Neetel Inside ニートノベル
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「T-Mass、一本入ります!」「いくぜ!」「おう!」「セックス!」

楽屋でボクらT-Massがいつもの掛け声を上げ、気合を入れていると入場のSE、T-Rexの「20th century boy」がフロアに鳴り響いた。

「T-Massの方々、出番です!」スタッフに促されボクらはステージにつながる細道を渡った。やってやるぜ。ボクはこれまでの経緯を思い出した。

「お前みたいなヘタレ野郎がバンドのフロントマンなんか出来るわけねぇだろ。なめんな」
「ちょっと、なにあいつー、ちょぉキモいんだけどー」
「迷いを抱えながら仕事をしてるような人間はいらないよ」

みんな嘲(わら)ってやがる。どいつもこいつも俺をバカにしやがって!俺が正真正銘のロックスターだって事を

証明してやらぁ!!みとけよ、みとけよー!!細道から照明の光が差し込んでる。オラァ!ボクはカーテンをはねのけ、勢いよくステージに登場した。

「どうも!T-Massです!ってあれ?」

ボクが客席を見渡すと三月さんと音響を担当しているPAさん、カウンターで酒を飲んでいるスーツ姿のおっさん。それとベンチで煙草をふかしている

セクシーなおねぇさんの4人しかいない。「あのねぇちゃん、毒(びょうき)持ってるからな。ホイホイついてったらアカンで!」と

ライブ前ドンキさんに警告されていた。いや!この際おねぇちゃんはどうでもいい!

「ちょっと、ちょっとォ~スタッフさん、お客さん入れちゃってくださいよォ~ロビーに待たせたまんまじゃ悪いですって」
「はぁ?これで全員だけど?」「ふぇぇ!?」

マジかよ!思わず幼女みてぇな声が出ちまった。ボクらのライブハウスデビューは客が3人という悲惨な状況でスタートすることになった。

つーか、頭の斜め上の照明が眩しくて暑い。そのくせ足元が暗いせいでエフェクターの位置が分かりづらい。えっと、どっちがオバドラだっけ。

ギターを抱えエフェクターを踏み替えながら音質をチェックしているとドラムのあつし君が「オッケーでーす!」とPAさんに合図を出した。

しばらくしてT-Rexが鳴り止んだ。

マッスが「準備OK。MC頼むぜ」と目で合図を送る。ボクはマイクを掴んで話を切り出した。

「武道館にお集まりの13000人の皆様、お待たせいたしました。T-Massです!」

おねぇちゃんが煙草を吹き出す。ボクはピックを掴んでこう締めくくった。

「ボク達をクズ扱いしているゴミムシ以下の皆様、どうかボクらに20分だけ時間をください。俺がてめぇらより高尚ないきものだって事を証明してやるぜ!
イくぜ!『ボクの童貞をキミにささぐぅーーー!!!』」

様子を見に来たドンキさんが「ほぅ」という顔をするとボクらはステージに性欲を具現化した音塊をブチまけた。

「だからだからだからボクの精液をキミにそそぐぅー!!うおらぁー!!!」

ボクが適当に腕をぐるぐる回しながら弦を弾きまくるとだかだかだかだか、ば~ん!というドラムで1曲目が終了した。どうだ!どうだ?


し~ん。じゃなくて、ち~ん。観客全員無反応。まるで誰かのお葬式みたいだ。畜生。無反応ってのが一番キツい。まるでこの小説みたいだね!ハハッ

気分を変えようぜ。ボクは次の曲のイントロを弾き始めた。「『あずにゃんの声でイこうよ』という曲です。シンギン!」

三月さんが吹き出した。新曲だし、誰も知らないから歌えないでしょ。って感じだ。このパーティーチューンで勝負だ!コラァ!!

「まるでジブリの映画みたいな学生生活 ツインテキャットは今日もゴロニャーゴ、にゃーご、にゃーご
先輩達のくちびるは今日も軟らかく、濡ーれーている

『あんまり上手くない冗談みたいな人生ですね』キミはそう嘲うけど

Oh、ブーンブーン鳴ってる そのムスタング Ah、いちゃいちゃ絡みつく その鳴ーき声

凹んだ顔も好きだーよ 受話器越しにナーゴ、なーご、なう。」

びっくりしただろ?この曲はテレホンセックスの歌だ。曲名はThe Yellow Monkeyの「アバンギャルドでいこうよ」という曲名をパロッたモノだ。

曲の雰囲気は「HOTEL宇宙船」に少し似てる。てか似せた。「完全なオリジナルは素人には受け入れられづらい」みたいな事を誰かが言ってた。

間奏が終わるとボクはリバーブのエフェクターに踏み変えた。

「ゴキブリって呼ばれてんの知ってる 熱愛発覚したの知ってる 捨て猫みたいな嘲い声 そんなのみんな聞きたくない~」

ボクの声にエコーがかかるとPAさんがボクに親指を突き出した。よし、イケる。ボクはまたエフェクターを踏み変えて大サビを歌った。

「Oh、ブーンブーン鳴ってる そのムスタング Ah、いちゃいちゃ絡みつく その鳴ーき声
アガってるキミが好きだーよ 手を引いてニャーオ、にゃーお、なう。」

ジャカジャーン。彷徨える黒猫よ。本能の鳴き声に従え。個人的神曲をドロップした余韻で感動していると「次の曲いくぞ」とマッスに急かされたので3曲目の

イントロをかき鳴らした。後編に続くんだぜ!!シンギン!

       

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