Neetel Inside ニートノベル
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T-れっくす
3rd Albumu ホワイト・ライオット・ボーイ<Disc 3>

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農場での修行の日々を終え、向陽町に大寒波が押し寄せる頃、遂に対決の日がやってきた。

ボクがそわそわしながら部室の椅子に座っていると鞄から袋を取り出した三月さんがボクに笑みを向けた。

「はい!ティラノ君!これ、今年分の義理チョコ!」
「あ、どうも!...ありがとうごじゃいます...」

そう。今日はバレンタインデー。しかしこんなにはっきり義理と言われるとは。

ボクは同じように義理チョコを受け取ったあつし君と共に部屋の隅で今度のバンドバトルのパンフを見ているマッスに話しかけた。

「よおマッス!三月さんからもらった?義理チョコ?」

「あ、ああ。まあな...そんなことより大会まで後1ヶ月だぜ?ティラノ、お前ちゃんとした曲書いてるのかよ」

おなじみのセリフを吐くマッスを見てボクはちっ、ちっと指を振った。なめてもらっちゃ困るぜ。椅子に後ろ向きに座ったあつし君が言った。

「やっぱ大会前にどっかでライブ演ってみた方がいいんじゃないかな」それを聞いてマッスがパンフから目を離した。

「そうだな。俺たちはバンドとして絶対的にライブ経験が少ない。いきなりぶっつけ本番でいってもトチる可能性が高いからな」
「場所はどうする?」

話を進める二人にボクは意見を提案した。

「ライブを演るんだったらあそこしかないじゃん」
「あそこって?」
「やれやれ...去年の猛暑の惨劇を忘れたのか。ザ・ロックスで演るに決まってんだろ!」
「ザ・ロックスね...去年のリベンジマッチといくか!」
「今の時期はスケジュールも空いてるだろうしね。浜田さんとも仲良くなったから入れてもらえるよ」

「よし!そうとなったら決まりだ!俺のギターでもっかい世界をざわつかせてやるぜ!!」
「その前に曲作れってーの」「マッス、きっつー」

輪になって笑うボクらを見て三月さんがつぶやいた。

「いいなー。青春って感じ。私もみんなとバンド組めばよかった」
「三月さん!リードギターのポジション、空いてますよ!」

普段地味なあつし君がここぞとばかりにボクを冷やかす。

「三月ちゃんも『T-Mass』のメンバーの一人だよ。ライブの日程が決まったらブログとツイッターでライブ情報を拡散してね」
「うん!今度は失敗しないようにちゃんとやるよ!」

一緒にステージに上げれないのが残念だけど満足そうに三月さんは笑った。

「さすがにもう客が3人、とか他の出演バンドに演奏中断されるとか、そういうショボいのからは卒業しようぜ」

ボクが輪の中で声を張るとみんなが真剣な眼差しでボクを見つめた。ボクはいつものように掛け声を入れるべく右腕をみんなの前に差し出した。

『T-Mass』のリーダーであるマッスが察したように声を張り上げた。

「俺達の次の目標はバンドバトルで優勝することだ!その前に『ロックス』でリベンジを果たす!」
「俺達の歌で世界を変えてやろうぜ!」
「いくぜ!」「おう!」「セックス!」「あ、あなるふぁっく!!...」「...へ?」

最後に手を重ねた三月さんが訳の分からない事を口走ったのでボクらはゲラゲラと笑いあった。三月さんはロッカーとしてある意味才能があると思う。

「よし、それじゃライブに向けて練習しないとな」あつし君がドラムキットに向かうとボクとマッスはそれぞれギターとベースをケースから

取り出し晴れの日に向けて演奏を開始した。決戦に向けてのカウントダウンが近づいてる。そんな空気を冷えた季節の風から感じていた。

       

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