Neetel Inside ニートノベル
表紙

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「あ、あのゥ~そのショッキングブルーのおぱんつはぁ~どこでお買い求めになったのですかね?」
「はぁ?」

女の子が立ち上がりMAX恥ずかしそうに浴衣を直す。ボクは咳払いをひとつし、本来聞くべきだった質問をハデぱんつの彼女にした。

「キミはボクらT-Massがライブ演ってる時に追い出しためだかボックスとかいうバンドのボーカルの子だよね?ね?そうだよね??」
「きんぎょ in the boxだ...ばか」

目線を外して毒を吐く彼女はこないだのライブの時とはまるで別人だ。浴衣補正があるにしても髪型は黒のストレートだし、なによりあの時

感じた殺意のようなオーラがない。彼女はボクが背中に回しているギターを見てこう言った。

「さっきアジカン演ってたのって...」「え?そう。ボクだけど」

それを聞くと彼女はぷっ、と吹き出したあと大声で笑った。

「あっはっはっは!!まじで!?...へー、そうなんだー。...もうやらないの?」

ボクはあっけにとられていた。この子といい、メイサといいどうしてDQN女は人前で大笑いをする生き物なのだろう。

「ヤンキー共にステージ陣取られたからもう演んないよ...」「まじで!?う・け・る♪」少しムカついてきたのでボクは語気を強めた。

「全然面白くねぇよ!モテない俺の前でイチャコラしやがってさぁー!!対して才能もねぇヤツがいい女抱いてるとこ想像するとムカつくんだよ!
大体、人のステージ陣取っておいてその態度はないだろ!謝罪と賠償金を要求するぜ!べいべ!!」

「あ!?人にぶつかっといてその態度はねぇだろベイベ!」

ボグシッ!ボクは股間を蹴り上げられた。「自分が駄目なのを人のせいにしてんじゃねぇよ!おまえがあの後リンチされるのを防ぐためにやったんだよ!」

え?そうなの?悶絶しながら彼女を見上げるとボクはあの日の酷いステージングを思い出した。「ま、それはそれとして」そういうと彼女はボクのギターを指差した。

「あたしも一曲演りたくなっちゃった。ギター貸してくれる?」
「大丈夫?ぶっ壊したりしない?」
「しないしない。変な漫画の読みすぎでしょ。私、江ノ島恵栖華(えのしまえすか) 。今後ともよろしく」

ボクは立ち上がって手を差し出した。

「よろしくお願いします。アスカさん」
「いや、違う。エスカ」
「エリカさん?」
「いや、だからエスカだって!神奈川にある電車に良く似た乗り物、しらない?」
「...存じ上げないです」
「...好きに呼びなよ。名前なんて記号みたいなもんだしさ。キミは?」
「はい、ボクは平野洋一。あーやと同じ、平野です!」
「...そう。よろしくティラノ君」

浴衣の彼女、江ノ島エスカさんはボクの手をスルーし、ギターをボクの背中からはがすとこう言った。

「あそこのベンチが空いてる。あそこで演るんで手拍子よろしく」

そういうとエスカさんは向かいのベンチに座りギターのペグをいじってチューニングを始めた。

「うわ、これ全部狂ってる!ひどいなぁ~」「そーなんですよぉー、特にチョーキングするとかなりの確率でズレるんですよー」

ボクはマッスとあつし君と一緒にたかむら楽器で買った3000円の中国産ギターを恨めしそうに見つめた。さりげなく彼女の髪の匂いを嗅いだりしながら。

「よし、これでいいかな」チューナーなしでチューニングを終えると彼女はボクに聞いた。「リクエストは?」

は?アホの子のように大きく口を開いている彼女に聞き返した。「だーかーら、リクエスト。なんかある?」しばしの考案の末、ボクは答えを出した。

「えっと、チャットモンチーのいーきてゆーく、ちからーがーそのーてーに、あるよーにみたいな曲演ってもらえますか?
これを着メロにしてると恋が叶うとかスイーツがほざいてる歌」
「...GO!GO!7188のこいのうたね...」
「...0721?」
「耳腐ってんじゃねーの?OK。聞いてください。あたしで『こいのうた』。」

そう言うと3つカウントし、彼女はギターを弾き下ろした。祭りの後の公園に透き通る歌声が響き渡る。「お、なになに?」「へー若いのに大したモンじゃん」

通りを歩いていたカップル、露店を出していたヤクザ風のおっさん達が彼女の歌に足を止める。ボクは手拍子をしながら彼女を見つめていた。

額から流れる汗と首に浮かぶ血の管がなんつーか、色っぽい。最後のフレーズを歌い終わり、ギターを弾き終わると円になった人だかりから

暖かい拍手が鳴った。ボクは感動したと同時に自分と同じくらいの女の子がこんなに周りの人たちを感動させられる、ということに少し嫉妬していた。

「...リクエスト。なにかありますか?」調子づいて誰かが言い出さないうちにボクは手をあげ彼女にリクエスト。

「エリッククラプトンのチェンジザワールドが聞きたいです!」周りの突き刺すような視線がボクをブレイクする。

「チェンジザワールドね、OK。聞いてください。2曲目『 change the world 』。」

そういい残すと彼女はボクのギターから一度も奏でられたことはないであろう、繊細かつ透明なフレーズを爪弾き始めた。くそう。ちょっと

意地悪して難しい曲をリクエストしたんだけどな。2曲目が終わる頃には結構大きな人だかりが出来ていた。

よく通る高音、愛嬌のあるキャラクター。ボクを含め、公園の通行人はみんな彼女のファンになっていた。「何の騒ぎだ?」

警官がひとり、パトカーから降りて近づいてきた。やべぇ!ボクは過去のトラウマから警官とパトカーを見ると自然に体が逃げ出す体質になっていた。

「ライブはもう終わり!エスカさん、逃げよう!!」「ちょ、ちょっと!!」

ボクはギターのネックを掴みエスカさんと一緒に走り出した。公園の出口にもう一台パトカーが見えた。ちっ。舌打ちをするとボクらは茂みに

飛び込んだ。「ちょ、ちょっと!痛いって!!」エスカさんが悲鳴をあげているのに気が付いた。ボクは振り返ってショックを受けた。

ボクがネックだと思って掴んでいたのは彼女の腕だったのだ。「...あんた、ナヨナヨしてそうで結構強引なとこ、あんのね」

彼女が息を切らしながら言う。ボクはギターを受け取るとごめん、と呟いた。そして彼女に本心を打ち明けた。

「エスカさん...」
「何?『エスカさんのライブ観て感動しました!ボクにはあなたのようなライブが出来そうにないので金輪際ギターを弾きません!』とでも言うわけ?」

「一発、ヤラせてくれ!!」「しね!」

向陽公園の茂みに野犬のような悲鳴が響き渡った。こうしてボクの『夏の処女救済作戦』はまたもや失敗?に終わった。

もう一度、エスカさんと会えるといいな。ボクは布団の中で腫れ上がったキンタマをさすりながらそう想った。

       

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