ここは何の変哲もない町中の公園。
遊具があって砂場があり、草木があって池のある静かな公園。
ソースの人はそのとある一角にいる。
世の陰。つまり木陰に潜んで暮らしているのだ。
「おじさん久しぶり」
「いやぁ、アミちゃん。頭大きくなったねぇ」
余計なお世話。
「おじさんこそまた一層ソース色に焼けて……」
ダンボール小屋から出て来た初老の男は笑顔で私の靴を磨き始めた。
その両手捌きはまるで、熟練した現役職人の技。
私はこうしてソースの人と話すたび、いつも愛執を覚える。
ああ、それほどまでに私は昔からこの人に憧れているのだな。
「で、どう最近?」
「どこもかしこも不安定だねぇ。何かの弾みで崩壊しちまいそうだ」
「うむ。この先長く現状維持は難しいか……」
私はさり気なくソースの人の小屋を小突いた。
「どうにもならんのかねぇ、わしひとりの力では」
珍しく彼の表情は薄暗く翳る。
「この方法でどうにかなるだろうか」
私はそう言って密かに隠し持って来た茶色い書類を彼へ数個手渡した。
ソースの人は早速その内一つを数cm引き伸ばす。そして目を輝かせる。
「うむ。こいつぁいい考えだ。全く、坊主も成長したもんだ」
「いつも色々してくれたあんたへの礼だよ」
どうやら今回は私が彼の役に立てたらしい。
持って来た書類で組織の仲間を救えるとは。私は素直に嬉しかった。
この善意はいつか私も彼のようなビッグになるための一ステップにすぎない。
私の胸の中で彼への憧れは今も消えない。そしてこれからもずっと。
「ありがとうよ、アミちゃん」
「ああ、また来るおじさん」
こうして私はソースの人との貴重な面会を終えた。
それは実に半年ぶりのことだった。