俺と横井がノックすると沢村は自分で病室の扉を開けて顔を出した。
「お、おお? 後藤に横井じゃん。なになになに、どしたのどしたの」
「見舞いだよ見舞い」
さすがに天ヶ峰が残していった色とりどりの借用書の束は渡すに忍びなかったので捨てた。
「他校のやつと喧嘩したんだって?」
さも人づての噂の果てに尾ひれがついたような風を装って俺が言った。そうでないことはもちろん俺が一番よく知っている。ついでに横井も。
「そうなんだよ。いや俺もよく覚えてねえんだけど、なんか変な女子高生が……」
そこでちょっと口ごもって、
「ああ、いや、すげえ強い女子高生がなんか襲い掛かってきて……肉体的な意味で」
「物理的な意味で?」
「そう」
俺と横井は顔を見合わせた。どうやらやはり、沢村キネシスについてはまだ打ち明ける気にはなれないようだ。そりゃあそうだろう。俺だって手から火ぃ出たらちょっと友達に相談するには時間をかける。
そういう時は、日常の話題をするのが一番だ。
「俺と横井は見舞いなんか来たくなかったんだけどよ、酒井さんがいけいけってうるせーんだ。なあ横井」
「そうそう。それに天ヶ峰のお供まで……」
そこまで言いかけた横井の腹に容赦なくエルボー。馬鹿が、余計なこと言いやがって。沢村の顔色がいちじるしく悪くなったじゃねえか。
「天ヶ峰……? あ、あいつも来てんの……?」
「いいんだ。もう終わったことだ。忘れろ」
「そうか……」
沢村は意気消沈してベッドにもぐりこんだ。遠い目をしている。
俺は腹を抱えている横井の爪先を踏んだ。この空気の責任はおまえが取るのだ少年。なんだその涙目は。俺の機転で流れ弾に当たらずに済んだんじゃん。
「あ、えっと……なんか悪いな沢村、見舞い品もなくって。あ、果物がある」
横井がめざとくベッド脇の果物籠に目をつけた。沢村はちょっと嬉しそうな顔になる。
「おお、昨日届けてもらったんだ。早く喰わないと悪くなっちまうし、一緒に喰おうぜ」
「いいの?」
「うん、俺一人じゃ食べきれねーし。悪くしてももったいないだろ? 喰おう喰おう」
「ありがとな沢村」
横井は籠からリンゴをひとつ取り、添えてあった果物ナイフと一緒に沢村に差し出した。沢村は笑顔のまま戸惑っている。
「?」
沢村はきっと無意識だろう、リンゴとナイフを受け取った。そしてしばらくしてから言った。
「お……俺が剥く感じ……なの?」
「え、うん」
横井……おまえ最低だな……。
日が暮れかかった病室の中、ひとりしゃりしゃりとリンゴを剥く沢村の寂しい姿が印象的だった。誰だよこの悲劇を作ったのは。俺もう悲しくて前が見えねーよ。
「よし、できた。喰おう喰おう」
ことさらに明るく振舞おうとする沢村が、取り皿にリンゴを三切れずつよそって手渡してくれた。爪楊枝をブッ刺して三人でもしゃもしゃと食った。
「うまいな」
「うまい」
「おお」
それでなんとなく「まあいっか」みたいな顔に沢村がなってくれたので一安心である。男子はこういうとこチョロイなって思う。俺も男子だけど。
「具合はいいのか?」もぐもぐ。
「おう。もう来週からは学校いけるって」
「そか」
「検査入院みたいなもんだったらしい」
「へえ。でもあれだな、そんな恐ろしい女子高生がうろつき回ってるなんて世も末だな」
「ほんとだよ」
沢村は肩を落とした。
「最初声かけられた時はちょっと舞い上がっちゃってさ。黒髪ロングだったし」
「黒髪ロングじゃ仕方ねえな」
「そうだろ。それでのこのこついてったらいきなり燃……どつかれて追っかけ回されてとどめに後頭部への一撃だよ。死ぬかと思った」
「物騒だなあ。今後は護衛をつけた方がいいな」
「護衛?」
「ああ。誰かと一緒に登下校すればそいつももう手を出してこないだろ」
本当はもう犯人の紺碧の弾丸さんとは話がついているのだが、リアリティのためにまどろっこしい手続きを取ってみた。沢村は嬉しそうな顔をした。
「マジか。それ助かるよ。いやーほんとは引きこもろうかと思ってたくらいでさ。ありがとう」
「なに言ってんだ水臭い。俺と沢村の仲じゃねえか」
「後藤……!」
俺たちは固い握手を交し合った。ま、たまにはな。
「じゃあそろそろ俺ら帰るわ。おい、いつまで喰ってんだ横井。いくぞ。じゃあな沢村」
「ああ。今日は来てくれてありがとな」
「おう」
帰り際、あっと沢村が声をあげた。俺は振り返った。
「どうした?」
「あのさ後藤……もし俺がさ……」
「うん」
沢村は何か言いかけたが、結局やめた。
「なんでもないわ。じゃあまた学校で」
「ああ、また学校で」
俺と横井は病室を後にした。
隣を見ると横井が珍しく神妙な顔をしていた。
「沢村のやつ、ひょっとして沢村キネシスのこと……」
「打ち明けようとしてたんだろうな」
「あの犬飼って人になんか言われたのかな?」
「かもな……ま、あいつが言いたくなったら聞いてやればいいって方針は変わらないし、いいんじゃねえか、ほっといて」
「そだな……」
「ま、俺はそれほど重大なことだとも思ってねーよ」
「なんで?」
「だって沢村の手から火が出ただけじゃん」
横井は、そのあとに俺が何か言うのかと思って黙ったらしい。が、俺が何も言わないので、俺の言いたいことがそれだけだと悟ったようだ。神妙なツラが意外そうなツラになった。
別に大したことはないのだ。紺碧の弾丸さんが殺人者になったわけでも犬飼さんの凶弾に横井が倒れたわけでもない。何か起こったら起こった時に悩めばいい。それだけのことだ。
病院の外に出ると風が出ていた。そろそろ夏が来る。鬱陶しいが相手をしてやらねばなるまい。夏休みをもらえる身分じゃ文句も言えねえ。
勝手知ったる地元の道を闊歩していると、突然横井が立ち止まった。
「どうした」
「あ、あれ……」
指差した先にいたのは――
「あれ? 待っててくれなかったの? ひどいなァ――わたしがどんな思いで帰ってきたと思ってるのさ?」
天ヶ峰美里は満面の笑顔で、拳をべきべき鳴らした。
しまった。こいつの存在をすっかり忘れていた。
「あのままヘリで敵のアジトを壊滅させてくるのかと思ったよ……」
「あはは、さすがに上から鉄砲バンバンやられちゃ降りるしかなくってさあ。裏山の森に落ちたからよかったけど」
「道理で制服に葉っぱとか土とかがくっついてるわけですね……」
「うん。それでさあ、もうこの時間だとお見舞いの受付終わってるでしょ? 困ってるんだ、わたし今お財布の中120円しかなくて」
なくて、なんだと言うのか。そんなもん俺たちの知ったことではない。ジュースしか買えないねとでも言わせたいのか。そうはいくか。絶対に言わないぞ。
「横井、ひるむなよ。……横井?」
隣にはもう横井の姿はなかった。すわ、逃げたか、と思って首をめぐらせて、俺の想像が途方もない誤解だということを知った。
二十メートル先で横井が腹から煙を出して倒れている。
とん、と天ヶ峰が俺の肩に顎を乗せてきた。
「ジュースしか買えないね、って言って」
「…………………………」
「ジュースしか買えないね、って言って?」
駄目だ。お母さんごめんなさい。俺にはこのプレッシャーをはねのける機能がありません。せめて目をそらしながら俺は屈辱に耐えた。
「ジュース……しか……買えない……ね……」
「僕のお金をあげるよ、って言って」
「勘弁してください……」
「恨むなら沢村を恨みなよぅ」
「有り金取られて明日から俺たち何を食えばいいんですか……」
天ヶ峰は顎をめぐらせて俺と至近距離で見詰め合い、指で地面を示した。
正しくは、俺の靴を指していた。
「やめてください……助けてください……」
「ねーえ、わたし、来月のバイト代が入らないとご飯食べられないんだあ。可哀想でしょ?」
可哀想なのは俺だ。
俺は必至に目をつぶって、最後の手段に出た。ここまで来たら根競べだ。見ざる聞かざる言わざるで押し通す。呆れられてもいい、嘲笑われてもいい。俺は死にたくなかった。
髪を掴まれた。目を固く閉じたまま俺は歯を食いしばった。髪の毛がなんだ。俺は昼食代もなしに高校生活なんて送る気はないのだ。振り回すがいい、引きちぎるがいい。俺は負けない!
だが、予想に反して天ヶ峰の手つきは優しかった。ゆっくりとだが有無を言わさず、俺をその場にひざまずかせた。そのまま、俺の頭を持って、どうやら自分の腹に当てたらしい。まるで倒錯したカップルみたいな体勢で恥ずかしくなる。俺はどうか横井が気絶しているか、さもなくば死んでいることを願った。それにしても天ヶ峰は何がしたいのだろうか。一瞬後、答えが出た。
ぐうううううううううう…………
獣のうなり声だと思った。
「聞こえた?」
天ヶ峰の悪魔のような声。
「わたしの・お・な・か・の・お・と?」
ひ。
ひィィィィィィ…………!!
「星が……綺麗だな……」
「あァ……そうだな……」
かわっぺりの土手に俺と横井は少しだけ軽くなった身体を横たえて、星空を見上げていた。ちかり、と流れ星が光ったように思えたが、それは俺の目が涙で滲んで映ったゆらめきに過ぎなかった。
クラスメイトの手から火が出たからなんだというのだ。
クラスメイトが悪魔よりかはいくらかマシじゃん?
クラスメイトの手から火が出るところから始まって、どうしてカツアゲされて終わるのかがわからない。が、現に俺の財布はカラッケツになってしまって毛クズも出ない。
まァ、天ヶ峰美里と絡んでいればこの程度の災難は慣れっこになってしまうので、俺はくよくよするのをやめた。そんなことをしていても一銭になるわけでもなし。それに気に病んで不登校をキメこんだところで「あれ? あいつ最近こないな」と無駄に天ヶ峰の眼をこちらへ向けてしまうだけで逆効果だ。最悪、天ヶ峰が玄関口で「おおい、おおい」とこっちの名を呼びながら扉を叩くという放送できない恐怖劇が開催されることになる。小三の頃に転校していってしまった宮崎くんはその恐怖に耐え切れなかったと聞く。元気かな、宮崎くん。あいつ俺のビーダマン借りパクしてったんだよな……別にいいけど。
ま、ないものは諦めるか。俺は割り切って、月曜の朝を迎えた。
ベッドを蹴飛ばしてその上に乗っていた本の類を床へ蹴落とした。できればそんな風な扱いはしたくないのだがこうでもしないとテーブルの上が満タンになってしまうのだ。俺がすべて中古書店の100円均一で買い揃えたこの蔵書は漫画喫茶を一軒も持たないこの町では貴重な情報源となっている。一日10円で貸している。返却延滞の場合は取立人がいく。誰がいくのかはわかってもらえると思う。
俺はパジャマのままザッバザッバと本の海をかきわけ、リビングへいった。腰から下を埋めたままレンジ用コンセントに繋いである携帯をいつものように抜き取ると、着信が一件。内容はメールで確認して、俺はため息をつく。
七時半登校は一週間前には言ってもらわないと困るよ。
○
「ういーっす」
教室に入った俺は度肝を抜かれた。机と椅子が重ねられて隅へ追いやられていたからだ。俺は教室に集まっていた横井や酒井さんを筆頭にした同級生どもにうろんげな視線を向ける。
「なに? これからワックスでもかけんの?」
「残念ながら違う」
「お――」
教壇に腰かけているのは学ランを着た金髪ショートカットの美少女。腕を組んでこちらを見下ろすその目は青。写メでも撮れば金まで取れそうだが俺はまだ携帯を無くしたくない。
「よお紫電ちゃん」
「ちゃんづけはやめろ。貴様と私はお友達ではない」
金髪碧眼の美少女――西高の鬼の生徒会副会長こと立花紫電ちゃんは豆腐ぐらいならスパッといけそうな目で俺を見た。基本的な人間の権利がそろそろ欲しい今日この頃。
「おい、紫電ちゃんのやつあんなこと言ってるぜ茂田よ」
俺はいつの間にか隣にいた茂田に言った。
「生徒会副会長のセリフとは思えねーよ。校内の風紀が乱れたらどうするんだ」
「そうだぞ紫電ちゃん」茂田も拳を突き上げて賛同した。
「うちの県は校内暴力が盛んなんだ。生徒同士の結束は必要だよ。だから写メを撮らせてくれ」
「…………」
紫電ちゃんが組んでいた腕をほどいた。俺たちはその場に平伏した。
「ごめんなさい」
「すいませんでした」
無言の重圧が一番こえーよ。やっぱからかう相手は選んだ方がいいな……。
紫電ちゃんはまた腕を組んで拳に安全装置をかけた。
「私とて朝一で貴様らポンコツ3組の顔なぞ見たくなかった。だが今朝はどうしても諸君に直に伝えたいことがあってな。突貫で集まってもらったというわけだ」
「このお掃除フォーメーションはどういうわけで?」
「貴様らが私の話を直立して聞くためだ」
せめてそういう忠義は任意にしてくれよ。でも逆らうと怖いので我らがポンコツ3組は教壇に腰かけた女帝の前に四列縦隊を男女で二つずつ作った。
「この中で、すでに気づいている者もあると思うが――」
紫電ちゃんは足をぶらぶらさせながら言った。
「先日、沢村のやつが手から火を吹いたらしい」
「火ィッ! それはほんとでやんすか!? ――うおっ!!」
あぶねっ! 黒板消し投げてきやがったあのアマ!
「黙らんか後藤! 話が進まん!」
「すみません」確かにそうだ。
「まったく馬鹿が。とにかく、いや酒井そんな人を哀れむような目で見るのはやめろ。どうにも本当らしいのだ」
「誰から聞いたの?」
剣道部の酒井さんはあわよくば紫電ちゃんを保健室へ連れて行きたそうなツラをしている。
「美里だ」天ヶ峰ね。
「昨夜、メールでデコりながら送ってきた。沢村が発火能力……パイロキネシスに目覚めたとな。やつは馬鹿だが私に嘘はつかない。話によると政府のさる筋、ハウンドドッグとかいう暗殺者も動いているらしい」
当事者の俺も初耳である。
ハウンドドッグ? それってもしかして犬飼さんのことか?
あいつ名前覚えないってレベルじゃねーな。犬しかわかってねーじゃねーか。
「それで、そのハウなんとかはどうしたの?」
「美里が追い返したそうだ。そういう事情もあるので、今後のことをみんなで考えていきたいと思う。どうすればいいだろうか?」
教室にどよめきが起こった。
俺は隣の茂田のわき腹を小突いた。
「どうすればいいと思う」
「発電所に売る」
あーいま電気不足してるしなー……って違うわ!
「馬鹿! あの程度の火力で国難が凌げるかよ!!」
「そういう問題でもねえよ!」
横井である。
「おう横井。来てたのか」
「最初からいたよ……」
「へえー」どうでもいい。
俺は横井の向こうにいるロリコンの木村に話を振ってみた。
「沢村の手から火が出るんだってよ。はいどうする」
「見世物にして金を取る」
ロリコンの木村は即答した。
駄目だこりゃ。こいつ幼女以外は人間と思ってねーんだった。俺はさわらぬカスに祟りなし、ロリコンの木村のうしろにいたヤンキーの田中くんにも話を聞こうと思ったのだが、あいにくと田中くんは立ったまま寝ていたのでできなかった。
と、女子陣の方がにわかに「おおおおお」と盛り上がってきた。すわ、戦さかと思って見ると、どうやら意見がまとまりつつあるらしい。ていうか四列縦隊守れよ女子。輪になってるじゃねーか。
酒井さんが一歩前に出た。
「沢村くんには、私たちが気づいていることは黙っておいた方がいいと思う」
「ふむ――やはりそう思うか」
「うん。自分から言い出してきたら受け止めればいいし、やっぱり隠しておきたいと思ったら、そのまま気づいていないフリをしていてあげようよ。可哀想だよ、きっとテンパってると思うし」
ちっ、ぶりぶりしやがって。何が「可哀想だよ」だよ。その舌先三寸で俺と横井の財布は壊滅して俺らの学園ライフ戦線は大混乱だよ。来月までどうやってメシ喰えってんだ。
「くそっ、なんだか正論を聞いていると逆らいたくなるな」
「ああ、やはり沢村はNASAや安田大サーカスに売るか劇団ひとりをふたりにするかのどちらかだな」
「ちょっ、おまえら! そういうこと今言っちゃ駄目だよ! 酒井さんいいこと言ってんだから」
うるせえ横井。シメんぞ。俺はメンチを切ったが横井には効果がなかった。
しかしまァ、おおむね酒井案は俺の案と同じだったので、特にそのことに対して俺から異論はない。紫電ちゃんもそうだったらしく、ふむふむと頷いていた。
「よし、それでは一同、『沢村のことはシカトする』でいいな?」
「言葉が悪いよ紫電ちゃん。それじゃ沢村ごとシカトしてるよ」
「む? ふむ……解釈は皆に任せる」
おいおい。
「それでは朝から集まってもらってご苦労だったが、これにて解散。意見があるやつは手を挙げろ。――いないな? よろしい、ではくれぐれも沢村キネシスのことはこのクラス以外では内密にな。すべては我が校の安寧なる風紀のために」
紫電ちゃんは学ランの襟を正して颯爽と出て行った。どうでもいいけど紫電ちゃんはいつも生徒会員着用必須の学ランの下にカリフォルニアのトウモロコシ畑がプリントされたTシャツを着ている。誰か止めないのかな。
○
俺たちが椅子と机をいじめられた子みたいに元に戻しているとガラリ、と教室うしろの戸が開いた。みんなの視線がそこに集まった中、ふらりと床の木目に倒れこんだ男が一人。沢村である。
「沢村っ! お、おいどうしたっ!!」
サッカー部の江戸川が駆け寄ったが、沢村は生身のまま洗濯機でガオンガオン揺られたような有様でまともにクチが利けないらしい。
「あ、……」
「あ? あがどうした」
「あま……」
江戸川はそれですべてを察した。急に無表情になってぱっと沢村から離れた。支えを失った沢村の後頭部が思い切り床に激突したが、一顧だにせず江戸川は後退しモブの海へと戻っていった。サッカー部ってそんな処世術も習うの?
そして、江戸川が表舞台から去ることになった原因がバァンと戸を足で開けて現れた。
「おはよう、しょくん! あ、沢村発・見! だめだよぅ勝手にいなくなったりしちゃあ」
天ヶ峰美里はトラウマを負った子供が描いた似顔絵みたいなツラで沢村に近づいた。沢村がいやいやをしながら尻でずり下がろうとする。そして俺の足にぶつかってきた。
「た、助けっ……げほっ……てくれ……後藤……」
「どうした沢村。顔が白いぞ」
「家を出た……ら……いきなりやつが……どうして……俺が何をしたって……いうんだ……」
「ああ」
俺はポンと手を打った。
「それなら理由は簡単だよ」
「ほん……とか……?」
「ああ」
俺はすがりついてくる沢村ににっこり笑ってみせた。
「俺が呼んどいたんだ」
人間は心から絶望した時、声も出ないものらしい。
「ほら、沢村に護衛をつけてやるってこないだ言ったろ? アレがその護衛だよ。朝一でおまえを迎えにいくようにって言っといたんだ」
沢村が俺の足をゆさゆさ揺すってきた。
「後藤!? 俺なんかおまえにしたか!? 俺なんかおまえに許されざる行いをしたか!?」
「いやべつに」
だって面白いし。それに天ヶ峰が手頃なおもちゃで遊んでいる間はこっちの負担も減るしな。
俺は沢村の肩をぽんぽんと叩いた。
「よかったな。クラスメイトで幼馴染の女の子と一緒に登校できて」
「いやだあっ!! アレはちがう、そんなんじゃない!! そんな素敵なモノじゃない!!」
俺も似たようなセリフを吐いてきたから気持ちはわかる。が、助けてはやらない。
「もぉー」
天ヶ峰が一歩ずつ沢村に近寄ってくる。沢村の手が痙攣し始めた。
がしっと白くて小さな女子の手にしか見えないなにかが沢村の肩を掴んだ。そのまま引きずっていく。
「そろそろ授業始まるよ沢村クン? はい、席につきましょうねー」
ガン!
持ち上げられて椅子にケツを叩きつけられた沢村から嫌な音がした。酒井さんなどはあまりの惨劇に目を覆っている。寺本さんは机に座って予習をしていた。そうだよな、一限の数学小テストあるもんな。十点はでかいもんな。人を見捨てたって仕方ないよな。
「はい、じゃあ教科書をかばんから出しましょうねー」
「やめてください自分でできますからほんとお願いしますやめてください手が取れます」
天ヶ峰は一時的難聴を患っているようだ。嫌がる沢村の右手をかばんに突っ込み、無理やりナックルを作らせて数学の教科書とノートを取りださせ、机の上に広げさせた。そして沢村の右手に今度はシャーペンを握らせて、
「はい、予習しましょうねー。因数をバラバラにしたりくっつけたりしましょうねー」
ノートにのたくった数式が描かれていくたびに、沢村のゲンコツがきしむ音がした。俺は隣の茂田に脇を突かれたので隣を見ると茂田が耳栓を差し出してきた。
「なにこれ?」
と俺が聞くと茂田は無言でロリコンの木村を顎でしゃくった。木村はみんなにビニール袋に詰まった耳栓を配っていた。おそらくは世間の偏見と戦う時に木村がつけているもののスペアだろう。願わくばやつに対する世間の目が偏見でなく正当な評価だとやつが気づく日が早く来て欲しい。
俺は耳にすぽっと栓をして、一限が始まるまで眠ったフリをして過ごした。
悲鳴の振動がびりびりと足に伝わってくるのがちょっとかゆい。
『登場人物紹介』
後藤……まじめ系クズって言うと怒る
紫電ちゃん……学ランはちょっとぶかぶか
ロリコンの木村……実妹モノはちょっと苦手
江戸川……今後出る予定はない
沢村……来るときにどんぐりを食べさせられた
起きたら二限になっていた。何が起こったのか俺にもちょっとわからない。
誰か起こせよ……小テスト終わっちまったじゃねーか。数学の中西は何やってたんだ。俺のこと嫌いなの?
朝から憂鬱になることばかりである。
俺はため息をついて教科書とノートを数学から日本史にクラスチェンジした。話は聞かないにしてもノートくらいとらないとな。
教壇では日本史の志波がアラビア語みたいな字で日本についてなにがしかの記述をしている。よくあんな悪筆で教員試験に合格したものである。コネか賄賂か暗殺かどれかだろう。誰を暗殺すれば教員になれるのかは俺が知りたい。
「つまり……この時……。……。……」
志波の声がとても遠くに聞こえる。
ううっ、やめろそのシータ波をどっばどば出させる効能のある喋り方は。寺本さんが机に沈んでるじゃねーか。
「幕末……ペリー……黒船……」
やばい、歴史を読み上げる声がジャミングされた無線みたいに聞こえてきた。くそぅ、このままだとちゃんとノートが取れなくて大変なことになってしまう。一度写させてやったら茂田―横井ラインの不足ノート分は俺が補うみたいな空気になってしまったので、ノートに不備があるとテスト前にゴミを見るような目で見られることになってしまう。
周りを見るとやはりみんな眠そうだった。七時半登校だったしな、うち。
それもこれも紫電ちゃんがメールで済ませるべきところを集合かけやがったからである。沢村のことで何か不備があれば紫電―天ヶ峰ラインで何もかも殲滅すればいいだけじゃん。あの人、天ヶ峰の膝蹴りボディに喰らっても生きてた唯一の生命体だし。
「zzz……」
かくいう天ヶ峰はお気楽にお眠りあそばしている。幸せそうなツラしやがって、これだからどんな状況でも他人にノートを見せてもらえるやつは嫌いだよ。
俺はシャーペンの先でぐさぐさ手をやりながら時計を見た。あと三十分で十分休みだ。
ざくり。
俺の手の甲にシャーペンが突き刺さった。しかしそれでも眠い。
あわや後藤艦沈没か――というときにいきなり衝撃が襲ってきた。
ぎゅるるるるる
腹痛である。
あたたたたた。これはやばいわ。一瞬で顔にびっしりと冷や汗が出てきた。なんか変なもんでも食べたかな……。
こっそりと目立たないように腹をさすってみたが駄目だった。いててててて。腹ん中で高周波ブレードが荒れ狂っているとしか思えない。致死率100%である。
このままではうんこを漏らしてしまう。おっかしいなあ。昨日の夜結構出たんだけどな……
ずきききききぃぃぃぃん
あ、これはまずい。意識がかえって冴え渡ってきた。眠気がぶっ飛ぶ痛みってちょっと俺のおなか頑張りすぎだろ。本体死ぬぞ。
呼吸が浅くなってきた。
恥も糞もあるか、手を挙げてトイレにいくって志波に言おうと思ったが、腰が浮かない。
くうっ、やっぱ恥ずかしい! 恥ずかしいよ! 仮に保健室へいきますって言ってもへっぴり腰だからバレると思う。俺が出て行った後の教室でかわされるにやにや笑いのことを思うとトイレにいく前にこのクラスの連中を皆殺しにした方がいい気がしてくるからふしぎだ。くそぅ、うんこの何が悪いんだ!
と、そこで俺はハタと気づいた。
どうも腹部を押さえているのは俺だけではない。
寺本さんは突っ伏しながら肩を震わせているし、横井は小ざかしく風邪の演技を始めて額に手を当てている。酒井さんは爪先で床を「の」の字に書き始めたし、茂田にいたっては椅子の上で正座している。気持ちはわからなくもない。
これって……ひょっとしてクラス全員が同じ腹痛に襲われているのでは?
なぜそんな怪現象が……集団食中毒でもあるまいに。今日び他人の作ったものは相手に食わせてから食べるのがこの町での作法である。地柱町で生きていくのはちょっと普通の神経をしているとむずかしい。
俺は沢村を見た。
「う……ぐ……」
沢村も腹を押さえている。しかも一番辛そうだった。目玉が半ば飛び出している。
ひょっとして、これも沢村キネシスの一つなのではないだろうか、と俺は思った。
超能力といえば念動力や発火能力も有名だが、それと同じくらいに精神感応能力……テレパシーも有名だ。突然の腹痛で沢村に秘められた新たな力が覚醒し、やつの痛覚が俺たちに感染してしまっているのではないだろうか。できればそんな力に目覚める前に普通にトイレにいってほしかった。
まずい……このままだとポンコツ3組がくそったれ3組になってしまう。いや、ひょっとすると影ではもうそう呼ばれている可能性もあるが、そのあだ名が悪口じゃなくて真実にまで引き上げられてしまうと高校生として、いや人間としてかなりまずい。半笑いじゃ済まされないと思う。
なんとかして沢村には元気よくトイレにいってもらわねばならないのだが、野郎、必死に唇を噛み締めて痛みに耐えている。仮に沢村が腹痛に耐え切れたとしても、クラス全員が耐え切れるとは限らない。なんとかしなければ。
俺は隣の席の人間と相談しようとしたが駄目だった。左隣は沢村だし、右隣はあんまり話したことのない望月さんだ。いきなり望月さんに「沢村、うんこしたいみたいだぜ」とか言ったらたぶん望月さんはもう俺に椅子を貸してくれたりしなくなると思う。そうすると昼休みに横井が立ち食いで弁当を食う羽目になる。べつにいいか。
「望月さん、ちょっと」
「な……に……?」
望月さんは息も絶え絶えである。
「沢村がうんこしたいらしい」
「ああ……やっぱり……」
思っていたよりも望月さんは話の通じる子だった。よかったあ睨まれなくて。
望月さんは自分のおなかを指差して、
「沢村くんキネシスの影響なの、これ?」
「たぶんな。みんな腹押さえてるし」
「そうなんだ……じゃあ……消そっか……」
「え?」
「沢村くんを……」
望月さんの左手に刃が伸ばされたカッターが握られていた。俺は手刀でカッターを弾き飛ばした。ふう、これだから女子は油断がならない。
「消すのはやめとこ。な?」
「う……ん……でもこの痛み……耐えられ……ないよ……」
確かに。もしこれが沢村の感じている腹痛だとしたら、あの野郎、頑張りすぎである。俺だったらこの三分の一の痛みでトイレではなく家に帰っている。
しかし、あと二十五分、このまま沢村に無理を強いているわけにもいかない。なんとかしてやつがプライドを傷つけずにトイレへと迎える口実を作ってやらなければ、三限は本当に床のワックスがけになってしまう。
しかしどうすれば……そこで俺は名案を思いついた。自習にするというのはどうだろう。たとえばいま志波が意識を失うか怪奇現象さんに殺されるかすれば、授業は自習となる。そうすれば教室でおとなしく算数ドリルと漢検の模試をやるやつなどいるわけもない。みんなバラバラに行動し始めて、沢村がトイレにいこうがいくまいが誰も気にしない。沢村には悠然と教室を出てもらいトイレで苦痛から解放されてもらう。そうすれば沢村キネシスも収まり、やつが感じている苦痛は当然、俺らからもなくなるという算段だ。そのためには志波を消さなければ。
やはりカッターか……と身構えた時、俺は志波の顔をこの時間、初めてまともに見た。
「……新撰組……台頭……京都……芹沢……」
志波は青ざめていた。もともとうらなり顔で太陽光を浴びせるのは健康上よくないんじゃないかと疑いたくなる顔色だったが今はもう本当にひどいことになっている。溺死体同然である。
間違いなく志波も沢村キネシス(テレパシー版)の影響を受けていた。
もちろん、教師陣は沢村の異能のことなど知るよりもないから、志波はその腹痛を己の不徳だと思っているのだろうが。
「志波先生も痛そうだね……」
望月さんから喋りかけてきてくれた。ちょっと嬉しい。
「ああ、そうだな。志波がトイレへいってくれれば、自習になって話が簡単になるんだが……」
「たぶん……志波先生、ここが好きだからだと思う」
「え、教室が?」
望月さんがゴミを見るような目で俺を見て、とんとんと教科書を叩いた。
「幕末……」
「ああ……」
確かにいわれて見れば、このあたりの日本史の範囲は志波の大好物なところである。世に言う幕末である。黒船が来航し、役立たずの集まりに成り下がった幕府をDQN手前の維新志士たちが押し倒して国盗りした時代だ。今で言うならニートが永田町で政治家相手にポン刀を振り回していたようなものだ。胸熱である。
「この授業を最後までやりたいから……トイレにいかないんじゃないかな……」
望月さんにそう指摘されて俺はまじまじと志波のうらなり顔を見た。急に冷や汗でてかるその顔が格好よく見えてきた。志波……今度のテストは俺ちょっと頑張るよ。とりあえずこないだ薦められた『燃えよ剣』だけはちゃんと読んでおくよ。
だがそれはのちの話であって、今はとにかく早いとこ沢村のケツを便器に叩きつけないことにはバイオハザードは確実である。俺は沢村にならって念を志波に飛ばしてみた。頼む、志波! おとなしく心を折ってくれ。
その俺の願いが通じたのか、志波が「うっ」とおめいてよろけた。教壇に片手をつく。しめた、限界か? 先頭の生徒が不審げに志波を見た。
そのとき、志波の手からチョークが落ちた。どうもそれがわざとのようだったので俺が首を伸ばしてよくよく見てみると、志波は、
「おっと……」
などと臭い演技をしてしゃがみこんだ。そしてそのままチョークがなかなかつかめないフリをしながら、
「あれっあれっ」などと言っている。
教壇に隠れて見えなかったが、おそらく腹をさすって体力を回復させていたのだろう。志波……あんたって人は……。これが非常事態でなければ尊敬していたところである。
志波が再び黒板に向き直り授業を続けてしまった。
ずきいっ、ずきいっ
ぐっ! 痛みがまた増してきた……今度は沢村が限界なのか? 俺は隣を見た。
沢村の口が梅干みたいになっている。
どうやら限界らしい。もう漏らしたんじゃないかと疑いたくなるツラをしていたが、まだいくらか持っているようだ。
その時、沢村の手がそろそろと上がりかけた。
お? 挙手するのか? それは大変な勇気がいることだが、大丈夫だ安心していい。
もうみんなおまえがうんこしたいのは身をもって知っているのだからな! 頼むから早くいってくれ!
沢村がなけなしのプライドを灰燼に帰そうとしたその時、バイクのエキゾーストのような音がした。
屁である。
俺は絶句した。このタイミングで? 馬鹿じゃないの? 沢村も同じ気持ちだったろう。手が引っ込んでしまった。いまここで教室を出れば屁をこいた疑いまでかけられるからだ。そう、屁をおこきあそばしたのは沢村ではなかった。俺はそれが誰かわかっていた。
茂田である。
この馬鹿、「わり!」じゃねーよなんだそのツラ。ほんと腹立つなおまえ……。
しかしやってしまったものは仕方がない。こうなれば運命共同体、みんなで漏らせば臭くないの精神でいくしかない。いや臭いか。
だがその時、奇跡が起きた。志波が「ごとり」と床に倒れこんだのである。
「志波先生! どうしたんですか!」
前方にいた生徒たちが内股で志波に近寄る。
「気絶してる……」
どうやら痛みに耐えかねていたところに茂田の屁が精神的なダメ押しになって意識を喪失してしまったらしい。いや、志波を馬鹿にはできない。齢四十五の身空で耐えられる苦痛でなかったのは確かだ。ほんともっと早くトイレいってよかったと思うよ沢村。おまえ耐えすぎだよ。
俺は最後の任務を果たすべく立ち上がった。横井と茂田も俺にならった。
「自習だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そのまま脱兎のごとく駆け出して教室の戸を体当たりでぶち破った。ガラス割れたしどう考えてもやりすぎだったが俺たちも限界だった。沢村がこの期に及んでモタつくようなら己らだけでうんこを完遂するつもりだった。いってえもう無理マジで出る無理くっそいてえクソだけにってやかましいわ!
俺と茂田はそのまま教室と同じ階にあるトイレへ駆け込んでことなきを得た。というよりも、パンツをおろした瞬間にすうっと痛みが消えたのでそれで助かったのだ。どうやら一定の距離を置くと沢村との痛覚は断絶されるらしい。
「助かったな……」
「ああ……」隣の個室から茂田の声が降ってきた。
「ていうか茂田てめえ、あのタイミングで屁ぇこくか普通? 志波が死んだぞ」
「志波は日本男児だ。切腹できる志を持った立派な侍が腹痛ぐらいで死ぬはずがなかろう」
なかろう、じゃねーよ。志波は帯刀もしてないしあいつの実家は愛媛でみかん作ってるから武士ではねーよ。ていうか武士は滅んだよもう。
「ふう……あれ、横井は?」
いなかった。
実は横井は、俺たちが教室の戸をぶち破った時、錯乱して校庭側の窓ガラスをぶち破って下の植え込みへ転落していたのだった。
なんともまぬけなその醜態を、あわてて駆けつけてきた教師陣に連行され、哀れ横井は三日間の停学を喰らうことになるのだが、その時の俺たちはまだ何も知らずに、のんきに便器にまたがっていたのであった。
あー、冷たくて超気持ちいい。
『登場人物紹介』
後藤……タックルに定評がある
望月さん……弾き飛ばされたカッターが壊れてしまったので、後藤のをパクった
横井……停学
沢村……テレパシーに目覚める
天ヶ峰…寝てた
四限が終わって、昼休みになった。横井が戻ってこない。
代わりにお隣の沢村とメシを食おうと思って声をかけてみた。
「おう沢村ーメシ食おうぜ」
「あー、いや悪い。先約がある」
先約? ずいぶん難しい言葉をお使いになる沢村である。そういう本の中でしか出てこない言葉を現実で使ってるともうこはんがなかなか消えないらしいぜ。
「俺の誘いを断って誰とメシを食うつもりだよ」
「いや、ちょっとね」
「女か」
「……んー、まあ、一応?」
俺は沢村を殴った。
「痛い!」
「てめえ、二度とその顎でメシが食えると思うなよ!」
手から火を出して燻ってた行動力まで燃えてきたんじゃねーのか? いきなり女の子と昼飯随伴とはハイスピードフラグじゃねえか。誰とだか知らねえが、いますぐその旗を死亡フラグにしてやるからそこに直れ。
「後藤……俺にだってな……事情ぐらいある!」
パリィン!
沢村が窓ガラスをぶち破って出て行った。割りすぎだろ。
俺はたなびくカーテンを見てため息をついた。
「おい手芸部」
「ふあ?」
天ヶ峰は寝ぼけ眼のまま顔を上げた。
「なに……眠いんだけど」
「おまえが三限に早弁してエネルギーが有り余っているのはわかっている。このガラスを木工用ボンドで直しておけ」
「ええー……めんどくさいなあ……でもそっかぁわたし手芸部か……じゃあ手芸しないとな……」
天ヶ峰は素直にガラスの破片を拾い始めた。
けだものの予想外に従順な姿を目の当たりにして教室がどよめく。コツがあるんだコツが。ここで気分に任せて俺を殴れば手芸部としての自分と矛盾が発生するので天ヶ峰は攻撃してこなかったのだ。役柄というものにこの女はちょっとしたこだわりを持っている。桜木花道がバスケットマンにこだわったのと少し似ている。
俺が机に戻ると、椅子の上におひねりが置いてあった。助かった。天ヶ峰の行動を限定化させると有志による寄付が得られることがある。お互いにピンチになったときの保険は掛け合った方が得ということだ。
とりあえずこれで昼飯代はゲットだ。沢村の弁当のおかずを奪い取る計画が頓挫した以上、購買へいってなにか調達してくるしかあるまい。胃がつぶれそうなくらい腹が減った。
「いこうぜ茂田」
「うむ」
茂田と連れ添って購買へいった。
普通のライトノベルなどでは購買は戦場だなどと言われることがあるがうちの高校の出張パン屋はすこぶる人気がない。
というのも高校の裏通りにはB級グルメの格安店が跳梁跋扈しており、フェンス一枚飛び越えれば腹も満タン財布も痛まぬ免税地帯があるのでみんな監視教諭の須藤を振り切って外へと出て行く。
ので、一階の角際にある出張パン屋『閑古鳥』は今日も人気がない。そもそも店名がふざけている。もっと熱くなれよ。
「うぃーっす」
「おう後藤か」
店長のおじさんが笑顔を向けてきた。名前を覚えられてしまっているのが嬉しいような切ないような。
「今日はなんかいいネタないっすか」
「ああ、あるぞ。これなんかどうだ」
おじさんはビニールで軽く包んだ焼きそばパンのようなものを出してきた。
「なんですこれは」
「うちの池で釣れた何かをさばいて乗せたものだ」
ほら見ろこれだ。名状もできないものをさばいてパンに挟むんじゃないよ。高校生の胃袋がどれもこれも鉄でできていると思ったら大間違いだ。
「じゃあこれで」買うんかい茂田。
「毎度あり。380円」
「いつも思うんですけど、原価5円のくせに生意気ですね」
「ははは、そう言うなよ。おじさんがいなくなったら悲しいだろう。お友達代だと思ってくれ」
悲しいこと言うんじゃねえよ。買うわ。
俺と茂田が小銭を渡そうとしたとき、その手が何者かに振り払われた。
「何奴!」
「そんなパン食べてたらお腹壊しちゃうよ? 先輩」
俺たちの前には、茶髪をツインテにした女子生徒が立っていた。俺はすかさず上履きを見る。ラインが緑。
「貴様、一年生だな!」
「お昼を買いに来ている二年生に何の用だ!」
俺と茂田の警戒ぶりに茶髪は肩をすくめた。
「なあにビビってんですか。そんなだから駄目なんですよ男子は」
「ビビるに決まってる。おまえ電車の中でいきなり話しかけられたらどう思う? ものすごく気まずいだろう」
「できれば何事もなくこの哀れな二年生を見逃してほしいんだがな」
俺たちをヘタレと思うか。くそ、こんな時に横井がいれば! 女子の対応はあいつの仕事なんだ!
茶髪はハアと重苦しいため息をついた。
「まったく情けないなァ。あー、あたしは1-2の佐倉って言うんだけど」
言いながら茶髪はお菓子コーナーからポテチを買ってその場で食い始めた。
「実は先輩たちにお願いがあって」ばりばり。
「ほう。なんでもひとつだけ言ってみるがいい」
「アハハ、面白い面白い」
そこはかとなく気を遣われている気がする。
「で、頼みとは?」
「先輩のクラスに沢村なんとかって人がいるでしょ? その人と会いたいなあ――なんて? しかも二人きりで」
お願い、と茶髪は片手拝みしてきた。なかなかサマになっているゴメンネである。
フ――
「いやに決まってるだろ馬鹿か!」
俺は体勢を低く構えて佐倉某のみぞおちにショルダーをかました。が、当然のことながらかわされて背後を取られた。ちっ、やはり人外。
「ちょっと! いきなり何すんのよ!?」
「うるせえ。事情がどうあれ沢村にいい思いなどさせられるか」
「仲間に好機が巡ってきたら妨害する、それが俺たち男子高校生だ」
「さ、最低だこいつら……!」
茂田と俺はスクラムを組んでパン屋入り口を固めた。死んでもここは死守する。
茶髪は心底あきれ返ったらしい。ポテチの空き袋をおじさんに渡しながら、
「べつに告白とかそんなんじゃないっての。相手の顔も知らないんだからさあ。ねえ、聞いたことない? 沢村先輩が手から火を出すって話」
なんだその話か。
「野次馬ならクラス会議でアウトになった。本人をからかったりサーカスに売るのも駄目だ。遠慮してくれ」と俺。
「ていうか佐倉某、おまえどこでその話を聞きつけてきたんだよ。緘口令が敷かれてるはずなんだけど」と茂田。
「さっき生徒会室の前を通った時に副会長が喋ってた」
あの人は常識人なんだって信じたかったよ。
俺は頭を抱えた。
どうしよう。沢村を見捨ててもいいが、その挙句に「超能力者のいる学校!」とかいってマスコミとかがたくさん来たりしたらすごくいやだ。コミュ力がないやつを見下してくるヤクザッ気に溢れた社会人がたくさん来る状況はポリゴンショックの時だけで充分だ。それからたぶん沢村から紺碧の弾丸さんのことが割れるだろうし、紺碧さんは俺と似たような人種だからたぶんマイクを向けられたらイライラしちゃってそいつを焼く。いまこの状況をなんとかしないと少なくとも一名以上の死者が出てしまうことになる。くそぅ、俺が茂田だったらこんな心配しなくていいのに。
「バレちゃしょうがないな。案内してやるよ」
ほらあ! なにもう「友達になったね」みたいな顔で階段上ろうとしてんだよ茂田! しょうがなくねーよ。もう少し頑張ろうよ。
だが二人はもう歩き出してしまった。俺は話に入れない子みたいに後をついていくしかない。
「で、沢村先輩は教室にいんの?」
「いや、さっき窓から出て行った」
「ふうん……あれ、二年の教室ってテラスあるんだっけ?」
ありません。普通はそう思うわな。
仕方ない。ここは俺が人肌脱ぐか。
「こっちだぜ」
「お、わかんのか後藤」
「まかせとけ」
俺は先頭を切っててくてく歩いた。
階段をのぼり、廊下を渡り、階段をくだり、廊下を渡り、階段をのぼり……
「循環してるじゃねーかッ!!」
「ぐむンッ!」
そのツッコミは予想済みだ。俺は腕を十字にクロスさせて佐倉のケンカキックを防いだ。
「おい、先輩だぞ」
「人を謀るやつを先輩とは思いません」
正論である。
「だがもう遅いわ。佐倉、おまえはすでに俺の術中にはまっている」
「なんですって!?」ノリいいな。
俺は眼鏡のつるを押し上げながら、背中側の扉を開け、佐倉を中へ押しやった。
「痛っ! いきなり何を……」
「紫電ちゃん! ちょっと話がある」
生徒会室には、一人しかいなかった。紫電ちゃんが寂しく出前のうどんをすすっている。
「ふぁん? ふぉふぉふぃふぇふぉふぉ」
「何言ってんだかわからねーが副会長、あんた沢村のことを大声で喋ってやがったな。野次馬が生まれてしまったから始末をつけてくれ」
「んん?」
紫電ちゃんはうどんを飲み込んで頭にクエスチョンマークを浮かべた。
「何を言ってるんだ?」
「だからあ」
「私は今朝からずっとここに一人でいるんだが」
「…………」
「…………」
「…………」
ごめん……。
俺と茂田は佐倉を睨んだ。
「何者だ、てめえ!」と俺。
「紫電ちゃんを無駄に悲しませやがって!」と茂田。
「おい私は別に悲しくなんてないぞ」と紫電ちゃん。
一方、佐倉は目から光彩を失わせて一歩下がった。
「フフ……バレちゃったか。じゃ、仕方ないなあ。先輩たちには……消えてもらっちゃおっかな?」
佐倉はテーブルの上に置いてあったペン入れに手をかざした。すると地震もないのにペン入れがガタガタと震え始めた。
「うわっ、やっべえ地震だ!」
机の下に隠れようとした茂田の尻を俺は思い切り蹴飛ばした。おまえちょっとは考えろよ! いまそういう感じじゃないだろ!
「ふざけていられるのも今のうちよ」
「俺をこいつらと一緒にしないでもらおう」
心外である。
「これを見てもヘラヘラしてられる?」
佐倉がペン入れにかざしていた腕を振り上げると、見えない糸に引かれたようにシャーペンやボールペンが空中に浮かび上がった。
「サイコキネシスってやつか……」
「よく知ってるね。勉強したの? 偉い偉い」
「えへへ」
ちょっと嬉しい。
「ご褒美に……これをあげるよっ!」
佐倉が腕を振った。
じょりっ
「いってええええええええええ」
「ぐおおおおおおおおおおおお」
飛来してきたペン類に肩やら肘やらを抉られた俺たちは床にひれ伏してのた打ち回った。
「くそ、なんて鋭いご褒美だ。まだ傷口がシビれてやがる」
「訓練された俺たちじゃなければ怒ってしまうところだったぜ」
「え……何この人たち気持ち悪い……」
佐倉がバス酔いしたような顔で見た。ありがとうございます。
「やれやれ……どけ、私がやる」
「紫電ちゃん!」
「駄目だよ、ここは俺たちの出る幕だ!」
「なんでそんなもったいなさそうな顔をしてるんだ貴様ら。ご褒美が欲しければ後で私が直々にくれてやる」
あざーす。俺たちはどいた。
佐倉は分度器で顔を扇ぎながら高笑いした。
「アハハハハハ! なっさけない! 女の子の背中に隠れちゃうの、先輩たち? うわあ、ないわあ。そんなだからモテないんだよ?」
「いやそういうの関係ねーし……」
「性格以前に出会いとか話題がないんですよね」
俺と茂田の重苦しい本音に佐倉が気の毒そうな顔になった。
「男子高校生って可哀想……」
「同感だ」
そりゃないぜ紫電ちゃん。
「だが、こんなのでも私の可愛い同級生でな」
そうこなくっちゃ紫電ちゃん! 異能者相手は初めてだけど、俺たちゃ心配はしてないぜ。あと同級生相手にそのでかい態度はどうかと思うよ。だから彼氏できないんだよ。
紫電ちゃんは拳を構えた。
「これでも私は小学生の頃、南小の火流塗(ボルト)と呼ば」
「ハッ!」
あっ!! 佐倉のやつセリフ中に攻撃しやがった!!
なんてことを……紫電ちゃんは用意してたセリフを喋ってたから意識が散漫だったんだぞ。
案の定顔面にペンを食らった紫電ちゃんは後方に無様に吹っ飛び、腰を思い切り机の角にぶつけて椅子側に転がり落ちてしまった。
沈黙。
俺と茂田は目を合わせた。
こくん、と頷きあう。
「逃げっ……あっ」
くそ! ズボンの裾をペンに縫いとめられていて走ることができない!
「頼む! 俺だけでも助けてくれ」
「あ、茂田てめえ! また一人だけ逃げるのか!」
「うるせえ! 紫電ちゃんがやられた以上シャレじゃ済まんぜ」
確かに。
しかし佐倉のあの満面の笑顔を見る限りは見逃してくれそうな気配はちっともない。人間の八重歯ってあんなに光るものなの?
「悪いけど、見逃しちゃ駄目って犬飼さんに言いつけられてるんだよね……特に後藤とか横井とか天ヶ峰とかは」
「俺は茂田です! そんな犬飼なんて人とは会ったこともないんだ!」
「あっそ。もうサイキック使うところ見られちゃったし、どっちにしても死んでもらわなくっちゃならないんだよねー」
佐倉の周囲を土星の輪のように文房具類がめぐり始めた。
「さあて、じゃ、選んでもらおうかな……蜂の巣にされたいのか、切り刻まれたいのか?」
俺たちは生唾を飲み込んだ。
「どうする……」
「股間だけは許してもらおうぜ……」
変に現実味があること言いやがって。落ち込んできたぜ。くっそお、Tポイントカードがなんのためにあるのか知らずに俺は死ぬのか。
「まったく男子高校生は……」
「この声は……」
「紫電ちゃん!」
紫電ちゃんは埃まみれになりながら生徒会長卓の向こうから這い上がってきた。口にくわえていたボールペンを当然のようにペッと吐き捨てる。
「この状況でもふざけていられるとは、貴様らはアホなのか大物なのか」
いや、男子には切実な問題なんすよ。
「しかし安心しろ。もうやつの攻撃は覚えた」
佐倉がむっと顔をしかめた。
「覚えた? さっきの一発で? ナメないで欲しいなあ。あたしのサイは子供の癇癪とは違うんだからね」
「ふん……どうだかな」
紫電ちゃんは首をごきごき鳴らしながら、俺たちの前に立った。
拳を構える。右手を口の前に、左手は腹を撫でるような位置に据えた。
「出たぜ……紫電ちゃんのヒットマンスタイルが……!」
「残念だったなエスパー少女。『南小の災い』と呼ばれた左が貴様をギタギタにしちゃうんだぜ」
紫電ちゃんは照れて赤くなった。
「ば、馬鹿……黙ってろ」
はーい。
紫電ちゃんの左拳がひゅんひゅんうなり始めた。
それを見た佐倉が大きなため息。
「懲りないなあ……そんなに死にたいの? ま、結局全滅させるんだから、なんでもいんだけ、どっ!」
佐倉はその場でターンしてフライング文房具を撃ち放ってきた。必殺だと信じていたはずである。
シィ……ン
紫電ちゃんはその場から動かなかった。
「紫電ちゃん……?」
からり、と俺の足に何かがぶつかった。見下ろすと、シャーペンが転がっていた。
びっしりと。
「な……な……」
文房具類の攻撃を一瞬ですべて撃墜された佐倉はあわあわと慌てふためいた。
「い、いったい何が!? 私が外すはずが……」
「……」
紫電ちゃんは握っていた左拳を開いた。
砕けた定規がぱらぱらと落ちた。
「…………」
「覚えたといったろう」
「あ……あ……」
「散々コケにしてくれたな。今度はこっちの番だ」
佐倉が一歩下がった。紫電ちゃんが一歩進んだ。まるで蛇と蛙である。
ごくりと生唾を飲み込み、佐倉は壁にかかった時計を見てはっと口を押さえた。
「大変! ポチの散歩の時間だわ! 悪いけどあたしこれで失礼しま」
「駄目」
「ぎゃっ!!」
ぐわしゃぁっ……
左のフリッカージャブが佐倉の顔面を撃ち抜き、佐倉はどうっとまっさかさまにひっくり返った。スカートが幼児も恥らうご開帳状態になった。
ほう。
「どう思う……?」
「シマパン……だな」
とりあえず写メった。
○
「ううん……はっ?」
佐倉が目を覚ました。
「起きたか」
「あんたたち……ちょ、何コレ?」
佐倉は縄跳びの縄で両手両足を縛られ、生徒会室の床に転がされていた。もぞもぞして縄から逃れようとしたが、縄は紫電ちゃんが全力で縛ったのでたぶんもう解くことはできない。
「くっ……この変態ども……この縄をさっさと外してよ! あたしに何をする気なの!?」
「事情聴取です」
人をけだものみたいに言いやがって。
「ハンッ。事情聴取? あたしが口を割ると思ってるの?」
「と、申しておりますぜ、大将」
「ほう」
学ランに白手袋をはめた恐ろしい紫電ちゃんが腕組みをほどいた。それを見ただけで佐倉の喉から引きつった悲鳴が上がった。あの左拳はすっかり彼女に西高生徒会副会長の危険性を刻み込んだらしい。
紫電ちゃんが転がされた佐倉の顎を上履きの爪先で持ち上げた。それだけで佐倉は泣いた。
「あう……ごめっ……なさっ……なんでも……言いますからあっ……助けて……!」
「おとなしく質問に答えれば見逃してやろう」
「ありがとうございます!! ありがとうございます!!」
「さて……まず、誰の差し金で襲ってきた? 目的はやはり沢村か」
佐倉はこくんと涙目で頷いた。
「はい……上からの命令で……」
「上?」
「私みたいなサイキッカーを集めて私兵団を作っている政府の機関です。BITEっていうんですけど、そこから指示を受けて……沢村くんを仲間に引き入れるようにって」
仲間に? その情報は初耳である。
「沢村を仲間に誘ってんのか?」
「はい……というか誘うつもりで潜入したんですけどいつの間にかこんなことになってて……」
まさかこれほどのフリッカー使いが都内の高校にいるとは思ってなかっただろうからな。
「沢村くんが入院してた時に上司が一度話を振ったみたいなんですけど保留されてしまって……で、今日、また断ってくるようなら殺してしまえとのことで」
紫電ちゃんが胸糞悪そうな顔をした。
「標的が沢村だったからよかったようなものの、うちの生徒を殺そうなんて言語道断だ」
紫電ちゃん?
「聞きたいことはまだある。おまえに指示を出した上司というのは?」
「犬飼って人です……」
佐倉は床に額をこすりつけた。
「お願いです、命だけは! 命だけはご勘弁を!」
すげえ大事(おおごと)になってるなあ。
「どうする紫電ちゃん。許してあげようか」
「駄目だ。地下牢に監禁する」
聞かなかったことにするよ。
紫電ちゃんは泣き叫ぶ佐倉の首根っこを掴んでどこかへ引きずっていった。俺と茂田は本当に自然な気持ちから、彼女の行く末に向って合掌した。
「強く生きていってほしいな」
「ああ」
さて、昼飯も食わずに昼休みが終わろうとしている。
「それにしても今度は敵対する超能力者の集団……BITEだっけ? 沢村も大変だな」
「同じサイキッカー同士の争いか……俺たちには関係ないな」
「まったくだ。平和な学園生活を乱さないで欲しいぜ。本音を言えば冬まで沢村に用はないんだ」
「ハライタで二次災害起こすしな」
俺たちは散らばった文房具類を片付けて生徒会室を後にした。ちょうどチャイムが鳴ったので小走りで教室へと向う。
「あのさ」
と茂田が言った。俺は睨んだ。
「なんだ」
茂田はにやにやしている。こういう時のこいつはどうせろくでもないことを思いついたに違いないのだ。
「いや、大したことじゃないんだけど……最近の女子高生って」
茂田は頬をぽりぽりかきながら、
「バイトで人を殺しに来るんだな」
「………………」
「ほら、BITEで、バイト……」
ははっ。
そうだね。
死ねばいいのに。
『登場人物紹介』
茂田…もうちょっと間合いを計ればもっとウケたなと思っている。
佐倉…BITEの構成員。PK能力者とのコンタクトミッション中に失踪
紫電ちゃん…テコ入れだと思われている