Neetel Inside ニートノベル
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「は?」
 レビトはそう言いながら彼の隣で浮いているグラマに触ろうとする。
「そ、それは、私には職務がありますし、第一、私の実体はここにはありませんから不可能です!」
 グラマは彼の手から逃れるようにあわてて飛びのき、それからもっと高空に上がって彼を睨みつけた。
 グラマに触りかけた手を引っ込め、頭をばりばりと掻きながらレビトは言う。
「冗談だよ」
 レビトは頭上高くに浮かんでいるグラマを見つめていたが、ふとその視線が少し下に移動した。そして軽く苦笑いを浮かべると足元の粘液状生物へ視線を戻した。
「そうですか、それなら良いのです……」
 瞬間、ほっとしたような表情を浮かべたグラマだったが、レビトの視線移動の意味に気付いたのか、ワンピースのすそを叩くようにして抑えた。
「みっ、見ました? 見ましたよね?」
「見てないさ」
 レビトは落ち着き払った様子で粘液状生物に指を押しつけ、そこに指の跡が残る様子を楽しんでいる。
「さあ、それより同化術のやり方を教えてくれないか。いい加減にしないと日が昇ってくるぞ」
「うー……」
 納得いかないような顔をしていたグラマだったが、ついに観念して元の高さへ降りてきた。
「分かりました。あなたの同化術は相手と直に肌で触れ、『能力発動』と唱えるだけで発動します。同化完了までは一分ほど要し、同化を途中で止めることはできません。また例えば服を着ている人間に同化術を使いたい場合、服に手を触れた状態で同化術を発動すると服を同化することになりますのでご注意ください」
「なるほど。では、試してみるか」
 レビトはさっそく、彼の指の跡だらけになっていたそれに手のひらを押しあて、心の中で『能力発動』と念じた。すると魔法カードのような視覚的な変化は無かったが、即座に彼の手のひらへ違和感があらわれた。
 粘液状生物と手のひらが一体化したようにその間の感覚が不明瞭になり、徐々に肉体へ何かが浸透していくような感覚があらわれたのである。
手のひらの辺りから感じる痒いような、こそばゆいような捉えどころのない感覚にレビトは手を引こうとしたが、彼の手は既に年退場生物と同化していて無理に引きはがすことは難しそうだった。
粘液状生物は、その体に付いていた砂やら小石やらを落としながら彼の手のひらへ吸い込まれていき、グラマの述べた通りちょうど一分くらいで同化を終了した。
レビトの手のひらにあった違和感は同化が終わると同時に無くなり、彼の体の内側にあった浸透していくような感覚も直に消えた。
「これであなたは粘液状生物の性質を会得しました。これからは自由に体の形を変えることが出来るようになった、はずです」
「ふむ」
「今回は粘液状生物だったのでそれ以外の特典はありませんが、今後固有能力を持った生物と同化した場合はその能力を得ることが出来ますし、魔力を持っていた場合はカードを含めた全てを得ることが出来るようです」
 と、グラマは手元の資料を見てうなずきながら説明する。
 レビトは試しに『能力発動』と念じてみたが、何も起きなかった。同化術が発動したが、対象が無かったために効果が出なかったのだろう。
 それからしばらくの間、レビトはもくもくと試行錯誤を続けていた。どういうわけかグラマが粘液状生物の能力の発動方法を説明しなかったために、自力で方法を見つけようとしていたのだ。
「あっ」
 手のひらを見つめながらあれこれと念じていたが、単語には一切反応しないのをみて体が融ける様を思い浮かべた途端、熱くしたチーズのように彼の腕が融解したのだ。
「ご自分で能力の扱い方を習得したようですね。この短時間で発見されるとは流石です……資料には載っていなかったので助かりました」
「……何か聞こえたかな」
「いえ、何も」
 レビトは呆れたようにかぶりを振って、再び半ばとろけた彼の腕に集中した。骨格に関係なく曲がり、軽い粘着質を持つあたり全く粘液状生物のようではあるが、透明にはなれないらしい。それからしばらく振り回すなどしていたが、飽きたのか元の形へと戻した。

       

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