Neetel Inside ニートノベル
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カーテンの端から左右の壁にかけて書棚が並んでおり、種々の大きさの本が並んでいる。向かって左側に2つ。左右対称に並べられれば右側も2つ並ぶはずだが実際は1つしか置かれていない。右奥に扉があるためだ。扉がなければ中央の机に対して完全な対称となっていたかもしれない。
部屋にはだれもおらず静まり返っている。奥の扉の向こう側に人がいる気配もない。一通り部屋を見渡した後で、右側の壁にかかっている絵画を眺めていた先輩に声をかけた。
「誰もいないですね。」
「そうだな。でもそろそろ1限が終わるころだから来るはずだ。そういう約束だからな。」
 先輩は視線をとなりの絵画に移しながらそう答えた。
それにしても、と思う。この部屋の主の趣味なのか他の部員の趣味なのかはわからないが、全体的に内装はシックにまとめられている。向かって右の壁は油絵で描かれた風景画で彩られ、左の壁にはモノクロの写真が2色の濃淡でグラデーションを形成している。
そんな中に一人佇む先輩の姿がやけに渋く、先輩も含めてこの部屋全体が時間とともに切り取られた1つの絵画なのではないかと錯覚してしまう。
先輩は彫が深く地中海付近で見るような白人に近い顔のつくりをしている。面長で鼻が高く、口は大きい。深い堀の奥にある目は優しそうな垂れ目で、男から見ても良い顔をしていると思う。体格もがっしりとしており、身長はジャスト6フィートだと言っていた。 絵画の前でじっとしていると有名な造形師によって作られた石像のようだ。地味なパーツにより薄く構成された顔、猫背でボリュームのない体つきの俺とは正反対である。
「お知り合いなんですよね?」
「そうだよ。おれもお前みたいにちょっと人には相談しにくいような悩みを抱えたときにここにきて解決してもらったんだ。」
「先輩が?悩み?」
 意外だった。先輩とは大学のサークルが一緒なのだが、そこでの先輩はまさしくリーダーであり、統率者である。人望が厚く誰に対しても快活で、やんちゃな兄貴分といった感じである。人に打ち明けられないような悩みがあるということにまず驚いてしまった。
「おいおい、おれだって人間なんだから悩みの1つや2つはあるっしょ。ま、俺の中学のときの後輩なんだよ。そのときから周りとは違う雰囲気だったけど、今は・・・外の札見たよな?」
「はい・・・見間違え出なければウェブ探偵事務所と書いてありました。」
「OK。全く見間違ってないよ。要はお前の悩みを解決してくれる探偵をやってるんだ。」」
「は、はぁ・・・。」
 全くピンとこない。探偵?探偵といえば多くの人は漫画や小説にあるような殺人事件解決を生業とする人間を想像するが現実世界の探偵は聞き込み、尾行、張り込みなど脳以外の部分をふんだんに使った肉体的調査が主だと聞いている。この部屋の雰囲気からして連想されるのは前者のほうだが・・・。
「結構頼りになるぞ。俺が保証する。」
 先輩がそう言うなら・・・などと考えていると後ろの扉が開いた。人が入ってきたようだ。 振り返って確認すると見目麗しいという表現が似合う美しい少女の姿に目を奪われてしまった。
 女性にしては長身なのだろう、目線が自分とそう変わらないため、真正面からお互いの顔を見つめあう形になってしまった。大きく開かれた左右の目は非常に澄んでいて大きな黒目は研ぎ澄まされたブラックサファイアのようだ。小さくとがった上品な鼻の下には、薄くボリュームには乏しいものの綺麗な形で桃色をした唇がゆるやかな弧を描いている。あごは比較的シャープで現代的な美人の典型例といった感じだが、顔の輪郭自体は丸みを帯びていて割合的に目が大きいことから小動物的な可愛さも備えている。
そんな風に見惚れていると、横にいた先輩に突っ込まれた。

       

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