夜の紅月に照らされる街並み。
夜の街、人々が交差して肩をぶつけ合いながらどこかに導かれるよに颯爽と街中を歩く。
繁華街、電気屋、高層ビルのネオン管から放たれる色とりどりの光で街は昼間の明るさを取り残す。
人の声、車の音、道路の工事音が混じり合い騒音となって街の音を作り出す。
そんなどこにでもあるような街の風景をこの街で一番高い高層ビルの天辺から見下ろす一人の女と一匹の黒猫。
女の白銀の髪は夜の風にさらされてしなやかに波を打つ。
女は今宵の月のように紅く透き通った瞳で街を見下ろしていた。
黒猫は女の横に並び口を開いた。
黒猫「白雪、見つけたか?」
猫は女を白雪と読んだ。
女は目線だけを猫に向けて静かに口を開く。
白雪「まだだ。」
黒猫「この街もハズレかもしれないな。」
黒猫はため息を一つしてからその場に伏せて前足の間に顔を伏せて街を見下ろした。
そんな黒猫をみた白雪は申し訳なさそうな顔をして口を開いた。
白雪「・・・確かに感じたのだ。この街で私のご主人様の鼓動を・・。」
黒猫「前の街でも同じことを言っていた気がしたが?」
黒猫は呆れたように再びため息を吐く。
白雪「今度は確かだ。」
黒猫「だといいのだが。・・・しかし、そろそろ奴らも動き出している。早めに見つけたほうがいいぞ。」
白雪「分かっている。少し黙っていてくれクロ。」
どうやら黒猫の名前はクロと言うらしい。
クロ「わかった。わかった。わたしは少し寝る。見つけたら教えてくれ。」
白雪「・・・わかった。」
クロは瞳を閉じて街の音に耳を傾ける。
クロはこの町を知っていた。もう随分昔の話のことだ。
一人の男を探すために今まで白雪と旅をしてきたがその男が未だにこの街に住んでいるかどうかはわからない。
男はもうクロの事など忘れてしまったかも知れない。いや、今のクロの姿を見ても男はきっと気がつかないだろ。
でもそれでいいのだ。クロは素直にそう思えたのだ。
クロ「まだここに住んでいるといいのだがな。」
白雪「ん?なにか言ったか?」
クロ「何でもない。」
白雪「そうか。」
・・・
・・
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