「……おかしい」
私の洋くんが帰ってこない。
そろそろ学校から帰ってくる時間なのに帰ってくる気配が全然ない。
遅くなる時は連絡をしてくれる洋くんから連絡が全然ない。
これはもしかして――
「何か事件に巻き込まれた?」
ま、まさか誘拐!?
愛しの洋くんが誰かに攫われたというの!?
そ、そんなあり得ない! 洋くんが拉致されるなんて!
「――いや、あの二人なら……」
そう。あの二人なら可能性がないわけじゃない。
いいや、むしろあの二人なら平気で洋くんを拉致するでしょう。
なんという最低な女なの!
許せないわね。
ぷるるるるる。
「はい、もしもし。なんですか?」
「女狐。あんた私の洋くんを拉致したでしょ!」
「は? あなたは何を言ってるんですか。ついに頭でもおかしくなったんですか?」
「はぁ? 私は普通よ。頭がおかしいのはあんたでしょ! 早く洋くんを返しなさいよ!」
洋くんを拉致して色々とエッチな事をしてるんでしょ?
そんなの絶対に許せない。
洋くんにエッチな事をしていいのは私だけなんだから。
「ほんと、あなたは言葉が通じないですね。言っておきますけど、わたしは何もして
ませんからね」
「う、嘘でしょ?」
「事実です。はぁ……もう切りますよ」
「あ、ちょっ――」
ぶつ。つーつーつーつー。
「……切られた」
まったく礼儀のなってない女ね。
まぁでも、あの女狐が犯人じゃないのが分かっただけでもいいか。
じゃあ、次はあの女ね――
「はーい♪ 何の用かしら?」
「あんたが私の洋くんを攫ったの?」
「…………そうだと言ったら?」
「絶対に許さないわ」
私の全身全霊をかけて洋くんを助けてみせるわ。
「へーそうなんだ。まぁ、攫ってないんだけどね」
「――はぁ!?」
愛穂も犯人じゃないっていうの?
そんなバカな事あるはずが……
「嘘を吐いてるんじゃないでしょうね」
あんたならありえそうなのよ。
「嘘なんか吐いてないわよ。それに洋を攫ってるのなら、初めから電話になんか出ないわよ」
「でもあんたなら、敢えてその状況で電話に出て、私を精神的に苛めようとするでしょ」
「確かにそれも面白そうだけど、それであんたに洋の居場所がバレたら意味がないじゃない。
アタシならそんな事しないでじっくりと、洋と二人っきりの時間を楽しむわよ」
むむむ、それもそうよね。
「じゃあ、あんたが犯人じゃないのよね?」
「当たり前でしょ。てか普通にそろそろ帰ってくるんじゃないの」
「で、でも――」
本来ならもう帰ってきてもおかしくない時間なのよ。
それなのに帰ってきてないなんて――
「ただいまー」
「あ、帰ってきた」
「帰ってきたみたいね……」
「う、うん」
「何か言う事があるんじゃないかしら?」
「…………ごめん」
「よろしい♪」
愛穂に謝って電話を切る。まぁ、あの女狐の方は……いっか。
今は早く洋くんの顔を見て洋くんエネルギーを補充しないといけないからね。
さぁ、洋くん。今あなたのお姉ちゃんが行きますよ♪