Neetel Inside ニートノベル
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決勝当日、ベッドから起き上がると足の痛みは引いていた。ほ、よかった。時計を見るとまだ7時だったので眠る2人を横目に下の階へシャワーを浴びに行った。

その後、食堂でモーニングを食べていると向いの席に長髪の男が座った。

「ここ、座っていい?」
「てか、もう座ってるじゃないですか。なにかボクに用ですか?」

男はくくっ、と笑い、目にかかる前髪をかきあげてボクに向かって話し始めた。

「T-Massのティラノ洋一君、だよね?俺は『惨劇メークアップ』の暗野由影。キミ達が初戦を勝ち上がると2回戦であたる相手さ。
手加減するつもりはないんで、本番ではよろしく」

ああ、ボクは昨日この人のインタビューを地元のテレビで見た。ぶつぶつとうつむきながらしゃべる彼からは生気をまるで感じなかった。

才能はあるかもしれないけど無気力系男子。今はこんなのが流行ってるのか。苦いコーヒーを飲み干すとボクは彼に向かって言い放った。

「シード権あるのにわざわざボクに会いに来てありがとうございます。でもこっちも負ける気はさらさらないんで。中村俊輔はフリーキックの練習しに帰りやがれ!」
「中村俊輔ね。よく似てるって言われるよ。俺は藤原基央に似てると思うんだがなぁ」

そんな事誰も聞いてねぇよ。「ごちそう様」。とにかく不気味なふいんきの彼の近くにはいたくなかったので部屋に戻ることにした。

「ティラノ君」

背中に投げられた言葉にボクは振り返った。

「日野光太郎の意思を継ぐのはこの俺だ。キミはホワイト・ライオット・ボーイにはなれない」

はぁ?なにいってだこいつ。ボクは再びエレベーターに向かって歩き始めた。


「今日の決勝トーナメント表、もらってきたぞ」

T-Massの代表者、マッスが部屋に戻ってくるとプリントをボクらの前に広げた。そこにはこんな風に書かれていた。


LIVE演者キャッチコピー & トーナメント表

Aブロック サンライトステージ

電波ソングと性春野郎 桃:THE 桜高軽音部'Z

VS

チョッキュー × モーソー × チョートッキュー 白:T-Mass



その切れ味は岩をも砕く 緑:刃 -YAIBA-

VS

天国に一番近い男たち 黒:惨劇メークアップ




Bブロック ムーンライトステージ

メインストリートからこんにちは 黄:幸福 あゆむ

VS

もっとヒネれませんか?否!これが俺らのマニフェスト 赤:ハシモト・トッツァン・ボーヤーズ


『きんぎょ』みたいにがんばります! 橙:ENJEL FISH


VS

ウワサのゴールデンガールズバンド 金:きんぎょ in the box


「なんだこれ?つーか、キャッチコピーださ!エンタの神様かよ」
「そーかー?俺は結構こういうの好きだけど。
俺らの『チョッキュー × モーソー × チョートッキュー』って歌詞で韻を踏んでるT-Massにピッタリだと思うけど」
「名前の前についてる色は何?」

あつし君がプリントを指さすとマッスが説明してくれた。

「今日はツイッター投票があるだろ?つぶやきの前にその色、俺たちだったら白をつぶやきに入れてツイートするんだってさ。
『白:マッス、すごくかっこよかったー』なんてつぶやきがあったら俺たちに1票、入るシステムになってる」

「自分でかっこいいとか言うなよ。てか、初戦の相手、『THE 桜高軽音部'Z』って。こりゃー、『きんぎょ』とあたる決勝まで楽勝だな!」
「いや、あつし、わからないぞ。初戦の相手は俺たちと同じコンセプトのバンドだ。似たような曲調だと投票者に比べられてしまう可能性があるからな」
「そ、そうだよね。緊張をほぐすために言っただけだよ。てか、1番バッターにならなくて本当によかったわー」

あつし君が息を吐き出すとボクは二人に向かって声を張った。

「相手が誰だろうが関係ねぇ!俺たちは自分らの演奏をやるだけだぜ!学祭ライブがバースデイだったら今日がT-Massのインデペンデンスデイだ!
イッツオーライ!俺たちのロックで世界を変えてやろうぜ!」

「おう!やってやろうぜ!」
「独立してどーするよ...とにかく俺たちの想いを全部、ライブにぶつけてやろうぜ!」

2回戦で待ってやがれ。キノコ野郎。朝っぱらから気合を入れるとボクらは時間まで今日のセットリストについて話し合った。

       

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