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* やさしい塔 *
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* 彼女は気づく *
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無限弾倉というチート性能なライフルを手に入れ、ようやく伊藤月子も戦闘で役に立ち始め――ることはなかった。
どれだけ高性能な武器を装備していても、その多くは使用者の実力で左右される。その点で言えば伊藤月子はまったくの素人、飛び交うコウモリどころか、棒立ちしているオーガ(縦にも横にもデカイ)すら当たらない。
なので伊藤月子は当てることは早々に諦め、「とりあえずモンスターに向けて撃って、当たったらラッキー」ぐらいに考えるようにした。
さて、現在2人はあいかわらず塔の探索をしていて、モンスターの襲撃に遭っていた。
伊藤月子がライフルを入手したフロアから何階か降りてきたフロアで、トータル十数度目の襲撃。
これまでの頻度と比べると明らかに多すぎる。が、そんなことに気づくほど2人に余裕はない。
(あーあ、当たらないなー)
よほど射撃の才能がないのだろうか。子供でもお菓子で釣れば当てそうな標的になぜ当たらないのか。
伊藤月子は10発外すたびに、念動力で対象をひねり潰すことにしていた。働いている姿を見せているので問題はなかったのだが、1発も当たらないところを見られたくなかったのだ。
何だか割りに合わない気もしていたが、それが伊藤月子の小さな意地、プライドだった。
(銃弾の軌道変えるほうが楽だったりして……あっち、は?)
ちらりと立川はるかの様子をうかがうと、少し離れたところで同じ人間とは思えないほどの動きモンスターを斬り伏せていた。
速いなんてものじゃない、姿がほとんど見えない。斬って、返り血すら浴びずにその場から跳躍し、次のモンスターへ。ただそれを繰り返しているだけなのに場を制圧している。
少し前のフロアから、伊藤月子は立川はるかにある感情を抱くようになっていた。
もちろん、尊敬・感謝などではない。
今の時点ですでに、立川はるかの身体能力は伊藤月子を凌駕している。それは、超能力を使うよりも速く、行動することができるということ。
あのナントカという男(伊藤月子は浅田浩二の名前を覚えていない)が殺されたときに気づいてはいたが、いよいよ確信し始めていた。
それに加え、立川はるかの剣技は目を見張るものがあるし、魔法だって使うことができる。
もし全盛期であれば、今の立川はるかが束になっても負けることはないだろう。けれど弱体化しているこの身では荷が重すぎる相手だった。
伊藤月子は立川はるかが『脅威』であると認めていた。
が、『ある感情』とは恐怖・不安でもない。
「ふー……おーわり」
やたらキラキラしながら汗を拭い、立川はるかは伊藤月子に笑顔を見せた。
そんな笑顔に伊藤月子はというと――
「…………!」
プルプル震えながら、顔を真っ赤にして背を向けた。
そんな様子に首を傾げる立川はるか。
「月子さん、どうしたんですか?」
「……!」
強化された身体能力を使ったのだろうか、音もなく接近され顔を覗き込まれる。
立川はるかの顔が、すぐそばにある。それを意識しただけで思考がパニックに陥ってしまう。
「顔、赤いですね……もしかして、体調悪いんですか!?」
「ううん、元気、元気だよ……ちょっと疲れてるだけ……」
「なぁんだ、それなら良かったっ」
そう言って立川はるかは伊藤月子の手を握る。
何気ない、探索のときはいつでもやっていた行為、それなのに。
「~~~~~~!!!!!」
「わわっ?」
声になっていない声を上げ、伊藤月子はその手を振り払った。
「痛かったですか……?」
「え、あ……えっと、静電気がね、それに驚いちゃって……」
どこか納得していない様子の立川はるかだったが、特に気にせず再度手を握った。
立川はるかが引き、伊藤月子がそれを追う。いつの間にか立場が逆転していた。
『伊藤月子は立川はるかにある感情を抱くようになっていた』
(手、柔らかいし温かいなぁ……気持ちいい)
自分でもわかるぐらいに、顔が、身体が熱くなっていた。
(なんでこんなに……ドキドキするんだろう……)
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▲ ◆現在のステータス ▲
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▲ ◇立川はるか ▲
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▲ 【敗戦国の姫 レベル31】 ▲
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▲ 戦士の剣技 レベル15 ▲
▲ 魔法使いの魔法 レベル13 ▲
▲ 学者の知識 レベル10 ▲
▲ 盗賊の身体能力 レベル15 ▲
▲ バニーガールの魅力 レベル12 ▲
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▲ ※勝手に発動しているスキル ▲
▲ 魅了(チャーム)・・・モンスターを呼び寄せる ▲
▲ 同行者を混乱・興奮させる ▲
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▲ ◇伊藤月子 ▲
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▲ 【超能力者 レベル1(固定)】 ▲
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▲ 超能力 レベル1 ▲
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▲ ※状態異常 ▲
▲ 混乱 ▲
▲ 興奮 ▲
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