Neetel Inside ニートノベル
表紙

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気が付くと僕は、見知らぬ部屋の中にいた。部屋の中央にはベッド。その上には僕。
ベッドは沈み込んでいくほどふかふかで、シーツは汚れひとつなく真っ白。
ベッド以外のものは(部屋の右手に見えた壁のほとんどを占めるような大きな窓を除けば)、部屋にはなかった。部屋というよりは、箱といった方が正しいかもしれない。あるいは、巨大な長方体の内部といったほうが正確だろう。

僕はベッドの中で深い眠りに落ちていた。まるで、王子様のキスを長い間待っているどこかの森の美女のような深い眠りだ。ちょっとやそっとのことじゃ起きないだろう。僕の意識は完全に無意識という森の中で閉ざされていた。
やがて王子様がやって来る。律儀にもドアをノックして(どこにドアがあるんだろうか?)、僕の無意識の中へと入ってくる。そして、僕にキスをする。
僕はまだ瞳を空けない。王子様が来たことも、キスをしてくれたことも、とうに気づいているがまだ瞳を空けようとはしない。じらしている訳ではない。僕が目を覚ますには、箱の中の姫と王子は結ばれる必要があるのだ。身をもって。
先に王子様が服を脱ぐ。僕の瞳にはその様子は映らない。無意識の海の中で、王子様が服を脱いでいるという情報が入り江に流れる潮のように僕の無意識下に入り込んでくる。その感覚は、僕ら人間でいう「知覚」とは遠くかけ離れたものだ。
そして、王子様が僕の服を脱がす。その様子も、同様に流れ込んでくる。そして、瞳が開かれる瞬間が訪れる……

――――――!?

「美咲さん……美咲さん……!!今夜も……逢いに来たよ……!!」
そこにいたのは王子様……ではなく、全裸の澤井君だった。そして、澤井君のペニスは僕のヴァギナに深く包み……!?
なぜ、僕にヴァギナがあるのだろうか!?いや、それ以前になぜ僕は澤井君とSEXをしているのだろう!?
そもそもここはどこだ?どうしてこうなった!?
瞳を開くと洪水のように情報が流れ込み、情報過多の中僕はひどく混乱していた。何から把握すればいいか分からず、ただ澤井君のものを受け止めているだけ。
意識下ではひどく混乱しているにも関わらず、僕の身体は膣内で澤井君のペニスが動くたびに激しくよがっていた。意志とは関係なしに、僕の肉体は澤井君の身体にしがみ付き、されるがままに快楽に溺れていた。
そしてようやく認識する。ここでは、僕の肉体と意識が結びついていないということ。肉体は快楽を受容し、一方で意識は混乱と嫌悪感に囚われている。
次に理解したことがある。澤井君は「美咲さん」と名前を呼び上げ、一心不乱に腰を振っている。そして、僕は気づく。自分の胸に、白く大きな乳房があり、それらをまるでアニメのようなピンク色の長髪が肉体がよがるたびに撫でていることを。
僕は、今、美咲たんになっている。「ゆるゆるエンジェル」の美咲たんになっている。暴力的な快感に呼応するかのごとく、背中の白い羽をバタつかせている。
澤井君は僕の(この状況における)名前を何度も呼びながら、獣のように僕の中で動いている。そこには無意識の世界で僕が「感じた」王子様はいない。
最後に、僕は部屋の大きな窓の外から、一人の青年が僕らの交わりを観察していることに気づく。それは僕だった。僕はここで澤井君に抱かれ、あそこでその様子を眺めている。そのどちら側にも僕の意識はない。僕の意識は相変わらず、混乱と嫌悪感の渦の中にいる。

「美咲さん、イクッ……イクよっ!!」
部屋の中に何度も響き渡るような大声を上げ、澤井君は僕の膣内へと射精した。その衝動はすさまじく、僕は……

――――――目を覚ました。7時21分。8時30分に始業のベルがなることを考えると、油断のできない時間帯だ。
忘れようのない夢の余韻の中で、僕は穿いているパンツを確認していた。パンツを確認するまでもなかった。寝間着代わりの薄い生地のジャージまで濡らすほど、僕は盛大に夢精していた。
僕の意識は、相変わらず混乱と嫌悪感の渦の中にいる。

       

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Neetsha