一難去って、また一難とはやってやれないわね。
前回、女狐が私の洋くんに手を出してきたかと思えば、次はこの人ですか。
正直言って、この人は苦手なのよね。
私の唯一の天敵ってところかしらね。
本当に勝てる気がしない。なんていうか、その物理的に……
「あのー愛穂さん? これはどういう事なんでしょうか?」
私の目の前にいる最悪の女。愛穂に質問をする。
「何って、あんたの喜ぶ事をしてあげてるんじゃない」
「いや、全然嬉しくないわよ!」
朝っぱらから全身をロープで縛られて喜ぶ変態なんかいるわけないじゃない。
まぁ……洋くんが縛って、それを一日中見られてるのなら話は変わるけどね!
「あー、あー、愛穂? あんた何しに来たのよ?」
まさか私を縛るためだけに来たわけじゃないんでしょ?
「あんたを縛りに――」
「マジっ!?」
「嘘に決まってるでしょバカ」
「うぐぐ……」
何で、この女にここまで言われないといけないのよ。
てか、私を縛りに来たわけじゃないのなら、何しに来たのよ?
「アタシの洋に会いに来たに決まってんじゃん」
「な――っ!?」
あんたも洋くんに会いに来るなんて――
「あんたの好きにはさせないわよ!」
この私がいる限り絶対に!
「そうは言っても、あんたロープでグルグルに縛られてるじゃない」
「うぐ――っ!」
そうだった。ロープがちょっとくい込んで痛気持ちいい状態だったわね。
クソッ! なんて計画的な行動なのかしら。
あの女狐とは全然違うわね。
やはり最悪の女。この女は苦手だわ。
「さぁーて、アタシの洋に会いに行こうかしらね♪」
――だけど、あんたは一つだけ重大なミスを犯してるわ。
そう。もっとも愚かなミスを……
「く、ふふふふふ……」
「……何? 気持ちよすぎて頭でもおかしくなったの?」
「私はいつでも正常よ!」
「いやいやいや♪」
「笑わないでよ!」
別に面白い事なんか言ってないのに、笑わないでよ!
「――で、頭がおかしくなったんじゃないのなら、どうしたのよ?」
「ふふん。あんたの愚かしさに笑いが込み上げてきただけよ」
「アタシが愚か?」
「ええ」
あんたは今世紀最大の愚かな女なのよ。
「私の洋くんに手を出そうとしてるけど、残念ながら洋くんは今いないわよ」
「…………え?」
「洋くんは、昨日から友達の家に泊ってるわよ。おかげで、私が寂しくて泣きそうなんだけど」
「あんたの状況なんか知らないわよ」
「いや、寂しさのあまり枕を涙で濡らしてるのよ」
「嘘でしょ。あんたの事だから、洋の部屋で変な事やってんでしょ」
「…………」
「黙るなよ」
「ちぃ……何で分かったのよ」
確かに洋くんの下着を漁ったり、布団の中でゴロゴロしたり、カメラを仕掛けたりしたけど、
何でこの女がそれを知って――
「誰でも予想が出来るわよ」
「そうでしたか」
まぁ、この女とも長い付き合いだしね。バレて当然か。
「はぁ。洋が居ないのなら仕方ないわね。一旦仕切り直しとしましょうかね」
そう言って、帰ろうとする愛穂。
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ。帰るならこのロープを解いてから――」
「いやよ、めんどくさい」
「ちょ――――――っ!?」
私の叫びも空しく、帰っていく愛穂。
うぅ……洋くんが帰ってくるまでこのままか……
ほんと、あの女は最悪だわ。
私の天敵。唯一勝てない相手。
あーもう! 何でこう面倒事ばかり起きるのよ!
私はただ洋くんとイチャイチャしたいだけなのにー!