Neetel Inside ニートノベル
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 1月1日午前10時。
 日本人は、この日から3日まではのんびり暮らすそうだ。
 僕のいたところでは、新年を迎えたら特にお祭りになることはなかったし、いつも通りだった。仕事はほとんど機械によるものが大半だったので、特に人手を要するものなどなかった。
 でも、自分の目の前にある光景はそんな日本文化なんてなかったもののように感じられる。昨日とほとんど変わらない日常がそこにはあった。

「では、これより実践を始めます。対戦相手としては、新人4名 対 総長1人でお願いします」
 フミさんの進行で予定通り実戦練習を行う。
 その他のルールとしては、

・時間制限なし
・武器、能力制限なし
・動けなくなったら戦闘不能で離脱
・勝敗はチーム全員が離脱または降参

 など普通のルールであった。
「開始前に、作戦の時間を5分用意します。その後、開始です」
 僕たちは、作戦会議を始める。
 もちろん一人でかなう相手ではない。4人でやってもおそらく無理だろう。戦闘上、複数人のほうが圧倒的に有利である。だが、チームワークが悪ければ、一人の時の方がましの場合もある。
「作戦会議したいんですけど、チカさんの能力ってなんですか?」
 まだよくわかっていないチカさんに関してまずは知る必要がある。
「私の能力【黄金札(こがねざね)】は戦闘向けではないです。申し訳ないです。あと、昨日はすみませんでした・・・」
 昨日と言えば、蹴られそうになったことか。別に気にしていなかったが、受け取っておくべきだろう。
 たしか、黄金札は名家特有の能力。お金の製造というまったくもって違法性丸出しの能力だけど、政府が特に規制していないのだから大丈夫だろう。
 お金があればなんでもできるのだから、この能力は現代社会では非常に強い。だから性格が傲慢になり、周りからは謙遜されやすい。
 チカさんも昨日まではそうだった。しかし、今の状態からしてみるとそうでもなさそうだ。ナナさんのあの言葉が変えたのだろう。
「いえ、僕は大丈夫ですよ。僕は【蓋然収斂(ビジブルデイ)】ってのと、もう1つ【n時間(アルタイム)】の2つの能力があります。といってもn時間はまだ全然使いこなせていないのですが・・・」
「私のより全然いいじゃないですか!しかも2つもあるなんて。うらやましいです」
 よほどうらやましかったのだろうか。能力は生まれてくると同時に所持し、普通2つ以上の能力を持つことはない。というか持てない。数十万人に一人の確率でいるらしいけど、僕もその一人だ。
「蓋然収斂は確率を有利な方向に持っていく能力ですが、必然的に0%または100%の値を変えることはできないです。n時間は時間を遅延または加速させる能力です」
「あ、私は【幾何処理(フェノメノン)】って能力だよ。言いにくいけどね。電算処理やネットワーク系の支配能力というのかな?」
 サーシャも追加で説明した。フェノメノン=天才。ほんとうにそうなのかは疑いが出てくるが・・・。
「私の能力は【在華(ざいか)】です。植物との意思疎通と、成長促進ぐらでしょうか」
 蘭子さんも紹介してくれた。成長促進もあるんだ。それは人体にでも有効なのかな―――。
「うーん難しいなぁ」
 正直どうやってこれを生かせばいいのかがわからない。
 能力とは別に各個人で使い慣れている武器もある。話をするなかで、みんな違うものを使っているみたいだった。
 僕は夢幻銃という武器を使用している。弾数に制限なしで、種類を自由に変えることができる。かえることができる種類は今まで自分が触れた物にかぎるけど、ロケットランチャーから核ミサイル、ましてや水鉄砲でも有効らしい。というかそうだった。
 妹は携帯電話を武器にしている。情報を携帯に取り込ませ具現化し、あらゆる攻撃を可能としている。いろんな種類があるので、いろんな敵にたいして対応しやすいのが売りだ。
 蘭子さんは鋏だった。ただ、剣みたいで長くて切れ味もすごい。どうやって戦うのかが不明だったけど、おそらく剣と同様だろう。植物系の能力ならではなのかもしれない。
 チカさんは戦ったことがないらしく、これといった武器がないらしい。とりあえず、お金を降らせれるみたいだったので、それをやってもらうようにした。

 あっという間の5分が過ぎ、戦闘が始まる。
「それでは、いまから模擬戦闘を開始します!」
 その合図とともに僕たちは攻撃を仕掛ける。
 まずは、試しに僕が速攻で銃を数発打ち付ける。そして、白露さんがやっていたこととまねして、筒を構えて一気に発射。
 あたり一面が爆風に巻き込まれる。
 しかし、そこで止めずさらに追加攻撃を行う。
 そこでみんなの出番だ。
 蘭子さんは植物をあたり一面に発生させ、ナナさんの行動を妨げてもらう。 周りへの行動ができなくなったところへ、チカさんに硬貨を降らせてもらった。すごいもったいない感じがするけど・・・。
 これは単純に目くらましにつかえたが、さらに有効に使わせてもらう。
 上空から降ってくる100円硬貨。それにむかってサーシャが携帯から出力した高圧放電を行う。これにより、空間全体に放電させどこにも逃げれないようにした。
 その間僕はn時間の能力を発動させ、最後のロケットランチャーを打ち込む時間を用意をした。放電が収まりそうな今、打ち込む。
 またも爆風が広がり、視界が失われる。
 今はただ、結果を待つだけだった。
 やがて、煙がなくなる。
 
 勝利を確信するのは、自分に溺れることだと昔両親に言われた。
 確信は結果ではない。この世では結果が全てである。確信はその序章でもなんでもない。ただの自己判断の一片だと。
 僕は正直理解できなかった。自身の蓋然収斂の能力故に、わずかな希望さえあればかならず勝てるともっておいた。昔見ていたテレビ番組の戦隊ヒーローも勝っているのではないか。

 ただ、僕の目の前に広がる光景は絶望であり、希望なんて0だった。
 蘭子さんとチカさんが倒れている。妹は大丈夫みたいだ。
「他人の心配をしていても大丈夫なのかな?」
 その言葉を聞いたとき、僕の目の前にナナさんの姿が。
 そして腹部に痛みを感じる。次第にナナさんの姿が遠くなって小さくなっていく。
 僕は飛ばされ後の壁面に衝突。だけどまだ戦える。
 もう一度n時間を発動させる。おそらく、これで最後だろう。この能力は消耗が激しすぎる。
 n時間を発動させる。そしてサーシャのもとへ近づいて体勢を整える。そうすればまだ可能性はある!
 そうシミュレーションを行い、最後のn時間を発動。極限まで時間を遅くし、サーシャのもとへ近づく。
 周りの景色が止まっている。発動は十分だ。
 ただ自分の体が重たい。あそこまで辿りつけるかどうかだ。
 あと10m。5m・・・
 そして、妹のもとへ到着した。
 よし、これで体勢を整えて―――。
 だが、隣にいるのは妹だけではなかった。
 妹の後には人影があった。
「自身の能力の過信はよくないよ」
 その言葉を聴いた直後に、腹部に痛みが。
 目の前が暗くなる。意識が持たない――。
 必死に抗ったが、その場に倒れ込み意識を失う。

「んっ・・・」
 意識を取り戻し、周りを確認する。
 壁で覆われた庭園
 ロイワラの人たち
 これまでのことを思い出し、立ち上がる。
「あ、ちょうど目覚めたみたいだね。今から結果を報告するから」
 ナナさんの周りにはメンバーが集合。いまから実戦の結果について話があるそうだ。
「みなさんお疲れ様。新人組は、まずまずかなぁ。もうすこし能力を生かした作戦が立てれるといいかもしれないけど、時間が早すぎたかもね」
 新人組の結果をいうナナさん。自分でもわかっていたが、あの短期間で身内を知り、作戦に生かすのは正直無理だった。これでも極限まで考えたものだが。
「能力は個性だよ。つまり長所もあれば短所もあり、同じ能力でも他人とは効果が異る。そのことをよく理解するように。自分の能力が優れていると思うのもダメ。それ以上のことを目指していくように」
 自分の能力を知るということか。自分でも理解しているつもりだが正確な数値として知っているものではない。その部分まで理解しろってことなのかな・・・。 
「で、けーちゃんとはーちゃんは良かったね。朝の時よりも無駄な動きがないし、威力も高まってる。これなら☆☆☆ランク相手でも3分以内で突破できるレベルかな」
「ありがとうございます」
 啓蟄さんが感謝の意を示す。
「最後に、そこの剣バカ2人。2人連結技がなってないよ。1人の時の行動では後ろにスキができてるし。まあ覇雁(はがん)が出せれるようになったのはよかったよ」
「どーもっす」
「ありがとうございます」
 2人ともお礼をいう。

 僕は結局、あれから30分程度気を失っていた。
 その間、他のロイワラメンバーが実戦を行い、それぞれ終了している。
 気になったのは、フミさん VS ナナさん
 この2人はギルド内のルールとしてペアを作ることになっているから、この2人で組んでるはずだけど、戦うらしい。そして、この戦闘時間が一番長く15分だったらしい。
 妹や蘭子さん、愛さんはそれを見てたらしいけど、見えなかったらしい。動きが早すぎて見れないのかと思ったら、空中戦だからだとか。お互いに魔力で浮遊し、上空で戦闘。そして爆発。
 いうなれば戦争状態だったらしく、見ることよりも自分の身を守るので精一杯だったようだ。ぜひ見てみたいものだ。
 その後、休憩を取るため洋館に戻る。その戻る中で、ナナさんに声を掛けられる。
「新人4人にここの方針を話してないと思うから、それについて一括して話すつもりだから、ロビーまで集めてくれる?」
「はい、わかりました」
「あとさっきの実戦だけど」
 まださっきのことで何かあるみたいだ。このことも後で一緒に話をしてくれると予想していたが。
「君はどうして光系の魔法を使ってる?8年前のあの時、君はどちらかというと闇系に分かれるほうだった」
 8年前・・・。
 ちょうど、僕とサーシャが故郷を離れた時か。親を失い、助けを求める中、ちょうどナナさんとフミさんに助けてもらっていた。
 その時は自分の属性は闇系でった。攻撃には炎属性、水属性、土属性、気属性、電気属性があり、それぞれ光系と闇系が存在する。どちらかの傾向に傾いた場合、反対側の傾向の能力は使うことができない。なので、光系を選んだなら闇系の技は使うことができない。属性としては全ての属性を使用することができるが、たいてい2~3つメインの属性を各個人で決めている。
 僕はナナさんにあこがれて光系にしていた。生まれた時点で、個人で使いやすいものは決まっている。でもその当時では僕も戦闘経験がなく、自身が何に向いているかも知らなかった。
「僕はあの時ナナさんに助けてもらって、それで―――――その、あこがれて―――――」
 つまりながら話す。いまだに、緊張する。
「なるほどね。しかし、私は例外だ。光系も使うし、闇系も使う。ただし、それぞれ純粋なものだから、属性は付かない」
「そう・・・なのですか」
 正直驚いた。光系と闇系の両方を使用したい場合、「属性の軸に乗らない=属性を持たない」という条件が必要となる。これは昔は低俗扱いされていて、非難の的であった。それだけ、普通より劣化した存在であり、それは昔から続いている。
 現在、☆☆☆クラスの人がその両系統の使用者である人はいない。それが現実の結果として出ている。
「で、君は闇系を使わないのかい?」
「僕は自分で光系があってると思っていましたから。それと闇系というのはどうも過去を思い出しそうになって」
 僕たち家族を襲った集団。それは闇系の魔法ばかりだった。おかげで、闇系の魔法はトラウマであり、自分でも使うことをやめている。光系の魔法を使う者としてはまったく無縁の代物だし、気にしてはいなかった。
「そうかい。でも過去を忘れるというのはかなりつらいものだぞ。それが楽しい過去ならともかく、つらい過去でも。それらは生きていくうえで必ずどこかで繋がり役に立つから・・・」
「難しい話ですね」
「ただ、君も自覚していると思うけど、君も私と同じ両系統を使う者。8年間、属性なんてものは付加しなかったでしょ」
「はい―――――」
 結局のところ、僕もナナさんと同等であった。サーシャが光系の電気属性、気属性、炎属性を有しているので、僕もなんらかの能力が附加されると思っていた。結果はこのざまであるが。
 それにも正直あきらめていた。やはり、この時代でも遺伝というものが続いてる。現代科学では修正も容易なレベルで、自分の子をこんな風な子にしたいとかいう親もでてきている。かなりおぞましいはなしだ。
 だが、僕たちの親はそんなことをしていないらしい。この両系統持ちは母の影響だろう。僕と同じ容姿をしていた母。どうしてこれを残しておいていたんだろうか。
「ナナさま。フィオさま。お話の中、失礼します」
 思い悩む中、フミさんが後ろから声を掛けてきた。
「ナナさま。お風呂が準備できておりますので、まずはそちらへ」
 そういうことらしい。僕も体をきれいに洗い流したいところだった。やはりメイドさんである以上、そういった気がきく行動はできるのはあたりまえか・・・。
 いや、この人さっきまでナナさんと戦闘してだいぶ疲れてるはずじゃ。顔を見ても疲れた感じは見られない。大丈夫なのだろうか・・・。
「それじゃ、フィオ君も同行で」
「えっ・・・」
 朝の命令が早くも実行された。
「了解しました。ではこちらへ」
 フミさんもそのつもりらしい。逃げようとしたら、腕をつかまれた。
 ちょっ!痛い痛い。
 だれか助けて―――

       

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Neetsha