Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

「おい!そこのお前!起きろ、町が襲われているぞ」
ナルゲンは壁に寄りかかって眠っている衛兵を起こしに行くが彼は眠ってなどいなかった
「ヒッ!死んでる」隣にいた衛兵は情けない声をあげる。死体は心臓を一突きされており、何が起きたのかわからないといった表情であった。開いた目を閉ざす。死者へのせめてもの情けであり礼儀だ。
「いそぐぞ!」ナルゲンは衛兵に声をかけ町に向かった。衛兵も「あぁ、かわいそうに」と一言呟き、ナルゲンと共に向かった。町からは黒煙が上がっていた。

「ナルゲンさん、それにボッツ!助かったぞ」
先程の衛兵、ボッツと共に町の入口で、盗賊に苦戦していた同僚の手助けをした。
「今回の相手は規模がでかい100人近くはいるぞ」ヒゲ面の男は汗をぬぐいながらナルゲンに状況を説明する。
「情けない話だがたぶん全部の門の衛兵はやられたここで最後だな」
ネマリのまちは北、南東、南西の方向に門があり、そこから道なりにすすむと町に着く。盗賊が最初に攻撃を始めたのは南西の市場入口。ここは北の方角ということもあり、敵の進行が遅れたのであろう。
だが、わからない点がある
「奴らは、盗賊はどこから入ってきたんだ?」ヒゲ面は答える
「奴ら、積み荷の中に隠れてやがったんだよ」
状況としては、まず何人かは荷物に紛れ込んで町に侵入、そこから3~4 人が一旦町からでる、その後、門の内側にいる衛兵を殺害、門を開き外にいる仲間を呼び寄せる。それを繰り返したらしい。
「内側と外側、両方から攻撃してくるし、盗賊もどこに隠れているのかわからないったらありゃしないぜ」
そんなことをいってると近くの木箱から魔物が飛び出しヒゲ面を襲う!が間一髪、魔物の槍が届くよりも早く、ボッツが魔物を一刀両断していた。
「ふへぇ、助かったぜ。サンキューボッツ!」ヒゲ面は再び汗をぬぐう。その部下たちはボッツを称賛する。胴と足が離れた魔物を見てナルゲンは「魔物までいるのか」と嘆く。
「南西の方では鳥人もいやがったぞ」
「それは本当か?ならなおさら急がないと……いくぞボッツ!」ナルゲンはボッツと共に町の中心部へ向かった。

道中は悲惨であった。親とはぐれ泣いてる子供、身ぐるみを剥がされた上に惨殺された商人、身を呈して戦ったのであろう、腕や足のないものや魔物によって人の形ではなくなってしまった衛兵や、盗賊の死体が転がっていた。中心部に近づけば近づくほどそれは増していき、女、子供、老人の変わり果てた姿も散見された。ここでの戦闘は終わっているようであり、衛兵たちが残党狩り、また喋れるものは人であろうと異人であろうと逮捕、捕縛をしていた。
「今は庁舎を拠点に生存者の救助、手当てを行っています。現在敵は農場に進出中です。それにともない町長率いる衛兵隊主力も農場に進出中です」
聞くところによると盗賊の目的はこの町の特産品である調味料が目的らしい、確かに高く売れるし、何より肉の保存に役立つ。
「あと残念な情報が……」
「なんだ?」
「町長の娘が……ユニさんが人質に」信じられない、信じたくもなかった。


「さぁ?出すのか?出さないのか?はっきりしろ!」農場前ではいかにもな男が気を失ったユニを人質に交渉をしていた。数で言えば町長率いる衛兵隊が完全に有利。偵察、監視要員であろう鳥人や奇襲要員の魔物、そして盗賊の死体が転がっていた。対して衛兵隊は怪我人はいるものの死者は出ていないようである。戦力差は絶望的である、しかし盗賊側は圧倒的なアドバンテージを持っていた。人質である。しかもただの人質ではない、町長様の大事な大事な愛娘である。
「さぁ、早く馬車と調味料、それを入れる木箱を持ってくるんだ。でないと?」
左手に持ったサーベルをユニの喉に近づける。

その様子を少し離れたところから、ナルゲンとボッツは見ていた。
「あぁ、このままだとユニさんが……」
「縁起でもないことをいうな」ナルゲンはボッツの頭を殴る。
「痛てぇ、ナルゲンさんは最近町長に似てきたよ」聞こえてないふりをする。
「ボッツ、お前弓を使えたよな?」
「まぁ百発百中の自信はありますね」と小型の、本当に小さめの弓を取り出した。ボッツの趣味は狩りとまとあてである。
「なら、あの盗賊……狙えるな?」しばしの沈黙。先に口を開いたのはナルゲンだった。
「なんとかいえよ」ボッツは恐る恐る口を開いた。
「嫌ですよ。もしはずしたりなんかしたら……」外したときの結果は想像したくない。それに戦犯は誰だって嫌だ。
「でもここで当てれば英雄だぞ、それに誰が弓矢をぶちこんだのか俺以外わからないって」
「だったらナルゲンさんがやってくださいよ!」小声で怒鳴るボッツ。が本当にナルゲンが弓をボッツからとろうとした瞬間またもやボッツが「駄目です、絶対駄目です!」と拒否をする。
「競技会で弓矢全部外す人に弓は貸せません」
「馬鹿!隣の的には当てただろ!」
「尚更ですよ!ユニさんを殺すつもりですか?」関係ないがナルゲンは弓矢競技会に出て全弾隣の的の5点圏内に打ち込み0/50点という得点を叩き出している。
「じゃあお前やれよ」
「じゃあって何ですか!じゃあって!」
お互いがイライラしている。ユニを助けたいのはお互い一緒である。だが、片方はちょっとの度胸、もう片方は圧倒的な実力が不足してた。どうすればいいのか、どの行動がベストなのか、それはおのずと答えが出ていた。
ボッツが弓を構える。
「おっ!やる気になったのか!」
「黙っててください!気が散ります」
ボッツの頭はいろんなことが巡っていた。敵の距離、風の強さ、方角、敵の動き、弓矢を放ったことを敵に気付かれたら終わること、味方は自分たちの存在に気づいてないこと、上空からの偵察はないか、外したらどうなるか……
弓を構えグッと引く、その時、「もし変なことをしたらこの娘はどうなるかわかってるだろうな?」自分にいってるように聞こえる。身体中から汗が吹き出す。
「天国にいる俺のこぶんたちにたっぷり楽しんでもらうぜぇ~」
……こいつは何をいっているのであろうか?ボッツは急に冷めた、そもそも悪逆非道な連中が本当に天国に行けるのであろうか?というかお前天国にいくつもりだったの?地獄に顔パスで行けそうなお前が?近くでかわいそうなことになってるかえる型の魔物のほうがまだ可能性あるぞ。隣でナルゲンが小声で「気にするな、リラックスしていけ、お前ならできる」と励ましを送ってくる。正直うざかった。
この時ボッツは今までにないほど集中していた。集中しながらもある程度のことは考えられる。よく指導者に、集中しろ、リラックスしろ、何も考えるな、少しは考えろと指導されてきた。今まではその並立は無理だと思っていた。しかし、無意識のうちにそれができている。
ヒュン、弓矢を放つ。ただ何となく、しかし、絶対当たると確信を持って。
矢は親玉の頭にめがけ、吸い込まれるように…………当たった。
「グッ」という唸り声と共に親玉は倒れる、数刻の間、回りは時が止まったかのように動けずにいた。
「やったぞボッツ!」一番最初に口を開いたのはナルゲンであった。我に変えるボッツ。しばしの困惑のあとボッツが喜びを爆発させる。
「やったぁ、やったぁ!」
「すげぇぞ、すげぇな!」
二人の男は茂みから出てきてまだ状況のわからない両軍の間に入っていった。
「ポレスさん!助太刀に来ましたよ」
「お、おう」ポレスはまだ状況が読み込めない。先にことの重大さに気づいたのは盗賊の方だった。腰が抜けて動けなくなるもの、我先にと逃げ出すもの。
「逃げた奴らは一番隊、二番隊が追え」ポレスの号令と共に残党を追いかける。
「わかっちゃいねぇ」腰を抜かしてうごけない盗賊はさらに続ける。
「このお方の、本当の恐ろしさを」突如、先程まで倒れていた親玉が起き上がり出した。頭に刺さった弓矢を引っこ抜くと「いてぇよー!」の一言共に矢を投げそれが先程の盗賊の頭にささる。それにはあきたらず持っていた。サーベルで一刀両断、原型がなくなるまで切り刻んでいく。あまりにむごい光景にナルゲンは「こいつ……悪魔か?」と呟く「誰だ?今俺を悪魔といったやつは?俺はれっきとした人間様だぁ!」普通の人間であればもう死んでいるはずである。奴は普通の人間ではないらしい。
「さんざん俺をこけにしやがってこの娘はころーす!」
いきなりであった。親玉はユニにサーベルを降り下ろす。
「あぁ、間に合わない!」ボッツとポレスが嘆く。

とにかく夢中であった。ユニを助けたい、その一心だった。心の奥にしまっていた秘密、誰にも真似できない、自分が求め、そしてすべてを失った原因。こんなものに出会わなければよかった。そう思いつつ、誰も見ていないところでこっそり使ったそれを。
「あぁ!腕が、腕がねぇ!」突如、ナルゲンの方から、否、ナルゲンから強い風が吹いたかと思えば、親玉がサーベルを握っていた腕、左腕が吹き飛んでいた。
ナルゲンはユニが無事であることを確認すると、親玉に向かっていく、そして左手をかざし……
にわかに信じがたいことが起きていた。ポレスが求めてきたものが、身近にそして、意外な人物が持ってきた。彼の左手から火球が飛び出したかと思うとそれが親玉の顔面を直撃、顔面を抑え、苦しむ親玉をそのまま一刀両断。

「ナルゲン……お前」
「……すみません黙ってて」彼の顔は人質を助けた勇敢な若者の顔ではなく、罪を犯し、裁判にかけられているものの顔だった。

       

表紙
Tweet

Neetsha