Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

 冬の寒さを示すように、空の星の輝きがいつもより増して見える。
 僕は時刻を確認するために、左ポケットに入れた携帯電話を取り出す。寒さで手がかじかんでいたせいか、危うく落としそうだった。
「11:50か」
 よく5分前集合とか教えられてきたが、あれは約束の時間に現地で準備万端であるために必要なわけで、僕たちの場合はその準備がない。といっても早いに越したことはないので、入口まで足を進める。
 そこで覚えのあるメイド姿で掃除をする女の人がいた。それにしても年越し寸前に掃除って……。
 僕はさっそく声をかけた。
「すみません、ギルドメンバー募集の要綱をみて参加しに来たのですが…」「はい。あなた方は……マシュロマー家様の息子様方でしたね。お久しぶりです。」
「覚えていただきありがとうございます。」
「では、こちらにどうぞ。」
 そう言って、応接室まで案内してくれた。そこまでまっすぐで行けたが、やっぱり部屋の中の装飾が西洋チックである。僕たちにはなじみのある分、案外落ち着けた。
 この方は確かフミさんだったはず。この方もナナさんの補佐として、一緒に助けてくれた。
「ナナ様、ギルドに入隊希望の方々をお連れしました。」
「ありがとう、フミ。どうぞ入ってください。」
 ドアの向こう側から、聞き覚えのある声がそう告げる。
「失礼します。」
「失礼しまーす。」
 僕はその優しい声からは、プレッシャーも感じていたのにもかかわらず、サーシャは気分がよさそうだ。さっきまではあんなに元気がなかったのが嘘のようだ。
 そこには小柄な少女が立っていた。僕たちよりもさらに低い身長で、フリルの目立つ黒のドレス、まさに人形のような容姿はあの7年前にあったナナさんを思い出させる。さらに特徴的なのは漆黒の首輪をつけていることだろうか。
 僕は入口で立ち止まってしまった。
 その彼女の姿が一瞬、7年前の事件を鮮明に思い出させてくる。
 恐怖とともに。
 だがサーシャが後ろから押してくれた。
 僕にはサーシャがいるんだ。そしてこんなことでひるんではいられない。
 自分の背を押すものは、たくさんある。
「お久しぶり、マシュロマー家の息子さんたち。」
「お久しぶりです。その……ナナさんであってますよね?」
 すごい失礼なことを聞いているが、確信できなかったのかつい聞いてしまった。
「ふふっ、そうですよ。7年前に君たちを救ったそのナナ本人です。」
 そんな恥知らずな質問にちゃんと答えてくれた。
「それよりも、ちゃんと約束を覚えててくれたんですね。」
「はい。もちろんです。」
「うん。私も今日のこの日をずっと楽しみにしてました。久しぶりにナナさんとあえて、とっても嬉しいです。」
 僕の返事の後にサーシャが唐突に話し始めた。やはり知っているというだけで話しやすいのだろうか。たとえ命の恩人だとしても。
「そう。それはありがとう。」
 非常に丁寧に返事をしてもらっているが、一応就職先の人である。こんな態度でいいのだろうか。
 そんな知り合いの家にいるような雰囲気のなか、鐘の音が鳴る。
 ゴーーンという深い響きを期待したがそうではなかった。
 むしろ結婚式でなるような高い音だった。しかも1度のみ。
 その空気の読めない音の先は、隣の塔からだった。きっとここもロイワラのものだろう。
「今ので00:00。募集終了だな。フミ、結局何人募集が来たんだ?」
「フィオさんと、サーシャさん、先ほど来られた方を含めて3名です。」
「うーん、困ったなぁ……。」
 そう、これはギルド法改正の為に行っているから合計10名必要。
 ロイワラでは
 
 現在6名
 募集3名
 
 つまりあと1人必要なのである。
「まったく、あの奴め。なんで10名という数に……。」
 困り顔がちょっとかわいかったが、まあここは黙っておこう。
「とりあえず、今いる3人の試験を今から行います。とりあえずダイニングに招待してあげて。」
「「ダイニング?」」
 予想外の場所にサーシャとセリフが完全に一致。しかしなぜ……。
「とりあえず、面接試験から。個別じゃないから二人同時だよ。」
 そして、そのダイニングへ連れて行かれる。
 そこにはすでに誰か座っていた。
 スーツ姿の女の人がそこで緊張して待っていた。髪はショートでヘアピンでとめてある。面接の挑む人は普通こうだ。
 そこに、常識無視の僕らが登場。
 お互いを見て、沈黙タイム。
 そしてこの沈黙を破ったのは相手側だった。立ち上がってこちらへ向かってきた。
「あっ……あの、私は鷲見 蘭子(すみ らんこ)と申します。えっと、あなた方も、ここを?」
「はい。僕たちの3人が受験者らしいです。僕はフィオ・W・マシュロマーで、こっちが妹のサーシャ・W・マシュロマーです。」
「私が妹のサーシャです。よろしくね!」
 お互いの自己紹介が終わると、ナナさんが何か持ってやってきた。
「ではそこのソファーに座ってください。これから面接試験を開始します」
 3人そろってソファーに座る。左からサーシャ、フィオ、蘭子の順。女男女。嫐。
 もしかして、蘭子さんは僕を男と見てないのでは……。それとも、そんなに意識しないのだろうか。
「フミ。3人に紅茶を。」
「かしこまりした」
 大きなガラスのテーブルを挟んで向こう側のソファーに、ナナさんが座る。「では改めまして、Royal Warrant 総長、姫女苑 那奈(ひめじょおん なな)と申します。これから面接試験、といっても実践もかねていますが。」「!?」
 ある程度予想はしていたが、やはりナナさんが総長であった。
 総長という風格は見えないのだけど、信用できる。理想とまでは行かないが、僕の望む総長であったのはうれしかった。
「では総長、いまから何をするのですか?」
 サーシャが慣れしたんだように話しかけている。もうちょっと自重できないのかと思うのだが、ここでは正解なのかもしれない。
 その回答として、那奈さんは机の上に四角い物を置いた。
「トランプ?」
 今度は蘭子さんが疑問を抱く。確かに、これから遊ぼうというのだろうか
「今から、私とポーカーをしてもらいます。合計3回。このゲーム間であなた方の潜在能力を見させてもらいます。」
 そう言って、テーブルの上に一枚ずつ並べていく。神経衰弱を始める準備と同じだ。同時に紅茶もいただいた。
「テーブルの上に今52枚のカードを置きました。今から1人ずつカードを1枚持っていくのを5回行って手札を作ります。その5枚で勝負してください。通常のポーカーのように取り換えはできないのであしからず。」
 目の前には13×4で置かれたトランプ。自分にはカードが透けて見えるとか、そんな力はないので適当に選ぶ。
 サーシャも腕を組み、ちょっと考えたみたいだが結局適当に。
 蘭子さんは結構考えてとっていた。なにか見えるのだろうか。
 みんなが取り終えたあと、ナナさんが目の前の5枚を一気にとった。
「では、私は2のスリーカードで勝負です!」
 まだカードを見てないのに勝負宣言するナナさん。すごい人だとは思っていたけど、まさかここまでとは。
 宣言通りのスリーカードに対して、みんなの手はこうだ。

 一回戦
 フィオ:ダイヤの34567のストレートフラッシュ
 サーシャ:ダイヤの2、スペードの3と7、クローバーのJとKでなし
 蘭子:スペード以外のQが3枚とJとKでスリーカード

 僕の手札に蘭子さんは、かなり驚いたのか顔が固まっていた。
 いきなりストレートフラッシュが出るのは疑うのが正しい。だが、これが僕の才能といえる部分なのかもしれない。

 確率の支配

 よく伝奇な話にでる悪魔とかは、この能力を持っている。自分は確率の支配とまではいかないが、自身の運がずば抜けているのは、17年間の生活で十分把握した。
 だから、この勝負では負ける気はしない。
「さすがですね、フィオ君。そして、蘭子さんも。」
 ナナさんは蘭子さんの才能に気がついたのかもしれない。
 そして妹はこの結果である。
「お兄ちゃん、私の運持って行かないでよ!」
「いや、そんなことできないから!」
 なぜか抗議されるハメに。
「あのぅ・・・。」
 蘭子さんが尋ねてくる。
「フィオさんって、男なんですか?」
 やっぱりさっきの答えは蘭子さんの勘違いだった。
「はい、僕は男ですよ。」
 その答えを聞いて、蘭子さんは固まった。この人、フリーズしてるけど、大丈夫なのだろうか。
 そのまま2回戦、3回戦と続いたが結果は見えていた。なぜか、ナナさんはスリーカード以外出さないという、人外技であったが。でもそれは人のことは言えないかもしれない。

 二回戦
 フィオ:10が4枚とスペードの7でフォーカード
 サーシャ:ダイヤのJ、ハートの5と、スペードの2とJとKでワンペア
 蘭子:ハートの237QKのフラッシュ

三回戦
 フィオ:ハートの10JQKAのロイヤルストレートフラッシュ
 サーシャ:クローバーの7、ハートの2と3と5、ダイヤのKでなし
 蘭子:ハート以外のKとハートとクローバーの9のフルハウス

 僕はまあ、勝てることは想定内だったが、蘭子さんも確実に高い攻めてである。役が僕のより低いにはわざと下げているのだろうか……。
 そして、サーシャは何もできず。
「うーん。やっぱり難しいなぁ。」
 そうサーシャが言っているが、これは難しいとかいう話ではない。明らかに才能や能力の差である。サーシャの力では無理なのである。
 そして、これで一応実践は終了?らしい
 ナナさんが、ポーカーの最中に書き込みをしていた紙を見ていた。そして、「ふぅ……」とため息。
「ではこれから評価の方を。まずフィオ君、まあわかってはいましたが幸運の率が以上ですね。と言ってもバラツキがありますが、おそらくそれは集中力の誤差です。それでもすごいとしか言いようがありませんが。」
 これは衝撃的だった。
 まさにその通りだった。この運は気持ちによって左右される。いつもこのようなカードゲームで全力で挑んで3回ともロイヤルストレートフラッシュで終わらすことも可能であった。
 この能力に関して助言がもらえるのは初めてだった。自分の力を認めてくれる上に、正しく見てくれる。僕にはうれしい限りだ。
「次に、蘭子さん。あなたはカードの気質が見えるのでしょうか。まだ一つの絵柄だけしか特定できていないと思いますが。」
 蘭子さんも驚きを隠せないみたいだった。
「はい、その通りです。私は人間以外の生物と会話をすることができます。その能力の延長上として、最近は無機質でもなにかしらのオーラは見えるようになりましたが。」
 やはり、そういう類の能力だったらしい。
 でも、自分の能力をそこまで知っているのはちょっとうらやましかった。
「最後にサーシャさん。」
 ここが問題である。僕もサーシャが能力を使っているのかどうかわからなかった。というかこのゲームでは使えないと思うのだが。
「これが私が悪いのですが、おそらくポーカーのルールを知りませんね。」
「あっ、そうです。」
 サーシャはそう答える。
 問題点はそこであった。知っていると思っていたが、まったくの無知らしい。知っていると思っていた僕が悪かった。
「そこであなたは、自分のルールに則りカードを選んだのですね。結果としはダメでしたが。たとえば、「素数」とか。」
 それを聞いて、今までのサーシャの手札を考えてみる。たしかに素数のみで構成されていた。これではストレート系はまず無理である。
「でもどうやってサーシャさんはカードを選択したのですか?」
 蘭子さんが疑問の確信にせまる。確かにこれはカードが見れなければとうていできない代物だ。
 それを聞いて、サーシャがこう言った。
「最初にナナさんが、カードがちゃんと混ざっているか、純正かどうかを確認するよう私に渡したでしょ。その時に1枚ずつ柄と順番を上から覚えていったの。そして、テーブルに置かれる時にすべての位置を把握したの。」
 サーシャの能力は知っていたがこんな利用法があるとは。
 兄である僕でさえ関心する使い方だった。
 サーシャは僕の運要素に正反対な理論の能力で、一言でいえば頭の中にパソコンが入っているようなもの。
 パソコンは性能が同じでも、使う人によってできることは千差万別。
 だが、パソコンと一体化しているサーシャの場合、それを大きく凌駕する。使うというよりは、体の一部を動かすものだ。
「なるほど、そういうことでしたか。ふふっ、本当にあなた方兄妹は、両親そっくりですね。」
 笑ってそう話すナナさん。それほど親に似ているのだろうか。自分には確信はなかったが。
「ではこれにて実技は終了。問題ないと思います。私が欲しいのは能力や才能というよりも、個性なのですから。」
「個性……ですか?」
 素朴な疑問だった。現代において、力の源の能力が最優先されるはず。
「そう、能力や才能というのは、伸ばすことができるからね。でも個性は違う。人の個性を変えることは、そううまくいかないからね。いろんな個性があればここも楽しくなると思うし。」
 そう話すナナさんの目の先を追うと、キッチンで作業するフミさんがいた。目が合って、恥ずかしくなったので、ナナさんのほうへ視線を戻す。
「と言っても実技が合格で入隊を許可しますけどね。面接はあなたがたの魔力の種類を知りたいので。」
 入隊を許可?
 一瞬考えたが、確かにそう言った。
「合格ですかっ?」
 思わず席を立ってしまう。
「やったねお兄ちゃん!」
 サーシャも嬉しかったのか、隣で立っていた。
「合格、したんだ……。ロイワラに。」
 蘭子さんも嬉しそうだ。あ、やっぱりロイワラって言うんだ。
「そう、3人そろって合格です。おめでとうございます。その前に……。」

 ?

 記号でいえばそんな気持ちだった。まだ何かあるのだろうか。
 考える間もなく、自分たちの前には、お椀が置かれる。
「ちょっと遅いですが、年越しそばです。やっぱりこれを食べないと1年が始まらないというか、終わらないというか……。でも、これが初のギルドメンバーで食べるお食事なので。」
 ロイワラが格が違った。常識からの離脱率が。

       

表紙
Tweet

Neetsha