星の調書
ザマッチの妻
私は昨日大学からの帰り道で宇宙の変革の徴を拾った。
「友よ、これこそがモノリスだ」
「墓石だろ」
――。
実はこれ生物の進化に影響を及ぼす物らしい。と、地球産シネマで言っていた。多分。
「だからきっとこれをアジトへ置いておけば私の肉体も何かしら進化をとげ……痛っ」
「んなわけねだろ! なに自分のパンツん中覗いてんだ」
ファイト、一発! 冴草ビンタ。
ふん。君はそうやしてずっと私を笑っているがいいさ。いつか目に物見せてあげるよ。
それに私は別におちんちんの進化を望んでパンツを覗いた訳ではない。
単に中で寝ている次男坊が気になっただけだ。彼は冷え性でね。
因みに私はスマートかつインテーリジェントな宇宙人だ。どうせ進化を求めるならもっと崇高な望みを託すよ。もっとこう、人のためになるような。
そうだ。例えば大きなおっぱいで肩が凝るみっちゃんのためにおっぱいをもっと、もっと、もっと、もっと大きく――。
この辺で止めておこう。エスパー冴草の目が怖い。
いつものことだかどうしてそんなに君の目は鋭いんだ。女の子にはその目と色っぽいナキボクロが人気でモテるんだろうけど、私は恐ろしいばかりだよ。
今日はもうこのくらいにして自分のお家か誰か適当な女の子の所へ帰ってくれないかな。
実のところ私は現在ちょっとした窮地に陥っているのだ。
ぺヤング焼きそばが残りあと一個しかない。
おまけにコメ不足で君の大好きな侍ライスですら作れないんだよ。
だから窓辺でタバコなんか吸ってないで早く……。
「おおお! 見ろザマッチ。あのCub乗ってる子、すっげぇ可愛いぞ」
途方に暮れる私をよそに、冴草君は突如窓から見える新聞配達員を指差して叫んだ。
そして嬉しそうに腰をカクカク動かし始める。
「俺やりて――! あの子とエッチやりてぇ――」
全く仕方のないスケベっ子だ。女の子となれば直ぐに下半身で仲良くなことばかり。
大体新聞配達員の一女の子が愛いからって皆が皆君の相手を――!
ヤチヨ
私はその時自分の目を疑った。
あまりの衝撃にぺヤング焼きそばをアフロの上に乗せていたことも忘れて。
颯爽と風を切って走り去るあのまばゆい姿、それは紛れもない私の妻、ヤチヨであった。
「ヤチヨ。あれはヤチヨだ……」
「え、何? ザマッチあの子と知り合いなの?」
「知り合いも何も、あれは私の妻だ!」
エロエロ星人なぜそこで笑う。
私はゲラゲラと腹を抱えてアジトでのた打ち回る冴草君を尻目に窓から跳躍した。
落下、落下、落下――!
パンツから次男坊がはみ出る。
はみ出る、はみ出る、はみ出る――!
街路樹の枝が私を襲う。
襲う、襲う、襲う――!
小鳥の巣がアフロに絡まる。
絡まる、絡まる、絡まる――!
そして最後に私は地面にたたきつけられた。
痛い、痛い、痛い――!
「ザマッチこれ忘れもん」
私が路上で体中の痛みに悶えながらカイジ世界へシフトしていると、冴草君が二階にあるアジトの窓からズボンを投げてくれた。
やっぱり何だかんだ言っても彼は親切なのだな。こうして私を気にかけてくれる。
それともこれもボスとしての務めなのか? まあそんなこと今はよい。
私は傷つきながらもズボンを手に、ゆっくりその場に立ちあがる。
周囲を見渡せばヤチヨの姿は既にどこかへ消えていた。
「ザマッチ、外行く時はちゃんとズボン穿けよ」
呆然と立っている私の背を冴草君が後ろから小突いた。
「ありがとう冴草君。助かったよ」
「いいってことよ。そんなことより今度ヤチヨちゃん、紹介してくれよな」
「うむ」
もちろんだとも。でも絶対君には渡さないぞ。
私は固く拳を握り締めた。
冴草君は私の握った拳にパンチをかますと意気揚々と去って行った。
私は彼を見送る。そして溜息を吐く。
冴草君は私が手にしていた物が実はジャージの上着であることなんて知らない。
持って行ったぺヤング焼きそばが私の最後の糧であることだって無論知らない。
はすだ。
つづく