Neetel Inside 文芸新都
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次の日の放課後、俺は美術部に預けていたベースを担ぎ、第二音楽室のドアを開けた。教室には平野と山崎とやよいが円を組むように話し合っていた。

どうやら話の内容は来週やる対バンでの曲についての事らしかった。やよいが呆れたように平野に言葉を返す。

「だからアニメソングを演ったってしょうがないでしょ。あいつらに舐められるだけだってば」
「そんなのやってみないとわからないだろ!世界に羽ばたけ!オタクカルチャー!あつし君もそう思うよな!?」

山崎が愛想笑いを平野に返す。ラチがあかないと思った平野はカバンを置いた俺に声をかけた。

「ワッキ、来週演る曲はアイロニーとゴーゴーマニアック、どっちがいい?」「それはプログレバンドの曲か何かか?」

俺が平野に向き直ると山崎が俺に説明した。「ああ、アニメの歌。気にしなくていいから」手を横に振る山崎を見て「じゃあ、他に演るような曲あるのかよ!」と平野が開き直った。

「ある」俺が3人の輪に加わりその曲名を伝えた。「えっ?何それ?ずいぶん古臭い曲だなぁ」ふてくされる平野を横目に山崎がiPhoneを取り出しブラウザを開いてその曲を検索し始めた。

「もっと大きなのがあるわよ」やよいがiPadを取り出しその曲を検索した。

内蔵スピーカーから流れる音楽に山崎がリズムを刻む。「へぇ、ちゃんと聴いた事なかったけどこういう歌なんだ」新たな発見をしたやよいがうなづいた。

「でもさ、これ、アレンジするの大変なんじゃないの~?」いちゃもんを付ける平野を見て俺はこう告げた。「既に他のバンドがカバーした音源がある」

やよいのiPadを操作し、その曲を流すと「ああ~」と山崎が感嘆符をあげた。「なるほど、これだったらキーボードを除けばいいだけね」

「平野、これくらいのソロだったら弾けるだろ?」「簡単に言ってくれるなぁ...」輪の中から外れた平野が苦笑いを浮かべた。すると教室のドアがノックされた。

「すいませーん、失礼します」坊主頭の高橋を先頭に1年生4人が教室に入ってきた。「楽器取りにきたんスよ。俺ら家の地下スタジオで練習するんで」

清川が俺達にそう告げると他の1年生に備品ロッカーの鍵を開けさせた。中から楽器の入ったケースを取り出すと、清川はおもむろに机の上に置きジッパーを引き上げた。

「見てくださいよ!プロモデルのレスポールに、リッケンバッカー。こっちは62年製のストラトキャスターだ!」

革のケースから出されたまばゆい楽器群に山崎が息をのむ。ヘラヘラした笑みを向けると清川は俺達に向かってこう言った。

「センパーイ。世の中ってのは金を費やした方が勝てるシステムになってるんスよ。ヨーロッパのサッカーや野球、ソーシャルゲームでもなんだってそうじゃないっスか」

「それで勝った気になれるなんておめでたい奴だな」「やめろって」山崎が俺と清川の間に入る。

楽器のケースをしまい、他の1年に担ぐように指示を出すと清川は俺の方を見てニヤついた笑みを浮かべた。

「来週、楽しみにしてるっスよ」そう言葉を残すと清川と1年達は去っていった。「まったく、貿易商の息子だかなんだか知らないが...」

椅子の上で平野が足を組んだ。「あんなにいいギター何本も持ってるんだったら何本か部に寄付してもいいと思うんだけどなぁ!」それを見てやよいが平野をたしなめる。

「ダメよ。あんな高価な楽器、こんな所じゃ管理できないわ」空になったロッカーを見て俺は山崎に聞いた。

「ここに俺のベースを置いてもいいか?」「あ、別にいいよ」良かった。毎日重いベースを背負って朝早く登校するのは面倒だったのだ。

「とりあえず演奏する曲はそれでいいよ」平野が椅子から飛び上がって俺に言った。「とにかく時間がないしね。ボクもバイトがあるし。ちょっと練習すればあいつらには勝てるだろ」

平野はかったるそうにカバンを抱えバイトに向かうため教室を出た。何かが引っかかる。残された俺と山崎はその曲のリズム練習を繰り返した。

       

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