Neetel Inside ニートノベル
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「それにしても、一台も通らないねぇ……」
私の気も知らずに。繭歌は疲れた様子で、リュックにあごを乗せて手をぱたぱたと動かしている。
「国道なんだから、一台ぐらい通ってもいいのにね」
 その一台が、私達を乗せてくれるとは限らないけど。
 待ち続けて、30分は経っただろうか。
 ようやく、遠くから近づく車のヘッドライトの光が見えた。
「七海ちゃん。七海ちゃん。車がきたよー」
「う、うん。わかってるって」
 私は立ち上がり、迫ってくる車に向けて大きく手を振った。
 けれど、自動車はスピードを緩めない。
 ドライバーは。通り過ぎる一瞬、私のほうへ視線を送ったけど。そのまま私達なんて見なかったように、走り去ってしまった。
「行っちゃったね」
 遠ざかる車のテールランプを見送りながら。繭歌はぽつりと呟く。
「うん。行っちゃったね」
 私もなんだか、一気に疲れが肩にのしかかってきて。力無く呟いた。
 最初から上手くいくとは思っていなかったけど。まさか、こんなにノーリアクションで豪快に無視されるなんて。世の中は、やっぱりそんなには甘くないみたいだ。
 まだ、一台目なのに。早くも気持ちが折れそうになる。
「どうするぅ?七海ちゃん」
「うーん。もう少しだけ待ってみても……いい?」
 自分から言い出した意地もあって。往生際悪く、私は繭歌にくい下がる。
「私は別に待ってもいいけどー」
 んー。と、大きく伸びをして。繭歌は再び、リュックの上に体重を預けた。目に見えて退屈しているのがわかる。    
「次の車が駄目だったら、私も諦めるから」
「らじゃー」
 そして、私達は再び車が通るのを待つ事にした。
 けれど、やっぱり。というか、予想通りに車の気配はない。
 さっきの車が奇跡の一台なんじゃないか?と思えるぐらいに、国道には私と繭歌以外の気配を感じない。
 隣では、退屈を紛らわすためか。繭歌がせわしなく携帯を弄っていた。
 かちかちかち、と。携帯電話のキーを押す音が聞こえる。
「繭歌。今からそんなに携帯使ってたら、電池なくなっちゃうよ?」
「うんー。わかってるんだけどさ、ネットの友達のブログとかチャットもチェックしておきたいし。あと、巡回サイトとかコミュとかも更新してないかなーとか気になるじゃん」
「別にいいけどさ。肝心な時に使えない。なんて事ないようにしなよ」 
 私は、そういうネットの世界には疎いので。繭歌の言う、ブログだとかチャットだとかがどれぐらい大切なのかわからない。
 けれど、両親が若い頃には。ネットの中で出会った人達が結婚したり、付き合ったりするのが。流行ったらしい。ネットの中の出会いや繋がりも、現実の繋がりと同じように大事に思える時代だったんだよ。なんてお父さんもお母さんも言ってたっけ。 
 両親が、そうやってネットで知り合ったカップルなのかは、さすがに怖くて聞けなかったけど……。
 そんな話を聞くと、随分ん昔の事のように思うけど。
 以前に聞いたクラスメイトの会話を聞く限り、今も昔もネットの使い方なんて、そんなに大きく変っていないと思う。
 異性との出会いの場だったり。ゲームソフトや音楽のデータを不正に手に入れて楽しんだり。ブログを開いたり、ネットで自分の声を配信したり……とかとかとか。
 まぁ、現代っ子と呼ばれる世代の割に、私はパソコンの使い方がいまいちよくわからないので。
 クラスメイトにネットの楽しさを語られても、ピンとこなかったのを覚えている。 
「でも、今ってネットとかするのにも制限かかってるんじゃなかったっけ?」
「んー?ああ、それって。世界が終わるかもってニュースで出だした頃の話だよ。運営会社がいくつか潰れちゃったからね。確かに、接続はしにくくなったけど。ネット自体は生きてるから。あんまり関係ないかなー」
 テレビ番組とかはどんどんなくなってるのに、ネットの世界は相変わらずって事か。
 健全なんだか、不健全なんだか……。
「なんか、繭歌。楽しそうだね」
「そうかな?どうだろ……そりゃあ、町を出てもネットの友達はいつもと変らないからねー。そういう、みんなの会話を見てると、ちょっと安心するっていうのはあるかもかな」
「何?私じゃ不満だって事?」
 ちょっと意地悪に聞いてみる。
「や、そういうのじゃなくてさ。えとえと。だから、七海ちゃんは側にいてくれるわけだから。リアルな安心っていうかさ。ネットの友達は、たくさんいるけど……いざって時には頼れないっていうか」 
「そんなに必死になんなくてもいいって」
「だってさー。七海ちゃんに嫌われたくないもん」
「や、別にそんな事で嫌いになったりとかしないから」
 私には私の付き合いがあるように。繭歌には繭歌の。私の知らない付き合いがあるのは当然だ。
 自分だけが誰かの一番だ。なんて、そんな風に思い上がれるほど私は図々しくない。
「うし。おしまい」
 キーを打つのを止め。繭歌は携帯を畳むと、リュックのポケットに仕舞った。
「もういいの?」
「うん。ほら、電池とかやばそうだし」
 焦ったような、困ったような顔で。繭歌は笑って誤魔化した。私は呆れて溜息を吐く。
「だから言ったじゃん」  
「あ、ほら。七海ちゃん、また車がきた」
「もう。そんなにタイミングよく来るわけ……」
 繭歌の指すほうを、とりあえず見ると。そこには確かに、ヘッドライトの明りがあった。
 随分と大きなライトは多分、大型のトラックか何かだろうか?
 遠くからでも聞こえる排気音を立てて、ぐんぐんとこちらに近づいて来る。 
 
 

       

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