Neetel Inside ニートノベル
表紙

黄金決闘
第3話 神之上高校決闘部

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「とりあえずはおめでとう」
 壇上に登った玄たちを待ち構えていた小さな副部長、辻垣内真子が口を開いての第一声は称賛の声だった。
「一応あなたたち3人は合格よ。ようこそ決闘部へ」
「とりあえずとか一応とか、随分と曖昧言い方をするんだな」
 鷹崎が口を挟む。
「暫定的に合格、と言ってるように聞こえるな」
「ご名答。正解よ、白神くん」
 まだ試験は終わってはいない。むしろ、ここからが本番である。
「あなたたちの入部はもう決まっているわ。決定事項。ただし、あなたたちが戦力になるかどうかは別の話よ」
「戦力……ですか?」
「そう、戦力よ。夏の全国高校生デュエル大会に向けて、のね」
 全国高校生デュエル大会。全国から集まった多くの高校生が互いの鎬を削りあい、雌雄を決する場。高校生という立場で体感することのできる最大にして最高のデュエルの式典。
「なんだと……? 俺たちのレベルじゃ戦力にはならないって言いたいのか?」
 真子の物言いにやや苛立ちを見せた鷹崎は、先輩であるにも関わらずぶっきらぼうな口調で反抗の意を示す。
「そういうわけじゃないわ。だから、これからそれを確かめるのよ」
 そう彼女が言うと、上手袖のほうから男女が1人ずつ出てくる。胸に付けたリボンとネクタイの色から、女子は2年生、男子は3年生であることが分かる。
 すると、女生徒の方が璃奈の方を向いた。
「久しぶり……ってほどでもないけど、久しぶり璃奈ちゃん」
「美里ちゃん!!」
 璃奈と顔見知り。璃奈は分かりやすく喜びの笑顔を美里と呼んだ少女に向けた。
「あー、例の知り合いがこの病弱そうな女子?」
 肩まで伸びている髪にはトレードマークと言っても過言ではない大きなリボンを付けており活発そうなイメージを受けるが、銀色の眼鏡の奥に見える垂れた瞳のせいなのかおっとりとしたイメージのほうが強く感じられる。さらには、今まで日に焼けたことがないかのような真っ白な肌に、力を入れてしまえばすぐに折れてしまいそうなほど線が細い。物静かな雰囲気を醸し出している。初対面のならば「病弱」という印象を受けてしまうだろう。そして印象通り、病弱である。
「秋月美里(あきつきみさと)……璃奈ちゃんの幼馴染で君と同じ2年生だよ。よろしく。って言うか白神くん、同じクラスだよね」
「え、マジで。ごめん。俺ずっと寝てたからさ、クラスメイトの顔はおろか、担任の顔も知らないんだよ」
 起きてましょうよ、と璃奈が呆れながらつっこむ。
「ふーん。君が璃奈ちゃんのお眼鏡にかかったデュエリストかぁ……なんかちょっとイメージと違うかな」
「どの辺が? ちなみに、身長についてならもう言われなれてるからな」
「……」
「図星かよ」
 璃奈を交えて3人でわいわいやっていると、最後の1人が一歩前に出てくる。身長は高いが横幅がないせいか、圧迫感は無い。しかし妙な威圧感があった。
「さっそく仲がいいみたいでよかった。僕がここの部長をやらせてもらってる。音無祐介(おとなしゆうすけ)だ。よろしく」
 気さくな笑顔で新入部員3人に微笑み、そのまま握手をしようと右手を前に出す。玄と璃奈は快く応じ、鷹崎だけはやや不満がりながら応じた。とにかくずっと笑顔で、人当たりの良さそうな雰囲気だった。
「まぁ、部長とは言っても名ばかりだよ。実際に取り仕切ってるのは真子ちゃんだし」
 遠慮がちにそう呟く。
「何言ってるのよ。私よりも絶対に音無くんのほうが適任よ。先輩たちだってそう言ってたじゃない」
 真子が抗議の声を上げ、音無の隣まで歩いてくる。その差40㎝。並ぶとものすごい身長差だった。
 そのまま鷹崎も無理やり気味に会話の輪の中に入れられ、6人でごちゃごちゃと話し続ける。


 十数分後。
「さて、簡単な顔合わせも終わって休憩もしたいし、本題に入りましょ」
(休憩だったんですか……これ)
 その割にはしゃべり疲れた璃奈。玄と鷹崎も疲れたという感じはないが、休憩できたようにも見えなかった。
 と、そこで再び音無が一歩前に出る。代表して説明をする、ということだろう。
「白神君、早川さん、鷹崎君。君たち3人は、これから僕ら部員3人とデュエルしてもらうよ」
 その一言はおおよその予想がついていた。新入部員は3人、対して3人の部員がその場に現れた。これはつまり。
「それでこっちの実力を確かめる……そういう解釈でいいのかな? 部長さん」
「ああ、その通りだ白神君。君は察しが良くて助かる」
 そこで音無の簡単なルール説明が入った。
 要約すると、1対1でそれぞれの部員とデュエルする。対戦相手は部員側が指名する。デュエルの勝敗に関わらず、対戦した部員が及第点と考えれば「戦力」として部活動メニューが組まれる。しかし及第点を貰えなければ、夏の全国高校生デュエル大会には参加できないと考えていい、とのこと。それ以外のルールは全て公式に定められたものを使用する。それだけだ。
 説明が終わると、部員側が一斉にデュエルディスクを装備した。その姿を見て3人もデュエルの準備をする。
「白神くん。あなたの相手は私……一般部員、秋月美里」
「よろしくな」
 互いのデュエルの状況が分かっては集中できないだろうということで、第一から第三までの体育館を贅沢にすべて使う。玄と美里は第一体育館へと移動。この時間ならばほかの部活動はもう切り上げているはず。貸切状態だ。
「鷹崎くん。君の相手は僕……部長、音無祐介が」
「誰であろうと、潰す」
 鷹崎と音無は第二体育館へ。
「そして早川さん。あなたの相手はこの私、副部長、辻垣内真子が務めさせてもらうわ」
「お、お手柔らかに……」
 そして璃奈と真子は移動せずにそのまま第三体育館を使用。
「それじゃあ……行くわよ!」
 真子の言葉が開戦の号砲となり、1対1の真剣勝負が始まる。

「「デュエル!!」」

「「デュエル!!」」

「「デュエル!!」」

 3つのデュエルが、同時刻にその幕を開けた。


<Side-K>

 玄VS美里。先攻は美里からだ。
「私のターン。私はモンスターをセット、カードを1枚セットしてターン終了」
 セオリー通りの1ターン目。カードは晒さず、相手の出方を覗う。

第1ターン
美里
LP:8000
手札:4
SM、SS


LP:8000
手札:5
無し

「随分と質素な1ターン目だな」
「君もさっきセットカード1枚で終わってたくせに」
「見てたのかよ」
「そりゃあ、審査しないとね」
「それじゃあ思う存分審査してくれ。俺のターン!」
 勢いよくドロー。
(あの口ぶりからすると、この体育館内でのデュエルはすべて見られてたみたいだな。それに璃奈からも聞いてたみたいだし……俺のデッキタイプはほとんどばれてるか)
「モンスターをセット。カードを2枚セットしてターンエンド」
 対する玄も動きは見せない。目には目を、歯に歯を、不動には不動で対抗する。

第2ターン
美里
LP:8000
手札:4
SM、SS


LP:8000
手札:3
SM、SS×2

「私のターン。モンスターを反転召喚。《墓守の偵察者》! リバース効果を発動して、デッキから同じく《墓守の偵察者》を特殊召喚。そして1体をリリースして、アドバンス召喚! 《ホルスの黒炎竜 LV6》!!」
 《ホルスの黒炎竜 LV6》――《ホルスの黒炎竜 LV4》の進化形態。一切の魔法効果を受け付けず、相手モンスターを戦闘破壊することでレベルをアップさせる有名なレベルモンスターの1体。
「なるほど。そういうデッキか」
「《ホルスの黒炎竜 LV6》で守備モンスターを攻撃!」
「守備モンスターは《伝説の柔術家》だ。守備表示のこのモンスターを攻撃したモンスターをデッキトップに送る」
 相手モンスターの除去と相手の次のドローをロックする強力なモンスター。しかし、戦闘では破壊されてしまったため、玄のフィールドには攻撃を防ぐための壁がない。
「《墓守の偵察者》でダイレクトアタック!」
「リバース罠発動! 《徴兵令》! 相手のデッキトップのカードを確認し、モンスターならば俺のフィールドに特殊召喚。魔法・罠であれば相手の手札に加わる」
 珍しいタイプのギャンブルカード。しかし、トップのカードはすでに分かっている。《伝説の柔術家》の効果で戻した《ホルスの黒炎竜 LV6》だ。これで玄のフィールドにモンスターが召喚されるのが確定した。
「だけど甘いよ。永続罠、《王宮のお触れ》! 罠カードの効果を無効!」
「だけど甘いな。速攻魔法、《サイクロン》! 《王宮のお触れ》を破壊!」
 チェーン1:《徴兵令》。チェーン2:《王宮のお触れ》。チェーン3:《サイクロン》。
 逆順処理により、最終的に《徴兵令》の効果が適用され、《ホルスの黒炎竜 LV6》が玄のフィールド現れる。
「むっ……! やるね、白神くん」
 《墓守の偵察者》では《ホルスの黒炎竜 LV6》を倒せない。やむなく攻撃を中断し、メインフェイズ2へ移行する。
「カードを1枚セット。ターンエンドだよ」

第3ターン
美里
LP:8000
手札:3
《墓守の偵察者》、SS


LP:8000
手札:3
《ホルスの黒炎竜 LV6》

「俺のターン」
(秋月美里……こいつのデッキは十中八九【お触れホルス】)
 《ホルスの黒炎竜 LV8》の効果によって魔法を封じ、《王宮のお触れ》の効果によって罠を封じるデッキ。決まった時の制圧力は相当のもので、唯一の抜け道であるモンスター効果にもいくかの対策が用意されている。
(そう考えれば、あのセットカードはある程度絞られてくるが……決めつけるにはまだ早い。多少は警戒しながら行ったほうがいいな)
「このままバトルフェイズに入る。《ホルスの黒炎竜 LV6》で《墓守の偵察者》を攻撃!」
(普通に考えれば《王宮のお触れ》の影響を受けないように罠カードはほとんど入れない。それなら除去カードは魔法カードに頼っているはずだ。普通は)
 そうとは言っても、《激流葬》や《聖なるバリア-ミラーフォース-》などの強力な除去カードを入れている可能性は十分にある。
(かといって大して高くもない確率にビビッて攻めないわけにもいかないしな。もし予想通りセットカードが魔法なら、《ホルスの黒炎竜 LV6》には影響がない。確実に攻めながら、被害は最小限に抑える)
「リバースカード発動! 永続罠――」
(永続罠? まさか……)
「《洗脳解除》! すべてのモンスターのコントロールは元々のプレイヤーに戻る! 《ホルスの黒炎竜 LV6》は返してもらうよ」
 結果、攻撃は中断。玄のフィールドに攻撃できるモンスターは存在しない。そのままバトルフェイズを終了する。
「なるほど……《王宮のお触れ》はカモフラージュか」
 《洗脳解除》の発動によって、玄は即座に美里の意図に気付く。
(こいつはここでの俺のデュエルをすべて見ているはずだ。前のターンに行った《伝説の柔術家》と《徴兵令》のコンボはすでにこの体育館内で5回。《エネミーコントローラー》の発動は6回。加えて《精神操作》の発動も3回)
 どれもコントロール奪取効果を持つカード。
(つまり、あいつはそれを見越したうえでメタカードとして《洗脳解除》を入れ、事前に《王宮のお触れ》を見せておくことで、無意識的に永続罠の、いや《洗脳解除》の選択肢を削ぎ落としていた)
「流石は神之上高校決闘部、ってとこか」
「すごいね。今のプレイだけでそこまで見抜くなんて」
 美里はこのデュエルが始まる前までに、16度玄のデュエルを見ている。その結果、彼女は玄のデッキ内容すべてを把握することに成功した。
「《伝説の柔術家》3枚、《コアキメイル・ガーディアン》2枚、《コアキメイル・ウォール》2枚、《コアキメイル・サンドマン》2枚、《ナチュル・ロック》2枚、《ゴゴゴゴーレム》1枚、《ゴゴゴジャイアント》3枚、《地球巨人 ガイア・プレート》1枚、《冥府の使者ゴーズ》1枚、《アチャチャチャンバラー》1枚、《死者蘇生》1枚、《ブラック・ホール》1枚、《精神操作》1枚、《マジック・プランター》2枚、《エネミーコントローラー》2枚、《サイクロン》2枚、《禁じられた聖槍》1枚、《禁じられた聖杯》1枚、《聖なるバリア-ミラーフォース-》1枚、《徴兵令》2枚、《鳳翼の爆風》1枚、《岩投げアタック》2枚、《リビングデッドの呼び声》3枚、《デモンズ・チェーン》2枚。これが君のデッキ内容……間違ってる部分はあるかな?」
「……」
 この時玄は口には出さなかったが、彼が構築したデッキと寸分違わぬデッキ内容を美里は言い当てた。流石に16度もデュエルを見ていれば、その内容を言い当てることはそう難しくはない。しかし、この1戦のためにそこまで研究するというのはなかなかできる行為ではない。
(おそらく秋月は、璃奈からの情報を聞いて最初から俺に焦点を合わせていた。そして俺に勝つために策を巡らせ、メタカードも入れてきた。審査の場でそこまでするか、普通? いや……違うか。審査の場だからここまでするんだな。「この状況を打破してみろ」ってか)
「面白くなってきた。これくらいしてもらわないとな。モンスター1体をセットし、カードを1枚伏せてターンエンド」

第4ターン
美里
LP:8000
手札:3
《墓守の偵察者》、《ホルスの黒炎竜 LV6》、《洗脳解除》


LP:8000
手札:2
SM、SS


<Side-T>

 鷹崎VS音無。鷹崎のターンからスタート。先攻の鷹崎は2枚のセットカード場に出すだけでターンを終える。

第1ターン
鷹崎
LP:8000
手札:4
SC×2

音無
LP:8000
手札:5
無し

「モンスターはなし、か。僕のターン、ドロー」
 ダメージを通すなら鷹崎の場にモンスターがいないこのタイミングを狙うのが普通。だが。
「見え透いた罠だね。モンスター1枚と魔法・罠2枚をセットし、ターンエンドだ」
(流石に……引っかからないか。まぁ、動かないなら動かないでいいんだけどな)

第2ターン
鷹崎
LP:8000
手札:4
SC×2

音無
LP:8000
手札:3
SM、SC×2

「俺のターン、ドロー。手札の《伝説の白石》をコストに、《調和の宝札》を発動し、2枚ドロー。そして《伝説の白石》の効果で手札に《青眼の白龍》を加える。それをコストに《トレード・イン》を発動し2枚度ドロー。さらに、もう1枚《調和の宝札》を発動。コストは《ガード・オブ・フレムベル》だ」
 さらに2枚のドロー。
「突然動き出したね。まったく、手札交換まで速いとは」
 最速の攻撃には最速の準備が必要である。準備運動があってこそポテンシャルを引き出せる。
「俺は《バイス・ドラゴン》を特殊召喚! そして通常召喚《ドラゴラド》! 《ドラゴラド》の効果により、墓地より攻撃力1000以下、通常モンスター、《ガード・オブ・フレムベル》を特殊召喚!」
 チューナーを含め、フィールドに3体のモンスターが並ぶ。
「俺はカードを1枚伏せる。そして、レベル4の《ドラゴラド》とレベル5の《バイス・ドラゴン》に、レベル1の《ガード・オブ・フレムベル》をチューニング! 封印されし灼熱の龍よ、骸を糧にその力を解き放て! シンクロ召喚! 燃やし尽くせ、《トライデント・ドラギオン》!!」
「さっそくレベル10のシンクロモンスターか」
 しかし《トライデント・ドラギオン》が真の力を発揮するには生贄が必要。しかしすでにその準備も完了している。
「《トライデント・ドラギオン》の効果発動! 自分フィールドのカードを2枚まで破壊し、破壊した分だけ攻撃回数が増える! 俺の2枚の伏せカードを選択」
 その内、1ターン目に伏せておいた《スキル・サクセサー》をチェーン発動させ、《トライデント・ドラギオン》の攻撃力を上昇させる。

《トライデント・ドラギオン》 ATK:3000→3400

「バトルフェイズ、《トライデント・ドラギオン》で裏守備モンスターに攻撃!!」
「迷いがないね。でも残念ながらはずれだ。《ライトロード・ハンター ライコウ》のリバース効果を発動」
 《ライトロード・ハンター ライコウ》。リバース時にフィールドのカードを1枚破壊し、自分のデッキトップ3枚を墓地へ送る効果を持つ。墓地肥やしと除去を同時にこなす強力なモンスターだ。これによって《トライデント・ドラギオン》は破壊される。
「そして僕のデッキの上から3枚を墓地へ。《ボマー・ドラゴン》、《サイクロン》、《サイバー・ドラゴン》。うーん、いまいちかな」
「このままターンエンドだ」
 大がかりな攻撃もかわされ、鷹崎は動けない。

第3ターン
鷹崎
LP:8000
手札:3
SC

音無
LP:8000
手札:3
SC

「僕のターン、ドロー。君ほど派手ではないけど、攻めるのは僕も得意なんだよ。《サイバー・ダーク・ホーン》を召喚!」
(このデッキ……【サイバー・ダーク】か!)
 【サイバー・ダーク】――機械族モンスターでありながら、ドラゴン族モンスターを利用してその力を上昇させるカード群。素の攻撃力は低いが、効果を使用すれば上級レベルのモンスターに匹敵する力を得ることもある。
「僕は《サイバー・ダーク・ホーン》の効果で墓地の《ボマー・ドラゴン》を装備。攻撃力を《ボマー・ドラゴン》の攻撃力分アップする!」

《サイバー・ダーク・ホーン》 ATK:800→1800

「さらに《リビングデッドの呼び声》を発動。墓地から《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚!」
 そして音無はそのままバトルフェイズへと移行する。
「《サイバー・ダーク・ホーン》と《サイバー・ドラゴン》でダイレクトアタック!」
「通すかよ! 《聖なるバリア-ミラーフォース-》!!」
 攻撃モンスターをすべて焼き尽くす罠カード。音無のモンスターは全滅する……事はなかった。
「リバース発動、《スターライト・ロード》!!」
「なっ……!」
 自分のカードを2枚以上破壊するカードが発動したとき、その破壊を無効にし、エクストラデッキから《スターダスト・ドラゴン》を召喚条件を無視して特殊召喚できる特殊なカード。戦力を削るどころか増やしてしまった。
「防ぐ手段はなさそうだね。このまま全軍のダイレクトを通させてもらうよ!!」
「ぐああああああああああああああっ!!」

鷹崎 LP:8000→6200→4100→1600

(くそっ、ライフを削られすぎた! 正直かなりまずいぞ!)
「僕はこれでターンエンドだ」
 4ターン目終了時点で、鷹崎はすでに追い込まれていた。

第4ターン
鷹崎
LP:1600
手札:3
無し

音無
LP:8000
手札:3
《サイバー・ダーク・ホーン》、《サイバー・ドラゴン》、《スターダスト・ドラゴン》、《ボマー・ドラゴン》(装備)、《リビングデッドの呼び声》


<Side-R>

 璃奈VS真子。先攻を得たのは真子だった。
「私の先攻ね。ドロー。モンスターを1枚伏せてターン終了」
 特に大きな動きは見せずに1ターン目を終了。続いて璃奈のターンとなる。

第1ターン
真子
LP:8000
手札:5
SM

璃奈
LP:8000
手札:5
無し

「私のターン、ドロー。《E・HERO プリズマー》を通常召喚して、効果を発動します。《E・HERO ネオス》を墓地へ送って名称を変更」
(この副部長さんは間違いなく私より格上なんですし、出し惜しみはできません。幸い伏せカードはありませんし、ここはガンガン行きましょう!)
「そして《O-オーバーソウル》を発動! 墓地の《E・HERO ネオス》を特殊召喚し、さらにもう1枚魔法カードを発動です! 《H-ヒートハート》!」
 モンスター1体の攻撃力を500上げ、守備貫通効果を付加。璃奈は《E・HERO ネオス》の攻撃力を上昇させる。

《E・HERO ネオス》 ATK:2500→3000

「バトルフェイズです! 《E・HERO ネオス》で守備モンスターに攻撃!」
「仕掛けが早いわね。守備モンスターは《ピラミッド・タートル》よ」
 その守備力は1400。《H-ヒートハート》の効果で1600の貫通ダメージが真子を襲う。

真子 LP:8000→6400

(《ピラミッド・タートル》……! ってことは)
 《ピラミッド・タートル》は戦闘破壊されたときにデッキから特定のモンスターを特殊召喚できるリクルーター。《ピラミッド・タートル》が呼んで来れるモンスターの範囲は、守備力2000以下のアンデット族。そして、そこから呼び出されるのは最大級の攻撃力をもつ化け物。
「効果発動よ。現れなさい、《茫漠の死者》!!」
 《茫漠の死者》は、召喚、特殊召喚成功時の相手のライフポイントの半分の数値の攻撃力を得る。璃奈のライフは無傷の8000。つまり《茫漠の死者》の攻撃力はその半分。

《茫漠の死者》 ATK:?→4000

 攻撃力4000のハイパワーモンスターが真子のフィールドに現れる。
(おそらくこれがエースモンスターのはずです。次のターンに攻めてくるのでしょうけど、防ぎきらせてもらます)
「私はカードを2枚伏せて、ターン終了です」
 エンドフェイズに《E・HERO ネオス》の攻撃力が元に戻る。

《E・HERO ネオス》 ATK:2500→3000

第2ターン
真子
LP:6400
手札:5
《茫漠の死者》

璃奈
LP:8000
手札:1
《E・HERO プリズマー》、《E・HERO ネオス》、SS×2

「私のターン、ドロー! まずは《手札抹殺》を発動! お互いに手札を全て捨てる」
 璃奈は1枚、真子は5枚の手札を交換する。
「そして、《ゾンビ・マスター》を通常召喚。手札を1枚をコストに効果を発動。墓地からレベル4以下のアンデット族モンスター、《ピラミッド・タートル》を特殊召喚するわ。さらに、《手札抹殺》で捨てた《馬頭鬼》の効果を発動! 自身を除外して墓地からアンデット族1体を特殊召喚できる。私は《ゴブリンゾンビ》を特殊召喚」
 レベル4のモンスターが一瞬にして3体並ぶ。だがこれは展開の途中経過でしかない。
「魔法カード、《強制転移》を発動。私はあなたに蘇えりたてほやほやの《ピラミッド・タートル》をあげる」
 《強制転移》によって互いのプレイヤーは自分フィールドのモンスター1体を相手に渡す。璃奈は当然、攻撃力の低い《E・HERO プリズマー》を渡す。
「それなら、私はレベル4の《ゴブリンゾンビ》と《ゾンビ・マスター》、あなたからもらった《E・HERO プリズマー》でオーバーレイ! エクシーズ召喚! 全てを食らい尽くしなさい! 《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》!!」
 その召喚を火蓋としたかのように、すぐさまバトルフェイズに突入。《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》で《ピラミッド・タートル》に攻撃を宣言する。
「狙い通りにはさせません! 《聖なるバリア-ミラーフォース-》!!」
 攻撃モンスターをすべて吹き飛ばす強力な罠カード。
「これで副部長さんのモンスターは全滅です!!」
「あっまぁい!! 速攻魔法、《我が身を盾に》!」
「!?」
 ライフを1500払い、モンスターを破壊するカード効果を無効にし破壊する速攻魔法。これで《聖なるバリア-ミラーフォース-》は無効化され真子の攻撃は続く。
 余談ではあるが、丁度このタイミングで鷹崎も《聖なるバリア-ミラーフォース-》を音無に無効化されているところだった。ただの偶然なので、全く無関係だが。

真子 LP:6400→4900

璃奈 LP:8000→6400

「そして、《ピラミッド・タートル》&《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》の効果発動!!」
 璃奈のフィールドで戦闘破壊されたとはいえ、《ピラミッド・タートル》の効果は墓地で発動するもの。故にリクルート効果を発動するのは真子。さらに、《《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》のオーバーレイユニットを1つ取り外し、その効果によってたった今戦闘破壊した《ピラミッド・タートル》が攻撃力を1000ポイント下げ再び璃奈のフィールドに現れる。そして《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》はもう1度攻撃が可能となった。
「《ピラミッド・タートル》の効果でもう1体、《茫漠の死者》を特殊召喚!」

《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》 ORU:3→2

《ピラミッド・タートル》 ATK:1200→200

《茫漠の死者》 ATK:?→3200

「そしてもう1度、《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》で《ピラミッド・タートル》に攻撃! デプス・バイトォ!!」
「きゃああああああっ!!」

璃奈 LP:6400→3800

「もう1度《ピラミッド・タートル》の効果を発動! デッキから《ヴァンパイア・ロード》を特殊召喚!」
 続いて攻撃力4000の《茫漠の死者》でネオスを攻撃。もちろん《E・HERO ネオス》は破壊され、1500の超過ダメージが璃奈を襲う。

璃奈 LP:3800→2300

「終わりよ! もう1体の《茫漠の死者》でダイレクトアタック!!」
 2300のライフでは攻撃力3200の《茫漠の死者》の攻撃を耐えきれない。だが、ここで終わる璃奈ではなかった。
「《ガード・ブロック》! ダメージを0にしてカードを1枚ドローします!」
 なんとか耐えきる。だが、真子のフィールドには《ヴァンパイア・ロード》が残っていた。
「《ヴァンパイア・ロード》でダイレクト!」
「うっ……!」

璃奈 LP:2300→300

「《ヴァンパイア・ロード》の効果発動。ダメージを与えた時、モンスター、魔法、罠のいずれかを選択。相手は自分のデッキから選択された種類のカードを1枚墓地へ送る。私は「罠」を選択するわ」
 真子の宣言通り1枚の罠カード――《ヒーロー・ブラスト》――を墓地へ送る。
「カードを1枚伏せて、ターン終了」

第3ターン
真子
LP:4900
手札:0
《茫漠の死者》×2、《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》、《ヴァンパイア・ロード》、SS

璃奈
LP:300
手札:2
無し

(まずいです……まず過ぎです……)
 3ターン目にして璃奈のライフは残り僅か300ポイント。一撃でも受けてしまえば必殺は必至である。
 そんな焦っている璃奈の顔を見て、真子が口を開く。
「早川さん」
「な……なんでしょうか?」
「私最初に言ったわよね。「勝敗に関わらず、及第点をとればいい」って」
「言ってましたね、確かに」
「あれは嘘よ」
「……へ?」
 突然の発言に間抜けな声を出す璃奈。しかし真子はお構いなしに話を続ける。
「正確には嘘じゃないんだけどね。ほかの2人はその通りにやってるかもしれないけど、私の場合に限っては嘘よ。私に勝たなきゃ、認めてあげない」
 璃奈にとってその発言は、走っている途中で、突然ハードルが大きくなったような気分だった。今までだって精一杯飛んで超えてきたハードルが、ジャンプした程度じゃ飛び越えられないような大きさになった。ハードルの下を潜る、なんて業を真子が認めるとも思えない。
 開始わずか3ターン目にして、死刑宣告でもされたかのような心情だった。
「私に勝てたら及第点を、あ、げ、る♪」
(……目の前に、悪魔がいます。見た目は小悪魔ですけど、中身は閻魔様でした……どうしましょう)


 三者三様。それぞれ違う形で、追い詰められていた。
 しかし、試験はまだ始まったばかりである。


To be continue

       

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