「Let's get スウェーット!! 真夏の海はヌレっ、 ヌレっのダンスホール!
Let's get セーックス!! 真夏のギャルはヤリっ、ヤリっのオーバーホール!!
鼻の穴から息巻いて 花の穴めがけてイッちまいてー!」
ボクが目の前の三人に向けて新曲「真夏のmaji-pa☆Gal」を演奏するがみんなの反応は冷ややかだった。
三月さんがテーブルについてお茶を注ぎ、マッスがあくびをするとボクはギターを弾くのを止めた。
あつし君が涙目でボクの腕にしがみついた。
「おい...病院で俺たちに見せてくれたあのパフォーマンスは幻だったのかよ...」
「まー、こんなもんだよな。現実なんて...」
落ち込むバンドメンバーを見てボクは頭を掻いた。知らねぇうちに期待値が上がり過ぎなんだよ。ボクは病院で演ったアニキが作った曲、「バードケージ」のイントロを弾き始めた。
しかしエレアコとストラトのネックの違いに戸惑い何度もコード進行を間違えた。ティーカップを置いた三月さんがボクを見て言った。
「ティラノ君ってさぁ、ギターあんまり上手くないよね」
はぁ!?ボクが振り返るとマッスもそれに続いた。
「ああ。前から思ってたんだが...ノンタンの方がマシなレベル」
「キャラクターボイス.千秋は関係ねぇだろ!!」
「キレるポイントが違うんだよ。ティラノ、手、見せてみて」
ボクはムカつく気持ちを抑えながら左手をあつし君に差し出した。人差し指を揉みながらあつし君がため息をついた。
「やっぱ、そうだ。こいつ全然家で弾いてない」
「俺たち、ずっと2人で練習してたんだぜ?退院してからお前、なにやってたんだよ」
ボクは二人に2011年の11月から年明けまでの過ごし方を白状した。
「えっと、退院後は録画した『イカ娘』と『僕は友達が少ない』のアニメまとめ見して、年末は隣街まで『けいおん!』の映画を見に行きました。
年明けはひたすらコタツで食っちゃ寝、食っちゃ寝。みかんオナニーがとても気持ちよかったです」
「もう、だめじゃんこいつ...」
三月さんがテーブルに頭を擦りつけた。ボクは開き直ってみんなに叫んだ。
「なんでだよ!なんでいきなりボクに対する風当たりが強くなってんだよ!それに大会は2ヶ月後なんだろ?やるまえから諦めてるやつがあるかよ!帰れ!!」
「そうさせてもらう」
「ちょっと、ちょっと」
帰り支度をするマッスを三月さんがなだめる。ベースケースを肩に下げたマッスが帰り際にボクに言った。
「入院しててビハインドがあったのは確かだけどさ、お前には少しがっかりしたわ。次会う時にはちゃんと練習してこいよな」
「お、おいマッス」
部屋を出るマッスをあつし君が追いかけて出て行った。なんだアイツ。そこまで言うことねぇじゃねぇか。ボクは脂肪で柔らかくなったツルツルの手の平を握り締めた。