Neetel Inside ニートノベル
表紙

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「このデュエル、必要なものはなんだと思いますか?」
 神之上高校決闘部とのデュエルが始まるおよそ30分前、桜ヶ丘女学院決闘部部長、円城凛々音は部員たちにそんなことを聞いていた。
「えっと……チームワークですか……?」
 自信なさそうにそう答えたのは入野。
「普段とは違うルールなのだから、タクティクスかしら?」
 冷静に考えを述べたのは小野寺。
「気合!!」
 思ったことをただ口にしたのは赤傘。
「個々の実力も重要だと思います」
 いつも通り淡々と答えたのは澤木。
「もちろんエレガントさですわっ!」
 自信満々に答えたのは二見原。
「どれも正解です。全てが大事で、全てを出して、全てに全力を尽くします」
 全員の視線が円城に集中する。
「勝ちましょう」
 彼女の一言に、部員たちは無言で頷く。入野真由も、小野寺百合香も、赤傘雪緒も、澤木澪も、二見原さくらも、誰もが円城凛々音を信じ、円城凛々音についていく。
 彼女たちは円城に引っ張られてここまで来た。彼女たちは円城の背中を追いここまで来た。彼女たちは円城を支えて、これからも行く。


(私は負けらない。私が引っ張ってきた彼女たちのためにも、私を追ってきた彼女たちのためにも、私を支えてくれた彼女たちのためにも、私は……勝ちます!)
「私のターン、ドロー」
 変則的なルールによって繰り広げられるこの試合。現在25ターン目。音無とバトンタッチし、璃奈のターンに突入した。
「手札を1枚捨てて、魔法カード、《ライトニング・ボルテックス》を発動します!」
 円城のフィールドの表側モンスター――《ライトレイ ダイダロス》、《古代の機械巨竜》――が降り注ぐ雷によって破壊される。
(流石は【ネオスビート】ですね。破壊と再生、そして攻撃に優れている。そう簡単には倒されてくれませんか……)
『神之上高校はここまでバトンタッチするたびに初ターンに《ライトニング・ボルテックス》→《ブラック・ホール》→《ブラック・ホール》→《ライトニング・ボルテックス》とマスデストラクションでその場を打開していますねー。引きが強いくて羨ましいです』
 ただの偶然だが、逆転に関しては神之上高校決闘部一同は並々ならぬ力を発揮するようだ。全くの偶然だが。何度も言うが、偶然だ。
「続いてもう1枚魔法カードを発動です。《ヒーローアライブ》!」
 ライフを半分支払うことでデッキからレベル4以下の「E・HERO」を特殊召喚する通常魔法。璃奈のライフは現在初期値の8000。つまりは4000のライフを失うことになる。

璃奈 LP:8000→4000

(ライフを4000払ってまで《ヒーローアライブ》を使った……と言うことはこのターンできめるつもりでしょうか? ですが……わたしにはまだ「あれ」が残っています)
「私はデッキから《E・HERO エアーマン》を特殊召喚して、効果で《E・HERO プリズマー》をサーチします。そのまま《E・HERO プリズマー》を通常召喚ですっ」
 さらにその効果でデッキから《E・HERO ネオス》を墓地へ送り名称を変更した。
「私はレベル4のモンスター2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 切り裂いて、《機甲忍者ブレード・ハート》!!」
 オーバーレイユニットを取り外し、自身に2回攻撃を付加する。

《機甲忍者ブレード・ハート》 ORU:2→1

「さらに魔法カード、《死者蘇生》! 墓地から《茫漠の死者》を特殊召喚!」

《茫漠の死者》 ATK:?→4000

 攻撃力4000としてフィールドに現れる。このデュエル中、実に4度目の出番だ。
「《機甲忍者ブレード・ハート》の2回攻撃と《茫漠の死者》の攻撃力4000を合わせれば、合計ダメージは8400! これで終わらせます! バトルフェイズ! まずは《機甲忍者ブレード・ハート》で攻撃です!」
 すべて通れば璃奈の勝利。とは言え円城のフィールドにはまだ1枚のセットカードが残っている。勝利は確実とは言い切れないだろう。
 しかし、円城はセットカード開けることなく、その場を凌ぐ。
「墓地の《ネクロ・ガードナー》の効果を発動です。攻撃を無効」
 自らをゲームから除外することで攻撃を1度だけ防ぐことができる《ネクロ・ガードナー》。《機甲忍者ブレード・ハート》の刃は円城まで届かない。
 だが、ここで1つ疑問が生まれた。
(《ネクロ・ガードナー》を使うんだったら、攻撃力が高い《茫漠の死者》の攻撃を防ぐべきなのでは? なんでわざわざ《機甲忍者ブレード・ハート》の攻撃を……)
 そこで、さらにもう1つ疑問が生まれる。
(いや……そもそも、25ターンも経っているのに、あれだけ墓地を肥やしているのに、どうして今の今まで《ネクロ・ガードナー》が使われなかったんですか……?)
 そう思いながらも、璃奈は続けて2度目の攻撃権を使用し《機甲忍者ブレード・ハート》でダイレクトアタックを宣言する。
 だが。
「墓地の《ネクロ・ガードナー》の効果を発動です。攻撃を無効」
 聞こえてきたのは、数秒前となんら違わぬ台詞だった。《機甲忍者ブレード・ハート》の刃は、やはり通らない。
「ま、まさか。うっ……《茫漠の死者》でダイレクトアタックですっ!」
「もう1度、墓地の《ネクロ・ガードナー》の効果を発動です」
 再三、防がれる。
 合計攻撃力8400の布陣を以ってしても、円城のライフに傷一つ付くことはなかった。
「そうか……今までどうも《ネクロ・ガードナー》の姿が見えねぇと思ったら、こういうことか」
「……? どういうことかしら?」
 呟いた玄に対し、真子が疑問を投げる。
「貯めてたんだよ、あいつら。大将のために《ネクロ・ガードナー》を」
 部員たち全員が耳を傾ける様子を確認し、玄は続けた。
「【ライトロード】は墓地を肥やすのが得意なのは周知の事実。その効果を生かし、墓地で発動する効果を持ったモンスターを利用することが容易いテーマだ。その代表例の1つが《ネクロ・ガードナー》。最初はどんな攻撃に対しても使われないせいで、手札に来て腐ることを恐れてデッキに入れていないのかと思ってた。そして次第に記憶の片隅に追いやられていって、気付いたらこうだ」
「確かに……あれだけカードを墓地に送っておいて、今まで1度も発動されなかったものね。この大将戦にすべてを託すために、わざと使ってこなかったのね」
「ああ。こりゃあっちの墓地には相当な枚数の《ネクロ・ガードナー》が落ちてることだろうぜ」
 玄が言った通り、桜ヶ丘女学院の墓地には大量の《ネクロ・ガードナー》が落ちていた。
「その枚数、実に8枚。今3枚使ってしまったから、残りは5枚ですけどね」
「5枚……」
 つまり、円城に攻撃を通すには最低6回の攻撃が必要と言うことだ。さらに厳密にいうならば、致命傷を避けるように使えば、フィニッシュまでの攻撃回数は10を超えることになるだろう。
「……私は、カードを2枚伏せて、ターンを終了します」
「そこです。エンドフェイズ、《光の召集》を発動! 手札を3枚捨て、墓地から3枚の《裁きの龍》を手札加えます!」
 もはや見るのは3度目となるこの手。デッキの作りが似たようなものになるだからそれも当然だが、当然のように強い一手だ。

第25ターン
璃奈
LP:4000
手札:0
《機甲忍者ブレード・ハート》、《茫漠の死者》、SS×2

円城
LP:8000
手札:3
無し

「私のターン。ドローです」
『手札0枚の早川選手に残された防御手段はもはや2枚のセットカードだけですけど、円城選手の手札は4枚です。その内3枚は《裁きの龍》ですから、どうしても3体の《裁きの龍》の内1体はスルーされますねー。そしてもしも彼女のドローカードがモンスターだったなら、早川選手の負けとなってしまいますね』
 《ヒーローアライブ》でライフを半分にしたのが仇になったのか、開始2ターン目にして璃奈はピンチだった。
「私は、《裁きの龍》を特殊召喚です!」
 まず1体目。対する璃奈の行動は……。
「《神の宣告》を発動! ライフを半分払ってその特殊召喚を無効にします!」
 さらにライフを半分払い、初期値の4分の1まで減った。

璃奈 LP:4000→2000

(情報だと彼女は破壊→蘇生→攻撃の流れを主とした【ネオスビート】を使っていましたが、先程のターンの動きなどから推測するに、一撃必殺型の【アライブHERO】の流れを組み入れているようですね。どちらにせよ、このターンで終わらせます!)
「もう1度《裁きの龍》を特殊召喚です! レスポンスは何かありますか?」
「……いいえ、ありません」
 璃奈に動きはなし。《裁きの龍》の召喚は通る。
(それならあのセットカードは攻撃反応型の《聖なるバリア-ミラーフォース-》か、フリーチェーンの《デモンズ・チェーン》などカードの可能性が高いですね。確立的には7:3くらいでしょうか……)
 ライフを1000払い、《裁きの龍》の効果を発動する。

円城 LP:8000→7000

「このカード以外のフィールドのカードをすべて破壊します!」
「チェーン発動! 《活路への希望》!」
 攻撃反応型の罠でもなければ、《裁きの龍》を止めるカードでもなく、フリーチェーンのドローカードを璃奈は発動させた。
「相手プレイヤーとのライフポイント差が1000ポイント以上あるとき、ライフを1000ポイント払って効果を発動です」

璃奈 LP:2000→1000

「ライフポイント差、2000ポイントにつき、私はデッキからカードを1枚ドロー……円城さんのライフは7000、私のライフは1000。6000ポイントの差ですから、3枚のカードをドローします!!」
 手札0から一気に3枚にまで手札を増やす。
(《ヒーローアライブ》、《神の宣告》、《活路への希望》とここまでは今までの彼女の情報になかったカード。読み通り【アライブHERO】のギミックを取り入れた新しい型のようですね。ならば彼女の狙いは《速攻のかかし》で間違いないでしょう。そう引けるとも思いませんが……)
「バトルです! 《裁きの龍》でダイレクトアタック!」
 攻撃宣言。この攻撃が通れば璃奈は負ける。しかし《速攻のかかし》をドローするのに成功していればそれは免れる。だが、その手札からカードを引き抜こうとする動作は見受けられなかった。
(取りましたっ!)
 《裁きの龍》の口から放たれる光の波動が璃奈を貫く。それでも、璃奈のライフは減っていなかった。
「これは、まさか……」
「何も……使えるのはあなただけじゃないんですよ。私は墓地の《ネクロ・ガードナー》の効果を発動しました」
 《ネクロ・ガードナー》。璃奈が《ライトニング・ボルテックス》の発動時にコストとして捨てたカードだ。
「フィールドには《裁きの龍》が1体いるだけです。後続はありませんから、バトルフェイズも終了ですね?」
「……はい、そうです」
『なんとか首の皮一枚繋がりましたね~。それでも早川選手のライフは残りたったの1000ポイント! 次のターンの彼女の動きがどう命運を分けるのでしょう?』
(これは私のミスですね……もう1体《裁きの龍》を出していれば勝利していた勝負を、ほんの少しの慢心が決着を遅らせてしまいました)
 この時、円城の手札には《光の召集》で加えた《裁きの龍》と、このターンのドローカードである《奈落の落とし穴》。
(攻撃は《ネクロ・ガードナー》で防ぐことができますし、この手札なら大抵カードが来ても制圧できます。次の白神さんの相手をするのが厳しくなりますが、それでもここで勝利は間違いありません)
「なーんて、思ってませんよね?」
「!!?」
(心を見透かされた……ッ!? いいえ、そもそも早川さんの雰囲気が……違う?)
「円城さんはクロくんに敵いません。私にだって勝てません。だって……あなたからは、何も見えませんでしたから」
「え、見え……? 今なんて……?」
 しかし璃奈は、いいえ何でもありませんよ、といつもと変わらぬ雰囲気でそう応えた。怪訝そうな顔をしながらも、円城はターンを終了した。

第26ターン
璃奈
LP:1000
手札:3
無し

円城
LP:7000
手札:2
《裁きの龍》

「ねぇねぇ。結局璃奈ちゃんのデュエルスタイルってなんだったの?」
 真子に膝枕されながら美里が質問した。
「そういえば、璃奈のデュエルスタイルが判明する直前ってところで日差しにやられてふらふらだったから先に帰ったんだったな」
「うん。璃奈ちゃんのデッキが【アライブHERO】よりになってるのも関係あり?」
「あるな。どこから説明したもんか。そうだな……アポトーシスって言葉、知ってるか?」
 聞きなれない言葉。美里は無言で首を横に振る。
「アポトーシスって言うのは細胞の死に方の名前だ。役目を終えた細胞や不要な細胞が自ら死んでいく現象のことで、一個体を最善の状態としておくための細胞の自殺プログラムってとこだな」
 死ぬことによってほかが活性化される。少数の細胞が多数の細胞をより良いものとするために死ぬ現象の事だ。
「ふーん。それが、璃奈ちゃんのスタイルとどう関係するの?」
「ああ。一旦頭の隅に置いといてくれ。次に、フローって言葉を知ってるか? ゾーンとかランナーズハイでもいいけど」
「それは知ってるよ。スポーツ選手が極限の集中状態になったりすると起こるって言うあれだよね?」
 超集中状態となった者が、周りの動きがスローに見えたり、自分の体が嘘のように思い通りに動くようになることを指す。
「それの事だ。デュエリストでもたまに起こるな。俺も2回くらいなったことがある」
「うん」
「それでだ。璃奈はピンチだな。ライフがもう1000しかない」
「そうだね。自分からどんどん削っていった結果だけどね。んー? 自分から、どんどん、削った?」
(自分から「死」に……向かって行ってる……?)
 今までの璃奈とは全く違うデュエルだった。いや、全く違うデュエルスタイルだった。
「もしかして……それが、璃奈ちゃんのデュエルスタイル?」
「美里は頭がよくて助かる。まさにそれ。璃奈はライフが減っていき、あるラインを下回るとフロー状態に入る」
 例えばそれは辻垣外真子とのデュエルであったり、5日前の鳳瞬とのデュエルであったりする。
「それはライフが0になる瞬間にも起こる」
 例えば白神玄とのデュエルであったり、アンナ・ジェシャートニコフとのデュエルであったりする。
「それは『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』同士のデュエルみたいな超高度なデュエルを見ているときにも起こったりする」
 例えば、2週間前の地区予選決勝のデュエルであったりする。玄は最後に、俺は「元」だけどな、と付け加えた。
「そして、こんな噂を聞いたことがないか?」
 真の決闘者は有色の波動を纏い、またその波動を目視できるのも真の決闘者だけ。
 その色は決闘者そのものを表すという。
 例えば灼熱の様な赤。例えば深海の様な青。例えば森林の様な緑。例えば雷撃の様な黄。例えば大地の様な茶。例えば闇夜の様な黒。例えば閃光の様な白。
「璃奈がフロー状態に入るとその波動が見える。俺との初めてデュエルであいつは「黄金」を見たらしい。アンナとの最初のデュエルでもだ。そしてこの前の地区予選決勝大将戦でも……。見えるって言っても、相手が『黄金決闘者(ゴールド・デュエリスト)』クラスやデュエリストレベル10クラスの実力者じゃないと見えないみたいだけどな」
「それじゃあ今は……」
「何も見えてないだろうな。あの状態の璃奈なら、デュエリストレベル8程度は敵じゃあねぇよ」
 これが早川璃奈の新たなデュエルにしてデュエルスタイル――。




   8-4 ― 自殺決闘(アポトーシス) ―




「私のターン、ドロー! 魔法カード、《手札抹殺》を発動です! 3枚捨てて3枚ドロー!!」
「1枚捨てて1枚ドロー」
 円城は切り札である《裁きの龍》を捨てることとなったが、代わりに引いたのは《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》。こちらも切り札の内の1枚だ。
(これなら何の問題もありませんね……)
「さらに魔法カードを発動です。《ホープ・オブ・フィフス》! 墓地の《E・HERO エアーマン》、《E・HERO プリズマー》、《E・HERO ネオス》、《手札抹殺》で捨てた《E・HERO アナザー・ネオス》と《E・HERO バブルマン》をデッキに戻して、2枚のカードをドロー!」
 まるで引いてくるカードが分かっていたかのように、ドローしたカードを確認することもなく発動する。
「もう1枚魔法カードを発動します。《ヒーローアライブ》! ライフを半分払って《E・HERO エアーマン》を特殊召喚!」
 さらに自らのライフを削っていく。

璃奈 LP:1000→500

「効果で《E・HERO プリズマー》をサーチして通常召喚。効果で《E・HERO ネオス》を墓地へ送ります。そして私は、レベル4のモンスター2体でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 希望の使者、《No.39 希望皇ホープ》! さらにカオス・エクシーズ・チェンジ! 《CNo.39 希望皇ホープレイ》!!」
「狙いはそれですか。でもさせませんよ、《奈落の落とし穴》!」
 《CNo.39 希望皇ホープレイ》は抗う術もなく、奈落の底へと落ちていった。
「狙い通りにはならなかったみたいですね?」
「いいえ、狙い通りです。狙い通り、円城さんに《奈落の落とし穴》を使わせることができました」
 円城は表情を変えない。どうせ虚言だろうと耳を貸さない。
「ねぇ玄くん、いいかしら」
「はいはい何ですか真子先輩」
「美里ちゃん以外の私たちはその場にいたからその説明は一回聞いたのだけれど、結局フロー状態に入るとどうなるの?」
「まさか波動ってのが見えるようになるだけってんじゃねぇだろうな?」
 真子の台詞に続けて鷹崎が口を開く。
「そうだな……簡単に言うと、インスピレーションの超強化、かな」
「インスピレーション? つまりは閃きの力が増す、ってことかい?」
「今璃奈が《奈落の落とし穴》をわざと使わせた、みたいな発言をしただろ? 真子先輩の話だと入部試験時も真子先輩に《奈落の落とし穴》をわざと使わせたとかなんとか。それにさっきの《ホープ・オブ・フィフス》のドローも碌に確認せずに使ってた。あれは「何となく」そうだろうって分かったんだろうぜ、璃奈にはな」
 「何となく」伏せが《奈落の落とし穴》だと思い、《CNo.39 希望皇ホープレイ》を囮に使った。
 「何となく」ドローが《ヒーローアライブ》だと思い、確認もせず使用した。
「自分のデッキを知り、相手のデッキを知り、自分を知り、相手を知ることで、「何となく」「そう思った」という感覚で相手の行動を予測し、自分の行動を予測する。本来眠っているはずの力をフルに活用できるようになるのがあの能力なんだよ」
「確かに、「何となく」でも次の行動や次のドローが予測できれば、デュエルはかなり有利に進められるな」
「でも、それだけで璃奈ちゃんがあそこまで強くなるものなの?」
「だから言っただろう? 眠っているはずの力をフルに活用できるって。璃奈は元々ポテンシャルがかなり高いんだ。つまりはこれが璃奈の本当の実力ってことだよ」
(早川さんの手札は3枚……仮に大型モンスターを展開できたとしても私の墓地には5体の《ネクロ・ガードナー》がいます。攻撃は通りません!)
「それじゃあ行きます。この3枚……3枚の魔法カードで、円城さんを倒します!」
(ライフポイント差は6500。3枚の魔法カードでそんなダメージを与えるんて無理です! 出来るわけがありません!)
 円城は心の中で何度もそう唱え続けたが、周りの人間が気付かないレベルで小刻みに震えていた。恐怖していた。有利なのは自分のはずなのに、目の前の少女の自信溢れる発言に動揺を隠しきれなかった。
「まずは1枚目、《ミラクル・フュージョン》! 墓地の《E・HERO エアーマン》と《E・HERO プリズマー》を素材に、《E・HERO Great TORNADO》を融合召喚です!」
 風を司る「E・HERO」の融合体。召喚時にフィールドの相手モンスターの攻撃力を全て半減させる。

《裁きの龍》 ATK:3000→1500 DEF:2600→1300

「攻撃力を下げても攻撃が通らなければ意味がありま……」
「2枚目の魔法カードを発動します」
 円城の台詞を遮り、続いて璃奈は2枚目の魔法カードを発動させた。
「《ミラクル・コンタクト》を発動! 墓地の《E・HERO ネオス》と《N・エア・ハミングバード》をデッキに戻して、《E・HERO エアー・ネオス》をコンタクト融合!!」
(《N・エア・ハミングバード》なんていつの間に……はっ、あの《手札抹殺》。捨てた3枚の内の残った1枚ですか……!)
「《E・HERO エアー・ネオス》の攻撃力は私のライフが相手プレイヤーのライフよりも少ないとき、その差分だけ攻撃力を上昇させます」
 璃奈のライフはたったの500。円城ライフは7000。よってその差6500ポイントが《E・HERO エアー・ネオス》に加算される。

《E・HERO エアー・ネオス》 ATK:2500→9000

「こ……攻撃力、9000……!? で、ですが、モンスターは2体だけです! あと1枚の手札で4回の攻撃をしなければ、《ネクロ・ガードナー》の壁を突き抜けることは不可能! エンドフェイズには《E・HERO エアー・ネオス》はエクストラデッキに戻ります! どう考えても、どうしたって、私には、私たちには勝てません!」
 明らかに動揺していた。呼吸が乱れていた。肩が大きく揺れていた。冷静さを欠いていた。
「最後の魔法カードです。これが《ネクロ・ガードナー》の壁を超えるためのカード。《魂の解放》!!」
 お互いの墓地から合計5枚のカードを選択し、ゲームから除外する。《魂の解放》が持つ効果はたったそれだけ。たったぞれだけで、牙城は、崩れる。
「私は円城さんの墓地の《ネクロ・ガードナー》5体を選択し、ゲームから除外します。何かありますか?」
「《ネクロ・ガードナー》の効果はフリーチェーンです! すべてチェーンして発動……チェーンして……?」
 そこで円城は冷静さを取り戻した。このフィールドの意味が、この現象の意味が、この魔法の意味が。
「そうです……《ネクロ・ガードナー》の効果はフリーチェーンですから、5体全てをチェーンして発動すれば攻撃を防げます。ただし、《ネクロ・ガードナー》は発動してから最初に宣言された攻撃を防ぐ効果。5回の効果をチェーンさせてもその全てが1度目の攻撃を無効にすることしかできません。つまり……」
「私は……攻撃を1度しか防げない……?」
 しかも、例えどんなに攻撃力が低いモンスターであろうとも、最初の一撃を防がなければならない。防御のタイミングを選択することはできない。
「バトルフェイズです。《E・HERO Great TORNADO》で《裁きの龍》に攻撃です」
 5体の《ネクロ・ガードナー》の効果が発動。ソリッドビジョンには、半透明の姿として《E・HERO Great TORNADO》の攻撃を防ぐ。5体掛かりで。
「これで、あなたを守る壁はなくなりました。止めです……《E・HERO エアー・ネオス》で、《裁きの龍》に攻撃!! スカイリップ・ウィング!!」
「きゃっ、きゃっああああああああああああっ」

円城 LP:7000→0

『決まりましたーっ!! 神之上高校対桜ヶ丘女学院、Bブロックを制し決勝へと駒を進めてたのは、神之上高校でーっす!!!』
 観客席から注がれる称賛の嵐。それを最も多く受けたのが、璃奈だった。
『《手札抹殺》、《ホープ・オブ・フィフス》、《ヒーローアライブ》、《ミラクル・フュージョン》、《ミラクル・コンタクト》、《魂の解放》の魔法カード6連続発動で逆転勝利を手にした早川選手! 何か一言どうぞっ!』
「ふぇっ、えっ、えっと……ぉ」
 三木島プロの突然の振りに動揺する璃奈。その様子はいつも通りだった。
「あの、えっと……頑張りましたっ」
 満面の笑みでそう一言。会場は余計に盛り上がり、璃奈は余計に恥ずかしくなる。
 そんな璃奈に、円城が近づいてきた。
「円城さん……」
「負けました……私の、私たちの完敗です」
 スッと右手を前に差し出した。握手、と言うことだろう。
「はい、私の、私たちの勝ちです。ですから……」
 ギュッと両手で円城の右手を握りしめた。
「またいつか、デュエルしましょうね?」
 先程と同じくらい明るい笑顔で璃奈はそう応えた。
「はいっ」
 円城もまた同じく笑い。ステージを降りると、仲間に囲まれながら、全員で泣いた。


「お疲れ様」
 璃奈を待っていたのは仲間の笑顔。栖鳳戦の時とは違う、すっきりとした笑顔で璃奈が全員の元へ駆け寄る。
「ありがとうございます、クロくん」
「璃奈、一言いいか?」
「はい? なんです?」
「ふん、俺が出るまでもなかったな!」
 仁王立ちしてステージを仰ぎ見ながら悪そうな顔でそう言った。
「言いたかっただけですね」
「うん」
「それじゃあ、この後はどうします? もしかしたらAブロックの試合がまだやってるかもしれませんし、見に行きます?」
「いや……もうとっくに終わってるだろうぜ。それより、真子先輩が友人に頼んでAブロックのデュエルを撮っておいてくれてるらしいし、ホテルに戻ってそれを見よう」


 神之上高校があるのは神奈川県。対する本戦会場があるのは東京都。いちいち移動するのも面倒なため、部費を使って近場のホテルへと泊まっている。成績の優れた部活であるため、神之上高校内のどの部活よりも部費が多い。全員が1人部屋の上に、朝食と夕食はホテル側から出される豪華メニュー。こんな待遇が初めての玄、璃奈、鷹崎はここに始めてきたとき絶句していた。
 会場からホテルまでバスを利用して約10分。ホテルに戻ると各人多少の休憩を取ってから、音無部屋に集まり録画してもらったAブロックのデュエルを見ることにした。
 そして14ターン目の出来事。神之上高校VS桜ヶ丘女学院のデュエルのおよそ半分のターンんで、デュエルは終了した。
 画面からは宮路森高校が勝利したことが宣言された。決着を付けたのはミハイル・ジェシャートニコフ。そして、先鋒として参加したのも、ミハイル・ジェシャートニコフだった。
「何よ……これ」
「藍原学園のメンバー6人を、一人で倒した……?」
「ああそうだよ、これが「黄金」だ。アンナや今の俺程度を見て「黄金」を理解した気になってたなら、それはとんだ勘違いだよ」
 壁は2つ。高く、硬く、大きい壁が2つ。乗り越えなければ、勝利はない。

       

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Neetsha