Neetel Inside ニートノベル
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―右大腿骨粉砕骨折― それがボクが医者から告げられた病状だった。

診察室でボクと向かい合って座る担当医の高戸先生がレントゲン写真を指差して言った。

「ここ、骨がばらばらに散らばってるの見える?もうちょっとで足首とアキレス腱が泣き別れ。平野君...どうしてこうなるまで放っておいたんだ!」

はぁ。ボクは言い返す言葉が見つからなかった。高戸先生が小さい体を震わせて顔を赤くしていると看護士さんがフォローしてくれた。

「ここの前に行った病院がお薬だけで治る、って診察だけで済ましたらしいですよ」
「ふん、とんだ藪医者だ。とりあえず絶対安静。2週間後にもう一度手術する」
「あ、あのう...」

ボクは聞きたかった質問を先生にした。

「手術が終わるまでずっと入院してなきゃいけないんでしょうか?」
「あたりまえだ。外にでてもロクに歩けもしないのに」
「で、でもボクあと1日でも休むと留年なんですけど...」
「学校のプリントうんぬんはクラスメイトか誰かに頼んでもらえ。その後、どうなるかは学校側と話あってくれ」

そ、そんな。せっかく軽音楽部を取り返していい感じで来ていたというのに。ボクがふてくされてうつむくと看護士さんがなぐさめてくれた。

「平野君、世の中には学校に行きたくても行けない子供がたくさんいるのよ。早く怪我を治してみんなを安心させてあげなくっちゃ。ねぇ、先生」

高戸先生は短い足を不機嫌そうに組んでボクに言った。

「だいたい『あと1日休んだら留年』、という状況に陥っていることがまずおかしい。日ごろの行いが悪いんだろ。手術の時、君の体を見させて
もらったが右足以外にも肺や首に強い衝撃による負荷がかかっていた。どういう生活を送っていたらこんな怪我に繋がるのかね?」

「か、階段からトールマンスピンで4回転半、転げ落ちました...」
「...意味が分からん。魚住君。部屋に連れてってやってくれ」

部屋の奥で注射器の手入れをしていた看護士が立ち上がった。

「わかりました」

返事をした魚住という女はスラムダンクに出てくるビッグ・ジュンを彷彿とさせるほどの長身で昔の宝塚女優のように贅肉のない引き締まった

顔つきをし、サバサバとした性格を仕事の様から受け取ることが出来た。そのビッグ・ジュン、いや、魚住看護士に車椅子を押されながらボクは診察室を出た。

「ちょっと他の患者さんのカルテ持ってこなきゃいけないからここで待ってて」

魚住さんが言うとボクは待合室で1人待たされた。ブー。持っていた携帯電話が鳴る。

「もしもしティラノ?いま大丈夫か!?」

マッス!なぜかは知らないけど久々にこの親友の声を聞いたような気がする。

「おお!大丈夫、大丈夫!そっちはどう?元気してる?」
「こっちはみんな元気だよ。...いやー急に病院連れてかれたって言われたから心配したわー。ちょっと、三月ちゃんに替わるね」

そういうと電話口の方で会話のやりとりが聞こえた。

「ティラノ君だいじょぶ~?ナースに変なことやってない?」

三月さんが電話に出た。ボクはなんだかテンションが上がってきた。

「いやいや!大丈夫ですとも!とっととこんな所退院してオレのギターでもう一度世界をざわつかせてやるぜ!イッツオーライ!やってやろうぜ!!」

「そ、そうなんだ。学校にはこれるの?」
「おうよ!病室は個室だから三月さんが1人でお見舞いに来てくれれば嬉しいかな~なんつって!」

急に携帯電話が取り上げられた。

「平野洋一君は面会謝絶です。右大腿骨粉砕骨折で全治6ヶ月の入院です。それではまた」

魚住さんが携帯電話の電源を切った。「病院は携帯電話禁止です。そんなことも知らないんですか?」

「そ、そんなこと...」ボクが周りを見渡すと性格の悪そうな老人患者がボクを睨んでいた。

「部屋、行きますよ。担任の先生に毎日プリントをファックスで送ってもらえるよう頼みましたからね」

魚住さんがボクの車椅子を押して歩き始めた。はぁ...なんでこんなことに...ボクはこんなみじめな自分を慰めるために部屋に戻ったら真っ先にオナニーをしようと考えていた。

       

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