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* やさしい塔 *
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* そこには誰もいない *
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『ようこそ、1階へ』
二人はしっかりと休息をとったあと、休憩室を抜けてフロアを降りた。
『塔の探索も、もうすぐ終わりです』
次のフロアに入ってすぐ、そんなアナウンスが響く。
そう言われたところで2人はほとんど感動しない。
まだ何かあるかもしれない――と疑っているからだ。
『もしかしたら警戒されているのかもしれませんが、心配ありません。
残るは出口と、この塔の主が待っているだけです。
その塔の主も敵意はありません』
(そう言われても……)
立川はるかは素直に信じることができなかった。
(…………)
伊藤月子は信じるどころか、嫌な予感しかしなかった。
すでに『観ている』からだ。出口と、塔の主が待っているのだろうその部屋を。
『さあ、扉を開いてください』
長い一本道の置くに大きな扉。それを立川はるかが開くと――
何もない部屋。そこには誰もいない。
外へと通じる扉が開いている。1本の長い道、広がる草原、舞い込む澄んだ風。
「外、外ですよ月子さん!」
「うん……」
「そう言えば塔の主がいるって聞いてましたが……どこにいるんでしょうね」
盛り上がる立川はるかの反面、伊藤月子はあまりに静かだった。
伊藤月子が抱いていた、最悪の展開。それが的中してしまったからだ。
『申し訳ございません。塔の主はここにはいません』
「外出中?」
『いいえ、違います。正確に言えば、塔の主はこの塔を放棄されました』
立川はるかは意味がわからなかった。もちろん伊藤月子もわからない。が、次に言われることは容易に想像できていた。
『現在、この塔は所有者がいない状態です。
お二方には大変申し訳ないのですが――』
『どちらかお一方、塔の主になっていただけませんか?』