Neetel Inside ニートノベル
表紙

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 鷹崎透は強い。
 しかし最近では勝率が大分落ちてきており、神之上高校決闘部に入部してからと言うもの、戦績が伸び悩んでいた。
 同級生である早川璃奈に対しては90パーセント近い勝率を誇っていた。デュエリストレベルが同じ秋月美里とはほぼ5分5分。副部長である辻垣内真子には40パーセントそこそこ。部長である音無祐介には100戦以上挑んでいるが勝利した回数は2桁にも達していない。極め付けとして、部内最強を誇る元『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』の白神玄には、今の今まで1度も勝利したことがなかった。
 最後に関しては部内で全員が同じ結果のためそこまでひどいとは言えないが、それでも鷹崎透は満足していなかった。
「私はこのまま何もせずにターンエンドよ。そしてエンドフェイズ、《裁きの龍》と《ライトロード・モンク エイリン》の効果でデッキトップを合計7枚墓地へ」
 現在全国高校生デュエル大会本戦のBブロック。桜ヶ丘女学院の小野寺が真子を倒し、そのままターンを終える。
 エンドフェイズに《禁じられた聖衣》の効果によって下がった《裁きの龍》の攻撃力が元に戻る。

《裁きの龍》 ATK:2400→3000

第6ターン
鷹崎
LP:8000
手札:5
無し

小野寺
LP:7000
手札:3
《裁きの龍》、《ライトレイ ダイダロス》、《ライトロード・モンク エイリン》

 約2週間前の地区予選では準決勝まで無敗を貫いたが、それは相手が大したことがなかっただけ。自身だけでなく音無と美里&真子ペアも無敗を貫いていたのだから、それは間違いない事実だろう、と鷹崎は考えていた。
 そして決勝戦、栖鳳学園の部長の新塚彩花とのデュエルでは、一歩及ばず負けてしまった。
「俺のターン、ドロー」
 そして5日前に「MAGIC BOX」で栖鳳学園と練習試合を行ったときは、初戦にデュエリストレベル8で自分よりも格上の東仙春江を負かした。ギリギリの勝負だったとは言え勝利は勝利。鷹崎はこの調子で残りのデュエルでも勝つと意気込んだ。しかし結果はそううまくいかなかった。
 2試合目は大会でもその力で璃奈を圧倒した鳳瞬に敗北。3試合目では『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』であるアンナ・ジェシャートニコフに大敗。4試合目ではデュエリストレベルでも互角だったはずの東仙冬樹にも僅かに届かず負けた。
「《調和の宝札》発動。2枚ドロー。さらにコストとして墓地へ送った《伝説の白石》の効果によって、デッキから《青眼の白龍》をサーチする」
 慢心はなかったはずだ。余裕もありはしない。間違いなく全力で当たりにいった。そして全力でそれを弾き返された。
「そして今加えた《青眼の白龍》をコストに《トレード・イン》を発動。2枚ドロー」
 入部試験で音無に敗北してから、彼は努力を惜しまなかった。休日には近所で開かれている大会全てに参加した。自宅での暇な時間はテキストを読み込むことに時間を費やした。部活中は片っ端から誰かにデュエルを挑んでいた。
 それでも勝てないものは勝てなかった。
 鷹崎はこの4月に高校生になり世界の広さを知った。自分では到底届かぬ者がいることも知った。そして自分は弱いんだということを知った。
 しかしその上で今一度言う。
「魔法カード発動――」
 鷹崎透は強い。
「――《ライトニング・ボルテックス》!!」
「……っ!!」
 小野寺のフィールドのモンスター1体残らず破壊。完全に無防備なフィールドが露わになる。
(あっさりと抜けられた……これは少し予想外ね)
「《聖刻龍-ドラゴンゲイヴ》を通常召喚! そして《死者蘇生》を発動し、《青眼の白龍》を特殊召喚! さらに墓地の《馬頭鬼》の効果を発動! このカードをゲームから除外し、墓地からアンデット族モンスター1体を蘇生! 俺は《茫漠の死者》を特殊召喚だ!!」
 その攻撃力は対戦相手のライフによって決まる。

《茫漠の死者》 ATK:?→3500

 真子の残した置き土産。鷹崎は存分にその力を発揮する。これで鷹崎の場には、ドラゴンが2体と、普段は見られないアンデット。しかし種族を超えたところでこの攻めの姿勢は変わりはしない。
(データ通り、一気に攻めてきたわね……!)
「バトルフェイズ! 《聖刻龍-ドラゴンゲイヴ》、《青眼の白龍》、《茫漠の死者》でダイレクトアタックだ!」
「くっ……《青眼の白龍》のダイレクトアタック後に、手札の《冥府の使者ゴーズ》を守備表示で特殊召喚よ!」

小野寺 LP:7000→5200→2200

「……《冥府の使者ゴーズ》の効果で攻守3000の《冥府の使者カイエントークン》を同じく守備表示で特殊召喚するわ」
「それなら、残った《茫漠の死者》で《冥府の使者カイエントークン》を破壊する」
(もぬけの殻になったフィールドに単調に突っ込んで来たわけじゃない。《冥府の使者ゴーズ》を警戒して、わざと《死者蘇生》でもう1体の《茫漠の死者》でははなく《青眼の白龍》を蘇生してきた。しっかりと考えてるわね……)
「俺のすることはもうない。これでターンエンドだ」

第7ターン
鷹崎
LP:8000
手札:3
《聖刻龍-ドラゴンゲイヴ》、《青眼の白龍》、《茫漠の死者》

小野寺
LP:2200
手札:2
《冥府の使者ゴーズ》

『鷹崎選手は大きい手で何ターンも連続して攻めてくる傾向にありますねぇ。《裁きの龍》の、【ライトロード】の必殺技が決まっても、次のターンにはそれを覆してくると言うことですから、これは桜ヶ丘女学院側としては中々に厄介なものになると思いますけど、このターンでの返しが気になるところですね~』
「私のターン、ドロー」
(……手札にそう都合よく《裁きの龍》は来ない。でも来ないなら来ないで、呼ぶまでよ)
「手札の《ライトロード・マジシャン ライラ》をコストにして《ソーラー・エクスチェンジ》を発動。カードを2枚ドローして2枚墓地へ」
 通常ドローと合わせて3枚のドロー。さらには2枚のカードをデッキから掘り進める。しかし依然として《裁きの龍》の姿は見えない。
 だが。
「ふふっ、私の運はそこでまで悪くないみたいね。《ソーラー・エクスチェンジ》の効果でデッキから墓地へ送られた《ライトロード・ビースト ウォルフ》の効果を発動。このカードを特殊召喚するわ」
 さにら小野寺は手札から《ライトロード・パラディン ジェイン》を通常召喚した。
「光属性レベル4の《ライトロード・パラディン ジェイン》と《ライトロード・ビースト ウォルフ》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《輝光子パラディオス》!! 効果を発動よ!」

《輝光子パラディオス》 ORU:2→0

「オーバーレイユニットを2つ使って、相手モンスター1体の攻撃力を0にしてその効果を無効にするわ。私は《茫漠の死者》を選択よ」
「ちっ」

《茫漠の死者》 ATK:3500→0

 3500と言う圧倒的な攻撃力を誇っていた《茫漠の死者》も、今は見る影もなく攻撃力0の木偶。生ける屍である。
「《冥府の使者ゴーズ》を攻撃表示に変更して、バトルフェイズ。《輝光子パラディオス》で《茫漠の死者》を、《冥府の使者ゴーズ》で《聖刻龍-ドラゴンゲイヴ》を攻撃するわ」
「ぐっ……両方喰らう」

鷹崎 LP:8000→6000→5100

「私はカードを1枚伏せて、ターンエンド」
(一応は場を荒らしたけれど、やっぱり次のターンにはこれを超えてくるはず。私のライフは2200……ギリギリってところね)

第8ターン
鷹崎
LP:5100
手札:3
《青眼の白龍》

小野寺
LP:2200
手札:1
《冥府の使者ゴーズ》、《輝光子パラディオス》、SS

「ドロー」
(ここで《手札抹殺》……か。正直言えばこの手札じゃどうしようもねぇと思ってたところだ。今の俺の手札にとっては救いの糸。だが、もしこの《手札抹殺》によってあっちの手札に《オネスト》が来たらどうする? まぁ、逆に手札から《オネスト》が弾き落とされるって可能性もあるが……ちっ、どっちにしろ撃たなきゃ勝ちは遠ざかる。だったら撃ってやるよ)
 数秒迷い、《手札抹殺》を発動する。
「3枚捨てて3枚ドロー」
「1枚捨てて1枚ドロー。やってくれるわ……せっかくの《オネスト》が落とされちゃったじゃない」
 鷹崎にとっては最高の結果。心の中でガッツポーズを取る。
「俺は《手札抹殺》で捨てた光属性・ドラゴン族の《聖刻龍-ドラゴンヌート》と、通常モンスター・ドラゴン族の《ガード・オブ・フレムベル》をゲームから除外し、《聖刻龍-ウシルドラゴン》を特殊召喚!」
 フィールドには光の大型ドラゴンが2体。《オネスト》が手札から弾かれた今、小野寺のモンスターでは太刀打ちできない。
「次から次に大型を……」
「悪いな、それが俺の売りなんでね。行くぞ、バトルだ! まずは《青眼の白龍》で《冥府の使者ゴーズ》を攻撃!」
「くっ……」

小野寺 LP:2200→1900

「そして《聖刻龍-ウシルドラゴン》で《輝光子パラディオス》を攻撃だ!」
「そっちも受けるわ」

小野寺 LP:1900→1300

「《輝光子パラディオス》の効果で1枚ドロー」
「俺はカードを2枚伏せる。これでターンエンドだ」
 鷹崎の伏せは《スキル・サクセサー》と《奈落の落とし穴》。力攻めをしてくるならば多少の攻撃力差程度は《スキル・サクセサー》で返り討ちに、《裁きの龍》なんかをだしてくれば《奈落の落とし穴》で除去する。守りとしては申し分ないものだった。

第9ターン
鷹崎
LP:5100
手札:0
《青眼の白龍》、《聖刻龍-ウシルドラゴン》、SS×2

小野寺
LP:1300
手札:2
SS
 
「私のターン、ドロー。行くわよっ……まずは《大嵐》を発動!」
(ここで来るか……!)
「チェーンして《スキル・サクセサー》を発動。《聖刻龍-ウシルドラゴン》の攻撃力を400ポイントアップ」
 しかし、もう1枚の伏せ、《奈落の落とし穴》は破壊される。

《聖刻龍-ウシルドラゴン》 ATK:2600→3000

「悪足掻きね。そんな程度じゃどうにもならないわよ。私もチェーンして罠カード発動。《光の召集》」
 手札を全て墓地へ送り、その枚数分だけ墓地から光属性モンスターを回収するカード。手札は2枚。よって……。
「私は墓地から真由ちゃんの《裁きの龍》と私の《裁きの龍》を1枚ずつ回収するわ」
(……ちっ、終わりかよ。あーあー、情けねぇなクソったれ)
「《裁きの龍》を特殊召喚。効果を発動。場を一掃するわ」

小野寺 LP:1300→300

「さらにもう1体《裁きの龍》を特殊召喚。バトルフェイズよ」
(相手はデュエリストレベル8……格上だった。その上チーム全員で【ライトロード】を使って序盤から有利な状況だった……。なんてものは言い訳にもならねぇ。ただ俺が弱かっただけだ。ただ俺が甘かっただけだ。ただ俺が……)
「《裁きの龍》2体でダイレクトアタック!!」
(また勝てなかっただけだ)

鷹崎 LP:5100→2100→0

(なら、勝つまでやり続けよう。負けたよりも多く勝てるようになるまで、強くなろう。誰にも負けないくらい、誰よりも誰よりも誰よりも……)
 鷹崎透は強い。その心の在り方はこの場にいる誰よりも強かった。
「悪い、負けてきた」
「ああ、見てたよ」
 ステージを降りた鷹崎の第一声は素気なく、玄の第一声はあっけなかった。
「本当にすまないな……大口叩いといてこのざまだ。迷惑かける」
「なんだ、似合わず殊勝だな。何かあったか?」
「いや何も。デュエルっつーのはなんとも難しいもんだなと改めて思っただけさ」
「確かに難しいな。でも難しいからこそ楽しいんだろ?」
「まったくだ」
 それだけ言葉を交わして鷹崎は美里の元に歩いて行った。
(勝った負けた以前に、楽しまなきゃ意味がない……か。そういう心の余裕が足りなかったのかもな。反省しておこう)
「俺と副部長の分まで頼んだ」
「任された」
 美里は短くそう言ってステージへと登っていく。
(私の方が鷹崎くんより、ちょっぴりお姉さんだから……)
「私の方が、ちょっぴり頑張らないとね」



   8-2 ― 強いあいつと弱いアイツ ―



『鷹崎選手、今一歩届かず負けちゃいましたけど、とってもいいデュエルでした! それに鷹崎選手に削られたせいで小野寺選手のライフはもう風前の灯状態! さぁ、どんどん行っちゃいましょう! 神之上高校からは3人目、2年生でデュエリストレベルは7、秋月美里選手でぇっす!』
 そして、小野寺のメインフェイズ2。しかしすでに手札は0枚。やることはなく、エンドフェイズに《裁きの龍》2体分の効果でデッキトップを8枚墓地へ送り、ターンを終える。

第10ターン
美里
LP:8000
手札:5
無し

小野寺
LP:300
手札:0
《裁きの龍》×2

 秋月美里は弱い。デュエルが、ではなく、体が。
「私のターン……けほっ」
 生まれつき体が悪く、長時間の連続でのデュエルは彼女の体には悪影響を及ぼす可能性がある。
(うぅーん……今日はちょっと調子悪いかもだね)
 そうは思いながらも、初期手札に加えこのターンのドローを含めた計6枚の手札を眺める。そして。
「まずはその邪魔な龍から……《ブラック・ホール》を発動!」
「はぁ……ここまで、みたいね」
 使える札は使い切った。もう小野寺にできることはない。
「《クリッター》を通常召喚。バトルフェイズに入って、ダイレクトアタック!」

小野寺 LP:300→0

『決着です! あっけなくはありますけど、鷹崎選手の削ったライフに、秋月選手が止めの一撃を与えてゲームエンド! 1人倒しても次の1人に一撃でやらちゃう、なーんてことが多々ありますからこのルールでのデュエルは油断ができませんね。それでは桜ヶ丘女学院も3人目になります。2年生、デュエリストレベル7、赤傘雪緒(あかがさゆきお)選手です!』
「本当なら3人くらいは倒したかったんだけど、さっきの彼が予想以上に手強くってね。私の分まで頑張ってね、雪緒ちゃん」
「まっかせて下さいよ! あんな病弱そうな女、私がぱぱーっとやっつけちゃいますから!」
「人のことを見た目で判断しないの」
 ぺしっ、と赤傘の頭にチョップを喰らわせる。しかし実際美里は病弱である。
「いてっ、うー、ごめんなさーい」
『それでは秋月選手はメインフェイズ2に入って下さいな~』
「カードを2枚セット。これでターン終了だよ」

第11ターン
美里
LP:8000
手札:2
《クリッター》、SS×2

赤傘
LP:8000
手札:5
無し

「いっくよー、私のターン!」
(元気な子だなぁ……)
 対照的に美里は咳き込む。
(最近は調子いい日が続いてたから、その反動? せめて大会中にはやめてほしいよ……)
「へへぇ、早速来ちゃったよ! 《裁きの龍》を特殊召喚! 効果発……」
「特殊召喚成功時、《月の書》を発動。効果は使わせないよ」
 間髪入れずに美里がクイックスペルを発動。是が非でも《裁きの龍》には効果を使わせない。
「ちぇっ、なら次の手! 《援軍》を発動! デッキトップからカードを3枚墓地へ送って、デッキから「ライトロード」を1体サーチ! 私は《ライトロード・パラディン ジェイン》をサーチして、通常召喚!」
 そしてバトルフェイズに入る。
「《ライトロード・パラディン ジェイン》で《クリッター》に攻撃! そして《ライトロード・パラディン ジェイン》は攻撃の間だけ攻撃力がアップ!」

《ライトロード・パラディン ジェイン》 ATK:1800→2100

美里 LP:8000→6900

「《クリッター》の効果を発動。デッキから《アマリリース》を手札に加えるよ」
 そしてバトルが終了したことで《ライトロード・パラディン ジェイン》のステータスも元に戻る。

《ライトロード・パラディン ジェイン》 ATK:2100→1800

「うーんっと、することないし、《ライトロード・パラディン ジェイン》の効果でデッキトップを2枚墓地に送ってエンド!」
(セットカードはない……まぁ、《裁きの龍》で攻めるのがメインみたいだから、どうしても罠カードなんかは少なめだよね。なら、心置きなくそこを突いていくよ……)

第12ターン
美里
LP:6900
手札:3
SS

赤傘
LP:8000
手札:4
《ライトロード・パラディン ジェイン》、SM

「私のターン、ドロー」
(さっきの人はデュエリストレベル8……あそこから攻め込んだ鷹崎くんで負けちゃうくらい強かった。でもこの子はあたしと同じレベル7。それに動きは単調。それなら私の得意分野だよ)
「《リビングデッドの呼び声》を発動。墓地から真子先輩の《ゾンビ・マスター》を特殊召喚!」
「んー? 《茫漠の死者》じゃないんだ? 今なら攻撃力4000なのに」
「私は大型を使うのはあんまり得意じゃないからね。小型でちまちま行くのが好きなの。《ゾンビ・マスター》の効果を発動。手札1枚を捨てて、墓地から《ピラミッド・タートル》を特殊召喚! そして魔法カード発動、《シールドクラッシュ》! 守備表示のモンスター1体を、《裁きの龍》を破壊!」
「早速やられちゃったー!?」
 まだまだ美里は動きを止めない。
「《ゾンビ・マスター》と《ピラミッド・タートル》でオーバレイ! エクシーズ召喚! すべてを握りつぶして、《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》!!」
 素材を2つ外すことでフィールドでのモンスター効果を無効化する強力なエクシーズモンスター。これで一時的に《裁きの龍》の効果を抑制できる。
「そして無意味に残った《リビングデッドの呼び声》をコストに、《マジック・プランター》を発動。2枚ドロー」
(よしっ)
 次々とカードを発動し、美里はさらに展開を進める。
「墓地の《アマリリース》の効果を発動。このカードを墓地から除外することで、このターンに1度だけ召喚に必要なリリースを1つ減らすことができる。私は《ホルスの黒炎竜 LV6》を召喚!」
 《アマリリース》は《クリッター》で手札に加え、《ゾンビ・マスター》の手札コストで墓地へ送った。動きに無駄がない。
「そろそろバトルフェイズに入るよ。まずは《ホルスの黒炎竜 LV6》で《ライトロード・パラディン ジェイン》を攻撃!」
(ここで《オネスト》があったらほとんど私の負けが確定)
 そう考えながら、その攻撃に迷いはなかった。
「うぅ……受けるよぉ」

赤傘 LP:8000→7500

(そう都合よく引いてるなんてことはない……よね)
「《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》でダイレクトアタック!」
「うっ!」

赤傘 LP:7500→5500

(《冥府の使者ゴーズ》も……なしっ。このままいける!)
「私はカードを1枚セット。エンドフェイズ、《ホルスの黒炎竜 LV6》が相手モンスターを戦闘で破壊したことで、その経験値を糧にレベルアップ! 《ホルスの黒炎竜 LV8》を特殊召喚!」
 すべての魔法を封殺するか否かを自由に選択することができるモンスター。その上攻撃力は3000とかなり高い。一度出されれば突破はかなり難しいだろう。
「ターン終了」
『秋月選手、見事最終形態《ホルスの黒炎竜 LV8》の特殊召喚に成功ですっ! これは神之上高校いっきに優勢ですよぉ~! 桜ヶ丘女学院、赤傘選手はどう切り返していくのでしょうね?』

第13ターン
美里
LP:6900
手札:1
《ホルスの黒炎竜 LV8》、《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》、SS

赤傘
LP:5500
手札:4
無し

「私のターン! ドロー! よぅしキタァ!! 墓地の《ゾンビキャリア》と《ライトロード・パラディン ジェイン》をゲームから除外して、《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》を特殊召喚!!」
『《裁きの龍》に続いて《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》です! 赤傘選手は引きがいいんですね』
「さっそくバトルだよ! 《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》でお邪魔な《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》を攻撃!」
(これで《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》を倒してから、効果で2回攻撃! 相殺でもいいから《ホルスの黒炎竜 LV8》をどければ私の勝ちは間違いなしっ!)
 しかし、美里がそれを許さない。
「ダメージステップ、速攻魔法、《収縮》を発動! 《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》の攻撃力を半分にするよ!」
「!?」

《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》 ATK:3000→1500

赤傘 LP:5500→5000

「くぅっ……それじゃあメインフェイズ2で、モンスターとカードを1枚ずつセット。ターンエンドッ!」
 勢いよくカードを叩きつける。赤傘からは少なからの苛立ちが見て取れた。
『《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》がいる手前《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》の効果は使えませんし、そこで攻撃してきたころを《収縮》で迎え撃つ。秋月選手は赤傘選手をうまくいなしていますねー』
(そうだよね。うまく思い通りにいかなくてイライラしてくるよね。でもそんな相手は私にとってはカモがネギを背負ってるだけ……冷静さを欠けば欠くほど嵌っていく。ここで決めさせてもらうよ)
 美里は自身が弱いと感じているからこそ、自分を鍛え上げるのではなく、他人を貶める。出来ないことはやらず、出来ることをやる。弱いからこそ、弱点の突き方を熟知しているのだ。

第14ターン
美里
LP:6900
手札:1
《ホルスの黒炎竜 LV8》、《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》

赤傘
LP:5000
手札:2
SM、SC

「私のターン」
(ここで普通に考えればあのセットモンスターは《ライトロード・ハンター ライコウ》か一時凌ぎの壁かのどちらか。まぁ十中八九《ライトロード・ハンター ライコウ》だね。なら問題はあのセットカード)
「ドロー」
 しかしその問題もこのドローカードでおおよそ解決した。
「《N・グラン・モール》を通常召喚。バトル、《N・グラン・モール》で裏側守備モンスターに攻撃!」
「甘い! 《聖なるバリア-ミラーフォース-》!」
(うん、読んでるよ)
 攻撃モンスター全てを破壊する強力な攻撃反応系の罠。しかしその存在も美里にとっては何の障害でもない。
「ライフを1500払って、速攻魔法発動! 《我が身を盾に》! モンスターを破壊するカードの発動を無効にして破壊する!」

美里 LP:6900→5400

「そして《N・グラン・モール》の攻撃が問題なく通る。《N・グラン・モール》の効果でお互いのモンスターをバウンス!」
 例えリバースモンスターや戦闘破壊体制を持ったモンスターだとしても、《N・グラン・モール》でセット状態のまま手札に戻してしまえば意味はない。これで赤傘のフィールドに彼女を守るためのカードはない。
「えっ……これじゃあ……」
「そう、あなたの負けだよ。《ホルスの黒炎竜 LV8》と《No.106 巨岩掌ジャイアント・ハンド》でダイレクトアタック!」
 前のターンの赤傘のドローは《裁きの龍》。もちろんさっきのターンにいなかった《冥府の使者ゴーズ》など持っているわけもなく、何の手立てもなく2体のモンスターの攻撃を受ける。
「きゃあああああああああっ!!」

赤傘 LP:5000→3000→2000

『ここで神之上高校秋月選手、ぴったりライフを0にしての2連勝ですっ! トリッキーな動きで赤傘選手の思惑をぜーんぶ断ち切ってしまいました。秋月選手は戦術のレベルでは非凡な才能を持っていると言っちゃっても過言ではないと思います。そして試合も中盤戦に差し掛かりましたね。桜ヶ丘女学院からはもう4人目です。2年生、デュエリストレベル7、澤木澪(さわきみお)選手です!』
 美里は強制的にメインフェイズ2へ移行させられるが、手札は0枚のためすることはない。そのままターンを終了した。
「けほっ……」
 軽く咽る。体の弱い美里にとって高レベルのデュエリストとの連戦は体に響く。
(むー、ちょっと張り切りすぎちゃったかなぁ。でも……)
「それじゃあ、もう1人くらい、いっちゃおっか?」
 それでも……弱い彼女は、強かに戦う。


 To be continue

       

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