清春と美雪だけが取り残されていた。が、二人はしばらく無言でずっと俯いていた。
「あのさ……美雪。さっきはわがまま言ってごめん。今度から気をつけるよ」
 急に美雪の目の前までやって来て清春は頭を下げて謝る。突然そんなことをするものだから、美雪も戸惑いを隠せないようだ。
「ちょ、ちょっと。こんなところで恥ずかしいよ。私にも少しは非があるんだから、謝んなくてもいいよ」
 顔を真っ赤に染めた美雪は、清春の潤んだ瞳を見るとさらにまた「恥ずかし」と小さく零して顔を背ける。清春はやっと美雪の顔色が元に戻ったせいかとてもうれしそうだ。
「でもよかった」
 清春は軽くそう呟く。
「なにが?」
 美雪は清春が何に対してよかったのかわからずそう尋ね、清春は後ろ髪をいじりながらまた話を続ける。
「いや、美雪の表情が暗かったというか、なんというか……。でも元通りになったから、よかった。それだけなんだけど俺は」
 まだ清春が話をしているとき、さっきトイレに行っていたともえと孝太が帰ってきた。
「お待たせ!トイレってもっと混んでるのかと思ったよ」
 ともえがそう言うと、美雪は「おかえり」と言うとまた地図を広げてどこに行こうかアトラクションを探し始める。孝太は来るタイミングが悪かったことに気がつき、額に手をあてて肩を落とした。清春は口を軽く開いたまま美雪を見つめると、うっすらと優しい笑顔が零れた。
「これ、これに行こうよ!日本最速のジェットコースターだって!つい最近完成したばっかりなんだ」
 目を輝かせてこれに行こうと言った美雪は、ともえを引っ張って清春と孝太を置いて歩いていく。ちょっと歩いていった所で振り返り「早くおいでよ!」というとまた歩き始めていった。清春と孝太は互いに目を合わせ、孝太は先に歩き始める。
「今度は駄々こねないで乗ろうな」
 そう言うと孝太はにっこり笑い、それに釣られて清春も笑って返事をする。
「うん!」
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