Neetel Inside ニートノベル
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(収納)
 レビトがそう唱えると同時にカードがたくさんの光の粒となり、そのまま宙へ溶けるようにして消えていった。その様子はちょうどベースカードが生成される光景の時間の流れを逆にしたようであった。
「同様に『支出』と念じれば収納したカードを取り出すことができます。これはベースカードにもともとついている機能なので専用にカードを作らなくてもよいのです。さて、先ほどカードに付けた『名前』、『発動』、それから『ID1』の順に念じてください」
 ID1のベースカードは収納せず、まだ手元にある。レビトはそれを見つめながら心で念じる。
(オーナーカード還元発動、ID1)
 すると、手元にあったベースカードがさっきカードを収納したときのように光の粒にばらけ、今度は宙に分散せずレビトの胸へ吸い込まれていった。
「これでID1のベースカードは魔力に還元されました。こうして還元された魔力はおよそ百七十五時間のあいだ、カード生成には使えないのでご注意ください」
 レビトは光の粒が吸い込まれていった胸をさすりながら、ふと、むうとうなる。
「なるほど……、しかし収納と支出はできて、なぜ還元は出来ないんだ?」
「それはカードで、ということですね。ごもっともですが、しかし、これはこういうものとしてご理解ください。なにしろ古いものなので」
「ああ、そういうことか」
「そういうことです。このようにしてカードを作り、カードへ効果を書きこんで今後の旅の助けとしてください。質問が無ければ次へ移りますがよろしいですか?」
 レビトは女の問いを聞き流し、しばらくカードを収納したり支出したり、あるいはあらたにベースカードを何枚か作り出したりして実験していた。やがて合点がいったのか、ふむとうなずいて女のほうへ向きなおった。
「とりあえず分かった。次の説明を頼む」
「了解いたしました。次が最後の説明となります」
 女は光る板を取り出し、何やら操作した。するとその光る板から光が伸び、宙に何かの図を映し出した。図の上部にはゼロが三つ入った枠、下部には格子状になった無数の枠があった。格子状になった無数の枠のひとつひとつには文が表示されていて、それらがゆっくりと上から下へと流れている。
「この世界の人々は生まれつき何らかの能力を持っています。それは歩いたり喋ったりといったありきたりのものではなく、火の玉を生みだしたり、水を酒に変えたりといった超常的なものです。これを持たないあなたにこれらの能力のうちひとつを与えます。ただし」
 なぜか女はそこで一旦言葉を切り、レビトを見つめた。
「与える能力は私がルーレットで選ばせて頂きます」
 ちろりと、女が舌なめずりしたように見えたのはレビトの気のせいであっただろうか。しかし女の顔を見ればかすかに頬が紅潮し、さっきまで無表情だった顔も一転して微妙に笑みを浮かべているようにも見える。
「このルーレットにはこの世界に伝わるあらゆる能力が網羅されています。これらのうちひとつを人の手で選んでしまうのは、この世界で運命に翻弄されている人々に対して不公平でしょう。そのため私のほうでこのようなものを用意させていただきました」
「まあ構わない。これもカードになるのか?」
「いいえ、これはカードを介せず、あなたの意思のみによって扱うことが出来る力です」
「不公平と言ったが、それはつまり能力によっては不公平が起きるほどの力を発揮するということか?」
「その通りです。幸も不幸もルーレット次第、得た能力を活かすも殺すもあなた次第、というところです。問題なければルーレットを回しますがよろしいでしょうか」
 懇切丁寧な雰囲気を醸し出していたルーレット前の女とは打って変わって、今の女は慇懃無礼な態度を隠しきれない、嘲笑したい衝動をなんとか抑えているかのようだ。
「ああ」
「では、始めさせていただきます」
 女が光の板を操作すると、途端に表の上に表示された三つの数字が目まぐるしく変化し始めた。釣られて表の方にも変化があった。枠のうちひとつが赤く光り、それが数字の変化に合わせて動き始めたのだ。恐らくはあの数字が止まった時に合わさっていた枠の文がレビトに与えられる能力の名前なのだろう。
 多くは動きの速い赤い枠に翻弄されて確認出来ないが、中にはちらりと目に飛び込んでくる名前もある。ほとんどが抽象的なものだが、一部は彼にも想像することが出来た。

       

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