Neetel Inside 文芸新都
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 三人で焚火を囲っていた。子分達は、レンとニールを恐れて、離れた所から様子を伺っている。
「すまんな、人見知りって訳じゃないんだが」
「シオン、言っちゃ悪いが、あいつら役に立つのか?」
 ニールが眉をひそめながら言った。
 それを聞いて、俺は苦笑するしかなかった。上手く弁解しようにも、今の子分達の様子では説得力がない。
「ここまで生き残って来た。だから、少なくとも役立たずではない」
「だと良いがな」
 言って、ニールが小枝を焚火の中に放り込んだ。
「それでシオン、どうやって賊と戦うつもりだったんだ?」
 レンが言った。声に、凛とした活力が宿っていた。思わずレンの顔を見たが、無意識に目をそらしてしまった。そして、そういう自分に、束の間とまどった。
「真正面からやるしかない、と思っていた。勝ち目がないことも、薄々ではあるが、わかっていた」
「それでも、真正面からやるつもりだったのか」
「あぁ。何か策をやろうとも考えたが、あぁいう子分しか居ないのだ」
「俺が言いたいのはそうじゃないさ。逃げようとは思わなかったんだろう?」
 言われて、俺は再びレンの顔を見た。今度は、目をそらさなかった。
「俺の実の父も、そういう人だったと聞いてる。だからじゃないが、俺はお前と一緒に戦いたい」
 自分の身体が熱くなるのを感じた。この男に、認められた。いや、受け入れられた。それが、何故か嬉しかった。
 ただ、レンの言う実の父、というのが気になった。どういう人なのか、という事ではなく、面識が薄いような言い方だったのだ。もしかしたら、レンは父親とはあまり接する機会がなかったのかもしれない。
「とりあえず、真正面からやるのは馬鹿がやる事だ。何らかの作戦を練った方が良いだろうな」
「ニールの言うとおりだ。シオン、賊の情報はどれほど握っている?」
「数は二百という事が一つ。そして、この二百は四つの賊の集団で構成されている。一つの集団が五十人。つまり、この二百は賊の連合という事だ」
「頭目達はどうしている?」
「わからん。ただ、まとまって賊の根城に居るのは間違いない。それぞれの配下の面倒を見なければならないからな。配下は自分の頭目しか認めておらん」
 俺がそう言うと、レンが右眼を閉じた。顎に手をやり、何か考えている。
「レン、奇襲しかねぇだろう」
 ニールが言った。俺も、それを考えていた。ただ、成功する確率は低い。子分達も含めた全員で乗り込んだとして、袋叩きに合うのは目に見えている。子分達は、お世辞にも強いとは言えない。やれたとしても、子分一人で賊一人の相手。これがせいぜいだろう。ならば、あとは頭目狙いの奇襲しかない。しかし、本当にできるのか。
「奇襲は駄目だ」
 右目を開いたレンが言った。
「なんでだ。真正面からやるよりも、ずっとマシだろう」
「今夜は満月。奇襲するには不利がつきまとう。それに、成功確率が低すぎる。地の利があちらにある上、俺達は頭目の顔も知らない」
「じゃあ、どうすんだよ」
「夜が明けてから、村に行って大きな荷車と食糧、あれば酒も借りる」
 なるほど。レンの言葉を聞いて、俺はそう思った。
 レンは、賊に屈従するふりをして、頭目達を一挙に討ち取るつもりだ。
 まず、荷車に食糧などを載せる。そして、その中に俺達三人が潜んでおく。あとは、賊の根城まで行って、適当な方便を使い、荷車ごと根城の中に入るだけだ。これなら、奇襲よりも確実に頭目達に近付ける上に犠牲も出ない。
「お前、馬鹿か?」
 不意に、ニールがそう言った。それを聞いて、俺は鼻で笑った。
「食い物と酒を借りてどうすんだよ。戦の前の腹ごしらえか? 阿呆か。みろよ、シオンもお前の馬鹿さ加減を鼻で笑ってるぞ」
「違う、ニール」
 レンは、嫌な顔もせずに作戦の内容をニールに説明した。
「お前、すげぇ頭良いな。さすがにレンだ」
 言って、ニールが声をあげて笑った。この男、とんでもない馬鹿だが、性格はやはり悪くないらしい。
「荷車は、シオンの子分達に曳いてもらいたい。構わないか?」
 はい。そう言いそうになった。その言葉を何とか飲み込み、俺は頷いた。
「ありがとう。出来れば、荷車に乗ったまま、頭目達の所に行きたいが」
「その点は心配しなくても良い。まず、賊どもは頭目達に報告するだろう。そうなれば、頭目達も物を見たがるはずだ」
 俺は喋りながら、丁寧な言葉使いをしない自分に、違和感を覚えていた。それが何故なのかまでは、分からない。
「なぁ、レン。ついでに若い娘も借りれば良いんじゃねぇのか?」
「それは駄目だ。命の危険がある。もし賊にそれをなじられたら、まずは食糧から、と言って切り抜ける」
「なるほどな。よぉく考えてら」
 言って、ニールが白い歯をみせて笑った。こうして見ると、ニールはまだ幼い、という気がする。十五歳前後に見えてしまうのだ。
 一方のレンは、妙に大人びていた。 
「なぁ、レン。お前、歳はいくつだ?」
「十八だ。どうした、急に」
 俺と一つしか変わらない。それに対して俺は、微かな驚きを覚えた。
「おい、シオン。そういうお前はいくつだよ」
 二十二。そう言おうと思ったが、嘘を言うわけにはいかない、と理由もなく思った。
「十七だ。子分達には、二十二って言ってるがな」
「ふぅん。俺もレンと同い年だから、お前より俺の方が年長だな」
 そういったニールの顔を、俺は思わず見てしまった。レンとは別の意味で、驚きを覚えたのだ。
「シオン、子分達にも作戦の事を話してやってくれ。それと、荷車を曳く者を決めよう。出来れば、臆病な者が良い。その人選が終わったら、作戦の詳細を話す」
「あぁ、分かった」
 言ったが、相変わらず俺は違和感を覚えていた。
 レンに対して、丁寧な言葉使いをしていないのが、何故か不自然だと感じていた。

       

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