Neetel Inside ニートノベル
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 全部打ち明けてから、劣等感が増長したのは言うまでもなく。
 一人で当て所なく走りまわっていた時とは違い、今は目の前に散咲さんがいる。羨望するまでの我の強さと、周囲の目など気にも留めない胆力を持つ彼女と比べ、自分の何と器量の小さいことか。一連の事件に関しての自責の念もさることながら、そういった私の人間的な部分での惨めさが、口に出して表現することでより際立ってしまう。
 正也の男性的な父性のことまで引き合いに出して何もかも喋ってしまう自分が、とても幼稚に思えた。よさそうなモノ全てを欲しがり、手に入らないと分かると駄々をこねる子供そのものだ。
 そんな子供に現実が甘くないのは、年を取ってからも変わらない。と言うのも、
「じゃ、変わっか? 俺とおめーでよ」
 突拍子もないことを言う散咲さんだが、その提案が人間の限界を超え実現可能であれば、短絡的ではあるが最も簡単で手っ取り早い解決方法である。そう、私が散咲さんや正也のように、或いはそのものになればいいだけの話。
 だがそんな事は無理なのだ。生物学的なことを言えばDNAだとか、生育環境による性格の違いだとか、個人をその人たらしめる要素と言うのはあげていけばキリがない。各々固有の個性を、他人と同化させるなんてことは到底できない。
 だから人は羨むのだ。自分には持ち得ない魅力に嫉妬してしまう。その感情は稚拙そのものだ。
「優等生の朝川さんはよくお分かりになっておいでで。まー可能だったとしても俺になりたいって奴はいねーだろーけどよ」
「申し訳ないけど、そこは同意するわ」
「ケッ、だったら物欲しそうな目で人を見るのやめやがれ」
 分かってはいても。それでも感じてしまう自己の矮小さを打ち消せるわけではない。
「シケた顔しやがって……ココまで言ってまだわかんねーのか」
「何、が?」
「おめーじゃ俺やその男にはなれねーよ。そしてその逆もそーだ。俺はおめーにはなれねー」
 そのぐらいのこと、既に気づいている。今までの話は私のみでなく、誰にも当てはまる。
 ただ、その事実が同時に導き出す別の結論にまでは頭が回らなかった。
「つまりどういうことか。藤田をそういう人間にしたのも、藤田とそういう関係になったのも、全部てめーにしかできなかったことだってんだ」
「……」
 言われてみればそうだ。今の鞠乃がいるのは私がずっと傍にいたからに他ならない。私の代わりに正也や散咲さんがいてあげたとしたら、彼女も相応に違う人生を歩んでいただろう。
 その思考に至って、私はその二人を羨ましがっているのだから。
「……責め苦にあった気分。鞠乃がああなのも全部私のせいってことでしょ?」
「それも言いてぇところだな。自分のケツは自分で拭けや。飽くまで責め苦を感じるならな」
「分かってる。分かってるのよ……。私は二人みたいにはなれない。鞠乃がまだ夜が怖いのも私のせい。だけど……だからこそ……もしもとか、仮定の話が辛い……」
 いくら非現実だと理解していても、反省、後悔という形でそういうIFの話を考えてしまう。
「何でもてめーだけで片付けようとすんじゃねーよ。じゃあその仮定ってやつでお前が俺だったらどうなってたってんだ」
「分からない。だけどきっと、私といるよりかはマシなんじゃないな……」
「一側面だけ見て単細胞みてーな答え出されちゃ、取り上げられた俺もたまったもんじゃねー。だから俺自身がどうなっただろうか事細かに教えてやるよ。言いな。いつどこでどう会って、今までどんな人生あいつとつるんで送ってきたかをよ」
 別にひた隠すようなことではない。
 だけれども、鞠乃の体裁や、明かした際の私たちを見る目が変わりそうな気がして、私と彼女の生い立ちは幼馴染だった正也を除きこれまで誰にも言ったことはない。
 ただ、今自分自身の精神が酷くやられているからか、散咲さんの言葉運びが上手いからか、自然と口から零れるように、寧ろ私の方から話したいと思わされてしまった。

       

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