冴草君2


 冷蔵庫のインコ、まだ発見されてなかったんだな。
 体はやせ衰え、目には精気がなかった。
 けど、もう少しがんばれよ。さすればお前はインコ界の阿闍梨になれるだろう。
 俺は知らなねぇけど。
 
 ザマッチの家へ行くため、俺達は駅へ向かった。
 道中奴の便意は思いもよらぬ幸運をもたらす。
 用足しで立ち寄ったコンビニで、偶然にもみちゃんに会えた。
 彼女はいつも、なかなかどうしてさり気なくエロい。
 分厚い唇のグロスは濡れっぽくて、二の腕は半袖チラリズム。齧ってと言わんばかりだ。
 たまんねぇ。俺、実は二の腕フェチな。
 そんな男のエロ目線なんぞ知らないみっちゃん。彼女は興味ありげに俺のアロハとGパン(ヴィンテージ)を褒めてくれた。
 うむ。目の付け所がよろしい可愛子ちゃん。小憎いよ。
 しかしながら、ザマッチのために俺が警察署へ行ったこと、既に知られていたとは。
 女の情報網恐るべし。驚きだ。
 理由を深く聞かれなかったけど、そこはそれ、気を使ってくれたんだろうな。
 さすがいい女は違う。
 まあ俺だって、口が裂けても身元引受人で行ったっなんて言うつもりなかったけど。
 もし言ってたら、パン一姿にコート着たアホが、早朝公園で見知らぬ女性を追っかけ回していた事を話す羽目になりかねなかったし。
 ともすればあの日、俺だって未成年飲酒が署内でばれかけたんだ。
 そんなしょうもない警察沙汰、言えるわけがない。
 俺は名残惜しかったが、ジャージ姿のアフロ変態がコンビニの便所から出てくる前に、何とかみっちゃんとの立ち話を打ち切ろうと努めた。
 奴がいるとまたややこしくなる。
 幸運にもみっちゃんの携帯が鳴ったおかげで俺達の話はそこで途切れた。
 俺は彼女と別れ際、今度二人だけで飲みに行く約束をした。
 みっちゃん、待ってろよ。あと一ヶ月で必ず落としてやる。
 へへへ。
 だからそれまで、もうちょい髪伸ばしててくれよ。



 人目につかないロケーション。ポリ公の巡回は滅多に来ない。
 電波妨害一切なし。広い駐車場。付近に敵対組織の物とおぼしき建物ゼロ。
 確かにここは地球司令部に間違いないだろうよ。
 当たり前だ。この胡散臭さは只もんじゃない。
 某ローカル列車下車後徒歩約一時間。村営バス乗車後約一時間。バス下車後徒歩約三十分。
 そこはマイナスイオン出まくり地帯。まるで天然保護区域だ。
 山、川、谷、森。リス、兎、鹿? 熊! 
 つまりはど田舎だ。
 大自然の中過ぎて、どう足掻いても人目につかねぇ。ポリ公以前に交番すらない。
 電波妨害、何だそりゃ。風呂は薪で焚いてそうだし、車なんてそこらに停め放題だろ。  
 付近の敵対組織以前に、隣の家はこの先何キロにあるよ。
 そしてこんな辺鄙な所にある文房具屋へ、一日に一体全体どれだけの人間が文具を求めてやって来る? 精々隣近所の婆ちゃんがおはぎ持って来るくらいだろ。
 先ず文房具が要るような学校や事務所らしき建物を来る途中全く見なかった。
 生計成り立ってるのかこの店。
 ザマッチ、おまえの実家って大丈夫なのか?

 なあおい、『座間文具店』の息子さんよ。
 
 帰省の時まで変なカチューシャを外さないアフロ野郎を俺はぼんやり眺めた。
 そう言えば俺、こいつの友達なんだっけ。
 

 玄関で出迎えたザマッチの母ちゃんは地球司令部の最高司令官。
 その後ろに亡霊のように立っていた婆ちゃんは情報補足官長。
 女子高生の妹は身柄を拘束中の凶悪犯。
 爺ちゃんが囚人監視員。
 最後に父ちゃんが息子(長男)で、地球司令部の重要幹部。
 ザマッチは俺に自分の家族をそう紹介した。
 ついでに、
「妻と次男はまだ遠く宇宙の彼方、本国にいる」
 ということらしい。
 はいはいはい。妻と次男ね、本国ね。
 いつも思うけど、その本国って何だよ。
 ここが座間家の外なら俺は間違いなくこいつを5発どついている。


「妹、さっき爺ちゃんに金もらって晩飯の材料買いに行ってたぞ」
「何を言ってるんだ冴草君。あのお札は囚人監視員殿が凶悪犯に渡した外出許可証だ」
 随分可愛い凶悪犯だな。それにいい子だ。ちゃんと逃げずに返ってくるなんて。
 どうせなら俺が連れて一緒にどこかへ逃げてあげればよかった。
 不憫な妹よ。
 
 どうやら座間家で変人なのはこのアフロ息子だけらしい。他は皆普通の人たち。
 何でこんなのが生まれたんだか謎だ。
 因みに晩飯は普通の人間が食べられるすき焼き。肉と野菜とかの。
 これを食って一夜明けると俺は見知らぬ草原で寝ていた。なんてことも絶対ないだろう。
 当たり前だ。
 だって俺の友達、宇宙人でもなんでもないし。只の変人か変態だから。
 そしてここは宇宙人の基地でもなんでもないし。だたの日本庶民の家だから。

「ザマッチ、後で酒とタバコ買いに行くからつきあえよ」
「……ふ、不良エスパー」
 またいつものキモイ目。
 けど今は座間家にいる。さすがにどつけない。
 ああ面倒臭せ。早く帰りたい。
 何より早くみっちゃんに会いたい。 
 それからあのインコ、まだ生きてるかな。
 死にかけ具合がちょっと面白くなってきた。へへ。
 
 てか、酒とタバコってどこに売ってんだこの村。

 
 つづく
sage