Neetel Inside ニートノベル
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P-HERO
最終話:P-HERO 前半

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 夕立の商店街。その喧騒を避けるかのようにある酒場の路地裏。そこには一台の黒いセダンと、その脇に佇む男。見た目は四十歳後半辺りだが、雨に濡れているせいで若干老けて見えているのかもしれない。その男は雨雲に両手を伸ばしまるで子供のように笑っている。その雲はとても不思議で、晴れている場所と雲がくっきり分かれていて、さらに夕日の赤が混じりとても幻想的なものだった。
「ついに、ついに見つけたぞ! 奴の情報は本物だった! 最高だ、最高の気分だ!」
 部下と思しき男が運転席から傘を持って飛び出した。だがそれを雨に濡れた男は制した。
「この気持ちのよい雨水をなぜ避けねばならない? これは特別なのだ。まさに神秘なのだよ」
「しかし、お風邪を引いてしまいます」
「ふむ。だが不思議と体は冷えない。体の内からふつふつ湧く、子供が新しい玩具を目の前にした時のような感情が、まるで熱を帯びたように感じられるのだ」
「……既に兵は手はず通りに。後は時間の問題です。はやる気持ちもよく分かりますが、体を壊されては元も子もありません。これからの事もお考えになれば、ここは一先ず」
「そうだな。年甲斐もなくはしゃいでしまったようだ」
「お気持ちは良くわかります」
「では行くとしようか」
「はい」
 徐々に雨脚は弱くなってきていた。雲と晴れ間の境目もぼやけてきている。黒いセダンは走りだす。目的は一つ、世界を手に入れるために。


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