Neetel Inside ニートノベル
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*   僕の塔                                *
*                                      *
*     出口近くの塔の主の部屋                      *
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「ただいまーっ」

 部屋に戻って開口一番、神道陽太は声高らかに壁に張りつけになっている塔の主に言った。
 塔の主は当然返事をしない。が、神道陽太といっしょに帰ってきた人物――伊藤月子の亡骸――を見た瞬間、まるで生気が戻ったかのように顔を上げた。

「つ、月子! 月子っ!」
「おーい、ただいまって言ってるだろー」


 ドスッ!


「う゛……えええ゛え゛え゛え゛っ」
「もう吐き出すものの残ってないだろう? そんなことよりも、ほら、見てよ」

 無視されたことに苛立っているのか、神道陽太は恋人の髪を撫でるように、自然な動作で塔の主の腹部をぶん殴った。
 塔の主の体内はからっぽで、どれだけえづこうとも何も吐き出すことはなかったが、それでも気を抜けば狂気してしまいそうなほどの激痛の恐怖でいっぱいだった。
 だが、塔の主は伊藤月子のことだけが心配だった。自分の身よりも、愛する人のことだけを想っていた。

「月子、月子……!」
「もう死んでるよ。ほら、『伊藤月子、立て』」

 神道陽太が言うとおり、伊藤月子はすでに死亡している。けれど“命令”により、あたかも生きているかのようにスムーズに動き、塔の主の前で立つ伊藤月子。
 しかしその姿は悲惨なものであった。鼻は潰れてひしゃげ、顔中が血と涙でぐちゃぐちゃとなっていて、真っ白だったワンピースは血や吐瀉物でドロドロに汚れていた。
 そして、伊藤月子がまとう様子、雰囲気。すでに死亡しているので当然だったが、目はうつろ、生気が感じられなかった。
 
「キミが会いたかった月子だよ。感想は?」
「お前は最低だ……ヘドが出る」
「結構結構。悪くないよ、その態度」

 神道陽太は伊藤月子を後ろから抱きしめ、慎ましい胸を撫でるように弄る。

「さっき死んだばかりだからまだ温かいよ。触れたい?」
「…………」
「まあ反応なんて最初から期待してないけど、こっちを見てくれないというのはあまりよろしくないね。『僕たちから目を逸らすな』」

“命令”された塔の主は顔を上げ、食い入るように二人を見つめる。抵抗しようとするものの身体は動いてくれない。怒り、悔しさ、悲しみ、様々な感情が入り乱れた表情を浮かべていた。
 そんな塔の主の様子を見てニタニタと笑う神道陽太。その手は伊藤月子の身体、下半身を這いまわる。

 もちろんここで終わるほど、神道陽太は正常ではない。

「『伊藤月子、服を脱げ』」
「……!!!」

 その正気を疑うような“命令”に塔の主は言葉を失う――が、目を逸らすことはできない。
 いや、きっと塔の主は“命令”がなくても目を逸らさなかったかもしれない。好きで好きで堪らない彼女が、目の前でプレゼントした服を脱ぎ、肌を晒そうとしているのだ。
 汚れたワンピースは床に落ちた。腹部は赤く腫れ上がっていて、どのような仕打ちに合ったのか想像するに容易かった。

 それでも、塔の主の目には、想い続けた伊藤月子の身体はとても美しく映っていた。
 黒い髪、幼い顔立ち、小さな身体に慎ましい胸。けれど、どこか成熟しているように見えるのはすでに男を知った身体だからだろうか。塔の主は身体の高揚を感じていた。

「どうだい、僕の月子の身体は。綺麗でしょ? キミは知らないだろうけど、温かくて……とても気持ちがいいんだよ。それに奉仕もすごく」
「うるさい……黙れ!」
「怒るなよ。見れただけラッキーと思わないとダメだろう?『伊藤月子、付いて来い』」

 神道陽太はベッドに向かい、そこに座る。伊藤月子はその隣に座った。
 恋人同士の男と女がベッドに座り、しかも女は裸。これからの展開を予想するのはあまりに簡単で、塔の主にとっては最悪のことで、さらに死体とそんなことをしようとする男に別の類の恐怖を感じていた。

「ちゃんと濡れるのかな……?
 口でさせるのはイヤだなぁ。バニーと同じじゃないか。
 ……あれ? もう濡れてる?」

 神道陽太がそこを撫でると、指はしっとりと濡れた。

「なんで濡れているんだろう……死は究極の快感なのかな?
 ……あ。
 ああ……
 そうか、これはバニーのアレか……まあ、いい。まあいいまあいい。『伊藤月子、中腰でまたがれ』」
「……!」

 のそりと動き、伊藤月子はベッドに上がって言われたとおりにする。
 神道陽太と伊藤月子は対面座位になっていた。塔の主は、伊藤月子の背中しか見ることができなかった。

「さぁて。文字通り、ここからが本番だよ」
「…………!」

 神道陽太はすでに硬くなったペニスを取り出した。塔の主は醜悪なそれから目を逸らそうとするが、もちろん“命令”の効果によりできるはずがない。

 そして、ついにその“命令”が下される。

『伊藤月子、そのまま腰を降ろせ』


 ズッ


 すでにバニーの体液で濡れそぼっていたそこは、やすやすと神道陽太は咥え込んだ。
 塔の主は悔しさのあまり目には涙を、そして下唇を噛み締めた。

「あぁ、いいよ……まだ温かい。それに避妊具なしという、この背徳感……たまらない」

 塔の主は口元に生温かな液体――噛みすぎたことで唇が切れ、血がにじんでいることに気づいていなかった。
 愛しい伊藤月子が蹂躙されている。だがそれよりも、憎らしいあの男は自身の恋人であり自分の想い人である伊藤月子を殺し、あまつその死体で性行為に及んでいる――死者を冒涜する行為が許せなかった。

「神道陽太……死ね……」

“命令”は禁止されているため発動しない。そんなことぐらい塔の主はわかっている。けれど、口にしていた。それほど神道陽太のことが許せなかった。

「おや? 羨ましいのかい?」
「死ね……死ね、死ね、死ね!!!」
「ははは、はははははっ! ごめんね、死なないんだよぉ! キミはそうして、僕らのことを見とけよ、なあ!」

 神道陽太の動きが早くなっていく。息が荒い。柔らかな笑みが少しずつ崩れていき、余裕がなくなっていく。
 何度も何度も腰を打ちつける。粘液が絡み合う下品な音が部屋に響く。
 そして、そのときが来た。

「あっ、アア、イ、くっ……ウッ!」

 神道陽太は伊藤月子に深く挿し込み――果てた。抱き締めたまま、神道陽太はゼイゼイと荒い呼吸を整えていく。
 伊藤月子をベッドに突き飛ばすと、ゴポリと精液が股の間からこぼれ出る。

 そんな初めての膣内射精の光景に、神道陽太の歪んだ精神はグツグツと煮えたぎる。達して間もないはずなのに、ペニスは屹立を見せていた。

「ククッ……いいな、中出しは……クセになりそうだ……
 でも、今回はここで一旦終わりだ。さすがに疲れたからね……
 よし、もういいよ」



【ゲームオーバー】



「さて、出来損ない。どうだった?」

 塔の主は何も言えない。涙目で睨み、唇を噛み締めるだけだった。
 そんな様子に神道陽太は心を弾ませる。

 当然である。彼からすれば、まだ始まったばかりなのだから。



「まだまだ続くよ、僕の活躍は。さあて、次はどうしてやろうかな」

       

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