Neetel Inside ニートノベル
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花びらを見て今が春だということを知った。
下駄箱の上に置いてあるデジタル時計は4月1日を示す。
「私、大学進学のために上京してきたんです。」
花びらに気を取られて直ぐにドアを閉めなかったせいだろうか、女は語り始める。
「ここから約15分くらいで大学に行けるんです。上知という大学です。」
上知大学。確か同級生が在籍していたはずだ。
女性の比率が高いことで有名だったような。
いけない、早く話を切り上げなければ。
「…。あの俺忙しいんでもう…良いですか?」
「あ、すみません。長話に付き合わせてしまって。お詫びという訳ではありませんが、これ。良かったら。」
どうやらこの女は人が話を聞いていればいつまでも話続けるタイプみたいだ。
女に渡されたのは、綺麗な包装紙に包まれた恐らく菓子の詰め合わせと何かが入ったタッパーだった。
「私、料理をするのが趣味なんです。朝、部屋の確認をしに来た時あなたが宅配お弁当を受け取っているのをみました。お節介だと思うのですが、お弁当だけでは栄養が偏ってしまうので作ってみたんです。良かったら食べてみてください。」
完全にお節介だ。
でも相手はお隣さんである。
ご近所トラブルに巻き込まれたらそれこそ面倒くさい。
「ありがとう。また今度ね。」
「はい。夜分遅くに失礼しました。」
女は隣の部屋に消えた。
液晶画面に映る数字は19:09。
「そんなに遅くないのに。」
受け取ったタッパーに入っていたものは肉じゃが。
栄養バランスとかあんまり関係ない気がする。
一口箸で取り口に運んでみる。
「不味くは、ないな。」
優しい、母親のような味がした。
眠っていた俺の味覚が目を覚ます。
きっとこれが美味しいってことなんだ。
久方ぶりの刺激に心が乱れた。

       

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