Neetel Inside ニートノベル
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「さ、入れ」
 言われるがままに英正は生徒会室へと足を踏み入れる。それと同時に、委員達の視線が集まる。

 中には顔見知りの奴も居るな。

 そんなことを考えながら室内を見回す。そして、ひとりの女子生徒と目が合った。コンマ数秒の沈黙と硬直。
「あ……ああああああああああああああああああああああ!?」

 そして、絶叫。

「え? ……ええええええええええええええええええええ!?」
『ほぅ……。昨日の夜に会った女だな』

 偶然なのか、必然なのか。あの時取り乱した英正は逃げてしまったが、仮面をつけた格好の自分を朋也と間違ったことを踏まえると、いずれにせよ交流を持つ運命だったのだろうか……。
「なんだ、知り合いだったのか? 丁度いい、俺はこれから会議があるから、色々教えてやってくれ! じゃあな!」
 ハニカミ笑顔でコーヒーとタバコに汚染された黄色い歯を見せながら、山下先生はそそくさとその場を後にした。

 ちょ、待ってくれよ……。なんで今日はこんな日なんだよ……。

『ははは。お前に痛い目線が集まってるぜ。なんせ教室入っていきなり奇声だもんな。そりゃ引くぜ』

 
「あー、えーっと。じゃあ、あのー、俺会長の佐々木(ささき)です。サッキーって呼ばれてます」
 この糞な空気にいち速く反応したのは生徒会長だった。この細かい気配りがきっと彼を生徒会長へと至らしめたのだろう。
「あ、じゃあ私。書記の長野(ちょうの)。不本意だが、姐さん、と呼ばれてる。よろしく」
 彼女はとても姉御という感じがした。身長も高いし、なによりクールビューティーなオーラがビンビンに出ている。

「――待ってください! 俺はコイツ生徒会に入れるの嫌なんすけど!!」

 一人の男子生徒が一声が室内の空気を凍りづけにした。

「……大宅、理由を聞こうか?」
 英正はこの青年が誰だか知っていた。
 名前は大宅 左右太(おおたく そうた)。ここ一帯で一番大きい総合病院『大宅総合病院』の医院長、大宅氏の一人息子。成績優良、スポーツ万能、容姿端麗というチートスペックを持つ。そんな彼を英正が何故知っているのか……。有名人ということもあるが、もっと単純に同じクラスだからでもある。

「彼と僕は同じクラスですが、彼はいつも一人でぼんやりしていて、とても生徒の規範となるべき生徒会には相応しく無い人物です。だから反対です」

 そんな彼に生徒会入会を拒否される英正は何とも惨めである。言い返したい。たが、彼の非が見つからないし、言っていることも事実。それがより一層英正を惨めにさせる。

 ただ、そんな英正にも味方はいた。

「……言い分は分かった。だが大宅の意見は聞けない。まず生徒の規範となる、これを決めるのは俺達じゃなくて生徒自身だ。みんなバカじゃないから自分で判断するさ。そして彼を入れない、それを決める権利は最終的に生徒会長である俺と顧問にある。彼が使えるか、使えないかは俺が判断する。ただ先生が連れてきたんだ、ハズレではないさ」
「……分かりました」
 サッキー会長の言葉に、腑に落ちない点があるようだが大宅は剣を鞘に納めたように黙った。
「悪いね。まあ彼も生徒会を考えてのことだから許してやってよ」
 副会長、いや姐さんはそっと耳打ちした。流石副会長だけあって素晴らしい気遣いだ。

「……はい」
 まあでも、英正もこういったことは慣れてる。

「あ、そういえばあなたの名前、聞いてなかった」
 姐さん今度は小声ではなく普通に言った。
「……日向野です。日向野 英正です」
 約二名を除き、殆どの委員達がよろしくと快い挨拶を返してくれた。

 かくして、英正の前途多難な生徒会が始まる。

       

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