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第二の質問

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第二の質問



 はてさて、この間は醜態を晒してしまい。申し訳ありませんでした。
 いつも、あんな恥ずかしいことをしている訳ではないので、僕のキャラクターを勘違いしないでください。僕だって毎朝あんなイメージトレーニングをつんでいるわけではありません。
 もし、僕にそんなことが出来る勇気があるのなら、多分とっくにあのイメージ通りの行動はできているわけでしょうし、何より妹とのコミュニケーションに悩んだりはしないでしょう。
 ……え? なら続ければいいじゃないかって?
 だから恥ずかしいんですって、あのイメージトレーニング。ものすごく、それは顔から日が出るような、…プロミネンス!
 ……別に誤字を誤魔化した訳ではないです。僕の豊かなボキャブラリーが今のギャグをサルベージしたのみですよ。

 さて、それでは本日の本題に入りましょう。
 それは、お昼を迎えた頃のこと。僕の通う高校では、四限の授業を終えたあと、走って教室を飛び出す人間が後を絶ちません。まあ、欠く言う僕もそのうちの一人ですが。
 何故、そんなに急いで教室を飛び出すかというと、食堂に売っているお弁当が売り切れてしまうからです。
 食堂なら普通に定食とかでるんじゃね? なんて思ったあなた、確かにそのとおり。
 しかし、食堂で出る弁当は実は僕の学校で作っているものとは違います、業者さんの作った弁当が学園側の意向で食堂にて販売しているのです。
 しかも価格は二九〇円でおなかいっぱいになる量。味も良ければ文句はないのですが、薄利多売の弁当に味を求めるのは聊か欲張りでしょう。
 あ、あと食堂の飯は上手いのか? なんて聞いちゃう貴方。
 わざわざ僕が避けて説明しようとしている事を掘り出さないでいただきたい。簡単にいえば、空気読め。
 まあ、説明はこのくらいにして、僕が教室をそれはそれは全力で走りだし、食堂についたころからお話ししましょう。

 
 食堂の扉を開けると、見えてきたのは賑わっている人の群れ。
 僕は、ああ、合同クラスの体育でも早く終わったのかな、ついてねー。なんて思う。
 そんなことを考えていると、間もなく後ろから、さらに賑わう人の波が押し寄せてきていた。
 とりあえず食堂の弁当販売口に賑わっている人の波に体当たりしようと踏み込むと、
「おいおーい! 聡くん! 相嶋聡くん!」
 なんて、どこからか声をかけられる。
 誰だこんな時に、声をかける輩は。なんて思ったのだけれど、フェミニストな僕は女の子の声だとわかって、とりあえず弁当争奪隊の群れから離れて、声の出所を探す。
「こっちだよ、こっち!」
 声の出所を探すように首を左右に振ると、手を大仰に振っている人がいる。もしかしてあれか? と思って近づくと
「沙里ねぇ?」
 肩口までの髪をバンダナでくくり、チェックのエプロンを身につけている沙里ねぇの姿が見えた。
「やっほー、聡くん。元気にしてた?」
「見ればわかるだろ」
『沙里ねぇこそ、元気にしてた?』なんて
「相変わらず、ツンケンしてるね」
 そんなことが言えないばっかりに、僕は今日も不良扱いされる。でもまあ、懐かしいこともあったものだ。
 沙里ねぇがこの高校を卒業して、もう二年が経とうとしている。
 都会の料理学校に行くと言っていたが、なぜここにいるのだろう? 
「なんでこんなトコいんだよ」
「なあに、いちゃいけないっての?」
『そんなことないよ、普通にうれしいよ。会いたかったしさ』
 なんて、やっぱり言えなくて気恥ずかしくて僕は眼を逸らす。
 しかし、割烹着姿の沙里ねぇは素敵だ。
 本当に沙里ネエは家庭的な雰囲気が似合うなあ。まあ湊ちゃんには敵わない(※ここ重要、テストに出ます)にせよいい奥さんになると思うよ、綺麗だしさ。
 湊ちゃんの次の次の、次くらいに。
「なんで、そんなに私のこと睨むのよ」
「睨んでねえよ」
 嘘じゃない。
 嘘じゃないけれど…! 伝わらないもんなのかなあ、こういうのって!
「まあ、聡くんは相変わらずだってのは良くわかったよ。湊ちゃんは、可愛くなったのになあ聡くんはまだまだかあ」
「あ? 湊と会ったの」
 そう、控え目(精一杯の誠意)に聞くと、
「三限目にたまたま。あ、そういえばお兄ちゃんを探してるって言ってたよ」
 と、爆弾発言。
 なんだって? 
 妹様さまが、僕を探しているだって?
 ふ、ふふ、ふふふ。思わず笑みが零れそうになるが、僕の鉄面皮は十八年鍛え上げられている特別製だから、一つも外には漏れない。
 どうしたんだい、妹ちゃん、僕に何かお願いごとでもあるのかい。なんだいなんだい、体操着でも忘れてきちゃったのかい? それなら僕のを貸してあげようか、ははは、お兄ちゃんの臭い体操着が嫌なら、女子生徒の一人や二人丸めて包んでぽいっとしちゃって、体操着を強奪してきてもいいんだよ? 借りればいいって、アンタ恥ずかしいからできないよ。そんなことするくらいなら、気絶させちゃうよ。
 いや、いやいや、おおお、お、落ち着け、僕。何をブレーキが壊れたトラック並の爆走加減で想像を展開させているのだ。体育なわけはないだろう。今日は火曜日だから、湊ちゃんのクラスに体育はないのだ。
ん? 何で判るのかって? 
 妹のクラスの時間割ぐらい覚えて当然だろう。
 するとどうなのだ、湊ちゃんは何故僕を探しているのだろうか?
 いや、僕はバカだ。
 理由よりも、何よりも。
 今は湊ちゃんに会うことの方がっ、重要だっ!
「おーい! 聡くん!」
 競歩選手並みの速さでその場を去ろうとすると、後ろから声をかけられる。
「んだよっ!」
 湊ちゃんが待ってるんだよ!
 と、食いつこうとすると、布袋が目の前にあった。
「はい、お弁当」
「んだよ、これ」
「呼び止めたのは元々これが理由だよ、私、二年間専門で頑張ってきたんだから、食べて」
「はあ?」
「聡くん、人の料理に文句ばっか言って悔しかったんだからね、今度こそ会心の出来なんだから」
 え、だから、何? わざわざ来るかわからない僕に弁当作って待ってたの?
 なんだか、感動してしまうのと、恥ずかしいのとが混ざり合って。
「いや、飯は買うし」
 なんて言ってしまう僕は死んだ方がいい。
「買うよりは安上がりでしょっ! もう、忙しいんだから早く行きなさい!」
 呼び止めたのはそっちの方なのに、なんて抗議を送ろうにも、顔を真っ赤にして言われると何も言えなくなる。
 がんばって、作ってくれたんだ。
 なんか、すげえ嬉しいな。
 そう思うと、自然と言葉は出てきて

「沙里ねぇ、あ、ありが」
「ほら、早く行け! あ、あと五限の後で感想教えてね!」
 沙里ねぇ……、今絶対に沙里ねぇの所為だからな!


 それで、僕は食堂から出て、そのまま何処に探しに行こうかと階段の踊り場で立ち往生しているときにたまたま偶然、湊ちゃんと出会う。
「あ、聡お兄ちゃん。ちょうど良かった!」
 で、僕は弁当を隠す。湊ちゃんに沙里ねえから弁当をもらったなんて、別に恥ずかしくもない事なのだが。だけれど、今日のこのお弁当は隠さなければならない気がした。
「んだよ」
 というか、さっさと用件を済ませてここから立ち去りたい。
 なんだか、浮気をしているわけじゃないのに、浮気をした気分だ。
 湊ちゃんは、嬉々とした天使の表情で僕に一つの包みを出す。
 これは……。まさか。

「聡お兄ちゃん、さ、いつも食堂のお弁当でしょ? 実はねお弁当作ってきたの。それでね、感想もほしいから五限の後で教えてね?」




 どうも、お世話になっております。相嶋聡です。
 皆様にももう解る通りでしょうが、僕には悩みがあります。
 僕は、妹からもらった弁当を食べるべきなのか。
 それとも、幼馴染のお姉ちゃんからもらった丹精のこもる弁当を食べるべきなのか。
 どちらを食べればいいのでしょうか。
 ちなみに、あと二十分ほどで昼休みは終了します。
 つまり二つを食べる時間はありません。
 どうしましょう。

 可及的速やかに答えていただけると、本当に幸いです。

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